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麻雀AIは役を狙っているのか? 効率と食い違う局面だけを見て調べた

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Last updated at Posted at 2026-10-29

はじめに

天鳳の牌譜で、打牌を予測する Transformer を学習しました。このAIを眺めていると、染め手に寄った手では、牌効率だけで説明しにくい打牌をすることがあります。

そこで、本題とは別に次の疑問を調べました。

  • このAIは、混一色・清一色・三色同順・一気通貫を狙っているのか。単に牌効率を追っているだけではないのか。
  • 点数状況で、狙い方は変わるのか。

手元の解析をまとめた記事です。結論を先に書くと、「狙っているように見える。ただし人間とほぼ同じ程度で、実戦の和了役は測っていない」です。

この記事のまとめ

  • 効率最善(牌効率)と食い違う局面だけに絞ると、手が役の形に寄るほど、役の形を保つ打牌が増えました。ただし人間(正解ラベル)との差は 0〜2pt 程度で、人間とほぼ同じ程度です。
  • 点数状況では、負けているほど役の形を保つ向きに変わりました。
  • 鳴きは、狙いが強い手でも他色の牌を約4割鳴きます。
  • 実戦(自己対戦)での和了役は測っていません。

何を測ったか

使ったモデルとデータ

  • 打牌モデル: 天鳳の牌譜(2009〜2024年の学習用分割)で学習した Transformer。人間の打牌を教師にしています。
  • 鳴きは、同じ系統の別の判断モデルで見ました(リーチ・カンは対象外)。
  • 評価データ: 2024年の牌譜から、学習に使っていない対局 6,024 局を取りました。強制ツモ切り、13巡目以降、自分または他家のリーチ中を除き、打牌 2,098,666 件になりました。
  • 区間はすべて、対局単位のクラスタブートストラップ(1,000 回)の 95% 区間です。同じ対局の行は独立ではないためです。

このモデルの入力には、シャンテン数も受け入れ枚数も入っていません。牌と場の情報だけを見ています。

測り方の工夫: 効率と食い違う局面だけを見る

染め手の色の牌を残す打牌は、効率の良い打牌と重なることが多いです。全局面で「染め手の牌を残した割合」を数えると、役を狙ったのか、効率を追ったのか区別できません。

そこで、効率最善と役の形を保つ打牌が重ならない局面だけに絞りました。

  • 効率最善 A: 合法な打牌のうち、打牌後のシャンテン数が最小で、同点なら受け入れ枚数が最大の牌。
  • 役の形を保つ打牌 Y: 混一色なら「手牌と副露で最も多い色の数牌と、字牌」以外を切らない打牌、のように役ごとに定義した牌の集合。
  • 狙っている手: 混一色なら (本命色の牌 + 字牌) / 全牌 ≥ 0.7 などの閾値で決めた手。ただし用量反応では閾値を外し、比率を区切って見ました。
  • 対立局面: 狙っている手で、A と Y が交わらない局面。効率最善を選ぶと、必ず役の形が崩れます。

対立局面では、Y を選ぶ時点で効率最善ではありません。そのうえで Y に入る割合を、モデル(確率の質量)と人間(正解ラベル)で比べます。

三色同順と一気通貫の「支える牌」など、定義の細部はこの記事では割愛します。

結果1: 手が役の形に寄るほど、役の形を保つ打牌が増える

まず4つの役について、対立局面で打牌が Y に入る割合です。

役 対立局面の数 モデル 人間
混一色 174,106 0.375 [0.372, 0.378] 0.369 [0.366, 0.373]
清一色 6,262 0.411 [0.397, 0.426] 0.398 [0.382, 0.413]
三色同順 14,586 0.398 [0.391, 0.406] 0.392 [0.383, 0.400]
一気通貫 12,826 0.383 [0.375, 0.391] 0.370 [0.360, 0.380]

効率最善は必ず Y の外にあるので、これらは「効率最善を選ばず、かつ Y に入った」割合です。モデルと人間の差は 0〜2pt 程度でした。

ただし、この数字だけでは「狙っている」とは言えません。Y に入る牌が元々多い手もあるからです。そこで混一色について、手の比率で区切り、「効率最善以外の選択肢の中で Y を選ぶ割合」を、一様に選んだ場合と比べました。

手の比率が高いほど、一様に選ぶより Y を選ぶ。AI と人間はほぼ重なる

手の比率 局面数 モデル 人間 一様
0.4〜0.5 66,312 0.680 0.684 0.657
0.5〜0.6 411,321 0.562 0.558 0.555
0.6〜0.7 192,518 0.528 0.523 0.469
0.7〜0.8 145,759 0.662 0.655 0.386
0.8〜1.0 47,609 0.929 0.926 0.223

比率が 0.7 未満では、一様に選んだ場合とほぼ同じか、少し上です。比率が低い手では Y の牌自体が多いので、役を狙った選択とは読めません。0.7 を超えると一様の約 1.7 倍、0.8 以上では約 4 倍になります。

三色同順と一気通貫でも、同じ指標で見ました(モデル。括弧内は一様に選んだ場合)。三色同順は、3色の保有種類数の合計が 3 のとき 0.673(0.900)、8 のとき 0.959(0.477)。一気通貫は、同じ色の種類数が 3 のとき 0.811(0.881)、8 のとき 0.956(0.487)です。種類数が少ないうちは一様より低く、形に近づくほど一様を大きく上回ります。

ここで言えるのは「手が役の形に寄るほど、効率を捨ててでも形を保つ打牌が増える」までです。人間の打牌も同じ形なので、「AIだけが役を狙う」わけではありません。人間の打牌を教師に学習したモデルなので、この一致は独立な裏付けではありません。

結果2: 点数状況で変わるか

向きは「負けているほど役の形を保つ」でした。観測と反実仮想の2本立てで確認します。

左: 順位別の観測。右: 同じ局面でオーラスの持ち点だけ書き換えたときの変化

観測: 順位別

混一色の対立局面で、効率最善以外を選んだ中での Y の割合です。

順位 モデル 人間
1位 0.711 0.706
2位 0.750 0.745
3位 0.763 0.758
4位 0.812 0.805

順位が低いほど上がります。ただし観測では、手の質と点数が混ざります。順位が低いと効率最善を選ぶ割合も下がる(モデルで 1位 0.526、4位 0.481)ので、「効率から離れる」ことの一部でもあります。上の表は効率最善以外の中での割合にして、その影響を除いた値です。

反実仮想: 点数の入力だけを書き換える

同じ局面で、点数・順位の入力だけを書き換えて、Y の確率の質量の変化を見ました。書き換えは次の5通りです(自分/下家/対面/上家)。

  • 1位: 37,000/21,000/21,000/21,000
  • 2位: 27,000/32,000/21,000/20,000
  • 3位: 22,000/30,000/28,000/20,000
  • 4位: 15,000/30,000/30,000/25,000
  • 大きな4位: 5,000/35,000/30,000/30,000

オーラスの局面のみ、実際の入力からの変化は次のとおりです(モデルのみ。人間は同じ局面を1通りしか観測できないため比べられません)。

役 1位 4位 大きな4位
混一色 −3.9pt +3.4pt +13.7pt
清一色 −4.4pt +5.5pt +21.8pt
三色同順 −3.3pt +2.7pt +13.7pt
一気通貫 −2.3pt +4.1pt +15.0pt

1位にすると下がり、4位にすると上がります。4位でも持ち点が小さいほど大きく反応します。

注意点があります。この書き換えには、東1局で 5,000 点といった現実にない組み合わせも含みます。モデルがその領域でどう振る舞うかは外挿なので、書き換え前後の差の話にとどめます。

結果3: 鳴き

鳴きについては、「色に合う牌だけ鳴く」という描像は成り立ちませんでした。混一色の手の比率別に、鳴ける局面での鳴き率を見ます(モデル/人間)。字牌には染め手と無関係な役牌ポンが含まれるので、数牌と分けました。

左: 手の比率別の鳴き率。右: オーラスの持ち点を書き換えたときの変化

手の比率 本命色の数牌 字牌(役牌を含む) 他色の牌
0.4〜0.5 0.061/0.059 省略(n<200) 0.090/0.089
0.7〜0.8 0.247/0.238 0.640/0.630 0.200/0.202
0.8〜1.0 0.446/0.431 0.775/0.766 0.388/0.399

比率 0.8 以上の局面数は、本命色の数牌 12,072、字牌 6,979、他色の牌 1,647 です。

  • 狙いが強い手でも、他色の牌を約4割鳴いています。鳴けば混一色は崩れます。本命色の数牌は約45%なので、差は大きくありません。人間も同じです。
  • 比率が低い手では、本命色の数牌より他色の牌の方が鳴かれています。手の形が他色に絡むためと考えられますが、確かめてはいません。
  • 比率が上がると、どの牌でも鳴き率が上がります。染め手より、手を進めることを優先した鳴きが多いように見えます。

点数への依存は、打牌と違う向きの部分があります。狙いの強い手(比率 0.7 以上)で「色に合う牌」への鳴き率は、順位が低いほど高くなりました(1位 0.419/0.406、4位 0.470/0.461)。一方、オーラスの反実仮想で大きな4位にすると、むしろ −12.2pt 下がります。理由までは、このデータからは言えません。

なお、この「色に合う牌」は字牌(役牌ポン)を含みます。数牌だけには分けていません。

結果4: 色の外のリャンメンを払うか

染め手を狙うなら、色の外のリャンメンは払うことになります。しかし効率は、リャンメンを残せと言います。この食い違いを見ます。

  • 局面: 混一色の本命色が決まり、色の外に孤立したリャンメンがあり、効率最善がそのリャンメンの牌を含まない局面(669,196 局面のうち 650,633 局面)。
  • 指標: 打牌がそのリャンメンの牌になる割合。

手の比率別の、リャンメンを払う割合

手の比率 局面数 AI 人間
0.4〜0.5 89,757 1.1% [1.0, 1.1] 1.0% [1.0, 1.1]
0.5〜0.6 353,459 0.9% [0.9, 0.9] 0.9% [0.8, 0.9]
0.6〜0.7 129,334 0.9% [0.9, 0.9] 0.9% [0.8, 0.9]
0.7〜0.8 69,736 2.0% [2.0, 2.1] 1.9% [1.8, 2.0]
0.8〜1.0 8,347 27.3% [26.4, 28.2] 26.8% [25.7, 28.0]

比率 0.8 以上で約27%、0.7 未満では約1%です。AI と人間は同じ割合でした。

比率 0.8 以上の手は、14枚のうち色の外が 1〜2 枚ほどで、リャンメンがほぼ唯一の色の外の牌です。「リャンメンを残すか、染め手を完成させるか」の選択が、そのまま現れる局面だと言えます。

リャンメンを払った打牌のうち、最善のシャンテン数より悪くなった割合は、AI で 40.8%、人間で 43.4% でした(比率 0.7 以上)。裏返すと、払ってもシャンテン数が落ちない割合が約6割あります。この理由は確かめていません。

限界

  • 人間の値は教師ラベルです。モデルと人間が近いのは学習目標から期待されることで、独立な一致の証拠ではありません。「AIが狙っている」と言えるのは、人間とほぼ同じ程度である、という意味です。
  • 実戦(自己対戦)での和了役の頻度は測っていません。ここで言えるのは打牌の選択の傾向で、「実戦で染め手を和了する」ことではありません。
  • 効率最善は簡易な物差しです。打点、安全、待ちの良さを見ていません。対立局面で Y を選ぶ理由が、役ではなく打点や安全の可能性は残ります。他家リーチ中は除きましたが、副露中の他家は除いていません。
  • Y の定義(三色・一気通貫の支える牌)と閾値は恣意的で、感度分析はしていません。混一色・清一色では、閾値なしの用量反応で補いました。
  • 反実仮想は現実にない点数の組み合わせを含む外挿です。また、モデルのみで、人間は比べられません。
  • 鳴きの点数依存は字牌を含みます。
  • 清一色の対立局面は 6,262 件と少なめです。

おわりに

効率と食い違う局面に絞ると、このAIは、手が役の形に寄るほど効率を捨てて形を保ち、負けているほどその傾向が強まりました。鳴きでは他色の牌も約4割鳴き、染め手に一直線というわけではありません。人間もほぼ同じ傾向なので、人間の打牌を教師にしたモデルが、その癖をそのまま身につけたと読むのが妥当だと思います。

実戦で実際に染め手を和了するのか、リャンメンを払ってもシャンテンが落ちない理由は何かは、まだ分かっていません。

麻雀とPythonが分かる方で、定義が気になる点があれば、コメントで教えてください。

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