IPアドレス設計が「属人化」と「未来の負債」を生むメカニズム
IPアドレス設計は、ネットワークのキャパシティとセキュリティ境界線を定義する、極めて重要な作業です。しかし実務では、「/24乱用」や根拠の欠落といった理由で設計の根拠が失われがちです。
その結果、レビューでは「なぜこのセグメントは/24で、あちらは/26なのか」というシンプルな質問に設計者が即答できず、設計が属人化し、未来のネットワーク管理者へ不要な負債を押し付けます。
「IPアドレス/VLAN設計表(Bシート)」の目的は、この属人性を排除し、すべての設計値にAシートで定義した**論理的始点(A-No)**を強制的に紐づけることです。
※本記事では、サブネット計算の方法自体は解説しません。 それらを「なぜその数字にしたのか」を説明できる設計に変えることが目的です。
Bシートの核:サブネットサイジングを強制的に「目的化」する
Bシートは単なるIPアドレス管理表ではありません。すべての設計項目が、Aシートの特定の要件(A-No)を満たすために存在することを証明するドキュメントです。
1. Bシートにおける「根拠A-No」の具体的な記入ルール
Bシートにおいて、最も重要なカラムは「サブネット」と「根拠A-No」です。
| VLAN ID | ネットワーク | サブネット | 根拠A-No | 設計判断理由 |
|---|---|---|---|---|
| 10 | 192.168.10.0 | /26 | A-15 | DMZへのアクセスセグメント。セキュリティ(A-15)のため、ホスト数を62に抑制し、影響範囲を限定。 |
| 20 | 192.168.20.0 | /24 | A-14 | 一般ユーザー端末セグメント。将来拡張性(A-14)を考慮し、3年後の増加を見越して/24(254ホスト)を確保。 |
| 30 | 192.168.30.0 | /30 | A-10 | ルータ間接続セグメント。業務影響度(A-10)を避けるため、冗長構成の設計が容易なP2P接続として最小単位を適用。 |
2. A-Noを参照することでIP設計に与えられる影響
このA-Noによる紐づけは、IP設計の品質を根本的に向上させます。
- 無駄な/24の排除: A-14(将来拡張性)が低いセグメントに対し、設計者は自動的に/26や/27といった適切なサイジングを選ぶ論理的義務が発生します。これにより、枯渇の防止とセキュリティ境界の明確化が図られます。
- レビュー時間の削減: レビュー担当者は、サブネット計算の正確性ではなく、A-Noと設計値が論理的に妥当かという、より上流の検証に集中できます。
- セキュリティの担保: セキュリティポリシー(例:A-15)がIP設計のセグメント分離に直接反映されていることが証明され、ファイアウォールポリシー策定の根拠となります。
H2 【第2回まとめ】IP設計に「意思」を持たせる
IPアドレスは単なる数字の羅列ではありません。それは、要件定義という設計の「意思」が具体的に表現されたものです。
Bシートの「根拠A-No」欄を空白にしないというルールを徹底するだけで、すべてのIP設計値が論理的な裏付けを持つことになり、設計レビューで「なぜ?」と問われなくなる状態を構造的に達成できます。
次回、最終回では、このAシートとBシートの内容が、「試験項目チェックリスト(Cシート)」にどう連動し、「疎通確認」を卒業し、可用性要件を証明する試験をどのように設計するのかを具体例とともに解説します。
【DL専用エリア】
設計判断の根拠(A-No)をドキュメント間でトレース可能にする実務テンプレート
