個人アプリ開発において、開発者の「実名・住所・電話番号」などのプライバシー情報がストアに公開されてしまうリスクや、Google Playの「テスター12人・14日間」という厳しい要件は大きな壁です。
本記事では、個人でありながら「組織アカウント」を取得することで、これらの問題を合法的に回避し、プライバシー保護と審査のショートカットを実現する方法を筆者の実体験を基に解説します。筆者の経験を基に、全体像をダイジェストでお届けします。
この記事のポイント
- プライバシー保護: 組織アカウントなら、ストア上の公開情報を「実名」ではなく「屋号(ブランド名)」にできる。住所や電話番号は事業用に別で取得して代わりに利用する。
- Google審査の短縮: 個人アカウントに課される「12人・14日間のクローズドテスト」という重い要件を、組織アカウントなら免除できる。
- 開業はオンライン完結&無料: 個人事業主としての開業届は、freee開業などの無料サービスでオンライン完結。これが組織アカウント取得の土台となる。
- 必要書類のハック: 個人事業主が組織として認められるために、e-Taxで取得できる「開業届」と「電子申請証明」を組織証明書類として利用する。
- Apple審査の壁: AppleでのDUNS番号エラーを、サポートへ問い合わせて突破する。
本記事は要点を凝縮したサクッと読めるダイジェスト版です。より多くの方に届けるため他プラットフォームにも並行配信しています。
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なぜ「組織アカウント」を目指すのか?
個人開発者がアプリをリリースする際、通常は「個人アカウント」を作成しますが、これには2つの大きなデメリットがあります。
- 個人のプライバシーの欠如: iOS/Android共に、開発者名として「戸籍上の本名」が公開されます。Google Playに至っては住所や電話番号まで公開されます。
- Google Playの審査障壁: 個人アカウントは「12人以上のテスターによる14日間のクローズドテスト」が義務化。
「組織アカウント」 を取得すれば、開発者名は「屋号」になり、Googleのテスト要件も免除されます。法人化せずとも、「個人事業主」としてこの組織アカウントを取得するのが本記事のゴールです。
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| Google Playのクローズドテスト免除のメリット |
全体ロードマップと費用
- 物理的拠点の確保: バーチャルオフィス・電話番号(プライバシー保護のため)
- 法的身分の確立: 個人事業主の開業・組織証明書類の作成
- Web実態の構築: ドメイン取得・Webサイト・メールアドレス
- 国際的証明: DUNS番号の取得
- アカウント申請: Apple/Googleでの組織アカウント登録(審査突破)
ステップ1:プライバシーを守る拠点の確保
自宅住所や個人の携帯番号を公開したくない場合、バーチャルオフィスとサブ電話番号の契約は必須です。
- 住所: 郵便物転送が可能なバーチャルオフィスのプランを推奨します。
- 電話番号: 格安SIMの最安プラン(SMS機能付き)などで十分です。
ステップ2:開業届の提出(個人事業主になる)
Apple/Googleの組織アカウント登録には、法人または個人事業主であることの証明が必要です。法人設立は数十万円の費用がかかるため、本記事では個人事業主として開業届を提出する方法を解説します。
開業届は freee開業、MoneyForward クラウド開業届、弥生のかんたん開業届 などの無料サービスで簡単に作成・提出できます。
開業届作成時の重要ポイント
- 屋号を必ず設定: 組織アカウント登録で必須となります。後から変更も可能ですが、最初に決めておくと手間が省けます。
- 事業所住所: バーチャルオフィスの住所を設定します。
- 事業所電話番号: サブ電話番号(事業用電話番号)を設定します。
- 青色申告承認申請書: 同時に提出しておくと節税メリットがあるので推奨です。
提出後、数分でe-Taxに受理通知が届きます。次のステップで必要な情報が含まれているので、必ず確認しましょう。
ステップ3:組織証明書類の作成
AppleやGoogleに「組織」として認めてもらうには、法的な証明書類が必要です。個人事業主の場合、オンライン申請では「開業届の控え」が発行されないことがありますが、以下の方法で証明書を作成します。
- e-Taxにログインする
- お知らせ・受信通知ページで「個人事業の開業・廃業等届出」という通知を開き、 「開業届の帳票」 と 「電子申請等証明データシート」 をそれぞれダウンロードする。
- この2つを PDF結合ツールで1つのファイルにする 。
開業届のみの提出ではNG判定でした。電子申請等証明データシートが必須のようです。
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![]() |
|---|---|
| 開業届 | 電子申請等証明データシート |
ステップ4:Webサイトと専用メールの用意
組織アカウントの審査には「独自ドメインのWebサイト」と「そのドメインのメールアドレス」が必要です。
任意のサービスを利用できますが、Cloudflare であればドメイン、Webサイト、メールアドレス全て完結するのでオススメです。
- ドメイン取得: Cloudflare Registrarで取得。
- Webサイト: Cloudflare Workers/Pagesを利用。内容は「簡易的な自己紹介と事業概要」程度の1ページで審査は通ります。
- メール: Cloudflare Email Routingを設定し、私用のメールアドレスへ転送させればOKです。
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| Cloudflare |
ステップ5:DUNS番号の取得
Apple/Google共に必須となる、企業の国際的識別コード「DUNS番号」を取得します。
AppleのDUNS番号の解説ページの 「D-U-N-S番号が付与されていないかを確認」 のリンクから無料で申請可能です。申請から数日で発行されます。
※ 確認という文言が紛らわしいですが、DUNS番号が付与されていないことが確認されたら、自動的に新規発行の工程に移行します
ステップ6:Apple組織アカウント登録
最終的に組織アカウントとして登録することを目指しますが、筆者の場合は一旦個人アカウントとして登録し、その後組織アカウントへの移行を申請する形で実現したため、そのフローに沿って解説しています。未検証ですが、お急ぎの方は最初から組織アカウントでの登録を申請した方がよいかもしれません。
- まずはAppleDeveloperのサイトで 「個人アカウント」 として登録・支払いを済ませる。
- その後、管理画面から 「組織アカウントへの移行」 を申請する。
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| 組織アカウント移行申請 |
発生するエラーと突破方法
移行申請フォームでDUNS番号を入力すると、以下のエラーが発生します。
「この組織が法人であることを確認できませんでした。個人事業主の場合は、個人として登録してください」
恐らくDUNS番号に紐づく情報から「個人事業主」であることをシステム的に検知し、組織登録を拒否しているのだと思われます。
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| DUNS番号入力時に発生するエラー画面 |
解決策:サポートへの「直談判」
このエラー画面が表示されたら、Appleからの組織アカウント移行案内メールに返信する形で、Appleのサポートに問い合わせメールを送ります。
- 伝える内容: 「DUNS番号を取得済みであり、組織としての登録を希望するが、システムエラーで進めない。私のDUNS番号は*****です。解決策をご教示願いたい。」
筆者の場合、サポートとのやり取りを経て、無事にDUNS検証がスキップされ、組織情報の入力フォームへと進むことができました。
指示通りにフォームに入力して申請すると、以下の申請完了のメールが届きますので、しばらく待ちましょう。
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| 組織メンバーシップへの変更申請受理メール |
筆者の場合は申請完了メールの翌日に「個人」から「組織」への切り替えが完了しました。個人アカウントで既にメンバーシップ代は支払済のため、追加費用はかかりません。
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| メンバーシップ詳細で組織に切り替わった画面 |
ステップ7:Google Play Consoleの登録
Google Play Console(登録料 $25)の場合は、Appleほど複雑ではありません。
最初からアカウント作成画面で「組織」を選択し、DUNS番号と屋号を入力すれば、個人事業主でもスムーズに組織アカウントとして登録可能です。
注意点として、組織証明書類の提示を求められたら、ステップ3で作成した 「開業届の帳票」 と 「電子申請等証明データシート」 を結合したPDFファイルを提出します。
これでプライバシー保護に加え、Google Playの「テスター12人の壁」も無事に回避できます。
まとめ
個人事業主が組織アカウントを取得することは、少々の手間とコストがかかりますが、「プライバシーの保護」 と 「スムーズなリリース(テスト免除)」 という絶大なメリットがあります。
本気でアプリ開発に取り組み、世界に公開したいと考えている個人開発者の方にとって、この環境構築は最初に行うべき最良の投資の一つと言えると思います。
これから筆者のようにスマホアプリ開発に挑戦しようと考えている方々が、スタートラインに立つ前から挫折することのないよう、本記事が少しでも役に立てば嬉しい限りです。
さらに詳しく知りたい方へ
本記事はサクッと読めることに特化したダイジェスト版のため、詳細は全て省略しています。
より細かい背景や補足情報は、元記事の方にまとめています。
筆者について
「個人 x AIでどこまで戦えるのか?」 をテーマに、大手IT企業を退職して独立。独りビジネスやフリーランスエンジニアの生々しい実態、その軌跡や過程で得られた知見を赤裸々に yukapero.com にて発信しています!
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