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唯識思想と人の心とAIの違い

Last updated at Posted at 2025-04-19

目的

心のはたらきを示した良いモデルとして唯識思想がある。
その唯識のモデルを整理し、もとにAIが向かう可能性を模索する。

1. 唯識の成り立ち

インド発祥の大乗仏教が基礎となっている。
唯識思想は4~5世紀にガンダーラ(現在のパキスタン)無着(アサンガ)・世親(ヴァスバンドゥ)によって大乗仏教の教理として体系化された。
世親が『唯識三十頌』『唯識二十論』を示したといわれている。
6世紀に中国へは入って来た。7世紀には玄奘がインドより帰朝後,『成唯識論』を著し,これを根本として法相宗が形成された(法相宗の宗祖は玄奘の高弟・慈恩大師窺基)。

2. 唯識の構造

2.1. 唯識の思想

仏教に、人間存在を構成する要素は"五蘊(ごうん)"であるという概念がある。

色蘊(しきうん):物質的なもの、肉体、身体。外界に現れる様々な物質や現象。
受蘊(じゅうん):感覚、感情。苦楽、快不快、不苦不楽などの感覚や感情。
想蘊(そううん):イメージ、知覚。過去の経験や記憶から生み出されるイメージや概念。
行蘊(ぎょううん):行為、意志。心的な働き、行動の意欲。
識蘊(しきうん):認識、思考。外界や内界を認識する機能、思考。

唯識は、”世界は空(くう:変化するもの)である”ことを前提にして、
"唯だ識(ただしき)、すなわち心だけしか存在しない。"
という思想である。

2.2. 唯識の要素

唯識では、心のはたらきを心王(しんのう)と心所(しんじょ)に分けている。
心王と心所により現象が生じるとしている。

心王(しんのう):識るはたらきの主要素
心所(しんじょ):細かい心作用

心王を8つの識で示す。
6つの表層心として、眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識がある。
2つの深層心として、末那識(まなしき)、阿頼耶識(あらやしき)がある。

表層心の5識は、五感の器官とそれぞれ対応しています。
意識(六識)は、意の識。周囲や自身の行動に対しての認識をする。
末那識(七識)は、自我意識、自分であると執着し続ける認識である。
阿頼耶識(八識)は、心の根源であり、一切の種子(過去の業[行為]や経験)を貯蔵する。

図に表す。
yuishiki.drawio.png

2.3. 唯識思想の目指すところ

大乗仏教の目指すところは阿羅漢(あらかん:悟りをえたもの)であることは変わりない。
阿羅漢は、苦の輪廻からの解脱をした者を指す。
唯識思想では、末那識(自我執着心)が滅却し、迷いと煩悩の心所が滅却された状態を示す。

3. 唯識における心のはたらきの説明

3.1. 自我執着がはたらかない現象

yuishiki_posi.drawio (3).png

リンゴの像が、心内において各識のはたらきにより生起する。

3.2. 自我執着がはたらく現象

yuishiki_posi.drawio (5).png

リンゴの像が、心内において各識のはたらきにより生起する。
末那識のはたらきにより、自己執着的な認知に変化する。

3.3. 依存症的な現象

yuishiki_work3.drawio (1).png

アルコール不在の状態が、心内において各識のはたらきにより生起する。
過去の蓄積などにより、アルコールが必要な心のはたらきが生起する。

4. 人の心のはたらきとAIの違い

4.1. 人の心のはたらきとAIの違い

2025/04時点でAIの使える器官と識を図にしてみた。
人の心のはたらきと大きく違う点は3点ある。

一点目は、表層心の鼻識、舌識が現在は認識できない。
二点目は、末那識にあたる自己執着心がない。
この点は、AIの場合、何をもって"自己"とするかから規定が必要と思われる。
三点目は、業(行為)の項目になる。
仏教では十善戒と十悪が規定されており、多くの国では十悪(一部だが)を法律などで制限している。

yuishiki_AI.drawio.png

4.2. AIの可能性

AIをCo-Pilot(副操縦士)として、用いることが多い。
もし主操縦士に格上げする場合、活動の範囲を限定されれば、
AIによる行為の影響が把握しやすい。

例えば、飛行機のパイロットであれば、機体の破損と人命の尊重がどちらも発生するとしたときに、
人命に影響する活動は、AIの決定権は2番目とし、指示を仰ぐ先を決めておくなど。
そのためには、機体に対しての権限、人命についての権限を規定が必要となる。

権限で決める要素が少ない部分(危険を伴わないデータを更新など)は、
2つの役割のAI(責任者、作業者)を用いて、任せることができるはず。
責任者AI、作業者AIに守るべきことをそれぞれ規定することでやりたいことが完遂できる。

複数の役割をAIに担ってもらい、人が役割の一部を担う、
そういう可能性が一番身近に来るだろう。

参考文献、リンク

サイト

wikipedia:唯識
wikipedia:大乗仏教
唯識の歴史
wikipedia:玄奘
wikipedia:法相宗
wikipedia:五蘊(ごうん)
wikipedia:空(くう)
wikipedia:阿羅漢(あらかん)
脳科学辞典:依存症
wikipedia:十善戒

文献・書籍

横山 紘一(2011).『阿頼耶識の発見 よくわかる唯識入門』.幻冬舎.
多川 俊映(2015).『唯識とはなにか 唯識三十頌を読む』.角川学芸出版.
魚川 祐司(2015).『仏教思想のゼロポイント―「悟り」とは何か―』.新潮社.
上山 春平,服部 正明(1970).『仏教の思想 4 認識と超越<唯識>』.KADOKAWA.
横山紘一(2016).『唯識の思想』.講談社.

更新履歴

2025/04/19 新規作成
2025/04/21 2.2の記載追記、3の図を一部修正

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