0
1

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

僕は世界を知ろうと思うーAIと脳科学の数式20ー第5話「知らないことを測る『エントロピー』」

0
Last updated at Posted at 2026-10-18

image.png

H(X)=-\sum_x p(x)\log p(x)

小さな謎

僕の目の前に、二つの箱がある。

どちらにも赤と青のボールが入っている。

一つ目の箱には、赤が9個、青が1個。

二つ目の箱には、赤が5個、青が5個。

image.png

先輩が言った。

「目を閉じて、一つ取り出してみろ。どちらの箱が、次に出る色を当てにくいと思う?」

僕は少し考えた。

「二つ目ですね。赤も青も半分ずつだから」

「そうだな。じゃあ、その『当てにくさ』はどれくらい違う?」

僕は答えられなかった。

どちらも、次に何が出るかはわからない。

でも、確かに、わからなさには違いがある。

その違いを、数字にすることはできるのだろうか。

数式で謎解き

先輩が教えてくれたのは、「エントロピー」という数式だった。
今回は情報理論でよく使われる、底が2の対数を使って計算してみよう。

H(X)=-\sum_x p(x)\log_2 p(x)

エントロピーは、起こりうる結果がどれくらい予測しにくいかを表す数字だという。

$X$ は取り出したボールの色、$x$ は「赤」や「青」という結果、$p(x)$ はその結果が出る確率。そして $\sum_x$ は、起こりうるすべての結果について足し合わせることを意味する。

対数の底を2とした場合、エントロピー $H(X)$ の単位はビットになる。

この式を使って、二つの箱を比べてみよう。

一つ目の箱には、赤いボールが9個、青いボールが1個。

赤が出る確率は0.9、青が出る確率は0.1だ。

\begin{aligned}
H(X)
&=-(0.9\log_2 0.9+0.1\log_2 0.1)\\
&\approx 0.469
\end{aligned}

二つ目の箱には、赤いボールが5個、青いボールが5個。

どちらが出る確率も0.5だ。

\begin{aligned}
H(X)
&=-(0.5\log_2 0.5+0.5\log_2 0.5)\\
&=1
\end{aligned}

一つ目の箱は約0.469ビット、二つ目の箱は1ビット。

二つ目の箱のほうが、エントロピーが大きい。

つまり、次に出る色を予測しにくいということだ。

「じゃあ、赤が10個、青が0個なら?」

先輩がそう尋ねた。

「必ず赤が出るから、予測は外れません」

「そのとおり。エントロピーは0になるんだ」

※確率が0の場合、$p(x)\log_2 p(x)$ の項は、極限を考えて0として扱う。

なるほど。

赤が9個なら、たいてい赤が出る。でも青が出る可能性もある。

赤と青が5個ずつなら、どちらが出るかはまったく五分五分だ。

そして赤が10個なら、何が出るか最初からわかっている。

エントロピーが大きいほど予測しにくく、小さいほど予測しやすい。

僕がなんとなく感じていた「わからなさ」の違いが、数字になった。

数式解説

もう一度、エントロピーの式を見てみよう。

H(X)=-\sum_x p(x)\log_2 p(x)

一見複雑だけれど、この式は二つの考え方を組み合わせている。

① 珍しい出来事ほど驚きが大きい

例えば、一つ目の箱から赤いボールが出ても、あまり驚かない。

でも、青いボールが出たら少し驚くだろう。

この「驚き」を情報量として表したものが、次の式だ。

I(x)=-\log_2 p(x)

ここで、$p(x)$ は出来事 $x$ が起こる確率。

確率が小さいほど、情報量は大きくなる。

例えば、

  • 確率が1なら、情報量は0ビット。
  • 確率が1/2なら、情報量は1ビット。
  • 確率が1/4なら、情報量は2ビット。
  • 確率が1/8なら、情報量は3ビット。

起こりにくい出来事ほど、それが実際に起きたときに得られる情報は大きい。

ここで対数が登場するのは、独立した出来事が同時に起きる確率は掛け算になる一方、その情報量は足し算になるようにするためだ。

底を2にしたとき、情報量の単位はビットになる。

② 起こる前の「平均的な驚き」を求める

でも、一つの出来事がどれほど驚きかを測るだけでは、箱そのものの予測しにくさはわからない。

赤が出たときの驚きと、青が出たときの驚き。

それぞれが起こる確率も考えて、平均を求めればよい。

H(X)=\sum_x p(x)I(x)

ここに情報量の式を代入すると、

H(X)=-\sum_x p(x)\log_2 p(x)

最初のエントロピーの式になった。

つまり、エントロピーとは、結果を見る前に予想される情報量の平均なのだ。

赤が9個、青が1個の箱では、めったに出ない青の情報量は大きい。でも、その青が出る確率は低い。

赤と青が5個ずつの箱では、どちらが出ても1ビットの情報量がある。

だから、後者のほうが平均的な情報量、つまりエントロピーが大きくなる。

ここで大切なのは、エントロピーは、確率を知らないことを表しているわけではないということだ。

僕たちは、二つの箱に入っている赤と青の割合を正確に知っている。

それでも、次にどちらの色が出るかはわからない。

エントロピーが測っているのは、確率がわかったうえで、それでも残る予測の不確かさなのだ。

触れるデモ

赤と青の割合を変えると、「次に出る色の予測しにくさ」はどう変わるだろうか。

スライダーで箱の中身を変えながら、エントロピーの変化を確かめてみよう。

「1個取り出す」ボタンを押すと、実際に出た色の情報量も確認できる。

エントロピーは結果を見る前の平均的な情報量。一方、実際の情報量は、取り出した色によって変わる。

赤と青が半分ずつのとき、エントロピーは最大の1ビットになる。そして、どちらか一方しか入っていなければ0ビットになる。

See the Pen 05 by aokikenichi (@aokikenichi) on CodePen.

別分野への接続

エントロピーは情報理論から生まれた数式だが、今ではAIや脳科学など、さまざまな分野で使われている。情報理論では底2の対数を使うことが多い一方、機械学習では自然対数を使うことが多い。対数の底によって数値や単位は変わるが、不確かさを測るという考え方は同じだ。

情報理論:情報をどこまで圧縮できるか

1948年、クロード・シャノンは情報理論の中でエントロピーを導入した。

赤が90%、青が10%の箱から取り出した色を何度も記録する場合、結果の並びをまとめて符号化することで、効率よく圧縮できる。

エントロピーは、こうした情報を平均してどこまで圧縮できるか、その理論的な限界を示している。

不確かさが小さいほど、平均的には少ない情報量で表現できるのだ。

機械学習:予測の間違いを測る

画像を見たAIが「猫90%、犬10%」と予測したとしよう。

正解が猫ならよい予測だが、犬だったら大きな間違いになる。

機械学習では、エントロピーと関係する「クロスエントロピー」を使い、予測と正解の食い違いを評価する。

ただし、エントロピーが小さいことと、予測が正しいことは違う。間違った答えに100%の自信を持つAIもいるからだ。

生成AI:次の言葉をどこまで予測できるか

ChatGPTのような言語モデルは、次のトークンの確率分布を計算している。

「昔々、あるところに」の後には多様な言葉が続くが、「日本の首都は」の後には「東京」が続く確率が高いだろう。

候補が分散していればエントロピーは大きく、特定の候補に集中していれば小さい。

エントロピーは、AIが次の言葉をどれくらい絞り込めているかを表す。

脳科学:予測と驚き

脳科学の「予測符号化(Predictive Coding)」では、脳は外界を予測し、現実との違いを使って予測を更新すると考える。

毎朝同じ時間に電車が来ると予測していて、突然来なかったら驚くだろう。

ここで、エントロピーは出来事が起きる前の予測全体の不確かさ、予測誤差は予測と現実の食い違いを表す。

両者は異なる概念だが、脳が予測を更新する仕組みを理解するうえで、どちらも重要になる。

世界モデル:未知の世界を探索する

ロボットが、通り慣れた道と未知の道の前に立っているとしよう。

未知の道は予測が難しいが、進んでみれば新しいことを学べるかもしれない。

世界モデルを使った探索では、将来の予測の不確かさを評価できる。

さらに、単に不確かさが大きい場所ではなく、探索によってどれくらい不確かさを減らせるか(情報利得) を考える方法もある。


情報の圧縮、AIの学習、言葉の予測、脳の働き、未知の世界の探索。

異なる分野をつないでいるのは、「不確かさをどう扱うか」という共通の問いだ。

わからないことを測れるようになると、わからないことに対して何ができるかも考えられるようになる。

この数式が提示する「世界観」

僕はずっと、世界には「わかること」と「わからないこと」があるのだと思っていた。

でも、そうではなかった。

わからないことにも、程度がある。そして、その程度を数字で表せる。

世界を完全に予測できなくても、どれくらい予測できないかは知ることができる。
それは、世界を知るための、もう一つの方法なのかもしれない。


構成案、文案、デモ生成、内容チェックなどにChatGPT 6.0 Solを用いております
ただ文章自体は本記事著者、青木が手直ししております


0
1
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
1

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?