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【第1章】【設定ドリフト終焉】DB SSOTで実現するオンプレ構成管理の基本

Last updated at Posted at 2025-12-04

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はじめに:🌸 オンプレ設定管理の「春の嵐」を乗り越える

現役インフラエンジニアのHITOSHIと申します。ITインフラは常に変化し続けます。オンプレミス環境の運用において、設定ファイルがサーバー間で不一致を起こす「設定ドリフト」という名の嵐は、障害リスクを高め、運用者の負担となります。

本記事では、この設定ドリフトを根絶するため、データベース(DB)を「単一の信頼できる情報源(SSOT:Single Source of Truth)」とするセキュアなインフラ自動構成術の全体像をご紹介します。これは、ITILが求める構成管理の要求を自動化によって実現する、実務者向けの「レシピ」です。


クラウドSREとの決定的な違い:なぜオンプレでSSOTが必要か

クラウドSREではTerraformなどのIaC(Infrastructure as Code)ツールがクラウドのAPIを叩き、インフラがAPI駆動で構築されます。設定の維持や監査の多くはクラウドサービス側の機能が代行します。

しかし、オンプレミス環境では、OSやミドルウェアの設定ファイルすべてを自前で制御・管理する必要があります。この制御性を高めるために、DB SSOTを「実行可能なCMDB」として活用します。

特徴 クラウド SRE (IaC) DB SSOT + TCS OS (オンプレミス)
真実の情報源 GitリポジトリのIaCコード 設定DB (SSOT)
自動化の基盤 クラウドAPI 設定ファイルAnsible/Python
セキュリティ責任 クラウドプロバイダとの責任共有 OSからDBまで全て自社責任
インフラ制御 APIの提供範囲に限定 OSカーネルから完全に制御可能

ITIL構成管理を「強化」するSSOTの役割

このDB SSOTシステムは、ITILの求める構成管理 (Configuration Management) の要件を自動化によって強化します。

  • 整合性の自動維持: 従来のCMDBが抱える情報の陳腐化に対し、本システムは構成ドリフト検知自己修復機能(※本シリーズ第5章「運用高度化へのロードマップ」で詳述予定)により、設定の整合性を継続的に維持します。
  • 実行可能なCMDBの実現: 設定DBは単なる記録ではなく、設定ファイルを生成する実行可能なデータソースとして機能します。例えば、PostgreSQLのJSONB機能MariaDBのバージョニングテーブル構造などを利用することで、設定データの実用性が大幅に向上します。設定DBから nginx.confsystemd unit をテンプレート化して生成するため、DBの値がそのまま最終的な構成に反映されます。

🛡️ セキュリティと安定性の追求:TCS OSとは

オンプレミスで全責任を負うため、サーバーOSのアタックサーフェス(攻撃対象領域)の最小化が不可欠です。そこで提案するのが、カスタムLinuxディストリビューションの概念モデル「Ten-Shi Config Secure OS (TCS OS) 」です。

【重要】 本記事におけるTCS OSは、社内用途向けにカスタム構築する軽量Linuxの概念モデルであり、特定ディストリビューション名や汎用製品ではありません。

TCS OSは、WebサーバーやAPサーバーの役割ごとに必要なコンポーネントのみで構築されています。

TCS OSの役割と最小構成の具体例

TCS OSは不要なパッケージやサービスを徹底的に排除することで、アタックサーフェス(攻撃対象領域)を最小化します。アタックサーフェスとは、外部から攻撃可能なサービス・ポート・ライブラリの総量を指し、これを削ることで侵入リスクを根本から抑えられます。 例えば、未使用の rpcbindcups が稼働しているだけで、意図しないポートが開き攻撃対象が拡大します。

# Webサーバー向け TCS OS 最小構成の例 (パッケージインストール)

# ※ 以下はDebian/Ubuntu系の例です。RHEL系ではdnf/yumに読み替えてください。

# 1. ローカルミラーから必要なパッケージのみをインストール
apt update
apt install --no-install-recommends \
  nginx \
  openssh-server \
  python3-minimal \
  iptables 

# ...(用途に応じてユーティリティを追加)

# 2. 不要なサービスの無効化を徹底
systemctl disable cron.service
systemctl disable postfix.service

# 3. 構成ドリフト検知の仕組みをサマリで導入(第5章詳述)
# DBとの差分を検知 → Ansible playbook生成 → 差分適用

安定性を支えるカスタムリポジトリ戦略

TCS OSの構築時に、社内ローカルリポジトリミラーのみを参照するように設定を固定します。ローカルミラーとは、Debian/Ubuntu/RHELなどの公式リポジトリを社内に完全複製したもので、パッケージの出所を社内に閉じることで供給源を100%コントロールできます。

この戦略により、パブリックリポジトリの不安定さや外部からのサプライチェーン攻撃のリスクからシステムを守ります。


🤝 まとめ:究極の信頼を生むインフラの主導権

本記事では、「設定ドリフト」というオンプレミスの課題に対し、DB SSOTを核とし、TCS OSで土台を固めるという、セキュアな構成管理の基本構想をご紹介しました。

  • DB SSOTにより、設定情報が一元化され、ITILの構成管理要件を自動で満たします。
  • TCS OSとローカルミラー戦略により、セキュリティと安定性を確保します。

本記事のアプローチは、オンプレ特有の「高い可観測性と完全な主導権」を維持しながら、究極の信頼性を追求するものです。

今後の章では、このシステムの具体的な実装に入ります。

  • 第2章では、DBの具体的なスキーマ設計と、ローカルミラー構築の手順を掘り下げます。
  • 第5章では、Ansibleによるデプロイ後の構成ドリフト検知と自己修復の詳細を解説します。

我々 株式会社 十志では、本記事で扱ったDB SSOTやTCS OSの研究開発を継続しています。技術的知見は随時公開していますので、興味のある方はぜひご覧ください。


※本記事は筆者が所属する株式会社 十志での研究開発知見を一般化したものであり、特定製品の宣伝目的ではありません。

個人的な感想:このシステムは、オンプレミス運用の本質である「完全な制御」を、自動化によって現代に蘇らせるものだと感じています。すべてを把握し、信頼できる環境を自前で作り上げるという経験は、インフラエンジニアとして何物にも代えがたい喜びだと思います。

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