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CVSS 9.0超のCVEは本当に増えたのか — NVDデータで検証する

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結論

CVSS 9.0 以上の CVE の件数は 2026年7月を境に約3倍になりました。ただし CVE 全体も同じ時期に約3.7倍に増えており、深刻なものの割合は増えていません。NVD の数字からは「AI によって深刻な脆弱性が増えた」とは言えません。

  • 件数: 9.0 以上の CVE は、2026年6月まで月平均 541 件、7月以降は月平均 1,659 件です。分け目を「前後の差が最も大きくなる月」として選び、その選び方による偏りも含めて検定しました(置換検定、p < 0.001)。体感の「9月ごろ」より2か月早い分け目です。
  • 総数: CVE 全体も同じ 2026年7月を境に、月平均 3,637 件から 13,504 件に増えました。
  • 割合: CVSS スコアが付いた CVE のうち 9.0 以上の割合は、2024年2月までの 17.8% から 2024年3月以降の 14.2% に下がりました。2026年10月は 10.4% です。
  • AI の寄与: NVD の記録には発見者の欄がないため、このデータでは測れません。CVE.org の発見者クレジットを数えた外部の集計では、2026年1月1日〜10月23日に AI を発見者として記載した CVE は 769 件で、全体の 1% 未満です。AIが見つけても普通自分の名前で報告したいと思われるので、これが下限値と考えられます。

言えるのは、9.0 以上の件数が CVE 全体と同じ時期に、ほぼ同じ倍率で増えたところまでです。

データと方法

2023年1月〜2026年10月に NVD で公開された CVE を、NVD CVE API 2.0 から月ごとに取得して数えました(取得日 2026-11-03)。

  • 数える対象: CVSS 基本値(base score)が 9.0 以上のスコアを1つ以上持つ CVE。9.0〜10.0 は CVSS v3.1 / v4.0 仕様書(FIRST)で「Critical」と定義される範囲です。
  • 使うスコア: CVSS v3.0・v3.1・v4.0 のいずれか。NVD 自身(nvd@nist.gov)が付けたスコアと、CVE を発行した組織(CNA: CVE Numbering Authority)が付けたスコアの両方を数え、どちらが 9.0 以上を付けたかも記録しました。
  • 月の区切り: NVD の published(NVD に登録された日時、UTC)。
  • 除外: 状態が Rejected(取り下げ)の CVE。
  • 比率: 同じ月に公開された CVE のうち、CVSS v3.0 / v3.1 / v4.0 のスコアが1つ以上ある CVE(以下「採点済み」)を分母にした割合。スコアのない CVE は 9.0 以上かどうか判定できないため、分母から除きます。採点済みの割合はほぼ 100% ですが、2025年12月は 87%、2026年9〜10月は 91% に下がります。

結果

CVSS 9.0以上のCVE: 件数は2026年7月から約3倍、割合は増えていない

出典: NVD CVE API 2.0(取得 2026-11-03)。2023-01〜2026-10 の46か月、Rejected を除く。採点済み = CVSS v3.0/v3.1/v4.0 のスコアが1つ以上ある CVE。

上のグラフでは、件数(棒)は 2026年に入ってから増え始め、7月からはっきり水準が上がっています。一方、割合(線)は 2024年3月を境にむしろ下がり、その後は 10〜20% の間を上下しています。CVE 全体の月間件数も 2026年7月を境に 3,637 件から 13,504 件(約3.7倍)に増えており、9.0 以上の件数の伸び(約3.1倍)はそれを下回ります。

9.0 以上を付けたのが誰かで分けると、増えたのは CNA が付けたスコアです。CNA が 9.0 以上を付けた CVE は 2026年3月の 665 件から 10月の 1,570 件に増えました。NVD 自身が 9.0 以上を付けた CVE は同じ期間に 457 件から 72 件に減っています(理由は「AI との関係と交絡要因」の節)。

採点済みCVEのうち9.0以上の割合が 下がった時期(2024年3月)は、NVD 自身による補完作業(スコアや対象製品の付与)が滞り始めた時期と重なります。NIST は「2024年初めから、補完されていない CVE の大きな積み残しが生じた」としています(NIST, 2026-04-15)。実際、NVD 自身が 9.0 以上を付けた件数は 2024年2月の 297 件から、3月 205 件、4月 154 件に減りました。NVD のスコアが付かない CVE が増え、CNA のスコアだけで判定される CVE の比重が増えたことが、割合の低下に関わっている可能性があります(ただの推測であって検証はしていません)。

分け目の選び方と、その偏りの補正

分け目の決め方: 月別の系列を前後2つに分け、それぞれの平均からの差の二乗和の合計が最小になる月を分け目としました。これは「平均が1回だけ変わる」モデルの最小二乗推定で、Hinkley (1970), Biometrika 57(1) の扱う変化点推定の枠組みにあたります。前後ともに3か月以上を条件にしました。

偏り: 差が最も大きくなる分け目を選んでから普通の検定をすると、実際には変化がない系列でも「有意な差」が出やすくなります。そこで、月の並びをランダムに2,000回並べ替え、毎回同じ分け目探しをやり直しました。観測した改善量(分けたことで減った二乗和)以上になった回の割合を p 値としています(置換検定)。変化点推定と置換検定はどちらも標準的な手法ですが、この組み合わせ方は今回のために私たちが決めたものです。2,000回では p 値は 1/2,001 ≒ 0.0005 より小さくなりません。

系列 分け目 前 → 後(月平均) p 値
9.0 以上の件数 2026-07 541 → 1,659 件 < 0.001
CNA が 9.0 以上を付けた件数 2026-06 323 → 1,454 件 < 0.001
CVE 総数 2026-07 3,637 → 13,504 件 < 0.001
採点済み CVE に占める 9.0 以上の割合 2024-03 17.8% → 14.2% 0.0015

「分け目」は、その月を後半に含める位置です。
採点済み = CVSS v3.0 / v3.1 / v4.0 のスコアが1つ以上ある CVE。

AI との関係と交絡要因

NVD のデータだけでは、AI の寄与を他の要因と切り分けられません。 増加には少なくとも次の要因が重なっています。

1. CVE を発行する組織(CNA)ごとの増加

2025年7〜10月と2026年7〜10月を4か月ずつ比べると、9.0 以上の CVE は 2,449 件から 6,635 件に増えました。発行元(NVD の sourceIdentifier)ごとの増加幅は次のとおりです。

発行元 2025年7〜10月 2026年7〜10月
VulnCheck 222 801
Oracle 6 517
GitHub(GitHub Security Advisories) 205 679
Linux kernel CNA 65 423
Google Chrome 3 291
Patchstack 113 363
IBM 14 222
Microsoft 31 225
Apache Software Foundation 9 199

増加は特定の1組織に偏っておらず、多くの組織で同時に起きています。ただし CVE の件数は、組織が数え方を変えるだけで増えます。たとえば「パッチ1つに CVE 1つ」から「不具合1つに CVE 1つ」への切り替えです(CyberHire, 2026-10-23)。件数が増えたことと、新しい不具合がその分だけ見つかったことは同じではありません。

2. NVD の運用変更(2026-04-15)

NIST は 2026年4月15日から、NVD での補完作業(enrichment: NVD 自身がスコアや対象製品を付ける作業)を次の CVE に絞りました。CISA KEV(実際に悪用が確認された脆弱性の目録)に載った CVE、米連邦政府で使われるソフトウェアの CVE、大統領令 14028 が定める重要ソフトウェアの CVE です。それ以外は "Lowest Priority - not scheduled for immediate enrichment" とされ、「NVD 独自の深刻度スコアは通常は付けない」とされています(NIST, 2026-04-15)。NIST は理由として「2020〜2025年に CVE の提出が 263% 増えた」ことを挙げています。

NVD 自身が 9.0 以上を付けた件数(2026年3月 457 件 → 10月 72 件)が減ったのは、この運用変更と時期が一致します。つまり 2026年後半の「9.0 以上」はほぼ CNA が自分で付けたスコアです。それ以前とは、採点する人の構成が変わっています。

3. AI が発見した CVE の数(外部の集計)

NVD のレコードには発見者の欄がありません。CVE.org の CVE List V5 には発見者クレジット(credits)の欄があり、それを数えた集計があります。どれも査読のないブログ記事です。

  • CyberHire(Mike Carthy, 2026-10-23)は、発見者クレジットに AI システムまたは AI 企業のセキュリティ研究チームを挙げた CVE を数えました。1月1日〜10月23日で比べると、2025年の 34 件から 2026年は 769 件に増えています。ただし 2026年の全体の 1% 未満で、著者は「下限値として扱うべき」としています。大手ベンダーの多くは発見者を記載していません。
  • 1023 Jack が紹介する Thorsten Meyer の分析では、2026年10月のレコードの 54% が発見者を記載しておらず、AI を明示したのは 1.4% でした。
  • VulnCheck(2026-05-14)は、Chrome や GitHub などの発行数の急増を「AI による発見の兆候」としながら、「not all increases can be directly attributed to AI」と書いています。VulnCheck 自身も CNA です。

解釈

今回の数字は、「AI を使った発見で、報告される脆弱性の数が増えている」という説とは矛盾しません。一方で「深刻な脆弱性が、全体の増加以上に増えている」という説とは合いません。9.0 以上の割合は増えていないからです。増加のうち AI による分がどれだけかは、発見者が記録されていない以上、現状の公開データでは測れません。

参考に、AI 製品自体の脆弱性も数えました。これは「AI が見つけた脆弱性」とは別の問いです。9.0 以上のうち、英語の説明文に "llm"、"large language model"、" ai "、"prompt injection"、"mcp server"、"model context protocol" のいずれか(大文字小文字は区別しない)を含むものは、2025年7月 7 件、2026年7月 39 件、10月 37 件でした。この語の選び方は私が今回決めたもので、既存の分類に基づくものではありません。

最近の CVSS 9.0 以上の CVE

次に2026年10月に NVD で公開され、CISA KEV(実際に悪用が確認された脆弱性の目録)にも載っているものから、3件を紹介します。説明は各 CVE の NVD レコードに基づきます。どれも AI が発見したかどうかは、レコードからは分かりません。

CVE-2026-109618 / CVE-2026-109619(PHP、通称 PHP2Shell)

  • スコア: CNA(PHP)は CVSS v4.0 で 9.2。NVD は CVE-2026-109618 を CVSS v3.1 で 9.8 としています。
  • 内容: PHP はメモリ不足(OOM)のとき、longjmp() で処理中のリクエストを中断します。その際、リクエスト用メモリが初期化されないまま残る箇所があり、後片付けの処理がそのメモリを読んでしまいます。意図的に OOM を起こす方法が複数あり、リモートで任意のコードを実行される恐れがあります(CWE-416 ほか)。CVE-2026-109619 は、リクエスト用メモリを指すグローバル状態が正しくリセットされない問題です。

CVE-2026-111497(Google Brotli)

  • スコア: CNA(Google)は CVSS v4.0 で 9.2、NVD は CVSS v3.1 で 9.8。
  • 内容: 圧縮形式 Brotli のデコーダ(c/dec/decode.c)にあるバッファオーバーフローです(CWE-787)。対象はバージョン 1.0.3〜1.2.0 です。細工した圧縮データを展開させるだけで、認証なしにメモリ破壊・情報漏えい・サービス停止、場合によっては任意コード実行が起き得ます。修正版は 1.0.10 / 1.1.1 / 1.2.1 です。ライブラリとして多くのソフトウェアに組み込まれているため、影響範囲が広い種類の脆弱性です。

CVE-2026-110447(Collabora Online Built-in CODE Server)

  • スコア: CNA(MITRE)は CVSS v4.0 で 9.2、NVD は CVSS v3.1 で 9.8。
  • 内容: Nextcloud 向けアプリ richdocumentscode(Collabora Online の組み込みサーバー)の 26.4.303 より前の版で、OS コマンドインジェクションが起きます(CWE-78)。起きるのは、CODE サーバーが停止しているとき(再起動直後など)の proxy.php です。NVD の説明文によれば 2026年9〜10月に実際に悪用されました。単体で運用する Collabora Online サーバーには影響しません。

3件とも、CNA は CVSS v4.0 で 9.2、NVD は CVSS v3.1 で 9.8 と、採点者とバージョンで値が変わっています。v4.0 には AT(Attack Requirements: 攻撃が成立するための前提条件)の項目があり、3件とも AT:P(前提条件あり)です。「9.0 以上を数える」という今回の基準は、誰がどのバージョンで採点したかに左右されます。

本調査の限界

  • 日付: 月の区切りは NVD に登録された日です。発見から発表までには日にちが経っており、AIなどの原因がCVEの発表に現れるにはやや時間がかかると考えられます。
  • 採点者の変化: 2026年4月の NVD の運用変更以降は、スコアのほとんどを CNA が付けています。そのため「9.0 以上」は、運用変更の前後で同じ基準では測れていません。
  • 未採点の CVE: 2026年9〜10月は CVE の約 9% にスコアがありません。その中に 9.0 以上になるものがあれば、直近の件数と割合は過小評価です。あまりないとは思いますが。
  • 平均の取り方: CVE数などの平均の分け目を7月に置いたのはやや恣意的です。実際の増加は 2026年1月ごろから段階的に進んでいます。

出典

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