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リモートワークと自宅介護について

Last updated at Posted at 2025-05-30

はじめに

略歴

私はITエンジニアを20年~くらいやっています。プログラミング自体は9歳くらいからやってます。はじめてはシステム開発会社で会社員として長年客先常駐を経て自社開発へシフトし、その後はフリーランスとして数年経験したあと、再び会社員として現在の会社に所属しています。家族の介護が必要になったのは私の実父で、発生時期はちょうどフリーランスを初める時期より少し前です。フリーランス時は自宅でリモート作業ではなく100%客先常駐でした。

介護が必要となった経緯

はじめは父が突如道端で転んだことから始まります。そのとき私は実家にいなかったのですが、母から連絡があり「たばこを買いに出かけたら、顔が血だらけで帰ってきた」でした。

最初は強盗か何かに襲われたのかと思いましたが、どうやらそうではなく転倒して顔を打ち付けたようでした。しかしそのとき父は何が起こったのかを理解しておらずポカンとしており、特に痛みなどを感じてはいないと言うので、生来の医者嫌いもあり病院へ行くことはありませんでした。

今考えてみれば、この時に念のため病院へ行くべきだったと思います。

父の転倒からその後

その1年後くらいから、徐々にではありましたが父の足はあまり自由に動かせなくなります。父の主治医に相談をし、専門医が診断したところ、症名はパーキンソニズム症候群で、前方の距離を認識しにくくなり前に歩き出すのが非常に苦手になりました。足の動きも日々悪くなっていることもあり、これにより外へ出ることもほぼなくなりました。また小さな脳梗塞もあわせて発生している状況でした。

パーキンソニズム症候群が発生する原因はさまざまありますが、わたしの父の場合は脳の認知機能が低下したことによるものであり、結果として運動機能が徐々に失われていきます。それによりトイレや風呂へ行くことも困難になりますので介助が必要です。最初のうちは実母が対応できていましたが、やはり毎日介助を続けるには体力も腕力も必要であり、今でこそ「老々介護」の言葉がありますがまさしくこの老々介護による肉体的、精神的な疲労も積み重なり、無理が生じて腰や膝関節を痛めてしまいました。そこで家族内では比較的自由に動けるわたしが介護をすることに決めました。

認知症と診断されるまで

我が国でも高齢化に伴い、認知症患者の増加する一方です。

いまでこそ認知症の予防や進行を遅らせるトレーニングなども用意されておりますが、これはすべての地域で網羅されているわけでもなく、また公的サービスの受け方がわかりにくい、相談の方法がわからないなどの相談を母から受けていました。

このときの父は突然むかしの仕事のことを思い出して出かけようとしたり、自らも危ういと思ったのか、運転免許所の返納をするため地元の免許センターへ車で向かおうとするも途中で引き返してくるなど、今思えばかなり危険な状態でした。

対応したこと

ここでは私が実際に行った対応と、公的サービスを受けるまでの推移を紹介します。実家が栃木県なので、栃木県での具体的なケースです。

残念ながら認知症は、現代医学をもってしても完治できる病ではありません。ただしこれらに対して無策ではなく悪化しないよう一時的に進行を停める治療法や、健康的かつ尊厳をもった状態で生きてけるよう公的なサービスが都道府県ごとに提供されています。
例えば私は栃木県に両親がおりますので、栃木県の公式サイトから、認知症の相談医に相談ができるとちぎオレンジドクターから相談もできましたし、父の主治医からも専門医への紹介もされました。

相談窓口としては、栃木県内の市役所が配布している資料をもとに、介護サービスを受けるために必要な手順や相談方法を市から紹介してくださったケアマネージャーさんにすぐさまフォローしていただきました。
ケアマネージャーさんの役目は、介護する家族をフォローするために必要な申請や介護施設の紹介以外にも、介護用品のレンタルや介護の状況にあわせて訪問介護医の紹介も行ってくれます。

介護用品については、室内に増設できる手すりやつかまり棒などをはじめ、介護用ベッド、車いす、杖などもレンタルないしは購入ができます。介護保険の適用も可能なので自前で購入するよりもかなり安価で利用できます。

相談する上で大切なのは、困っていることやできなくなっていることなどを包み隠さず伝えることですが、介護する家族にも不安や精神的な疲れもあります。家族以外の人にはなかなか言いにくいこともありますので、決して無理せず、自分たちのできる範囲で焦らずに介護していくことが大事です。

認知症の家族を介護する者の生活はどう変わるか

症状の軽い時期はそれこそ普段となんら変わることはほぼありませんが、ふとしたタイミングで過去にしていた大きな仕事のことを思い出して出かけようとするも、移動がままならないので転んでしまい怪我をすることがありました。自分だけの怪我で済んでるうちはまだ良いのですが、車で出かけてしまうこともあったため、運転免許証の返納を行うよう何度も説得しました。
わたしの父のケースでは夕方にこの症状が起こりやすく、これは 黄昏症候群夕暮れ症候群と呼称される、認知症を発症している人にはよくある症状の1つで、夕方になるとふと現在の状況がわからなくなるため混乱し、暴れることも多いです。

こうなると無理に抑えることはせず、落ち着くまで一緒にいてあげて、時には出かけるのを手伝って本人の気のすむまで対応していれば、ふと我に返り、おとなしくなります。落ち着くまでに短いときで30分、長いときで2時間前後は対応が必要になるため、その間はいくらリモートワークとはいえ作業することは無理に近い状態でした。

このように長時間拘束されることが毎日一定率で発生し、そのたびに付きっ切りで対応するため長期間家を空けることはほぼ無理な状態です。
私は勤務先に介護の実情を伝え、仕事には支障ない頻度で1~2時間は突発的に席を外すことがあることを共有しました。会社からの承諾を得て、それとともに私と母は公的なサービスで介護の負担を軽減するよう動くことにしました。

また、認知症を発症してしまった父に対しては、できなくなったことや失敗したことを責めず、自らも何故このような状況になっているのかがわからないこともあるため、不安にならないよう家族が話を聞き、一緒にいてあげること、安心して休んでほしいことなど、万事対応できていたわけではありませんでしたがとにかくできるかぎり時間を割いて家族全員でともに暮らしていくことを決めました。これにより母もひとりで介護する不安がなくなりました。ひとりで対応するのではなく複数人で協力しあうことで、介護する側もこころの持ちようが変わります。

父の介護をするとともに、いままで大変だった家事の分担をすることで、母への心理的肉体的両方の負担も減ったようです。
父のトイレや風呂の世話に関しては私がすべて行い、紙おむつやウェットティッシュなどの介護用品の調達も含めた日常的な買い物に関しては私と母で分担して行うようにしました。

ひとりでがんばり続けるには介護は肉体的、精神的にも限界があります。
いつかは終わるとわかっていたとしても、それは果たしていつなのか、終わりを待ち望んで良いものなのかはわかりません。ただし、家族の介護に直面しているときには心の余裕はなくなります。
まともに会話が通じなくなる、自分たちの自由が奪われる、しかしそれを注意などをしてただしたとしても、それはまた翌日には繰り返されます。
そのような状態が半年、1年、2年と長く毎日続いたとき、果たして介護している側の人は、それに耐えられるでしょうか。たとえ言葉では理解できていたとしても。

地方自治体や民間のサポートを利用する選択

ケアマネージャさんに介護施設の相談をしてもらい、いくつかの施設の選択があること、対応できる介護の内容をあらためて知ることができました。介護施設だからどこの施設も同じサービスを受けられるとは限らず、またその価格も大きく異なります。

ケアマネージャさんとの会話や自分たちの調査で、ひとえに介護施設や老人ホームと言っても、その種類と受けられるサービスの内容は異なることがわかりました。

介護施設を利用するパターンはいくつか用意されています。
週のうち数日の日中に施設を利用し、入浴や食事の介護をはじめ、リハビリなどの運動トレーニングを施設の方で行うデイサービス、これは数日間の宿泊利用もできます。
他には施設へ入居する入居型介護施設の2つがあります。

デイサービスは介護士の方とともに当日に送迎の車が来ます。足腰が悪い場合でも車いすでの搬入も可能で、足腰が悪くなるとどうしてもお風呂に入るのが危うくなるため、機械浴槽 と呼ばれる横になりながらゆったり入浴できる設備も用意されています。

デイサービスの利用は、施設への入居に比べるとはるかに安いです。施設の入居を決める前に、まずはデイサービスを利用して提供されるサービスの内容を実際に感じてもらうのが良いかと思います。

入居する施設の種類:公的施設と民間施設

入居可能な介護施設には、国や地方自治体が運営する公的施設と、企業や民間団体が運営する民間施設の2種類があります。これらの公的施設・民間施設では価格帯に違いがあり、民間施設の方は価格帯が広く、入居する際に受けられるサービスの幅も広く、手厚いサポートが必要な場合から、介護は必要とはしないが一人暮らしに不安があるため入居する選択もできる施設が選べます。

入居するにあたっては、どのサービスを利用するかをその介護度や予算にあわせて調整していきます。受けられる介護サービスの種類や介護度の重さによって施設の分類があります。
また、認知症の進行度によって入居条件が異なる施設もあります。現在の症状を隠さず、かかりつけ医やケアマネージャさんとも相談していって、最適な施設を選びましょう。

民間施設

民間施設の場合は、2025年現在では以下の分類にわかれます。

分類 特徴
介護付き有料老人ホーム 基本的には要介護の方が入居します。
住宅型有料老人ホーム 介護が必要ではないが、一人暮らしが不安な方が入居します。地域と介護度の軽さによっては入居できる場合もあります。
サービス付き高齢者向け住宅 介護不要な方が入居するが、介護サービスがある施設もあります。よく「サ高住」(さこじゅう)と省略して呼ばれます。
グループホーム 認知症の方が数人単位で済み、認知症の専門看護士にサポートを受けながら共同生活をします。ひとえに認知症と言っても炊事や洗濯ができる方もいるため、できることは自立して行いつつ、苦手なことやできないことをサポートする体制で、集団生活がメインになります。認知症の進行を遅らせる効果が期待されています。

他にも立地条件や、食事のサポート、運動設備、各種イベントなど、介護以外の面でも生活のサポートが施設によってひとつひとつ異なります。
また、上記の条件に当てはまらない地域や施設もあること、必ずしも十全のサポート体制ではない場合もありますので複数の施設を見学するのが良いでしょう。

公的施設

公的施設は以下の分類にわかれます。

分類 特徴
特定養護老人ホーム 介護度が重い方向けの施設。24時間体制の介護サービスや看取りまで対応も可能な施設がある。ただし、入居待機者の数がかなり多くなりやすく、医療サービスは受けられず医療機関を利用するには自分たちで連れていく必要がある施設もある
介護療養型医療施設 介護が必要になった方向けの施設。特定養護老人ホームとは異なり、医療施設でもあるので手厚い医療サポートを受けられる。
介護老人保健施設 介護サービスに加え、充実したリハビリ環境を用意している。在宅復帰を目的としており、リハビリの指導や医師のサポートを受けられる。長期滞在まではできない。
ケアハウス 介護度が高くないが、日常生活するのに支援が必要な方向け。低費用で食事、洗濯、掃除など生活支援を受けられる。

公的施設は民間施設よりも安価ですが、それゆえ入居待機者が多く、また入居するには要介護度が高い場合に限られる施設もあります。自分で生活できることを目指して在宅復帰をサポートする施設と、手厚い介護を求められる施設の2種類に大別されます。

入居するときに留意すること

入居を希望したとしてもすぐに入居できるとは限らず、たいていの施設は数人待ち、多いときには数十人待ちの状態です。そのため部屋が空くのを待つよりは、新しい施設が建つのを待つか増設を待った方が早い状態なことと、この長い待ち期間のうちに状況が変わることもあるため、予測を立てにくい状態です。
なお、一度入居したとしても長期の入院などで部屋を長期間あけることになった場合、退去する契約の施設もあります。

入居希望の方がこれだけ長い待ち状態なので、ひとりの方が複数の施設へ申込をすることも常態化しているため、ふいに順番が繰り上がることもあります。

介護とITの可能性

介護施設の数はまだまだ足りず、しかし 介護を求める人数は日増しに多くなっています。
2023年時点でも、認定されている要介護者で500万人、要支援者で200万人です。
平成12年~令和2年までの20年の推移をみると256万人から682万人と増え続け、約2.7倍です
日本の人口増加は少子高齢化に伴い減少傾向にあるため、この介護者数の増加はどこかで頭打ちにはなるのですが、国民のふたりにひとりは要介護者になったとしてもおかしくはないのが実情でしょう。

これに対し、介護士の数は現在およそ212万人ですが、この人数は増えていくどころか、2023年度と比べて2024年度はおよそ2万8000人減少しました。

これは介護士の報酬が低い(全産業の平均よりも約7万円低い)こと、介護士の仕事は肉体的、精神的にも厳しいことがある結果なのでしょう。
また、介護士になるための人材育成や教育も重要です。ただ人を増やせば良いものではなく、
国とその地域が二人三脚で「参入促進」「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」を進めるための対策に総合的・計画的に取り組むと厚生労働省も宣言しています。

同資料では、2026年度には約240万人(約25万人増(6.3万人/年)のペース)、
2040年度には約272万人(約57万人増(3.2万人/年)のペース)
増加ペースは()内、2022年度の215万人と比較

これだけの介護職員を確保する必要があると推計されています。

ただし先述したとおり、労働人口は減る一方であり、介護職の待遇も良くないため、なり手が少ないです。
これに対しては、待遇の改善だけでなく、外国人の採用や、ITCやDXといったデジタル化も推奨されています。

実際に介護施設や各種サービスをいくつか見学・利用させていただいて思ったのが、まだまだ人力に頼っていることが多いと感じました。介護を担う施設の間でも物理的な書類でやり取りすることが多く、実際にはケアマネージャさんが対応していただいたこともあります。厚生労働省でも 介護テクノロジーの利用促進:ケアプランデータ連携を円滑に行うための業務改善のポイント集などでデータ連携の例示をするにとどめているのが実態で、IT技術を採用した場合の対応とその人員の確保に関しては特に触れられていません。

ただ一部の企業や民間施設ではいくつか先進的に対応している事例もあります。

介護福祉士が活用するICT技術
老人ホーム/介護施設で進むIT化~実例で見る介護現場におけるICT利用~

実例を引用すると…

  • 介護記録のタブレット入力
  • 労務管理のIT化
  • 入居者の離床や在室状況をプライバシーを保護しながら見守る各種センサーシステム
  • 排泄予測システム
  • 介護用のコミュニケーションロボットの採用

特に入居者の状況を各種センサーで見守りつつ、かつプライバシーにも配慮をしたセンサーで異常検出できるシステムや排泄時間を予測できるシステムにより、介護施設で働く介護士が常に巡回をしなければならない勤務状況の負担を減らせます。

もちろんシステム導入には費用がかかるものですが、とは言え介護士の数が減少傾向にある実態もありますから、介護施設のサービスを頼む側だけでなく将来利用するかもしれない私たちにとっても、安全で安定した仕組みがあることで享受できるメリットもあるでしょう。

まだまだ実現は先なのかも知れませんが、ロボットによる介護がAIエージェントの登場で2,3年後には実現できているやも知れませんし、それにより人員の確保が解決する未来は決してディストピアではなく、人としての尊厳も守りつつ人として生きていけるものだと願います。

終わりに

父は2年前に他界しました。最後の1カ月は食事もほぼ取れなくなり、最終的には老衰でした。その介護は5年ほど続きました。振り返ってみても万全な介護ができたとは言えませんでしたが、最大限できることを周囲のサポートを受けつつでできたのだと思います。

介護に関する問題は、介護が発生する家族だけの問題で留めるにはあまりに負荷の高い問題です。いつ自分が介護する、介護される立場になったとしても悲観せずに安心して過ごせる世の中がくれば、と思います。

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