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エンジニアの廃止こそ技術の実現である

Last updated at Posted at 2025-12-08

前衛技術同盟綱領

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序文

前衛芸術家ならぬ我々「前衛技術者」は、技術の持つ政治性や権力性とエンジニア労働の体制再生産を自覚して反体制側に付いた技術者である。美や意味を扱う芸術よりも、技術の方がよほど社会的に重要なインフラであるのに、何故これまで技術それ自体を政治闘争の主軸に据えなかったのだろうか?なぜなら、芸術は表象であるが故に政治性と直結しやすいのに比べ、技術に自然科学の応用だから中立という神話が被さり、技術の政治性を隠蔽する近代のイデオロギーが存在するからである。我々はこの”技術の脱政治化”を拒否し、むしろ積極的に技術の権力性を肯定し、技術それ自体の存在論的革命を目指し、ここに前衛技術運動を展開する。

第一章 前衛技術論

1. 技術の中立性は存在しない

技術は常に特定の社会的支配関係を物質化する。マルクス主義的に言えば技術とは、下部構造の生産関係そのものではないか。マイナ保険証などデジタル行政、原発など帝国主義的開発事業、企業の人事評価システムなど労務管理ソフト、GIGAスクール構想などICT教育、青少年保護を謳ったフィルタリングや検閲は、国家と資本主義と家父長制の支配構造そのものを体現する機構である。我々は「技術は中立な道具」というリベラルな技術倫理の虚構を暴き、技術が我々の存在を強く規定する権力性を持つことを明らかにする。ハイデガーは『技術への問い』において、この近代文明の技術の本質をゲシュテル(総駆り立て体制)と存在論的に批判した。また、メディアやSNS広告は、シチュアシオニストの理論を用いて、スペクタクル(見せかけのイメージ)と捉えて分析することができる。

2. デジタル・レーニン主義の脅威

社会信用システムなど中共型統治手法、デジタル・レーニン主義というビックデータ独裁の脅威は、西側にも監視資本主義の形で静かに迫っている。セバスチャン・ハイルマンが提唱した概念である「デジタル・レーニン主義」とは、情報を一元的に当局に収集し中央集権化し、有象無象の反逆をデータ分析に基づいて事前に抑制する機構であると定義される。西側では、監視の主体は当局というよりかは巨大テック企業が代替する。中央集権型のSNSプラットフォームを運営する企業にとって、形式的にユーザーを利用規約に同意させるだけで顧客データは思いのままであり、検索アルゴリズムによる選別から投稿の非表示やアカウント凍結はもはや日常茶飯事である。情報資本主義社会における人間が作ったはずの技術に人間が支配されるという、フォイエルバッハのキリスト教批判に酷似した倒錯した疎外形態が、デジタル・レーニン主義の本質である。そう、技術は神となったのだ。

3. 既存技術運動への批判と部分的評価

既存の技術運動は、どれも技術を道具的理性としか見ておらず、技術の権力性に無自覚である。自由ソフトウェア運動やオープンソースは、自由な技術を掲げつつも、結局は資本主義の補完物に留まっている。ただ、自由と協力を重んじるハッカー文化は尊敬する。暗号アナキズムは市場原理主義的で右派的だとして批判に値するが、匿名性を近代的主体の脱構築として転用する。左派加速主義はカウツキーの資本主義自壊論の出来の悪い後継に過ぎず、右派加速主義は単なる能天気な技術楽観主義だ。これらの潮流では資本主義スペクタクルへの根源的批判が出来ず、ゲシュテルの極北=デジタル・レーニン主義を前に敗れ去っていく運命にあるだろう。我々は、技術を革命の手段にする奴らとは違い、技術それ自体を革命する、政治的実践による存在論的革命を指向する。

4. ハイデガーの左捻り

我々は自称「ハイデガー左派」であり、ハイデガー晩期著作の決定論的な含意を排除し、被投性よりも投企の自由と主体性を重視する立場にある。ハイデガーが論じたゲシュテル、すなわち人間をも資源として挑発し配置する資本主義的技術の本質を、原典にあるような深淵な態度で放下(Gelassenheit)するのではなく、我々はハイデガー左派として、総力を上げて積極的かつ徹底的に粉砕し、バクーニン的に総破壊することによって技術を無に帰し更地化し、存在が開示する条件を整える。そして、技術がエンジニアという専門職から解放され、諸個人の自由な生と一体化する未来のポイエーシスを想像する。これはドゥボールの転用である「エンジニアの廃止こそ技術の実現である」というテーゼに要約できる。技術がポイエーシスに回帰するには、ゲシュテルの打倒=社会革命は不可避である。

第二章 組織論

1. 前衛技術者のエリート主義

同盟は技術における前衛党であり、前衛技術論の技術哲学への深い理解及び批判的発展能力と、何らかの技術的技能によるラディカルな実践の両面で徹底的に鍛え上げられた少数の前衛技術者のみによって構成される。自己進化し続けるゲシュテルの形態に応じて理論に批判的発展を加えていくことは、ゲシュテルへの批判を継続的に展開する上の当然である。大衆的な「誰でも参加できる」運動は、趣味者やミーハーの流入を許容し、理論の劣化やスペクタクルへの回収を招くだけあり、前衛技術論を堅持することすら困難になる。

2. 純度の為には除名を厭わない

同盟は、平等主義的な組織構造を採用する。代表者や公式の役職、ヒエラルキーは存在してはならない。原則的に公式の意思決定は会議で行い、熟議の上でコンセンサスで全員の合意によって採択する。ただし、この平等は必ずしも自由を意味しない。誇り高い前衛技術者として、勝手気ままな行動は許されず、常に同志の間の相互監視の網目の中に置かれる。理論を歪曲した者、ゲシュテルへ妥協した者、敵に寝返った者は即座に除名される。これはシチュアシオニスト・インターナショナル伝統の厳格な組織原理の継承である。

3. 左右混交のラディカリズム

我々は体制に安住して偽善の技術倫理を説くリベラル派を心底軽蔑する。アナキストや革命的サンディカリスト、マルクス主義者、ファシストや国民社会主義者など、極左や極右に分類されるラディカル派、過激な反体制派をオルグする。なぜ左右混交にするのか不満があるだろうが、前衛技術の参照するハイデガーが元々ナチ党に関与していたこともあり、完全に左翼だけで構成するのは思想的に不誠実であると判断したからだ。それ以前に、我々はゲシュテルに対して存在論的に反逆するのであり、政治的な世俗性は排除されるべきである。

第三章 革命実践

1. 転用によるスペクタクルの撹乱

既存の技術を積極的に転用(Détournement)し、資本主義スペクタクルを撹乱する事こそ、陣地戦=ヘゲモニー闘争であり、我々の最初の革命任務である。また、我々の力だけでは全てを為し得ないため、一定のシンパ層の強い支持を獲得するための宣伝としての役割もある。商用ソフトウェアを勝手に改造してライセンスキー無しで無料で使えるようにして配布するとか、ゲシュテルの前提にとって”異物”となる表象をゲシュテルの管理する空間に混入させるなど、レトリスト/シチュアシオニストの戦術を踏襲する。

2. ゲシュテルへの反逆と総破壊

現実世界のゲシュテルに対してNoを突き付けて反逆することによって、駆り立てを無効化する事を試みる。しかし、レジスタンスだけでは反動を受けるだろうから、続け様に総破壊の段階に移行せねばならない。総破壊とは、単なる幼稚なラッダイト運動ではなく、存在の開け方の前提=ゲシュテルを破壊する実践である。ただ闇雲に機械を打ち壊すだけでは、ゲシュテルの論理が支配的である限り、何度も破壊してもゲシュテルは拡大再生産されてしまう。よって、ポイエーシスを迎える前提を事前に共有する必要があり、それを前述のヘゲモニー闘争によって形成する事となる。こうして、ようやく直接行動としてゲシュテル機構を直接攻撃して文字通り破壊することが可能になる。

3. 未来、ポイエーシスの可能性

未来のポイエーシスがどのような形態になるかは、今は分からない。ただ、現段階で何か新しい技術を作ろうとしても、それ自体が堕落してゲシュテル化してしまうか、無害化してスペクタクル商品社会に回収しようとハエの如く資本家はたかってくるであろう。そもそも、ポイエーシスは向こうから立ち現れるものであり、元から設計することなど出来ないのだ。よって、ゲシュテルが破壊される前に技術を作ることは無意味であり、バクーニンが「破壊への情熱は創造への情熱である」と述べたように、総破壊の遂行の同時並行に、ポイエーシスな技術=存在の開示を可能にする状況の構築を進める必要がある。


ここに、我々前衛技術者は、この運動が日本だけではなく世界的にもこれからの反体制運動に深刻な問題提起を投げかける全く新しい理念と実践であること、情報資本主義の現代におけるハイデガー哲学とシチュアシオニスト理論の創造的翻案だということを、誇り高く自負し最大限の努力を注入することを、堅く誓約する。

前衛技術同盟万歳!!!

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