はじめに:家庭は小さな「巨大企業」だ
「はたらくを楽しく」。
WHIさんのこのミッション、最高ですよね。
でもふと気づいたんです。オフィスでの業務改革が進んでも、家に帰ると もう一社 の「激務」が待っていることに。
我が家という組織を見渡すと、そこには立派な サプライチェーン(供給連鎖) が存在します。
- 🛒 調達:スーパーでの買い出し
- 🧊 在庫管理:冷蔵庫・パントリーへの収納
- 🍳 製造:料理
- 🍽️ 提供:配膳・食事
- 🗑️ 廃棄:ゴミ出し
しかし、その実態は超アナログなレガシー企業そのもの。
- 在庫管理:私の頭の中にあるExcel(記憶)のみ。「あれ、卵あったっけ?」
- 意思決定:毎日発生する「今日のご飯なに?」という問いに、勘と経験だけで対応。
- 食品ロス:気づいたら冷蔵庫の奥で「賞味期限切れ」という名の損失が発生。
企業なら ERP(統合基幹業務システム) を入れて解決するところです。
なら、結論はシンプル。
家庭にもERPを作っちゃえばいいのです。
本稿では、n8n × OpenAI (GPT-5.1) × LINE を用いて、我が家の食材と献立を一元管理する 「家庭版ERP(KITCHEN)」 を構築した記録を共有します。
最新AI GPT-5.1 の思考力を借りて、冷蔵庫の中で忘れ去られそうな食材を救済するシステムを作りました。
ただし……システムは完成したものの、「食洗機」がないとこのプロジェクトは完遂しないという重大なバグ(仕様)が発覚しました。
最後はそのお話で締めくくります。
1. 構想:家庭版ERP『KITCHEN』とは何か
企業の人事システムを、家庭に持ち込む
WHI社の製品『COMPANY』が「人材」を管理するように、我が家のシステムは「食材」を管理します。
コンセプトはズバリ、 「食材タレントマネジメント」 です。
冷蔵庫を「オフィス」、食材を「社員」に見立てると、やるべきことが見えてきます。
| 項目 | 企業(人事システム) | 家庭(KITCHEN) |
|---|---|---|
| 管理対象 | 👨💼 社員 | 🥩 食材 |
| データベース | 🏢 人事DB | 🧊 冷蔵庫 |
| 採用 | 🤝 入社 | 🛒 購入 |
| 配置 | 📋 プロジェクト配属 | 🍳 今日の献立採用 |
| 評価 | 📊 タレントマネジメント | ⏰ 鮮度・賞味期限管理 |
| 退職 | 💐 定年・退職 | 🗑️ 消費・廃棄 |
AI人事部長のミッション
「賞味期限が近いベテラン社員(食材)」を優先的に「今日の献立プロジェクト」にアサインし、 最高の花道(おいしい料理) を作って送り出すこと。
逆に、買ってきたばかりの新入社員(食材)は、まだ研修期間(保存)として温存します。
これで、食品ロスという「離職率」を下げ、食卓の「エンゲージメント(満足度)」を高める作戦です。
2. 全体アーキテクチャ:LINE×n8n×GPT-5.1で回す
難しいことは抜きにして、仕組みはこうです。
- 📱 LINE:家族が使う「申請窓口」。冷蔵庫の写真を送るだけ。
- ⚙️ n8n:裏で動く「事務局」。データの受け渡しを自動化します。
- 🧠 GPT-5.1:超優秀な「AI人事部長」。画像を見て、献立を考えます。
【データの流れ】
3. インフラ実装:プライバシーは自宅で守る
「冷蔵庫の中身」は究極のプライバシー情報です。クラウドに上げっぱなしにするのは少し不安ですよね。
そこで、n8n(自動化ツール) は自宅のサーバー(Docker)に入れて動かします。
※ここは少しマニアックなので、コードは「ふーん、こう書くんだ」くらいで流し読みしてください!
docker-compose.yml(構成例)
version: '3.8'
services:
n8n:
image: n8nio/n8n:latest
ports:
- "5678:5678"
environment:
- N8N_HOST=n8n.local
- GENERIC_TIMEZONE=Asia/Tokyo
# 最新モデル対応のためタイムアウトを長めに設定
- N8N_DEFAULT_EXECUTION_TIMEOUT=300
volumes:
- n8n_data:/home/node/.n8n
restart: always
ポイント
LINEからの連絡を受け取るために、自宅サーバーを少し工夫してインターネットから繋がるようにしています(Cloudflare Tunnelなどを使うと安全です)。
4. Vision編:冷蔵庫の写真 → 食材名簿を作る
ここからがAIの出番です。
GPT-5.1(またはGPT-4o)に、 「あなたは冷蔵庫部門の人事コンサルタントです」 という役割を与えます。
そして、送られてきた写真を見て、以下のような「社員名簿」を作らせます。
【AIへの指示(プロンプト)】
あなたは「冷蔵庫部門」のベテラン人事コンサルタントです。
送られた冷蔵庫の画像から、在籍している「社員(食材)」の名簿を作成してください。
【評価基準:ここが重要!】
見た目から「鮮度(勤続年数)」を推定してください。
- "新入社員"(新鮮)
- "中堅"(普通)
- "ベテラン"(使いかけ、少ししなびている)
- "定年直前"(賞味期限が危ない、変色など)
するとAIは、画像からこんなデータを返してくれます。
{
"employees": [
{
"name": "豚バラ肉",
"category": "肉",
"quantity": "1パック",
"seniority": "定年直前" <-- !!危険!!
},
{
"name": "白菜",
"category": "野菜",
"quantity": "1/4玉",
"seniority": "中堅"
}
]
}
おっと、「豚バラ肉」さんに 「定年直前」 のフラグが立ちました。
彼を救えるかどうかが、次の工程にかかっています。
5. Text編:AI人事部長が「本日の献立」を発令
名簿ができたら、次は配置(献立)の決定です。
最新モデル GPT-5.1 の「人間らしい配慮」を活かして、愛のある人事発令を出してもらいます。
【AIへの指示(プロンプト)】
あなたは、家庭版ERP『KITCHEN』の最高人事責任者(CHRO)です。
社員名簿(食材リスト)をもとに、本日の「プロジェクト(夕食メニュー)」を立案してください。
【配置(献立)ルール】
1. **ベテラン救済**: 「定年直前」の社員を最優先でアサインすること。彼らを廃棄(リストラ)させてはならない。
2. **適材適所**: 「定年直前」の社員は、加熱調理や濃い味付けでカバーできるメニューに配置すること。
3. **工数管理**: 調理時間は20分以内。
これをn8n経由でLINEに通知するように設定します。
6. 運用実績:定年直前の豚バラ肉を華麗に送り出す
実際に運用してみた結果です。
Before(導入前):
冷蔵庫の奥で忘れ去られ、変色して発見される豚バラ肉。「ごめんね…」と言いながらゴミ箱へ。これは経営資源の損失です。
After(導入後):
冷蔵庫の写真をLINEに送ると、30秒後にAI人事部長から通知が来ます。
📋 人事部からの通達
【プロジェクト名】豚バラと白菜のミルフィーユ鍋
👤 アサインメンバー:
- 豚バラ肉(定年直前)
- 白菜(中堅)
💬 人事コメント:
豚バラ肉氏のキャリア(鮮度)が限界に達しています。直ちに現場投入が必要です。白菜氏と組ませることで、彼の脂の旨味を最大限に引き出す配置にしました。彼にとって最高の花道になるでしょう。
結果、迷うことなくこの案を採用。
豚バラ肉は最高のパフォーマンスを発揮し、家族(顧客)の満足度も向上。 食品ロス(離職率)は0% になりました。
7. Before/After:劇的な改善と、残された課題
このシステム導入による効果は絶大です。
- 📉 意思決定コスト: 1日15分 → 1分(写真撮るだけ)
- 📉 食品ロス: 月数回 → ほぼゼロ
- 📈 精神的負荷: 「今日何作ろう…」という憂鬱からの解放
しかし、ここで重大な問題に直面しました。
意思決定(ソフトウェア)はDXされましたが、 実作業(ハードウェア) が残っているのです。
そう、 「食器洗い」 です。
美味しい鍋を食べた後、シンクに積み上がった鍋、取り皿、箸。
AI人事部長は、献立のシフトは組んでくれますが、 皿洗いのシフトだけは組んでくれません。
8. 今後の展望:ラストワンマイルの自動化
家庭内DXは、9割まで完了しました。
しかし、残りの1割…… 「物理的な洗浄工程」 だけは、n8nでもGPT-5.1でも解決できません。
AI人事部長は優秀ですが、残念ながら 実体がないため、スポンジを握ることができない のです。
理想を言えば、家事を全部やってくれる人型AIロボットが欲しいところですが、それはまだSFの世界。
現実的な解としては、 「Sirocaの食洗機」 というハードウェアがあれば、このシステムは真の完成を迎えます。
「あーあ、どこかの優しい審査員の方が、我が家のDXを完成させるために食洗機をプレゼントしてくれないかなぁ……」
なんて淡い期待を抱きつつ、今日も私はAIが決めた献立を作り、自分の手で皿を洗います。
技術で「はたらく」は楽しくなりました。あとは「後片付け」さえ楽しくなれば、完璧です。
おわりに
n8n × AI × LINE で、「献立を決める」という最難関の認知業務は自動化できました。
企業のDXでも「最後の10%(現場の物理作業)」が一番重いように、家庭のDXもハードウェア(食洗機)がないと完遂しません。
本記事が、WHI様の掲げる「身の回りの困りごとを楽しく解決!」というテーマに対し、技術への愛と切実な家事への願いで応えられていれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




