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新しいオープンウェイトのベンチマーク主張を検証する5つのチェック:Ripple-65B を例に

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title: "新しいオープンウェイトのベンチマーク主張を検証する5つのチェック:Ripple-65B を例に"
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  - LLM
  - ベンチマーク
  - Python
  - オープンウェイト
private: false

ripple_cover.png

この記事でやること

新しいオープンウェイトのモデルが出るたびに、「SOTA」「他モデルより小さいのに同等」という主張が流れます。Ricursive Intelligence の Ripple-65B Preview も、その一例です※1。同社は、TerminalBench 2.1 で 80.52 を出し、米国のオープンウェイトで最高と主張しています。

この記事は、こうした主張を読むときのチェックを5つにまとめ、Ripple-65B を例に当てはめます。Zenn の記事(設計と主張の整理)の実践版です。

先に確認範囲を書きます。モデルの重みは取得しておらず、動作確認は未実施です。実際に実行したのは、公表値から差を計算する Python スクリプトだけです(Python 3.11.2、2026-11-06)。数値はすべて公式ページの記載です。

チェック1:何と何を比べているか

公式ページの比較表は次のとおりです※1。

モデル パラメータ TerminalBench 2.1
Ripple-65B Preview 65B 80.52
Reflection Beam 501B 80.1
Meta Muse Spark Open 816B 76.4
Thinking Machines Inkling 975B 63.8
NVIDIA Nemotron 3 Ultra 550B 56.4

確認するのは次の3点です。

  • 比較対象が、同じ期間に公開された、同じ種類のモデルか。
  • パラメータ数が、総数か活性数か。
  • 比較の対象から外れている有力なモデルがないか。

Ripple の場合、括弧内の数字が総パラメータか活性パラメータかが、ページに書かれていません。MoE のモデルが混じっていれば、規模の比較は成り立ちません。「米国のオープンウェイト」という限定も、比較の範囲を狭めています。

チェック2:差は誤差の範囲か

Ripple(80.52)と Beam(80.1)の差は 0.42 ポイントです。この差を判断するため、二項分布で標準誤差を見積もる小さなスクリプトを書きました。

# Python 3.11.2 / 標準ライブラリのみ
rows = {
    "Ripple-65B Preview": (65, 80.52),
    "Reflection Beam": (501, 80.1),
    "Meta Muse Spark Open": (816, 76.4),
    "Thinking Machines Inkling": (975, 63.8),
    "NVIDIA Nemotron 3 Ultra": (550, 56.4),
}
base_p, base_s = rows["Ripple-65B Preview"]
print(f"{'model':28}{'params(B)':>10}{'score':>8}{'size x':>8}{'score diff':>11}")
for n, (p, s) in rows.items():
    print(f"{n:28}{p:>10}{s:>8.2f}{p/base_p:>8.1f}{s-base_s:>11.2f}")

import math
for n_tasks in (50, 100, 200):
    p = 0.8052
    se = math.sqrt(p*(1-p)/n_tasks)*100
    print(f"タスク数{n_tasks}の場合の標準誤差 ≒ {se:.1f}pt")

実行結果です。

model                        params(B)   score  size x score diff
Ripple-65B Preview                  65   80.52     1.0       0.00
Reflection Beam                    501   80.10     7.7      -0.42
Meta Muse Spark Open               816    76.40    12.6      -4.12
Thinking Machines Inkling          975   63.80    15.0     -16.72
NVIDIA Nemotron 3 Ultra            550   56.40     8.5     -24.12

タスク数50の場合の標準誤差 ≒ 5.6pt
タスク数100の場合の標準誤差 ≒ 4.0pt
タスク数200の場合の標準誤差 ≒ 2.8pt

注意点が2つあります。

  • タスク数 50・100・200 は、筆者の仮定です。TerminalBench 2.1 の実際の件数は、確認していません。
  • 実際の評価は、同じタスクを複数のモデルで解く対応のある比較です。単純な二項分布の近似より、差の誤差は小さくなる可能性があります。このスクリプトは、あくまで目安です。

それでも、タスク数が数百以下であれば、0.42 ポイントの差は「同等」と読むのが無難です。差の有意性を言うには、試行ごとの結果の分散が必要です。公式ページは、評価の試行回数を書いていません。

チェック3:評価の設定は書かれているか

エージェント型のベンチマークは、設定で結果が大きく変わります。確認する項目は次のとおりです。

  • 使ったハーネス(ツールの与え方)
  • 時間制限・ステップ数の上限
  • 試行回数と、pass@1 か pass@k か
  • 比較対象を、同じ設定で動かしたか

Ripple のページは、TerminalBench 2.1 の評価設定を説明していません※1。この項目が空欄の場合、他社の公表値と同じ土俵で比べられているかが判断できません。

チェック4:根拠は複数あるか

Ripple の主張は、単一のベンチマーク(TerminalBench 2.1)に基づいています※1。汎用モデルとして評価するには、少なくとも次のような別の軸が欲しいところです。

  • 別のコーディング系ベンチマーク(バグ修正、リポジトリ規模のタスク)
  • 汎用の知識・推論のベンチマーク
  • 長いコンテキストの評価(同社は最大 1M と書いています)

今回確認できた範囲では、これらの数値は載っていませんでした。

チェック5:誰が測ったか

公式ページの数字は、すべて自社の公表値です。第三者による再現は、確認できていません。コストの数字も同様で、R&D の費用 3,200 万ドルと、「前の最高水準の約 10 分の 1」という比較は、自社推定です※1。比較対象のコストは、報道を基にしています。

第三者の再現を待つ間にできるのは、重みを取得して、自分のタスクで測ることです。ページによれば、Hugging Face、Together AI、GMI Cloud、OpenRouter、Fireworks で提供されています※1。API で試すなら、OpenRouter などの既存の経路が使えます。ただし、筆者は試していません。

5つのチェックを Ripple に当てはめた結果

チェック 状況
1. 比較の対象 パラメータが総数か活性数か不明。範囲が「米国のオープンウェイト」に限定
2. 差の大きさ Beam との差 0.42pt は、タスク数次第で誤差に埋もれる
3. 評価設定 ページに記載なし
4. 根拠の数 単一のベンチマーク
5. 測定者 自社の公表値。第三者の再現は未確認

これは Ripple が悪いモデルだという意味ではありません。判断に必要な情報が、まだ出そろっていないということです。

設計の特徴(参考)

公式ページが挙げる設計の特徴も、簡単に書いておきます※1。

  • dense Transformer、d_model 5120、80 層という、薄くて深い構成
  • 12 兆トークンで事前学習、最大 1M のコンテキスト
  • SWA の比率を上げ、窓を小さくする
  • ゲート付き注意、global NoPE、value residual、FFN の活性クリップ
  • MFU 40%、独自カーネルなし、量子化なし

ライセンスは、ページに記載がありません。商用利用を考える場合は、重みの配布ページで確認してください。

ハマりそうな点

  • 「Preview」と明記されています。完成版で数字が変わる可能性があります。
  • ライセンス不明のまま、プロダクトに組み込むのは避けたほうがよいです。
  • 提供先ごとに、量子化やサンプリングの設定が異なる可能性があります。公表値と同じ結果が出るとは限りません。この点は、確認していません。

評価

新しいモデルの主張を読むときは、5つのチェックを順に当てはめると、「何が分かっていて、何が空欄か」が整理できます。Ripple-65B は、空欄がまだ多い段階です。注目はしつつ、本番の判断は、自分のタスクでの測定を待ってからが妥当です。

まとめ

  • ベンチマークの主張は、比較の対象・差の大きさ・評価設定・根拠の数・測定者の5点で確認する。
  • Ripple-65B の 0.42 ポイントの差は、タスク数次第で誤差に埋もれる可能性がある。
  • 評価設定の記載がなく、根拠は単一のベンチマークで、自社の公表値である。
  • 本記事は、重みの取得と動作確認は未実施で、差の計算だけを実行した。

※本記事の記載内容は筆者個人の見解であり、所属する会社や組織の立場や方針とは一切関係ありません。

筆者情報

【Tomcat-zhou】|AI/AX/AIセキュリティ専門家

AI戦略洞察、AI駆動開発の方法論設計と現場で回る仕組みづくりをしています。
noteで戦略洞察 / Zenn・Qiitaで技術・方法論を書いています。
AIセキュリティ・AIコンサル・AIエージェント開発・AI活用・AI駆動開発教育、AI人材育成サービスを一体で提供。

X: @ZY20240528
LinkedIn: Tomcat-zhou
Facebook: zhou yi
note: Tomcat-zhou
zenn: Tomcat-zhou

参考資料

  1. Ripple-65B Preview: U.S. Open-Weight SOTA on Agentic Coding(Ricursive Intelligence)

タグ

AI, LLM, ベンチマーク, Python, オープンウェイト, 評価

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