序論
本稿は 元市役所職員がWEBプログラマに転職するまでのロードマップ の連載記事の一部です。
前回 は、一つの Docker コンテナを一つの CentOS サーバコンピュータと見立て、その中に各種ミドルウェア(Apache, MySQL, PHP 等)を全てまとめて導入するという手順を踏みました。
これは従来型のサーバ構築手法であるが、以下のような問題点があります。
- LinuxディストリビューションやOSのバージョン、使用するミドルウェアのバージョン等により導入手順や設定手順が異なる
- サーバ構成や設定、導入手順などをコード化(ドキュメント化)しづらく、属人化しやすい
- OSの環境変数やインストールされているソフトウェアの影響で環境が汚染されやすく、全く同一の環境を再現しづらい
- 一つのシステムに複数のサービスを導入する都合上、構成を柔軟に変更したり拡張したりすることが難しい
こうした問題点を解決するために発展してきたのが仮想化技術です。
特に、コンテナ型仮想化技術は、カーネルごと仮想化するわけではなく、ホストOSのカーネル(通常は Linux カーネル)は共有して、その上の OS やミドルウェア、アプリケーションを仮想化する技術であるため、軽量で高速に動作すると言われています。(OSレベルの仮想化)
コンテナ型仮想化技術の代表的存在である Docker もまた、従来型サーバ構築手法の問題点を解決するために発展してきた技術であるため、「1コンテナ1サービス」のように構成分離を行うのが本来の使い方です。
そのため本演習では、どのようにサーバ構成を分離し、コンテナを構築・運用していくかに焦点を当てていきます。
LAMP環境の構成分離とコンテナ構築
構成分離
LAMPの構成要素である Linux, Apache, MySQL, PHP (ここではスクリプト言語を PHP に限定) について考えます。
OSである Linux は置いておくとして、まず間違いなく分離した方が良いのは Apache WEBサーバと MySQL DBサーバです。
一方 PHP の扱いについては、基本的に以下のいずれかを選択する形になります。
- Apache 拡張機能としての PHP (mod_php) を使う
- この場合の PHP はあくまで Apache の拡張機能扱いとなるため、Apache コンテナに一緒に入れる形となる
- 昔ながらの PHP の使い方であり、情報ソースが多く、構成も分かりやすい
- FastCGI としての PHP (php-fpm) を使う
- PHP を Apache から切り離し、アプリケーションサーバとして扱う方法
- この場合は、Apache コンテナとは別のコンテナに分離した方が扱いやすい
- 大規模なWEBサイトであれば、php-fpm の方が高速に動作すると言われているが、中小規模なサイトでは有意なパフォーマンス差は見られない
- ※ そもそも大規模サイトの場合は C10K問題 もあるため、Nginx をWEBサーバとして採用するケースが増えている
※ 可能であればこの辺りで WEBサーバとAPサーバ について復習しておくと良いです。
本演習では構成の分かりやすさから mod_php を採用し、以下の2つのコンテナに分離することにします。
- Apache WEBサーバコンテナ(+ mod_php)
- ベースイメージ: php:7.4-apache
- Docker 公式イメージに Apache + mod_php 構成済みのものがあるため素直にこれを使わせてもらう
- このイメージは Debian Linux ベースであるため、CentOS の Apache とはサービス名や設定ファイルの場所などが違うことに注意する
- ベースイメージ: php:7.4-apache
- MySQL DBサーバコンテナ
- ベースイメージ: mysql:5.7
- こちらも Docker 公式イメージにそのものずばりなものが用意されている
- このイメージも Debian Linux ベースであるため、CentOS の MySQL とはサービス名や設定ファイルの場所などが違うことに注意する
- ベースイメージ: mysql:5.7
Docker コンテナ構築
上記のように構成分離したため、コンテナの構成としては下図のようになります。
上記設計の通りに、まずは Docker コンテナを構築してみます。
# -- user@localhost
# WSL2 環境の場合は、docker サービスがスタートアップ登録されないため、手動起動しておく
$ sudo service docker start
# 余計な docker コンテナが起動していると研修が上手く行かない場合があるので、起動中のコンテナは全て停止しておく
$ docker stop $(docker ps -q)
# dbコンテナ作成
## ベースイメージ: mysql:5.7 (初めて使う場合は自動でダウンロードされる)
## コンテナ内ターミナル: 利用 (-i -t オプション)
## 環境変数 (-e オプション):
## - MYSQL_ROOT_PASSWORD: "root"
## => MySQL rootユーザパスワード ※何かしらパスワードを指定しないと起動しないため注意
$ docker run -d -it -p 3306:3306 -e MYSQL_ROOT_PASSWORD=root --name db mysql:5.7
# webコンテナ作成
## ベースイメージ: php:7.4-apache (初めて使う場合は自動でダウンロードされる)
## ポート接続: ホスト:80 => コンテナ:80 (http通信用ポート)
## コンテナ内ターミナル: 利用 (-i -t オプション)
## 先に作成していたdbコンテナとリンク(webコンテナから dbコンテナに MySQL 接続するため)
$ docker run -d -it -p 80:80 --link db --name web php:7.4-apache
# 起動中のコンテナ確認
$ docker ps
CONTAINER ID IMAGE COMMAND CREATED STATUS PORTS NAMES
7ef644712c71 mysql:5.7 "docker..." ... ago Up 3306->3306/tcp db
23cc0f0c9722 php:7.4-apache "docker..." ... ago Up 80->80/tcp web
動作確認
DocumentRoot /var/www/html/
に index.php
を作成し、Apache WEBサーバコンテナの動作確認を行います。
# -- user@localhost
# webコンテナの中に入る(webコンテナ内 bash ターミナルを実行する)
$ docker exec -it web bash
# -- root@docker://web
# デフォルトで /var/www/html/ がカレントディレクトリであるため
# そのまま index.php 作成
% echo '<?php phpinfo(); ?>' > index.php
# webコンテナを抜ける
% exit
http://localhost (http://localhost:80) にアクセスして phpinfo が表示されれば OK です。
mysqlコンテナへの接続
web コンテナに mysql-client (MySQLデータベースサーバに接続するためのプログラム) を導入し、web コンテナから db コンテナに接続してみます。
# -- user@localhost
# webコンテナの中に入る(webコンテナ内 bash ターミナルを実行する)
$ docker exec -it web bash
# -- root@docker://web
# mysql-client インストール
## php:7.4-apache イメージは Debian ベースのため
## パッケージマネージャは yum ではなく apt-get
% apt-get update && apt-get install -y default-mysql-client
# dbコンテナに接続
## webコンテナ作成時に --link db を指定したため tcp://db:3306 で docker://db にMySQL接続可能
## mysql 通信のデフォルトポートは 3306 であるため -P 3306 は省略可能
### - mysql 接続ユーザ: root
### - mysql 接続パスワード: root (dbコンテナ作成時に指定したパスワード)
% mysql -u'root' -p'root' -h db -P 3306
# -- root@tcp://db:3306
# 無事dbコンテナに接続できたらOK
# => 一旦終了
> exit
# -- root@docker://web
# webコンテナを抜ける
% exit
後片付け
# -- user@localhost
# dbコンテナとwebコンテナを停止 => 削除する
$ docker stop db && docker rm db
$ docker stop web && docker rm web
docker-compose を使った複数コンテナの一括管理
これまでは docker
コマンドを使って、コンテナを一つずつ構築してきました。
しかし、利用するコンテナが増えてくると一つずつ構築・管理するのは困難になってきます。
そういった場合に利用するのが docker-compose
です。
-
docker-compose
- 複数のコンテナで構成されるアプリケーションについて、Dockerイメージのビルドや各コンテナの起動・停止などをより簡単に行えるようにするツール
-
docker-compose.yml
という設定ファイルに複数のDockerコンテナの設定をまとめて記述し、一括管理することが可能
docker-compose によるLAMP環境構築
前述のDockerコンテナ構成を docker-compose.yml
という設定ファイルに記述します。
※ 1-min-lamp/ Gitリポジトリ参照
version: "3" # composeファイルバージョン指定
# 各種コンテナの定義
services:
# webサービス: php:7.4-apache イメージから構築
## コンテナ名: training1_web
web:
image: php:7.4-apache
container_name: training1_web
# ログ出力フォーマット: 基本的に json-file で良い
logging:
driver: json-file
tty: true # コンテナ内でターミナル利用可能に(docker -it オプションと同等)
ports:
- "80:80" # http://localhost:80 => service://web:80
links:
- db # dbサービス(training1_dbコンテナ)とリンク
## これにより tcp://db:3306 => service://db:3306 の接続が可能になる
# dbサービス: mysql:5.7 イメージから構築
## コンテナ名: training1_db
db:
image: mysql:5.7
container_name: training1_db
# ログ出力フォーマット: 基本的に json-file で良い
logging:
driver: json-file
tty: true # コンテナ内でターミナル利用可能に(docker -it オプションと同等)
# 環境変数定義
environment:
# MySQL rootユーザパスワードを指定しないとMySQLのDockerコンテナは起動しない
MYSQL_ROOT_PASSWORD: root
-
docker-compose.yml
- 使うコンテナやパラメータなどを記述した設定ファイル
- YAML形式のためインデントに注意!
docker-compose では、サービス名とコンテナ名という似たような概念が出てきますが以下のような違いがあります。
- サービス名:
-
docker-compose.yml
で必ず指定しなければならない項目 - docker-compose においては 1サービス = 1コンテナ に対応する
- docker-compose でコンテナを識別するための名前であり、
docker-compose
コマンドでコンテナ内のコマンドを実行したりする場合に使われる
-
- コンテナ名:
- Dockerコンテナ名であり、
docker
コマンドでコンテナを識別するための名前となる -
docker-compose.yml
で設定を省略可能であり、省略した場合は任意のコンテナ名が振られる- ※ 大抵は
ディレクトリ名_サービス名_連番
という形式のコンテナ名が振られる
- ※ 大抵は
- Dockerコンテナ名であり、
docker-compose によるコンテナ起動
# -- user@localhost
# docker-compose.yml のあるディレクトリに移動する
# $ cd /path/to/1-min-lamp/
# docker-compose.yml に記述してある全てのサービス(コンテナ)をビルドする
$ docker-compose build
# => 記述ミスがあったり、コンテナ構築中にエラーが発生するとエラー文が流れるため見ておく
# docker-compose.yml に記述してある全てのサービス(コンテナ)を起動する
## -d: daemonモード(バックグラウンド)でコンテナ起動
$ docker-compose up -d
# docker-compose.yml に記述してある各サービスの状態を確認
## 起動中の全てのDockerコンテナを一覧表示するわけではないため注意
$ docker-compose ps
Name Command State Ports
----------------------------------------------------------------------------
training1_db docker-entrypoint.sh mysqld Up 3306/tcp, 33060/tcp
training1_web docker-php-entrypoint apac ... Up 0.0.0.0:80->80/tcp
# 起動中の全てのDockerコンテナ確認
## おそらく現段階では今起動したコンテナしかリストアップされないはず
$ docker ps
CONTAINER ID IMAGE COMMAND CREATED STATUS PORTS NAMES
3aec97dd7bc6 php:7.4-apache "docker-..." ... ago Up 0.0.0.0:80->80/tcp training1_web
6de05759cca4 mysql:5.7 "docker-..." ... ago Up 3306/tcp, 33060/tcp training1_db
動作確認
web
サービス (training1_web
コンテナ) 内に入り、index.php
を作成してみます。
# -- user@localhost
# webサービス内に入る(webサービス内 bash ターミナルを実行)
$ docker-compose exec web bash
# ↑ は以下のコマンドと同等
# $ docker exec -it training1_web bash
# -- root@service://web
# デフォルトで /var/www/html/ がカレントディレクトリであるため
# そのまま index.php 作成
% echo '<?php phpinfo(); ?>' > index.php
# 一旦コンテナを抜ける
% exit
# -- user@localhost
# アクセスログを確認するために webサービスのログを出力
## -f: フォローモード(最新のログを出力し続ける)
$ docker-compose logs -f web
# http://localhost にアクセスして phpinfo が表示されればOK
# => 以下のようなログが出力されるはず
## training1_web1 | 172.25.0.1 - - [アクセス日時] "GET / HTTP/1.1" 200 22689 "-" "ブラウザ名"
# => Ctrl + C キーでログ出力を停止
後片付け
# -- user@localhost
# docker-compose.yml に記述されている全てのサービス(コンテナ)を停止 => 削除
## コンテナを停止するだけなら $ docker-compose stop
$ docker-compose down
docker-compose 基本コマンド
-
docker-compose build
- 設定されたコンテナを全てビルド
-
docker-compose up [--build]
コマンドで代用可能
-
docker-compose up
- 設定されたコンテナを全てビルドして起動
-
-d
オプションを使うとバックグラウンド実行可能 -
--build
オプションを使うとビルドし直してから起動
-
docker-compose down
- 設定されたコンテナを全て停止 => 削除する
-
-v
オプションを使うと volume も削除(※ volume については後ほど) -
--rmi all
オプションを使うとイメージもまとめて削除する
-
docker-compose start
- 設定されたコンテナを起動(ビルド済みのコンテナのみ)
-
docker-compose stop
- 設定されたコンテナをすべて停止
-
docker-compose restart
- 設定されたコンテナを全て再起動
-
docker-compose ps
- 設定されたコンテナの状態を一覧表示
- 設定されているコンテナであれば起動していなくても
Status: Exit
で表示される -
docker ps
と違い、起動中の全てのコンテナを表示するわけではない
-
docker-compose exec <サービス名> <コマンド>
- 指定したDockerサービス内のコマンドを実行する
-
docker exec -it <コンテナ名> <コマンド>
と同じ動作をするが、コンテナ名ではなく、サービス名を指定することに注意