はじめに
AI-DLC(AI駆動開発ライフサイクル)のワークショップ「Unicorn Gym」に参加しました。3日間の集中開発を通じて得た実践知見と、AI-DLCにおいて見落とされがちな 「場の空気を動かす役割」 について書きます。
なお、我々のチームは他チームが新規テーマを持ち込む中、あえて 7年以上運用している既存システムの拡張 をテーマに選びました。この選択が後半で独自の学びをもたらすことになります。
AI-DLCとUnicorn Gymとは
AI-DLC(AI駆動開発ライフサイクル)とは、AIを開発プロセスの中心に据え、要件定義・設計・実装の主役をAIが担い、 人間は意図のすり合わせと重要な判断に集中する 開発手法です。詳しくはAWS公式ブログを参照してください。
Unicorn GymはAWSが主催するワークショップで、初日の前半はサンプルプロジェクトでAI-DLCの流れを体験し、その後の2.5日で実際の業務テーマに取り組みました。
私は2026年5月18日〜20日の3日間、開発者として参加しました。
AI-DLCのフェーズと3日間の流れ
AI-DLCは大きく以下のフェーズに分かれます。
| フェーズ | 内容 | 我々の進捗 |
|---|---|---|
Reverse Engineering |
既存コード解析 | Day1 序盤 |
Requirements Analysis |
AIと対話しながら要件を明確化 | Day1 |
User Stories + モック作成 |
ユーザーストーリーとUIモック | Day1〜Day2 |
Application Design |
アプリケーション全体設計 | Day2 |
Units Generation |
実装単位への分割 | Day2 |
Construction(ユニット1〜4) |
機能設計〜コード生成 | Day3 |
Build and Test |
ビルド・テスト | 未着手 |
各フェーズではAIが成果物を生成し、人間がレビュー・承認して次に進みました。Inception Phase(何を作るか決めるフェーズ)はチーム8人全員で、Construction Phase(どう作るか決めて実装するフェーズ)は4人チームで取り組みました。
チーム構成と私の立場
Day1〜2のInception Phaseは8人(PdM 2名、開発者 6名)で実施し、Day3のConstruction Phaseは4人(PdM 1名、開発者 3名)で進めました。
私自身は本年度からマネジメント寄りの業務が増えており、チームとしてはAI-DLCの導入を進めていたものの、個人としては実践機会が限られていました。Unicorn Gymでは開発者として参加しつつ、 もう一つの役割 を意識的に担いました。
「モチベーター」という役割
AI-DLCの公式な役割定義に「モチベーター」という言葉は出てきません。 これは私がワークショップの中で必要性を感じ、自ら実践した役割です。
なぜ必要だったか
AI-DLCのInception Phaseでは、メンバー全員がAIと対話しながら要件を練ります。AIが質問を投げかけ、人間が答え、AIが整理し、また質問する。このサイクルを繰り返す中で、以下の状態に陥りがちでした。
- 「AIが何を聞いてくるか」「何を提案してくるか」に意識が向き、 受け身になる
- 自分が手を動かす時間が少なく、 集中力が途切れる
- 特に2日目は前日の疲れもあり、 発言が減っていく
3日間の集中ワークショップという形式は、通常業務の割り込みがない分だけ没入できる反面、 体力・集中力の維持が最大の課題 でした。
AI-DLCだからこそモチベーターが要る
従来の開発プロセスでは、人間のリーダーやスクラムマスターがファシリテーションを担い、メンバーの表情や疲労度を見ながら場を回していました。しかしAI-DLCでは AIがファシリテーターの役割を担います。 AIは淡々と質問を投げ、回答を整理し、次のステップへ進めてくれます。効率的ではありますが、 人間の疲労や集中力の低下を察知してくれるわけではありません。
結果として、AIの機械的な進行に人間が合わせ続ける構図になりやすく、場の温度が徐々に下がっていきました。ここに 人間側から温かみを持ち込み、チームのエネルギーを保つ存在 が必要だと感じました。それがモチベーターです。
具体的に何をしたか
やったことはシンプルです。
- AIの質問に対して、 メンバー全員が意見を出しやすいように促した
- AIの提案に対して、意識的に声を出してリアクションした
- スタンドアップして、ジェスチャーを交えながら発言した
- 場の空気が沈みかけたタイミングで、あえてテンションを上げた
技術的な貢献ではありませんが、AWSの方や他チームから 「楽しそうにやっている」 と評価をいただきました。チームの雰囲気が良いと発言のハードルが下がり、結果として要件の議論が活発になりました。
モブエラボレーションとの相性
AI-DLCのInception Phaseは 「モブエラボレーション」 と呼ばれる形式で進みます。全員で1つの画面を囲んでAIと対話するため、 一人ひとりの発言量がチーム全体のアウトプット品質に直結しました。
従来のモブプログラミングであれば、ドライバーが手を動かしている間にナビゲーターが考える時間がありました。しかしAI-DLCでは、AIが高速に成果物を生成するため、 人間側の判断速度が常に求められました。 この「常に頭を回転させ続ける」状態を3日間維持するには、 場のエネルギーを意識的に保つ人間が必要 でした。
既存システムで挑んだからこそ見えたこと
冒頭で触れた通り、我々は7年以上運用している既存システムの拡張をテーマに選びました。ここではその選択がもたらした強みと落とし穴を整理します。
既存システムならではの強み
Reverse Engineering(既存コード解析)フェーズでは、AIが既存コードを読み込んでシステムの全体像をドキュメント化してくれました。7年分の蓄積があるシステムでも、AIは構造を整理して後続フェーズに活かしてくれました。
既存システムならではの落とし穴
一方で、Construction Phaseでは既存システムの影響を強く受けました。
他チームはスクラッチで開発していたため、AIが今風のUIデザインをすぐに生成し、見栄えの良いプロトタイプを短時間で作っていました。我々は既存システムの拡張だったため、 AIが既存のUIコンポーネントを参照してしまい、ReactなのにLaravelのコンポーネントを見に行ったり、テキストボックスの横幅が極端に狭くなったり と、既存の設計に引きずられる場面がありました。
これはAI-DLCの問題というよりも、既存システムをコンテキストとして与えた場合に AIが「既存踏襲」を優先してしまう傾向 の表れでした。既存システムの拡張でAI-DLCを使う場合は、 「既存のどこを踏襲し、どこを刷新するか」を明示的にAIに伝える必要がある と学びました。
各フェーズの所感
Requirements Analysis
AIが業務フロー文書を読み込んで質問を自動生成し、チームが答えていく形式でした。 網羅的に質問が出るため要件漏れを減らせた 一方、8人全員で議論するため合意形成に時間がかかりました。AIとの質疑だけでなく、その後の要件ドキュメント整理まで含めると、Day1の大半をこのフェーズに費やしました。
User Stories + モック作成
Unicorn Gymの推奨プラクティスとしてUIモックの作成があり、ここに大半の時間を費やしました。 モックを見ながら議論することで要件の認識齟齬が早期に発見できた ため、時間をかける価値はありました。
Construction Phase
4人チームに分かれてからは、各ユニットの機能設計からコード生成まで一気に進めました。ユニット4まで完了し、サンプルとして動くものは作れましたが、前述の通りUIの品質には課題が残りました。
まとめ:AI-DLCを実践して得た3つの学び
1. 集中力の維持が最大の課題だった
AI-DLCは人間の判断速度がボトルネックになる手法でした。3日間の集中ワークショップでは、技術力以上に 「場のエネルギーを保ち続けること」 が成果を左右しました。モチベーターのような役割を意識的に置くことで、チーム全体の発言量と判断速度を維持できました。
2. 既存システムの拡張には明示的な方針指示が必要だった
AIは既存コードを忠実に参照するため、何も指示しなければ「既存踏襲」になりました。 どこを刷新するかを人間が明確に伝えること で、AIの生成物の品質が変わりました。
3. AI-DLCは「判断の連続」だった
AIが作業を高速化してくれる分、人間に求められるのは絶え間ない判断でした。その判断を支えるのは、技術力だけでなく、 チームの雰囲気や心理的安全性 でもありました。AIが機械的に進行する中で、人間側が温かみを持ち込み、全員が気軽に「それ違うと思う」と言える空気を作ること。それがAI-DLCの速度を最大化する鍵だと感じました。
参考
- テックリードの記事(同チーム): 7年モノの既存システムでAI-DLC Unicorn Gymに挑んで見えたチームの課題
- 本イベントのLTで私が登壇発表させていただいた内容を一部簡略化した記事: Cognitoを使って既存システムにSSOログイン機能を追加したお話
- パナソニックデジタルさんの本イベント参加記事: AWS AI-DLC Unicorn Gymに参加してきました!
本ブログに掲載している内容は、私個人の見解であり、所属する組織の立場や戦略、意見を代表するものではありません。
