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俺の見積もりがこんなに安いわけがない: 第2話 We will specialize

Last updated at Posted at 2021-07-07

「先輩さん」
『はい、後輩ちゃん』
「前話してた1,000万の見積もりの話なんですけど」
『うん』
「1,000万で発注してくれるのは嬉しいんですが、でもなんか1ページ1万円でやってるところがあるのに、そんなに貰ってしまって申し訳ないような気がしてしまうんですが……😥」
『ほう』


『いやーそれは気にすること無いんじゃない?』
「そうですかねー……」
『他と値段で比べる必要無いよ。ほら、価値の話したじゃない。お客さんはウチに1,000万円払う価値があると判断して発注したんだよね?』
「まぁそういうことになりますね😕」
『それはクライアント側の判断であって、ウチがどうこういう部分じゃ無くない?』
「ふむ……」

『そうね、またディナーコース8,000円レストランがありましたという例えで』
「また……!」
『すぐ近くにディナーコース3,000円のレストランができたとするじゃない』
「おおライバル😈」
『そしたらさ、8,000円の方は対抗して3,000円にするべき? どう思う?』
「うーん、どうなんでしょう……分からない……。でも8,000円のままで大丈夫なんでしょうか……🤔」
『まぁどう考えるかはそのレストラン次第だろうけど、8,000円でちゃんとお客さんが来てくれてたら、別に3,000円にする必要全然無いよね?』
「それなら対抗して3,000円にすると損しちゃいそうですね……😕」

『うん、その3,000円のレストランができて、客さんみんなそっちに移っちゃったとかいうことがあるなら、それは何か考えないとマズいかもだけどさ、8,000円でお客さんが変わらず来てくれるのであれば、実質関係無いわけよね。』
「ふーむ、まぁそうなりますね。要するに自信を持って見積もりを出せということですかね……?🤔」
『とりあえずはそういうことかなー。まーそもそもさ、1,000万で見積もり出したということは、その1,000万に根拠をもって出してるわけよね。』
「根拠ですか?🤔」
『うん、そう。たぶんさー後輩ちゃんはその1,000万について、僕がなんで1,000万って価格で出しているのか分かってないよね』
「まったく分かってないです!😇」
『それはちょっと長くなりそうだから3回目以降にするわ』
「3回目?」

『まーとりあえずさ、この仕事は1,000万の価値がありますよーとか、1,000万ぶんは弊社メンバーを雇うのに必要ですよってことで出してるので、特別な理由なしには値引きはしないのです。』
「ほほー」
『そもそもさ、レストラン入って、このディナーコースもうちょっと安くなりませんかね?とか言わないでしょ?普通』
「まぁそうですね……」
『理由もなしに安くしてなんてさ、それと全く同じだよ。そういう場合はそうね、予算に合わせてやることを削るとか、進めてみるけど、予算に収まらなそうだったらその時相談させてもらうとかそういう話をするかな。』
「そっかー😗」

『ありえるとしたら、お客さんからしたらそうね……。大将!今日は何があんの?3,000円でオイシイもの作って!とかそういう感じかな。そういう予算が決まってるみたいな時は。』
「あーそれなら分かるかもしれない」
『でしょ? まー仕事を請ける側も、ディナー8,000円って高いですか……?やっぱりちょっと高いですよね……とかいう態度でいたら、それにのっかって値切られちゃうよむしろ。』
「はー値切られそうだわわたし……😨」
『ウチは8,000円ですよ?お客さん。出口はあちらですよ?って感じだよそこは。』
「なるほど……」


『とりあえず、他と比較してどうというのは基本的に考えなくていいよ。もうほんとに関係ない。』
「他と比較…… ですか。まぁ比較しちゃってますね私は確かに😕」
『他と比べちゃうのはなんだろうね、後輩ちゃんはクライアントが上、我々制作側は下みたいに考えちゃってるところがあるんじゃないかなー』
「うーんなるほど。まぁそれはあるなーっていうか。実際のところ、依頼を頂いているわけで、上下で言ったら私達が下……と思ってしまうんですが……🤔」

『いやー、それはどうかな。仕事の流れ、上流工程と下流工程みたいなところでは上下と言えるかも知れないけど、関係性としてどちらが上位下位ということは無いよ。』
「ほーー」
『これはまず頭に入れておいてほしいんだけど、クライアントが僕らを選ぶように、僕らもクライアントを選んでるんだよ。』
「私達も選んでいる……🤔」
『うん、そう。僕らもクライアントを選んでいる。』

『ページ単価1万じゃ請けませんみたいな話をしたじゃん?』
「はい」
『この時点で既にクライアントをフィルターしてるよね。』
「そう言われるとたしかに……」
『ウチは低すぎる予算で相談されたらまず、その予算感だとたぶん合わないですね〜とかはフツーに言うし、場合によっては詳しく話を聞く前に断っちゃうよ。』
「えーそうなんですね😮」
『うん、そもそもウチのWebサイトにこういう仕事は請けないとかまとめて書いてあるしね。それにウチでやるつもり無い仕事の話聞いたって、お互い時間の無駄になっちゃうじゃない。相談してくれたこと自体には感謝だけど、やる可能性が無い仕事の話しても意味無いよね?』
「まぁ仕事が成立しないならそういうことになりますね🤔」
『なんというかな、これはレストランのドレスコードみたいなもんだよ。そういうレストランにジャージとランニング一丁で来て、オイオイ!なんでこの服装じゃ入れないんだよここの店は!とか言わないでしょう? 普通』
「さすがに私でもそれは言わないです😇」

『前回も話したけど、我々とお客さんの関係は、お互いの利潤が一致すれば一緒に仕事をしましょうというだけのことだね。むしろ、受注側がリードを取れば、こっちが上っぽくなることもある。』
「おおなんと🤭」
『でもそれも、だからといって我々のほうが上だとか思っちゃうのもナシね。フラットだから。お客さんと僕らは。あくまでお客さんの問題を解決するためのパートナーという立場なので、そこを分かってもらえてると良いと思うよ。』
「そっかー」
『ほら、どっちが上みたいな夫婦はうまくいかないわけよ。』
「そうなんですか?🤔」

『あとは、何か、その会社の強みみたいなものをはっきり示せると、受注側が下みたいな関係にはなりにくい感じがするかな。』
「強みですか……」
『そうそう、同じことをできる会社が多かったら、それらと比べられちゃうって感じ。この内容だったらここに頼むのが一番信頼できるって思ってくれたらそういう話は少なくなる。そのためにはね、たぶん何かについて専門化していかないとならんのよ。』
「専門化ですか?🤔」
『ここでしか食べられない料理とかがあったらさ、やっぱりそこに行くしか無いじゃない。レストランだとしたらさ。』


「うーんなるほど。でも私思うんですけど。そのレストランみたくポリシー持ってやってるってのはいいですよ、それは別に。ただあの前回話したうどん屋は、うどん屋の方で500円でやっていけてますよね。それはどうなんですかね?🤔」
『あーはい、うどんの方ね。』

「というか先輩、前回も思ってたんですけど、ちょっとあのうどん屋のことナメてません? あれは香川にあるうどん屋と遜色ない味なんですよ? それなのに500円で出してくれている……。これはスゴイことじゃないですか!そもそもあのうどんは本店が香川にあって」
『いやいやとんでもない。僕もあのうどん屋年中行くし』
「私はうどんが好き😙」
『それは言ってみれば戦略の違いみたいなものかな』
「戦略ですか?🤔」
『そう、たぶんそのうどん屋と8,000円レストランでは、考えてることがぜんぜん違う』
「ほう」

『うどん屋の方はさ、あれチェーン店じゃない。関東だとそこらじゅうにあるよね。』
「ありますね」
『あのうどん屋はさ、同じものを大量に提供することで低価格で料理を提供できてるんだよね。』
「大量生産ってやつ……?」
『うんそう。レストランの方は逆で、大量生産の出来ない料理を高価格で提供してる。』
「ふむふむ」

『前回もちょっと話したけどさ、うどん屋の方はアルバイトのおばちゃんとかが料理を作って出せるようにしてるわけよね。』
「まぁ結構バイトの人の割合は高そうな感じはしますね。バイト募集の張り紙とかあるし。」
『おいしいうどんと出汁を研究して、企業努力の末に生まれたそのうどんを一気にたくさん作れる体制を整えることで、その500円っていう価格を実現してるわけなんだよね。』
「感謝しかない……🙏」

『これがさ、日々うどんについて研究を繰り返してて、常に新しい味を求めて改良を続けてるような、どこぞで長年修行してきたシェフが一人で経営してるみたいなお店があったとして。そこで出てくるうどんが500円だったならさ、まぁそのために費やした時間や労力を考えると、圧倒的にチェーン店のうどん屋のほうが利益率が高いよね。』
「まぁ、アルバイトのおばちゃんが出汁よそって出せるお店があることを考えたらそうなっちゃうかもしれないですね……。うどん自体も別のところで一気に作ってるわけでしょうし。」

『そう、まぁそのシェフのうどん屋も利益を追求するのでないなら、どうこう外から言われる筋合いは無いんだけども。とにかく、そういう風に大量生産できないものについては、8,000円のレストランみたいな感じで値段を上げる方向を考えないと、利益的にはプラスになっていかないわけよね。』
「そんなうどん屋あるのかしら……🤔」


『まぁそれで僕らの仕事の話に戻すけど、僕らがやってる開発とかデザインとかの仕事について考えてみるとさ、そういう風にチェーン店みたく大量生産することが、そもそも可能なのか?ってどう思う?』
「えーどうなんでしょう。同じものを作るか〜。Webサイトだったら、同じHTMLとかCSSとかでいいならできそうですけど……😕」
『そうそう、そういう方法は一つあるよね。ウチでいくつか汎用的に使えるテンプレートみたいなセットを用意してさ、それでできる範囲でやりますっていうやり方。それは一つの方法だと思う。』
「そうですね〜。そうできたら楽だなぁ〜😙」

『でもさ、実際にそういう形で仕事の相談が来たことって無くない?』
「無いです😭」
『でしょ? 僕らの仕事ってさ、そういう、既に出来上がってる何かにあてはめて作れば完了ですみたいな形でさ、できないやつがほとんどなんだよね、そもそも。』
「ほう🤔」

『まぁ仮にそういう風にするんであればさ、もうウチはそういうやり方でやれるから早く安く仕上げられますってガンガン訴求していくのが良いかもしれないね。最初にテンプレートを練りに練ってデザインして、HTMLとCSSも書いてさ、それを使い回すっていう。そういう風なやり方を確立できたとしたら、アルバイトを雇って安く大量にWebサイト制作を提供できるっていうのはアリかもしれないよ。』
「そうですね〜。そしたら私の立場があやうい……😨」
『でもさ、そういう風に自動化が進んだらだよ? わざわざ人の手で作る必要すら無くなってきちゃうんだよね。』
「どういうことです?🤔」

『ほら、JimdoとかWixとかあるじゃない。』
「あーはい、ジンドゥー」
『ああいうWebサービスを使えば、別にどこかに高いお金払って頼まなくたってWebサイトはできちゃうわけよね。それも月額1,000円とか2,000円とかでさ。テンプレートも選び放題だったりして。』
「たしかにそう言われれば……」
『ECサイト作りたいだってさ、STORESとかShopifyとかあるじゃない。』
「あーありますね。STORESで作られたサイト、ちょいちょい見かけるし、たまに買い物しますよ私。」
『それで、じゃあそういうWebサービスが誕生したところでさ、Webサイト制作だったり開発だったりっていう仕事がさ、絶滅しちゃいましたみたいにはなってないでしょ?』
「確かに……。みんなJimdo使わないのかしら🤔」

『それっていうのはさ、ただありもののデザインを選んで作るだけでは、解決できない問題があるわけなんだよね。』
「問題……?🤔」
『例えばそう、そのECサイトだったらさ、どうしたら売れるか、そのためにはどういうデザインにしたら、設計にしたら良いのか。運用しやすいようにするにはどういうシステムにしたらいいのかとかさ。色々あるじゃない。前回ウチの強みだって教えた失敗しない設計とかもソレね。この問題ってのは本当に多種多様で、無限にバリエーションがある。』
「そう言われると確かに……」
『このJimdoとかWixとかはさ、前回から話してる500円うどん屋と8,000円レストランという対比において、500円うどん屋側の極地だよ。安く安くっていう価格競争に乗っかっていくことはさ、実質このJimdoとかWixとかがライバルになってきちゃうわけよね。』
「なるほどJimdoはうどん屋と🍜」
『そしたらさ、勝てるわけないじゃない。JimdoとかWixはサーバーが動いててそいつが自動でページ作ってくれるんだもの。』
「たしかに……」

『それに、仮にJimdoやWixを使ったとしてもだよ? そういうWebサービスを使って、どういう構成のWebサイトを作ったら効果的なのかみたいなことは考えないといけないじゃない。』
「それは確かにそうですね🤔」
『そういう領域はさ、1つ1つ話を聞いてモノを作っていく以上、完全に無くすことが出来ない部分なんだよね。相談してくるクライアント毎に全く問題が異なるので、解決方法もバラバラ。同じ方法がもう一度使えるかどうかなんて進めてみるまでは全然わからない。そういうのをなんとかする仕事っていうのはさ、クリエイティブな仕事なんだよ。』
「く、くりえいてぃぶ……!😮」
『そういう仕事は大量生産なんてできっこない。だったら8,000円レストラン方面の方向性で考えないと、どんどん辛くなっていくわけなのよね。』
「そっか〜〜。私の仕事はクリエイティブだったとは……😇」

『僕らの仕事っていうのはさ、基本的にオーダーメイドなわけ。この性質を持つ以上、安く提供するみたいな方向性にのっかっちゃったら、真摯ににお客さんの声を聞けば聞くほど、見積もりに見合わない仕事量になっていっちゃうのよね。それでも安くしていったらさ、もう毎日徹夜するみたいなコースしか残されてないじゃない。』
「な、なるほど……」
『そしたらそれ、いい仕事になってないよね? 全然』
「それは辛そうです😭」


『まぁその、とは言っても、500円と8,000円の両極端の2者しかいないのかと言われれば、全然そんなことはなくて。そう、例えば1,000円前後で周辺でランチが食べられたりするよね、だいたい都内だと。』
「そうですね〜。いやーやっぱりそう考えると500円はありがたいですよ😙」
『そういう1,000円ぐらいでランチが食べられるお店はいっぱいあるじゃない。500円のお店があっても。だからなんていうかな、価格もサービスも多様なんだよね。500円うどん屋が登場したらその1,000円価格帯の店が全滅するとかじゃなくてさ。』
「たしかに〜」
『海の生き物が進化してイルカが誕生したところで、クラゲやイソギンチャクみたいな原始的な生き物もいるでしょう?海にはさ。』
「イルカはクラゲを食べるそうですよ、先輩」

『それに、レストラン同士だって別にどっちが上とか下とか、値段で見ればそういう風に見えるけど、そこに上下関係があったりするわけじゃーない。それぞれのレストランが、それぞれの考えで自分らはこの値段で提供しますよって決めてお店を出してるだけなのよ。』
「そっかー」
『要するに、価格を決めているのは自分達。自分たちが自分の仕事をいくらで売るか考えて決めているというだけなのよね。』
「ふむ🤔」

『でも、お客さんからすると、たしかに比べるよそこは。同じぐらいの値段のお店があったら比較しちゃうでしょう?少なくとも心の中ではある程度。こっちは5,000円だけど、あっちはディナー8,000円だからちょっと高いしな……みたいなさ。』
「高い💸」
『でも、お客さん的には、比べたりしないで選ぶ気持ちになることもある。』
「おお😗」
『うん、オンリーワンな感じに近いとそうなる。そこだけでしか出せない料理、そこだけにしか頼めない何か。そーいうやつ。やっぱりここのラーメンが一番うまい。このラーメン屋の味は他では出せないとかさ』
「(そこでラーメンかよ……)」

『We will specialize。そのために僕らは何かに特化していかないといかんのよ。』
「突然の英語……?」
『って、Blair Ennsって人が言ってた

続く



参考

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