1. 三角関数とは「波を描く数式」
三角関数(sin, cos, tan)は、角度を入力にとり、
**波(周期的な変化)**を数式で表す関数です。
音は空気の圧力が時間に対して変化する「波」なので、
三角関数はまさに音の数学的な設計図といえます。
2. sin波:音の最小単位(ピュアトーン)
式:
sin(θ) = sin(2πft)
sin波は「最も単純な波」であり、
耳で聞くと 電子チューナーの「ピー」音のように聞こえます。
倍音を含まず、1つの周波数だけが存在するため「純音(pure tone)」と呼ばれます。
例:440Hz(ラの音)を鳴らすと、
静かで真っすぐな「ポーン」という音になります。
3. cos波:sin波の時間シフト
式:
cos(θ) = sin(θ + π/2)
cos波はsin波を1/4周期(90°)だけ前にずらした波。
音色は同じですが、タイミングが違うため、
sin波と一緒に鳴らすと干渉して「ワンワン」とうなるビートが生じます。
4. sin波の足し合わせ:音の合成(Additive Synthesis)
式
y(t) = sin(2πf₁t) + sin(2πf₂t)
異なる周波数のsin波を足し合わせると、
複雑な波形=音の厚みやうねりが生まれます。
この現象が「音の合成(Additive synthesis)」です。
- 例①:f₁=440Hz, f₂=880Hz
→ 1オクターブ上の音を足すと、明るく華やかな倍音。 - 例②:f₁=440Hz, f₂=444Hz
→ わずかに違う周波数を足すと「ワンワン」とうなるうなり音(ビート)。
このうなりは、加法定理
sin(A ± B) = sinA cosB ± cosA sinB
で表される干渉そのものです。
5. tan波:不安定なノイズ的振る舞い
式:
tanθ = sinθ / cosθ
tan波はsinとcosの比なので、cosθが0に近づくと急に値が発散します。
音としては、滑らかな波が急激に跳ね上がるノイズ的・歪んだ音になります。
ディストーションギターや電子ノイズのような非線形な響きです。
6. 2倍角と半角の音:オクターブの変化
2倍角(sin2θ = 2sinθcosθ)
周波数が2倍になり、1オクターブ上の音。
高く明るい印象になります。
半角(sin(θ/2) = ±√((1−cosθ)/2))
周波数が半分になり、1オクターブ下の低音。
ゆったりした響きになります。
これがピアノで同じ音名の高音と低音の違いに相当します。
7. 積和・和積公式と音の干渉
公式:
sinA cosB = ½[sin(A + B) + sin(A − B)]
この式は「2つの音を混ぜると新しい周波数が生まれる」という意味です。
電子音楽では**モジュレーション(変調)**として使われ、
FMシンセサイザーなどの音作りの基本理論です。
8. 合成の一般式:A sinθ + B cosθ = R sin(θ + α)
sin波とcos波を足すと、
振幅Rと位相αを持つ新しいsin波にまとめられます。
- R = √(A² + B²) は音の大きさ(振幅)
- α = tan⁻¹(B/A) は音のタイミング(位相)
音の世界では、これが波の合成=音色設計の基礎になります。
複数の波を組み合わせて、柔らかい・鋭い・金属的な音を作り出すことができます。
9. 三角関数と音の対応表
| 数式 | 音の性質 | 聴覚的イメージ |
|---|---|---|
| sinθ | 単純な純音 | ピーという単音 |
| cosθ | sinの時間シフト | 干渉でワンワンうなる |
| sin+sin | 合成音 | 厚みのある音・ビート発生 |
| tanθ | 非線形・歪んだ音 | ノイズ的サウンド |
| sin2θ | 周波数2倍 | 1オクターブ上 |
| sin(θ/2) | 周波数1/2 | 1オクターブ下 |
| A sinθ + B cosθ | 位相ずれ合成 | 柔らかく変化する音 |
10. 音で聴く数学
これらの式をPythonで実際に鳴らすと、
**「三角関数=音の波形」**であることが実感できます。
例:
- sinθ → 純音
- sinθ + sin2θ → 明るい倍音
- sin(440Hz t) + sin(444Hz t) → ビート音
- tanθ → 歪み音
音を聴くことで、数式の意味(振幅・位相・干渉・周波数)が体感的に理解できます。