はじめに
この記事は『伝わるコードレビュー』の学びを整理しながら紹介するシリーズの第4回です
前回まではレビューにおける基本的な姿勢やコミュニケーションの前提について扱いました
今回はさらに具体的な場面に踏み込み、ケース5からケース8までを紹介します
ここでは、実際の開発現場で頻発するレビュー時の行き違いや誤解を「ケース形式」で取り上げます
きっと「あー、これあるあるだな」と思うものが見つかるはずです
ケース5 細かすぎるレビューコメント
ありがちな状況
「変数名の末尾に _id をつけろ」「改行は2行じゃなくて1行」など、
コードの本質ではなく形式に関するコメントでやたらとレビューが埋まる
結果として議論は深まらず、指摘された側も「細かすぎる」と感じて不満を募らせてしまう
問題点
- ルールが明文化・共有されていない
- プロジェクトごとに独自のルールがあるのに、口伝でしか共有されていない
- 既存メンバーすら「なんとなく」で従っていて説明できない
解決策
- ルールは いつでも誰でも参照できる場所に明文化
- GitHub の Wiki や README
- プロジェクトのルートに配置するドキュメント
- 「完成したルール」を目指さない
- 最初は最小限に
- 実運用の中で不足・過剰を見つけたら都度改善
- 自動化できるチェックはツールに任せる
- pre-commit hook
- GitHub Actions など
改善サイクルの例
- 最小限のルールを設定
- ドキュメントに明文化
- 運用で問題点を検討
- 必要に応じて更新
- チーム文化として定着 → 再び1へ
この流れを回し続けることで「人力で細かく指摘する負担」を減らせます
ケース6 Lint ツールのいいなりの修正
ありがちな状況
Lint ツールが出したエラーを「とりあえず直せばいいんでしょ」と修正する
しかし修正の意味を理解していないため、かえって可読性が下がるケースもある
例:
- 行数制限を守るためだけに不自然な改行を入れる
-
console.logをすべて消すが、本来は必要なログまで削除してしまう
問題点
- Lint ツールの警告を「消すこと」が目的化してしまう
- ルールが現場に合っていないのに、そのまま使い続けている
解決策
- 警告の背景を理解して対応する
- 本当に守るべきか
- コンテキスト上は無効化した方が良いか
- プロジェクトに合わせてルールを調整する
- 例: MethodLength の上限値を見直す
- 無効化する場合は理由をコメントに残す
- 未来の開発者への説明責任を果たすため
所感
Lint ツールは「万能の正義」ではなく「道具」に過ぎない
盲目的に従うのではなく、チーム文化やプロジェクトの状況に合わせて“育てていく”ことが大切です
ケース7 「あの人が言っているから大丈夫」という思考停止
ありがちな状況
経験豊富な先輩が「ここはこう直した方がいい」と言った
その指摘を鵜呑みにして修正したが、CI で落ちてしまった
結果として「先輩の言うことでも必ずしも正しいとは限らない」と気づく
問題点
- レビュアーが動作確認をせずに提案している
- レビュイーが検証せずに受け入れている
解決策(レビュアー側)
- 動作を確認したうえで提案する
- もし未検証なら「これは未確認のアイデアです」と明示する
解決策(レビュイー側)
- コメントをそのまま適用せず、自分で検証する
- 納得できたうえで修正する
- 自分のコードの最終的な責任は自分が持つ
ポイント
- 「あの人が言っているから」ではなく 「自分が確認したから」 を根拠にする
- レビューは相互の成長のための場であり、思考停止のための仕組みではない
ケース8 質問コメントに答えない修正PR
ありがちな状況
レビュアー: 「この処理をこう書いた意図は何ですか?」
レビュイー: (指摘だと誤解して修正) → 回答はない
結果、レビュアーは本来知りたかった意図を理解できず、コミュニケーションがすれ違う
問題点
- 質問が「指摘」と誤解されてしまう
- レビュイーが「議論」よりも「早く直すこと」を優先してしまう
解決策(レビュアー側)
- コメントの意図を明示する
-
ask:のようなタグをつける - 「批判ではなく純粋な質問です」と伝える
-
- 背景や理由も書く
- 「ここのロジックを理解したいです。なぜなら〜」
解決策(レビュイー側)
- 修正前に質問の意図を確認する
- 自分の考えを言語化して説明する
- 聞き返しやすい雰囲気をチームで作る
ポイント
レビューは「バグの指摘」だけでなく「相互理解の場」でもある
質問を無視して修正するだけでは、学びや改善のチャンスを逃してしまう
おわりに
今回はケース5からケース8までを紹介しました
いずれも「レビューをどう運用するか」よりも「どう伝えるか」「どう受け取るか」が肝心であることがわかります
- 細かすぎるコメントはルールと自動化で解消
- Lint ツールは盲信せずに“育てる”意識を
- 権威に頼らず自分で確認する姿勢を
- 質問には必ず対話で応える
次回は Part2 として、ケース9からケース12を紹介します
より具体的なコミュニケーションの工夫を見ていきましょう
