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Ethereum Fusakaアップデートとは?技術的に概説します!

Last updated at Posted at 2025-11-13

Ethereum Fusaka アップデート

この記事の内容は2025年11月7日時点の情報に基づいて作成しました。

0. 技術的観点まとめ(要約)

  • Fusakaは、execution層「Osaka」とconsensus層「Fulu」からなる統合アップデート。
  • データの可用性を向上させる技術「PeerDAS」により、ノードの分散検証を実現。
  • L2(Layer 2)のBlobデータ処理を動的・安定的に管理し、L2手数料を最適化。
  • ガスモデルの再設計により、トランザクション上限やブロックサイズを明確化(過負荷防止)。
  • EVM(Ethereum Virtual Machine)を拡張し、CLZ命令とsecp256r1暗号曲線を追加。
  • MODEXP演算の制限や動的ガス計算で、DoS攻撃耐性を強化。
  • FusakaはDanksharding実装に向けた「中間段階」として、ネットワーク負荷を根本から最適化。

1. 概要

  • Fusakaは、Ethereumの次期大型アップデートであり、
    execution層アップデート「Osaka」とconsensus層アップデート「Fulu」を統合したもの。
  • 2025年5月のPectraに続く大型アップデート
  • 10月上旬にHoleskyとSepoliaでのテストを終え、10/29にHoodiでのテストも完了している。
    12/3(水)メインネットへ適用予定。

主な目的は以下の4点

  1. スケーラビリティ向上(特にL2連携強化)
  2. ネットワーク負荷軽減とノード運用効率化
  3. ガスモデル・ブロック構造の最適化
  4. 開発者向けEVM機能拡張とセキュリティ改善

2. 技術的要点

項目 EIP 内容 目的・狙い
PeerDAS導入 EIP-7594 ノードごとの分散データ検証 ストレージ・帯域負荷軽減
L2強化 EIP-7892 / EIP-7918 Blobデータ手数料と管理の見直し L2手数料安定化
ガスモデル最適化 EIP-7825 / EIP-7934 / EIP-7935 ブロック・トランザクション上限見直し 過負荷防止と性能向上
セキュリティ改善 EIP-7823 / EIP-7883 MODEXP演算制限とガス再設計 DoS攻撃耐性強化
EVM拡張 EIP-7939 / EIP-7951 新命令・新暗号曲線サポート 開発柔軟性と相互運用性

3. 各EIPの技術詳細

3-1. データ効率化:EIP-7594(PeerDAS)

概要

  • ノードがブロックデータ全体を保持せず、一部をランダム検証してもデータの可用性を保証できる仕組み。
  • 「Data Availability Sampling(DAS)」をP2Pネットワーク層で実装。

背景と変更点

観点 変更前 Fusaka後
データ保持 全ノードが全データを保持 各ノードが分散的に保持・検証
検証方法 フルダウンロード+整合性確認 サンプリング+整合性証明
効果 同期・検証に時間とストレージ負荷 ネットワーク軽量化・高速化

検証の流れ

  1. ブロックデータを多数の小片(チャンク)に分割する
    • 例:1MBのブロックを1KB単位に分割 → 約1000チャンク

  2. Erasure Coding(誤り訂正符号) による冗長化
    Erasure Coding:データを細かく分割し、元のデータに加えて「パリティ」と呼ばれる冗長なデータ(データブロック)を作成し、これらを分散して保存することで、データが一部失われても元データを復元できる耐障害性を高める技術
    参考:https://note.com/standenglish/n/n57cb448b19d6
    • 元の1000チャンクから1500チャンクに符号化し、一部が欠けても再構成可能にする。

  3. チャンクの分散配布
    • 生成されたチャンクは、EthereumのP2Pネットワーク上に分散される。
    • 各ノードは、全チャンクではなく一部のみを保持する。
    • 1台のノードではブロック全体を復元できないが、ネットワーク全体で見れば完全なデータが存在している。

  4. データ可用性サンプリング(DAS)の検証フロー
    ① 各ノードは、自分の接続しているピア(他ノード)に対して
    ランダムにチャンクをリクエストする。
    • 例:1500チャンク中ランダムに20個を取得
    ② 取得したチャンクを Erasure Coding の符号情報に基づいて検証する。
    • 各チャンクが正しい形式で生成されたものかを確認。
    • 不整合なデータは即座に破棄。
    ③ ノードが複数のピアからサンプルを取得し、
    すべてのサンプルが正常であれば「データが利用可能」 と判断する。
    ④ 多数のノードが独立してサンプリングを行うため、
    攻撃者がデータを一部隠そうとしても、高確率で他ノードが検出できる仕組みになっている。

「攻撃者がデータを隠す」とは?
例:1000個のデータがあるとして、攻撃者がそのうち10個を隠したとする。
それを1000人のノードがそれぞれランダムに10個ずつチェックする。
すると、確率的にみて:
• 誰か1人でも隠されたチャンクに当たる確率はほぼ100%。
• 見つかった瞬間に「このブロックは欠損している」と全ネットワークに共有される。
結果的に、そのブロックは無効化されて採用されない。

効果

  • ノード運用の負荷軽減
  • ネットワーク帯域の最適化(全体の通信量の減少)
  • ブロック検証の最適化(ブロック確定までの時間の短縮)
  • 安全性・信頼性の向上
  • Danksharding 導入への準備
    Danksharding:Ethereumが将来的に目指す大規模なスケーリングソリューション
    参考:https://ethereum.org/ja/roadmap/danksharding

3-2. L2連携強化:EIP-7892 / EIP-7918

Blob とは

  • EIP-4844(Proto-Danksharding)で導入された新しいデータ構造
  • ブロックに一時的にくっつけるデータのかたまり(データパケット)のこと
  • 以前は永久にデータが保存される calldata を使用していた
  • Blob は一定期間後に削除されるので、ブロックチェーンを永久に圧迫しない。
    参考:https://zenn.dev/qope/articles/b8d09ae260f1aa

EIP-7892:Blobパラメータ管理

  • Blob の上限値(もともと1ブロック当たり6個まで)や料金(Blob手数料)計算をネットワーク状況に応じて動的に更新可能に。
  • 大規模なアップデートを待つことなく、ノードが合意できればBlob数の上限を随時引き上げられる(=小規模なフォークが可能に)
  • オンチェーンでの手数料最適化が進む。

EIP-7918:Blob手数料安定化

  • Blob feeの過剰変動を防止し、L2の手数料が急上昇しないよう調整。

背景と変更点

観点 変更前 Fusaka後
Blob fee計算 定数ベースで変動が大きい 需要に応じた動的調整
L2投稿コスト 需要集中時に高騰 安定化し予測可能に

効果

  • L2利用コストの予測性が向上
  • L2→L1データ投稿が安定化

3-3. ガスモデル・ブロック構造の最適化:EIP-7825 / EIP-7934 / EIP-7935

目的

  • トランザクション処理の上限とブロックサイズを再設計し、リソース利用を最適化する。

背景と変更点

項目 変更前 Fusaka後
1トランザクションあたり最大ガス量 約30M(理論値)だが現実的には制限なし 約16.78Mに明確化(EIP-7825)
ブロックサイズ上限 約30MiB(メビバイト)程度まで膨張可能(実測) 最大10MiB(メビバイト)に制限(EIP-7934)
ブロックあたりガス上限 約30M(可変) 今後段階的に引き上げ検証(EIP-7935)

効果

  • 過剰なトランザクション詰め込みを防止し、リソース使用を均一化
  • ブロック伝搬時間の短縮
  • ノード間の同期安定性が向上
  • ネットワーク分岐(フォーク)リスクの低減

⇒ブロックを太らせすぎないようにするアップデート


3-4. セキュリティ強化:EIP-7823 / EIP-7883

概要

  • Ethereum EVMの演算命令「MODEXP(モジュラー指数)」(暗号計算などに使う重い演算命令)の仕様を見直し。
  • 計算負荷を制限することでDoS攻撃耐性を強化。

背景と変更点

観点 変更前 Fusaka後
MODEXP入力長 無制限(理論上) 最大8192bit(EIP-7823)
ガス計算式 固定コスト 入力サイズ比例の動的ガス(EIP-7883)

効果

  • 一般的なニーズには対応しつつ、極端なケースを除外できる
  • 大規模計算を悪用したノード停止攻撃を防止
  • 公平なリソース利用を促進

3-5. EVM拡張:EIP-7939 / EIP-7951

EIP-7939:CLZ(Count Leading Zeros)命令追加

  • ビット列の先頭ゼロ数をカウントする命令を新設。
  • 暗号演算や圧縮処理などに利用可能。

EIP-7951:secp256r1(P-256)楕円曲線対応

  • これまでEthereumが標準対応していたのは secp256k1(Bitcoin系)。
  • 今回、企業システムやモバイルで主流の secp256r1 にも対応。

背景と変更点

項目 変更前 Fusaka後
EVM命令 CLZなし CLZ追加により演算高速化
利用可能暗号曲線 secp256k1のみ secp256k1 + secp256r1

効果

  • 高精度暗号計算のガス効率向上
  • 外部APIやハードウェア署名機構との互換性向上
  • Web2とWeb3の連携がスムーズに

4. Fusakaの位置づけと今後の展開

フェーズ 名称 主な目的
完了済 Merge PoS移行
完了済 Dencun Blobデータ導入・L2手数料削減
現在 Fusaka PeerDAS導入・ネットワーク最適化
将来 未定 Verkle Trees / Danksharding
完全シャーディング実装による拡張性強化

補足

  • FusakaでのPeerDASは「部分的なデータ可用性シャーディング」。
  • 将来的には、Verkle Trees で状態データの圧縮を行い、 Danksharding で完全な並列処理を目指す流れ。

5. 全体まとめ

観点 改善内容 変更前 Fusaka後 効果
データ保持 データ可用性の改善 全ノードで全データ保持 分散的保持(PeerDAS導入) 各ノードの負荷を軽減し、スケーラビリティと可用性を両立
トランザクション手数料 上限の明確化 明確な制限なし 約16.78Mに固定 ネットワーク混雑時の過負荷を防止し、安定稼働を実現
ブロックサイズ サイズ制限の最適化 約30MiB上限(実測) 10MiBに制限 ブロック伝播が安定し、同期遅延やフォークの発生を抑制
MODEXP仕様 演算処理の制限 無制限入力・固定ガス 8192bit上限・動的ガス 大量演算によるDoS攻撃リスクを軽減し、計算コストを公平化
暗号曲線 対応曲線の拡張 secp256k1 secp256r1追加 Web2のTLS・証明書との互換性を強化し、企業・外部連携が容易に

⇒ Ethereumがより軽く、安全に、外と繋がるためのアップデート

6. 参考資料

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