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マーケターとエンジニアに求められる能力の違いを、構造的観点から説明する

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はじめに

こんにちは。私は 4 年間 SEO マーケターとして働いた後、エンジニアにジョブチェンジして約 2 ヶ月が経ちました。

転身してから感じたのは、「エンジニアとマーケターは、求められる能力が全く違う」ということです。これは多くの人が感じていることだと思いますが、実際に両方を経験してみて、その違いがどこから生まれるのか、ようやく言語化できるようになりました。

SEOマーケター時代の葛藤

SEO マーケターとして働いていた間、私は常に「何が効いたのかわからない」というストレスと向き合っていました。Google のアルゴリズムはブラックボックスで、施策を打ってから結果が出るまで数ヶ月かかることもあります。

順位が上がったとしても、それが自分の施策の効果なのか、競合の動きなのか、それともアルゴリズムのアップデートなのか、特定するのが難しい。限られた情報から推論を重ね、仮説を立てて施策を実行し、結果を待つ。その繰り返しでした。

「自分のやったことが良かったのか悪かったのか、効果検証すらできない。」という葛藤は、今考えると構造的に必然だったのだと感じています。

エンジニアへの転身後

エンジニアに転身して 2 ヶ月、一番に感じたのは「学習」と「理解」の価値観でした。

私は2 ヶ月間、コンピュータサイエンスの基礎知識から、プログラミング言語の学習、AWS のハンズオン、サーバーレスの理解をしてきました。
とにかく学ぶことが多い。広さも深さもケタ違いで、「正しく理解する」こと自体の難易度が高い。

「学習」や「理解」という価値観を一番強く感じたのは、書籍『世界一流エンジニアの思考法』を読んだときです。この書籍を読んで、マーケターとの違いを感じました。

なぜエンジニアは「学習」や「理解」をこれほどまでに重視するのか?
そして、なぜマーケターとはこれほどまでに異なるのか?

そのような経験をもとにマーケターとエンジニアの違いに着目し、構造によってその違いが規定されていることに気づきました。

「職種」の違いは「構造」の違い

問いとアプローチ

マーケターとエンジニア。2つの職種に求められる能力が大きく異なることは、多くの人が感じていることです。
しかし、その違いがどこから生まれるのかを説明できる人は少ないのではないでしょうか。

本記事では、職種ごとの違いを「対峙する対象の構造」から説明します。

根源的な要因は「対象の性質」

マーケターとエンジニア、2つの職種に求められる能力の違いを表す起点は、
何と対峙しているか(機械か、人間・市場か)」ではないか、と考えました。
言われてみれば当たり前に感じるかもしれませんが、この違いが職務における因果のルールを根本から決定づけます。

【エンジニア(=機械)】
物理法則とロジックに従い、感情を持たない。入力が正しければ出力は常に一定。

【マーケター(=人間・市場)】
感情、文脈、競合などの複雑系に支配される。絶対的な正解が存在しない。

派生要因(The Context)

根源的要因により、以下の 2 つが決まります。

  1. 因果の明確さ(再現性の有無)
【エンジニア(=機械)】
因果関係が極めて明確で、再現性が高い。

【マーケター(=人間・市場)】
再現性が低く、同じ状況でも外部要因によって成果が左右される
  1. 環境変化の質
【エンジニア(=機械)】
技術的陳腐化(Tech Obsolescence)が激しい

【マーケター(=人間・市場)】
本質的な欲求は不変だが、表現手法やプラットフォームが変化する

この構造により、各職種に求められる「クリティカル・コンピテンシー」(造語)が決定されます。

クリティカル・コンピテンシーの定義

本記事における「クリティカル・コンピテンシー」とは、その職種が対峙する対象の性質上、成果を出すために不可避的に求められる「生存のための必須能力」と定義します。

例えば、エンジニアにとって「正確な論理構築力」は、単に「あった方が良いスキル」ではなく、「機械という対象と対峙する以上、必ず求められる能力」。

このコンピテンシーは、職種ごとの役割の違いではなく、対峙する対象の構造によって構造的に決定されます。

職種別の構造分析とクリティカル・コンピテンシー

エンジニア:論理と鮮度の戦い

エンジニアが対峙するのは「機械(システム・コード)」です。機械は物理法則とロジックに従い、感情を持ちません。

  • 因果関係の明確さ:入力(コード)が正しければ出力は常に一定であり、因果関係は極めて明確で再現性が高いです。同じコードを書けば、同じ結果が得られます。
  • 環境変化の質:対象を制御する道具(技術)の進化スピードは速く、知識の陳腐化が激しいという特徴があります。例えば、2,3 年前のベストプラクティスが現在では非推奨になっていることも珍しくありません。

クリティカル・コンピテンシー

  1. 正確な論理構築力

    • 曖昧さを許容しない機械に対し、完全なロジックを組み立てる能力
    • バグのないコードを書く、エッジケースを考慮する、テストを書くなど、すべてこの能力の現れ
    • 機械は曖昧さを許容しないため、エンジニアも曖昧さを許容できない(正しい理解が必要)
  2. 高速な学習適応力

    • 技術変化の速度に合わせて、自身の知識ベースを常に最新の状態に保ち続ける学習の継続性
    • 新しいフレームワークやツールを素早く習得し、古い知識を捨て去る勇気も必要

マーケター:不確実性と本質の戦い

マーケターが対峙するのは「人間・市場」です。これらは感情、文脈、競合などの複雑系に支配されています。

  • 因果関係の明確さ:絶対的な正解が存在せず、外部要因によって成果が左右されるため、再現性は低くなる。同じ施策でも、タイミングや環境によって結果が大きく異なることも。
  • 環境変化の質:人間の本質的な欲求(Insight)は不変であり、変化するのはその表現手法やプラットフォームのみ。例えば、SNS のプラットフォームは変わっても、人間が「承認欲求」を求める本質は変わらない。

クリティカル・コンピテンシー

  1. 不確実性下での意思決定力

    • 正解のない状況において、限られた情報から「最も確度の高い仮説」を導き出すプロセス
    • A/B テストの設計、データの解釈、競合分析など、すべてこの能力の現れ
    • 不確実性を許容し、楽しめることがマーケターとして重要
  2. 本質の応用力

    • 変わらない人間の本質的欲求を理解し、それを時代ごとに変化する市場環境に合わせて適用する柔軟性
    • 新しいプラットフォームや手法が登場しても、人間の本質を理解していれば適応できる
    • アルゴリズムやプラットフォームが変わっても、人間の本質は変わらないため、その理解が武器になる

(appendix)SEO マーケター:ブラックボックスと耐性の戦い(特殊領域)

対峙する対象

SEO は「Google のアルゴリズム(機械)」と「ユーザーの検索意図(人間)」の両方を変数とする特殊な領域です。

構造的帰結

  • 因果関係の明確さ:Google というブラックボックスを介するため因果関係が不可視であり、施策から結果反映までに長いタイムラグが発生する。「何が効いたか」の特定が困難で、ストレスフルな構造を持つ。
  • 環境変化の質:アルゴリズムのアップデートが頻繁に発生し、かつその内容が公開されないため、推論に頼る必要がある。一方で、ユーザーの検索意図という人間の本質は不変。

クリティカル・コンピテンシー

  1. 行間を読む推論力

    • 順位や流入データという「結果」から、その背後にあるアルゴリズムの意図とユーザー心理を逆算して読み解く力
    • 限られた情報から、Google の意図を推測する能力が求められる
    • 機械と人間の両方を相手にするため、両方の視点から推論する必要がある
  2. 構造的耐性(Grit)

    • 因果が見えにくい中でも、自身の仮説と確率を信じ、一貫した施策を淡々と積み上げ続ける精神的な胆力と実行力
    • 結果が出るまでに数ヶ月かかることもあり、その間も継続できる忍耐力が必要

まとめ

本記事では、エンジニアとマーケターの違いを「対峙する対象の構造」という視点から分析しました。

重要なポイント

  1. 職種ごとの違いは「対峙する対象の構造」によって決まる

    • 機械と対峙するエンジニア:論理と鮮度の戦い
    • 人間・市場と対峙するマーケター:不確実性と本質の戦い
  2. クリティカル・コンピテンシーは構造的に決定される

    • エンジニア:正確な論理構築力、高速な学習適応力
    • マーケター:不確実性下での意思決定力、本質の応用力

上記の考察が、読者の方々の新たな視点として消化していただけていたら幸いです!

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