はじめに
近年、生成AIによるテキスト編集やプログラム作成が急速に普及し、開発者のワークフローを根底から変えようとしています。
この大きな潮流のなかで、多くのNeovimユーザーは「どうすれば愛するVimキーバインドと共に、最先端のAI技術の恩恵を受けられるのか」を模索しているのではないでしょうか。
これまで、Neovim向けのAIプラグインは数多く開発されてきましたが、VS CodeやCursorといった高機能エディタに比べ、最新の大規模言語モデル(LLM)やAIエージェントとの統合速度で一歩遅れを取っている感は否めませんでした。
しかし、Googleから登場した「Gemini CLI」が、その状況を一変させる強力な一手となり得ます。
本記事では、NeovimとGemini CLIを組み合わせ、ターミナルを2枚開いて利用する新しい開発環境を提案します。これにより、Neovimの強力な閲覧・編集能力と、2025年6月現在ならば無料で利用できるGemini 2.5 Proの高度な生成・対話能力を両立させ、最先端の開発環境を構築する方法を具体的に解説します。
ちなみに、この記事自体もNeovimとGemini CLIの環境を使って作成しました。
Neovimの価値は変わらない:ビューアーとしての進化
「AIがコードを書くなら、エディタの役割は終わるのか?」——そんなことはありません。むしろ、AIとの共存時代において、Neovimの価値はさらに高まると筆者は考えています。
これからの開発では、AIが生成した大量のコードを素早く正確に読み解き、評価・分析する能力が重要になります。ここで、Neovimが持つ以下の特徴が強力な武器となります。
- 圧倒的な高速性: ファイルを開く、検索する、移動する。そのすべてが瞬時に行える。
- モードレスな操作性: キーボードから手を離さずに、思考を妨げられることなくコードの海を泳ぎ回れる。
- 強力な検索・移動機能: 正規表現やプラグインを駆使し、目的のコードへ一瞬でジャンプできる。
つまり、Neovimは単なる「エディタ」から、AIが生成したコードをレビューするための「超高性能ビューアー」へとその役割を進化させていくのです。
提案する新ワークフロー:Neovim + Gemini CLI
この新しい開発スタイルのコンセプトは、「役割の分離」です。ターミナルの画面を2つに分割し、それぞれのツールに最も得意な作業を任せます。
- 左画面 (Neovim): ファイルの閲覧、LSPによる静的解析、軽微な手動編集に特化。
- 右画面 (Gemini CLI): 大規模なコード生成、リファクタリング、仕様からのコード作成、エラー修正などを対話的に実行。
シームレスな連携を実現するキーパーツ:「djoshea/vim-autoread」
このワークフローの快適性を劇的に向上させるのが、djoshea/vim-autoread のような自動リロードプラグインです。
Gemini CLIがファイルシステム上のコードを更新すると、このプラグインが変更を自動で検知し、Neovimで開いているバッファを即座にリロードします。
これにより、手動で:e
コマンドを叩く煩わしさがなくなり、まるでNeovim自体がAIによって直接編集されているかのような、真にシームレスな開発体験が生まれます。
具体的な利用シーン
- コード生成: 右画面のGemini CLIに「こういう機能を持つGoのコードを書いて」と指示します。
-
新規ファイルのオープン(初回のみ): Gemini CLIが新しいファイルを生成した場合、Neovimでそのファイルを一度開きます(例:
:e path/to/new_file.go
)。既存ファイルの編集であればこの手順は不要です。 - 自動反映: Gemini CLIが既存ファイルを編集すると、左画面のNeovimが自動で更新され、生成されたコードが表示されます。
- レビューと微修正: Neovimの高速な移動・検索機能を使い、コード全体をレビュー。気になった点を軽微に手動修正します。
- 対話的なリファクタリング: Gemini CLIに「この部分のロジックを、より効率的なアルゴリズムに書き換えて」と追加指示。再びNeovimのバッファが自動で書き換わります。
なぜ今、Gemini CLIなのか?
数あるAIツールの中で、なぜGemini CLIがこのワークフローに最適なのでしょうか。
- 最先端モデルへの無料アクセス: 現時点(2025年6月)で、非常に高性能なGemini 2.5 Proを無料で利用できます。これは、無課金で最先端の開発を試したいユーザーにとって最大の魅力です。
- Vimプラグインの限界を超える: 既存のNeovimプラグインは、特定のLLM APIに依存したり、UIの制約があったりしました。Gemini CLIは独立したツールのため、Neovim本体やプラグインの動向に依存せず、常にGoogleが提供する最新のAI機能を利用できます。
- ターミナルネイティブな体験: すべての操作がターミナル内で完結するため、マウス操作やウィンドウ切り替えによるコンテキストスイッチが最小限に抑えられ、開発への集中力を維持しやすくなります。
まとめ
NeovimとGemini CLIの組み合わせは、伝統的なVimの哲学と最先端のAI技術を融合させる、現実的かつ強力なソリューションです。
この新しいワークフローは、NeovimユーザーがAI時代に乗り遅れることなく、むしろ生産性を飛躍的に向上させるための新たな選択肢となります。
それは単にVS CodeやCursorに追いつくという話ではありません。ターミナル中心のミニマルな環境を愛する開発者にとっては、それらを凌駕するほどの快適な開発体験を提供する可能性を秘めています。
ぜひ、Neovim × Gemini CLIで未来の開発スタイルを体験してみてください。