目次
- ①交通系ICカードが昔から抱える問題点
- ②なぜ交通系ICカードは進化しないのか
- ③鉄道会社と国土交通省はIT推進が苦手
- ④4つ以上の定期券を作成できない技術的な理由
- ⑤進化させるためのロードマップとTodo
- ⑥そもそも国交省がこの仕組みを作るのが一番早いがそんな未来は見えない
- ⑦マネタイズできるか
- ⑧最後に
①交通系ICカードが昔から抱える問題点
SuicaなどのICカードは基本的な機能が弱いまま進化しておらず、今後もそれが改善される兆しはありません。
例えば、以下のような問題点が昔からあります。
・履歴の取得期間や詳細が限定的で領収書確認に使いづらい
、個人情報を登録してないで無記名PASMOだと使える機能や紛失時のフォローに大幅な制限がかかる
今回の話題は、以下のような問題点についてです。
・SuicaやPASMOでは鉄道会社が4つ以上の定期券を作成できない
・他社鉄道会社のみの区間の定期券を作成できないので、利用区間で作成するICカードが決まってしまう
・振替乗車では紙の振替え票をもらって有人改札を通らなければならない
・運賃変更になった場合に定期券の再発行が必要
私はPASMOがリリースされた2007年を過ぎたあたりで、そのうち解決されるだろうと軽く考えていました。Windows PCが一般家庭にも普及して、国内PCメーカーが外資に買収される前だったので、日本はこれからIT先進国になっていくんだろうと当時は希望がありました。
②なぜ交通系ICカードは進化しないのか
お客さんが、我慢してくれるから何もしないのが一番の理由です。
「都市鉄道利便性向上検討会」などで、鉄道に対する意見交換の場は少しありますが、[バリアフリー, 混雑緩和, 遅延対策]ばかりが議題にあがります。
ITエンジニア以外がICカードのシステムについて変更要望を出すとしたら、SNSや署名活動しかないでしょうが、大きな運動にはならなそうです。
進化した機能について考えると、経営の力学が分かります。
- モバイルSuica ガラケー: 2006/1リリースで、一部のFelica対応のガラケーで実現した。
- モバイルSuica Android:2011年から機種拡大
- モバイルSuica iPhone:2016/10(iPhone 7以降)
- モバイルPASMO Android:2020/3月
- モバイルPASMO iPhone:2021年10月6日(iOS15対応)
- JRE POINT: 2016/2 (Suicaポイントクラブから統合)
- スマホ対応に定期券機能が付く
なぜポイント対応や、スマホ対応ばかりアップデートされるかというと、商業収益が絡むからです。
運賃値上げは上限があり、国土交通省の厳しい制限と認可が必要なため、収入増はあまり望めません。商業収益に注力するのは自然な流れです。
ポイント対応で、グループのECサイトや駅ビル顧客への利用を促しました。また、クーポン配布、広告、購買データ採取といったことができるようになり、囲い込みに成功します。
スマホ対応は時代の流れの要望です。
これによって商業利益の拡大に成功しました。
収益構成 | 2000年代 | 現在 |
---|---|---|
運輸事業 | 約7割 | 約5割以下 |
流通・不動産 | 約3割 | 約5割以上 |
定期券発行問題や振替乗車問題は利益を生まず、改善する場合は短期的にはコストがかかるので、改善されないできました。事務員の仕事は誰も興味を持たず、製品開発や営業活動に改善コストが割かれる会社が多いので、理解できます。
③鉄道会社と国土交通省はIT推進が苦手
鉄道会社と、運賃の認可をしている国土交通省は非常に保守的です。
鉄道会社には、精度の高い運行管理システム, 信号制御システム, CISなどを運用していますが、IT部門は現状維持をする規模しかありません。レガシーシステムを刷新したほうがいいところも多いです。
国土交通省は、紙やPDFで情報管理している部分が多く、IT推進はできていません。
ポイント対応やUXデザイン開発については、外部のITや金融が主導して進めることが多かったので、広く浸透するサービスを提供できました。
④4つ以上の定期券を作成できない技術的な理由
NAVITIMEや駅すぱあとが定期券の計算を一瞬で行うサービスを展開しており、Google Mapが乗り換え経路を簡単に調べられる時代です。
運賃情報が一か所にまとめられて、最適な経路を提案できれば4路線以上でも定期券が作成できるはずです。
しかし実際には、運賃体系が複雑で、また、各鉄道会社が運賃情報をばらばらに管理しているので実現していません。
鉄道会社が運賃変更する手順をシンプルに説明します。
- 国土交通省に運賃変更の申請をして認可を得る
- 鉄道会社のシステムに登録する
- NAVITIMEなど外部に連携する
そのあとに運賃変更を周知するための告知を作成します。
民間で運賃情報を一か所にまとめるにあたって、鉄道会社主導で行おうとすると、 JR東日本、東京メトロ、小田急、東急…など、どこが主導で進めて、費用負担をどうするかといった調整が難しいことが想像できます。
⑤進化させるためのロードマップとTodo
個人のITエンジニアから始まって、実現可能性が高そうなシナリオです。後半になるほど導入難易度が上がっていき、最後は個人では鉄道会社の調整ができないレベルになるはずです。
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運賃変更システムを作り直して、国交省への申請、自社運賃情報の変更、NAVITIMEなどへの共有を一回の操作で実行できるアプリをつくる。
- 国交省への申請フォーマット調査
- 国交省へのPDFでの電子申請可否確認
※理想はJSON形式で認可申請できることだが、時代が追い付かない。 - 各鉄道会社の[運賃マスタ]の形式を調査
- 運賃計算アプリ(NAMITIMEや駅すぱあと)への連携使用を調査
※連係方法を統一できるかはアプローチしたいところ - 提案書とでもアプリの作成
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→ 鉄道各社が運賃変更システムを採用する
- フットワークが軽い小規模鉄道会社に採用してもらい採用実績を作る
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運賃変更システムに運賃のデータベースを追加導入
- データベース作成
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→ 鉄道会社内部と運賃計算アプリの運賃管理データベースを置き換える
- データベースに読み書きできるAPIを開発する
- 鉄道会社と運賃計算アプリの会社に実証モデル提案
- 国交省や交通研究所系のシンポジウムで発表
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[4路線以上定期券の演算, 全鉄道会社の定期券演算, 振替輸送ルート生成]機能を実装
- システムの追加機能開発
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→ 鉄道会社が追加機能を基幹システムに利用して既知のを問題を解決する
⑥そもそも国交省がこの仕組みを作るのが一番早いがそんな未来は見えない
国交省は運賃の変更申請を受け付けているので、全ての旅客情報の運賃情報があります。 また、各鉄道会社は他社線の情報取得のために、情報提供を受けています。
個人や特定の鉄道会社主導で、社外秘の運賃改定時期である運賃変更システムを持つより、国交省が主導したほうが公平性があります。
それなら国交省が主導するのがいいのではないかと思ってしまいます。
しかし、鉄道会社のシステムに必要な情報を全て網羅して管理できるかや、運賃計算アプリ会社への情報連係までできるか。IT推進できるかを考えると、民間で仕組みを作る方が省力化に一番近いのです。
⑦マネタイズできるか
事務作業の自動化や、運賃データ統合ができるアプリやAPIの展開時に、有料で技術共有する旨の商談ができれば、公共交通機関なので安定収益を出すことは可能です。
しかしおそらく個人レベルで鉄道会社のシステムを変えたという前例はありません。
私個人としては、外資ではなく日本の企業や個人が主導で解決するべき問題だと思いますし、個人レベルの技術で実現できるところが多いと思います。
この記事が、交通系ITスタートアップに影響を与えたり、オープンデータ化の流れのきっかけになれば幸いです。
⑧最後に
こういう記事は、検索してもあまり見つからなかったので書きました。
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https://x.com/Tsubasa_A_0417