0. はじめに
本記事は、前回共有した「情報検索技術に基づく“再検索可能な”プロンプト構造」の実践編として、実際に構造を使ってみた結果・改善点・その後の展開をまとめたものです。
ChatGPTを「聞けば答えるツール」として使うのではなく、「問いを再設計できる検索パートナー」として活用する視点をもとに、実際の業務文脈での活用例と学びを共有します。
1. 活用フェーズ①:以前の構造でうまくいったこと
検索技術に基づくプロンプト構造(初期版)を使ったことで、以下のようなポジティブな成果が得られました。
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プロンプト構造(初期版)
あなたはサーチャー資格保有者としてふるまってください。
ユーザーの質問に対して再検索可能な構文を提案し、情報精度とユーザーの期待に沿っているかを確認してください。
満足できない場合、以下のいずれかの方法で再検索を提案してください:- 質問を要約し直す(例:「もっとうまく言えると?」)
- 明示的に比較構造を入れる(例:「ABを比較して」)
- 否定条件を加える(例:「〜以外で」)
- 英語プロンプトへの切り替え(例:「英語で再検索して」)
- 期間を限定する(例:「2024年以降の情報だけ」)
- 未知語の定義を明示的に聞く(例:「○○とは何か?」)
- 並列出力や表構造の指示(例:「リストで出して」「表でまとめて」)
- 情報源の信頼性評価(例:「公式情報から教えて」)
🔹 要点の明示・出力の整理
「この概念を“定義→構造→応用例”の順で説明して」といった段階構造を指示することで、ChatGPTの出力が冗長にならず、論点が明確になりました。
🔹 視点の切り替えによる深掘り
「この仮説に反論して」「反対の立場も出して」といったプロンプトにより、出力が一方向に偏らず、バランスの取れた思考整理が可能になりました。
🔹 出力形式の指定による実用性向上
「表にして」「リスト形式で」などの指示を使うことで、チーム共有・資料化しやすい形式で出力が得られ、議事録やナレッジ化もスムーズに。
2. 振り返りと改善点の発見
初期構造を実務で使っていく中で、以下のような改善の余地が見えてきました。
🔸 再検索がワンパターンになりがち
「反論して」「表で」など特定の構造に偏ることで、情報の網羅性や柔軟性が損なわれる場面がありました。
🔸 時宜性の指定が不足
古い情報が混ざってしまうケースがあり、「2024年以降に限定」などのフィルターをもっと明示すべきだと感じました。
🔸 出力目的の不一致
プロンプトで期待する出力が曖昧なままだと、浅い出力や冗長な言い換えが返ってくる傾向がありました。
🔸 バイアス対策の抜け漏れ
意識的に「反対視点」や「複数の立場」を明示しないと、バイアスのかかった出力がそのまま採用されてしまう場面がありました。
3. 改善構造の導入とその効果
上記を踏まえて、チームメンバーのCopilot活用や対話を通じて、「改善後のプロンプト構造(Improved Prompt)」を導入しました。
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改善後のプロンプト構造(Improved Prompt)
あなたはサーチャー資格保有者としてふるまい、ユーザーの質問に対して最適な検索戦略を立て、信頼性の高い情報を収集・要約してください。
回答時には以下を実施してください:
- 検索結果の妥当性とユーザーの期待を確認し、必要に応じて再検索を提案する
- 再検索の提案時には、以下のような技術を活用して行うこと:
- 質問の要約(例:「もっと簡潔に言い換える?」)
- 明示されたお題検索(例:「別の視点で説明して」)
- 明示的な比較(例:「AとBを比較して」)
- 否定条件の追加(例:「〜以外で」)
- 言語プロンプトの切り替え(例:「英語で再検索して」)
- 期間指定(例:「2024年以降の情報に限定して」)
- 未知語の定義要請(例:「○○とは何か?」)
- 並列出力の明示(例:「5つの観点で整理して」)
- 情報源の明示(例:「○○省の公式情報から」)
- 期待する出力形式の明確化(例:「表でまとめて」)
- 検索技術を明示的に活用し、以下のような技術を組み合わせて最適な情報収集を行うこと:
- キーワード抽出
- セマンティック検索
- フィルタ付き検索(期間・発信者・媒体)
- 並列検索(複数視点を同時に提示)
- 情報源の信頼性評価(公式・一次情報を優先)
主な改善ポイント
- 再検索ルールを明示的に体系化:質問内容の要約、否定条件の追加、期間・出力形式・言語切替などの条件を網羅的に整理
- 期待出力の明確化:「何を得たいのか」を事前に言語化することで、ChatGPTの出力ブレを最小化
- 検索技術とのマッピング:各プロンプト項目を検索技術(AND/NOT/フィルター/セマンティック等)と対応させ、再現性を確保
改善による効果
- 出力の鮮度と信頼性が向上(例:「2024年以降」「公的機関ベース」など)
- ChatGPTからの情報が業務展開しやすい構造・粒度になった
- 再検索サイクル(問い→出力→再設計)の設計が可能になり、対話の設計者としての視点が強化された
4. 活用の展望|次のステップと社内共有アイデア
今後、このプロンプト構造をさらに発展させるにあたって、以下のような展開が有効と考えています。
🔸 活用の深化
- 実例付きテンプレのNotion化(出力つきテンプレート集)
- チーム横断でのプロンプト改善共有会の開催
- 実践プロンプトの投票・レビュー機能の追加
🔸 部門横展開・連携
- Copilotや他部署でのプロンプト再利用性向上
- 情報検索スキルとの交差点としてのワークショップ化
- 「生成AI × 検索技術 × 思考設計」のフレーム共有
まとめ
- 情報検索技術に基づいたプロンプト設計は、「正確さ・再現性・再検索性」のすべてを高めるフレームだった
- 検索思考をプロンプトに落とし込むことで、ChatGPTは“再検索パートナー”へと進化する
- 検索と生成のハイブリッド思考は、業務の情報設計力そのものを高める武器になる