AI 計算能力が爆発的に増加する時代に入り、データセンターの電力密度は肉眼でもわかる速さで上昇しています。過去に単一キャビネットの電力が 10kW に満たなかった時代はすでに過去のものとなり、現在では AI トレーニングクラスターの単一キャビネット電力が 50kW を超えることが当たり前となり、従来の空冷技術は早くも対応しきれなくなっています。このような背景の下、液冷技術は高効率な放熱・エネルギー節約と消費削減というコアメリットを活かして、データセンターが放熱ボトルネックを突破するための「必須の選択肢」となりました。
そして液冷技術の分野では、「コールドプレート式」と「液浸冷却」の二つの主要な技術ルートによる競合が非常に激しいです。前者は互換性が高く、改修コストが低いという特徴から現在の主流となり、後者は極限の放熱効率を持つことから未来の方向性と見なされています。本稿では、技術特性、応用シーン、コスト経済性及び未来の動向などの観点から両者の長所と短所を分析し、今後の主導的な方向性について検討します。

一、なぜ液冷技術は今、必ず取り上げる必要があるのか?
従来の空冷技術の限界は、計算能力の需要と環境保護目標の二重の圧力によって、ますます明らかになっています。
計算密度が上限を突破:AI 大規模モデルのトレーニング、スーパーコンピューターのタスクなどのシーンにおいて、単一チップの消費電力は過去の百ワット級から 800W 以上に急増しています(例:NVIDIA の一部ハイエンド GPU)。空冷システムは即使全負荷で運転しても、熱をタイムリーに排出できず、軽い場合は機器のクロック周波数低下を引き起こし、重い場合はダウン(運転停止)に至ることもあります。
ダブルカーボン目標下の省エネ圧力:データセンターはエネルギー消費量の多い施設です。空冷システムの PUE(電力使用効率)は通常 1.3 以上であり、中国「東数西算」プロジェクトが新設データセンターに対して定めた PUE≤1.25 の要求を大幅に上回っています。液冷技術は PUE を 1.05~1.2 まで低減でき、炭素排出量と電気代の支出を大幅に削減することができます。
空間利用効率のニーズ:高密度計算のシーンにおいて、空冷システムはより広いデータセンタースペースを占用して放熱機器を配置する必要があります。一方、液冷システムの体積は空冷の 1/3 に過ぎず、データセンターの単位面積あたりの計算能力の生産性を大幅に向上させることができます。
二、コールドプレート vs. 液浸冷却:コア技術特性の深度比較
二つの技術の違いは、本质的に「改良」と「革新」の選択にあります。コールドプレートは既存システムとの互換性を追求し、液浸冷却は極限の放熱効率を目指しています。具体的な違いは以下の表から明確に把握できます。

- コールドプレート:データセンターの「スムーズな移行手段」
コールドプレートのコアメリットは「互換性」にあり、液冷技術普及の「突破口を開く存在」と言えます。

(マイクロチャネル水冷ブロック)
改修コストが低く、工期が短い:既存のサーバーを分解する必要がなく、CPU や GPU にコールドプレートを追加するだけで済みます。モジュール式配管(クイックコネクタ、冗長設計など)と組み合わせることで、古いデータセンターの改修工期を 2 週間以内に短縮でき、改修コストは液浸冷却に比べて 50% 以上低く抑えられます。
市場の成熟度が高く、リスクが制御可能:現在、コールドプレートは液冷市場の 90% のシェアを占めています。中国のアリババクラウド千島湖データセンター、インテルの合作プロジェクトなどの大規模な応用事例により、その安定性が実証されています。また、液漏れリスクは液浸冷却よりはるかに低いため、企業はコア機器の損傷を心配する必要がありません。
中高密度シーンに適合:現在主流の AI トレーニングニーズ(例:NVIDIA B シリーズ GPU)では、単一キャビネットの電力が多く 130~250kW の範囲にあり、コールドプレートはこの範囲を完全にカバーできます。「極限の放熱」を無理に追求してコストを増やす必要がないです。
ただし、コールドプレートには限界もあります。コア部品の冷却しか行えず、その他の部品は依然として空冷を補助的に使用する必要があり、「全システム放熱」を実現できません。また、PUE 数値も液浸冷却より高いため、超高密度(100kW+)や極限の省エネニーズに応えることは難しいです。 - 液浸冷却:高計算能力シーンの「究極の解決策」
液浸冷却は「未来の計算能力」に合わせて設計された技術で、コアメリットは「効率」と「潜在力」に集中しています。

(液浸冷却バッテリー下部エンクロージャー)
極限の放熱と省エネ:液体の熱伝導率は空気の 20~30 倍で、全てのデバイスを直接冷却することで局部的な過熱を回避できます。相変化型液浸冷却では、PUE をさらに 1.04 まで抑えることが可能で、「理論上の最適値」に近づきます。同時に、排熱回収効率は 90% に達する(例:レノボの方案)ため、暖房や給湯などのシーンに利用でき、エネルギー消費をさらに削減できます。
超高密度計算能力をサポート:次世代チップ(例:NVIDIA Rubin シリーズ)は単一キャビネットの電力を 1000kW まで引き上げる見込みで、この時点で液浸冷却が唯一の放熱ニーズを満たせる技術となります。現在、曙光数創の C8000 相変化型液浸冷却方案では、単一キャビネット 200kW + の電力サポートを実現しており、未来の潜在力は非常に大きいです。
静音化と長寿命化:ファンの運転が不要なため、データセンターの騒音を 90% 以上削減できます。また、冷却液がホコリを遮断するため、サーバーの寿命を 30% 延ばすことができ、機器交換コストを削減できます。
液浸冷却の短所は「初期導入ハードル」にあります。カスタマイズされたサーバー、密封型キャビネット、高価な冷却液により初期投資が押し上げられる上に、現在はエコシステムの互換性が不十分(例:異なるメーカーの冷却液と機器の適合性)です。さらに、EU は 2028 年にフッ化物系冷却液の使用を禁止する計画を進めています。
液浸冷却のアプリケーションについては、次の記事を参照してください:https://www.walmate.com/JP/blog/blog2/id-12595.html
三、短期的にはコールドプレート、長期的には液浸冷却:データセンターの技術選択ロジック
両技術は「どちらか一方を選ぶ択一的関係」ではなく、それぞれ異なる段階のニーズに対応しています。市場構造は「短期的にはコールドプレートが主導、長期的には液浸冷却が普及拡大」する傾向を示すでしょう。
- 中短期(2025~2027 年):コールドプレートが依然として主流
既存設備の改修ニーズが旺盛:現在、多くの古いデータセンターが計算能力アップグレードのプレッシャーに直面しています。コールドプレートの「低改修ハードル」が第一選択となり、少額の投資で単一キャビネットの電力を 10kW から 50kW に引き上げることができます。
市場エコシステムが成熟:コールドプレートはすでに標準化されたインターフェース(例:インテルの OCP コールドプレート設計)を形成しています。浪潮、中科曙光などのメーカーの方案は互換性が高いため、企業は「サプライヤーロックイン」の問題を心配する必要がなく、調達・メンテナンスコストもより制御しやすいです。
コストメリットが明確:大半の中高密度シーン(20~100kW 単一キャビネット)では、コールドプレートは 3 年で投資回収が可能ですが、液浸冷却には 5 年以上かかります。TCO(総保有コスト)の観点から、コールドプレートは企業の短期的な利益により合致します。 - 長期(2030 年以降):液浸冷却が高計算能力分野で主流に
チップの消費電力が技術アップグレードを促す:単一チップの消費電力が 800W を突破すると、コールドプレートの「局部放熱」ではニーズを満たせなくなり、液浸冷却が唯一の選択となります。現在、NVIDIA B200 GPU(1000W+)はすでにテスト段階に入っており、液浸冷却の実用化を加速させるでしょう。
コストとエコシステムが段階的に改善:代替冷却液(炭化水素系、シリコーン系)の研究開発が成熟すると、冷却液のコストは 40% 以上下がる見込みです。同時に、サーバーメーカーは標準化された液浸冷却機器を発売し始めているため、初期投資のハードルも大幅に下がるでしょう。
グリーンポリシーが牽引:中国の「ダブルカーボン(炭素ピーク・炭素中和)」目標が深化するにつれ、未来のデータセンターの PUE 要求はさらに厳しくなる可能性があります(例:≤1.1)。液浸冷却の省エネメリットはコア競争力となり、特にスーパーコンピューティング、AI トレーニングなどエネルギー消費に敏感な分野で顕著になります。
ご参考になるために、定期に熱設計及び軽量化に関する技術と情報を更新させていただきます。Walmateにご関心をお持ちいただき、ありがとうございます。