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この記事の対象者:コンシューマーゲームやモバイルゲームのQA経験者、ゲームQAに興味のある人
はじめに
はじめまして。記事を開いていただきありがとうございます。
グリーに入社して半年ほどになります、Tyuhai3です。 今回、アドベントカレンダーの記事を担当させていただくことになりました 。
本題に入る前に、自分の経歴を一部紹介させて頂きます。
| 時期 | 事業内容 | 勤続年数 |
|---|---|---|
| 前々々職 | モバイルゲームQA(テスト実行・設計) | 3年 |
| 前職 | コンシューマーゲームQA(テスト設計・管理) | 5年 |
| 現職 | モバイルゲームQA(テスト管理・運用改善) | 半年 |
このように、モバイルから一度コンシューマーの世界へ飛び込み、5年間の経験を経て再びモバイルゲームの世界に戻ってきました 。QAに関してはゲーム業界のみ経験してきており、今年で9年目となります。
今回はコンシューマーゲーム、モバイルゲーム両方の現場を経験した視点から、「同じゲームQAにおいても重要視するポイントがどう変わるか」についてまとめました。
コンシューマーゲームとモバイルゲームの違い
まずそれぞれのQAの違いではなく、前提として同じゲームでありながらどういった部分が違うのかまとめてみました。
1.収益方法の違い
個人的に一番違う部分として捉えたいことは、コンシューマーゲームとモバイルゲームでは収益の得方が全く異なる点です。それぞれの収益方法を以下の表にまとめてみました。
| 収益スタイル | QAへの影響 | |
|---|---|---|
| コンシューマーゲーム | 売り切り型 | 「リリース時」の品質が最重要。 アップデート対応が頻繁に行えない。 |
| モバイルゲーム | 運用型(F2P) | プレイ中の継続的な課金で収益が発生する。 「リリース」時に課金周りで不備がないかが最重要。リリース後もアップデート対応が頻繁に行われる。 |
近年ではモバイルゲームにおいてもコンシューマーゲームと同時に売り切り型としてリリースするパターンもありますが、
モバイルゲームに関しては運用型のゲームがまだまだメインではないでしょうか。
2.ターゲットの違い
次に、収益方法と合わせて開発側がどのようなユーザーをターゲットにしたいか、逆にユーザーはどのような体験を求めているのかという観点で違いをまとめてみました。
| ターゲット層 | ユーザー心理 | |
|---|---|---|
| コンシューマーゲーム | ・家庭用ゲーム機を持っている人 ・コアゲーマー ・特定のジャンル(RPGなど)/シリーズの愛好家 |
・まとまった時間をゲームに費やし、没入できるか(ゲーム体験)を大事にする ・目的(ゲームのクリアなど)を果たすと他ゲームへ移行する ・フェアな競争環境を求めるため、Pay-to-Win(課金で勝利が決まる)要素には厳しい |
| モバイルゲーム | ・日常的にスマートフォンを使う幅広い層 ・ゲーム経験が浅い人も取り込みやすい |
・手軽さやソーシャル性に価値を置き、時間の節約のために課金する場合もある ・ゲームを日課として捉え、継続的にプレイする ・特定の作品/キャラの愛好家 |
3.操作性の違い
最後に次の話のテスト技法の部分にも繋がってきますが、ゲームをプレイする際の操作性にも大きな違いがあります。この違いはQAを行う際にも重要になってくるのではないでしょうか。
| 使用するもの | 備考 | |
|---|---|---|
| コンシューマーゲーム | ・コントローラー ・キーボード&マウス |
ボタンの同時押しなど複雑な操作性になりやすい |
| モバイルゲーム | ・タッチパネル | コントローラーと比べシンプルな操作性になりやすい |
コンシューマーゲームとモバイルゲームにおけるQAの違い
前述の違いを踏まえ、開発者がどういったユーザー体験を届けたいのか、どういったビジネスとして成り立たせたいのかという点はどちらのQAにおいても重視する必要があります。
ここではコンシューマーゲームとモバイルゲームで重視するものが違うことでQAでは「何に注力すべきか」、どういったテスト技法の知識があると良いかまとめてみました。
テストで重要視される点
コンシューマーゲームQA
-
品質保証の優先度
- 進行不能不具合の排除:リリース後も修正(アップデート対応)は可能ですがモバイルほど即時対応が行えないため、フリーズや進行不能などユーザー体験を損なうことに直結する「再現性の低い致命的な不具合」の発見が最重要となります。
-
ゲームデザイン
- ユーザー体験(UX):開発者の意図した「難易度」や「バランス」になっているか、プレイヤーが没入感を損なわないか評価が必要です。
-
運用
- 上流工程からの参画:モバイルと異なりリリース後にQAが頻繁に発生しませんが、QA前からデバッグツールや自動テストの選定を行うことで、QAコストを抑えることが重視されます。
-
重視されるテスト技法
- 探索的テスト:ゲームクリアまでの一連の流れに各条件を指定したプレイテストで、効率よく不具合を見つけることが重要。
- モンキーテスト:ゲームクリアまでの通しプレイと合わせて仕様書にはない「ユーザーが行いそうな操作(ボタン連打、ケーブルの抜き差し、エリア境界での反復移動など)」を実施し、予期せぬ不具合を検知することが重要。
モバイルゲームQA
-
品質保証の優先度
- 課金・法令遵守:致命的な不具合がないことは大前提として、「課金処理」の正確性と、ガチャ等における「優良誤認(景品表示法違反)」がないかの確認が最重要となります。
-
ゲームデザイン
- 継続と収益のバランス:「クリアできるか」だけでなく、「課金したくなる導線か」「長く続けてもらえるバランスか」というビジネス視点での評価が必要です。
-
運用
- 運用コストの削減:アップデートが頻繁に行われる運用型タイトルになりやすいため、単純作業や回帰テストを自動化し、長期間のQAコストを抑えることが重視されます。
-
重視されるテスト技法
- 多端末検証:コンシューマーゲームにおいてもPC媒体のものは最低スペック/推奨スペックや各種グラボで検証が行われますが、モバイルゲームは端末の種類が更に多く、検証端末の選定が重要となります。
- 回帰性テスト:アップデートが頻繁に行われるため重視されます。昨今では回帰性テストの自動化によりQAコストを抑えることも重要視されています。
これからのゲームQAに求められるもの
現状のゲームQAでは当たり前品質(進行不能がなく遊べること/仕様通りの挙動となっているか)だけでなくQAを通すことでいかに付加価値を付けられるかが今後求められてくると考えています。
※いずれ当たり前品質の大半はAIなどでテスト可能になっていくのではないかと思っています…。
付加価値として以下は共通で今後、QAで必要になってくるものだと考えています。
・魅力的品質(ゲームが楽しめるバランスであること/課金したいと思わせる設計であること)について開発者と認識を合わせ、クオリティアップに貢献できること
・検証の自動化によるコスト削減や、不具合を早期に発見・予防するためのフロー構築など、プロセスそのものの品質向上ができること。
まとめ
コンシューマーゲームもモバイルゲームも、「ユーザーに最高の体験を届ける」というゴールは同じです。しかし、そこに開発者の意図やビジネスモデルを考慮すると、避けるべきリスクや取るべきテストの手法は異なってきます。
コンシューマーではゲーム体験を損なわない不具合を出すための探索的テストや、ゲームバランスを考慮したユーザーテストの実施。
モバイルでは安心して課金できる環境と、課金したくなる設計となっているかに重きを置いたユーザーテストの実施。
それぞれの特性を理解した上で、当たり前品質のQAに留まらず、ビジネスモデルや開発者の意図を汲み取ったQAができる人材こそが、今後のゲーム業界で生き残っていくのではないかと私は考えています。
この記事が、コンシューマー、モバイル問わずゲームQAを今後も進めていくうえで何かヒントになれば幸いです!