この文書では、Windows11上で構造解析ツールOpenRadiossを活用する方法を紹介します。
「OpenRadioss」は、Altairが開発した商用有限要素解析ツールで、以下の通り2022年9月にオープンソースで公開されました。
https://altairjp.co.jp/newsroom/news-releases/open-radioss
公式サイトはこちらです。
https://openradioss.org/
オープンCAE学会での情報ウエブ。
https://wiki.opencae.or.jp/index.php/OpenRadioss
OpenRadissとはなにか
Google検索で、AIの回答を見ると以下の通りです。
- 概要
OpenRadiossとは、Altair Radiossという商用解析ソフトウェアをオープンソース化した、動的非線形問題解析用の有限要素法ソルバーです。ユーザーは無償で利用、カスタマイズ、再配布が可能で、衝突解析や落下試験などの物理的なテストをシミュレーションで置き換え、製品開発の効率化に貢献します。 - 主要な特徴
動的解析特化:衝突、衝撃、落下などの過渡的な動的事象を正確にシミュレーションするために設計されています。
オープンソース:ソースコードが公開されているため、誰でも無償で利用、改良、再配布が可能です。
並列処理能力:大規模な解析に対応できる高い並列処理能力を備えています。
コスト削減と開発サイクルの短縮:物理テストのシミュレーションへの置き換えにより、開発コストの削減と開発サイクルの短縮を目指します。
製品性能の評価と最適化:動的負荷がかかる非線形性の高い問題に対して、製品の性能評価と最適化を支援します。 - 主な活用例
自動車産業::自動車の衝突試験やエアバッグの展開解析。
電子機器::スマートフォンなどの落下試験における応力解析。
その他::材料の塑性挙動や接触面間の力学的挙動の解析など。
活用例にはないですが、建設系の構造解析にも活用が期待されています。これまで商用ツールとして販売されていた完成度の高いツールであり、ドキュメントも揃っており高度な解析機能を持っています。
ただし公開は解析ソルバーのみなので、プリポストや支援ツールなどは、利用者が用意する必要があります。その部分も追って紹介します。
オープンソースツールですので、ソースコードをビルドして利用することが前提ですが、ビルド済みバイナリも公開されているので、手軽に資料できます。
解析環境の準備
ここでは、「Windows11」を解析環境として、ビルド済みのOpenRadiossを導入して、各種の支援ツールを徐々に構築してゆきます。
ここでは、Windows Update を実施して、執筆時点の最新版にしています。Windows のスタートボタン横の検索で、winver コマンドを検索して実行すると、「バージョン24H2(OSビルド26100.6584)」となっていました。
今後の展開で各種ツールを導入する都合で、Cドライブ直下に「C:\DEXCS」フォルダを作って、ここにインストールしてゆきます。
なお、OpenRadiossは、MPI並列処理が可能ですが、ここでは最も単純な検証として、コマンド実行による逐次処理とGUIツールによるOpenMP並列処理の実行をためしてみます。
インストールの手順
公式サイトの「Download」から進んで、以下のダウンロード用のGithubサイトに接続します。
https://github.com/OpenRadioss/OpenRadioss/releases
ここでは、執筆時点では最新版「Last stable build on 20250730」がありますが、なぜか自分の環境では可視化ファイルの変換が正常にできません。
そこで下のほうにある「Last stable build on 20250717」を利用します。「Assets」を押してダウンロードファイル一覧を表示します。
このなかで、インストール用ファイル「OpenRadioss_win64.zip(318MB)」をダウンロードします。
Windows のダウンロードフォルダに、上記のファイルが保存されます。
このファイルを、右クリックメニュー「すべて展開」を選択し、「展開」します。
ダウンロードフォルダにできた「OpenRadioss_win64」フォルダを、「C:\DEXCS」に移動します。
OpneRadiossのインストールフォルダ「OpenRadioss_win64」内に、作業用フォルダ「Work」を作ります。
動作確認用ファイルの準備
動作確認用の解析データは、メッシュ、境界条件、物性設定等の解析に必要なデータ設定済みであるチュートリアルデータ「Cell Phone Drop Test」を、以下からダウンロードして利用します。
https://openradioss.atlassian.net/wiki/spaces/OPENRADIOSS/pages/11141156/Cell+Phone+Drop+Test
上記のサイトから「Model Files (7MB)」からダウンロードします。
ダウンロードフォルダの「Cell_Phone_Drop.zip」をすべて展開し、できた「Cell_Phone_Drop」フォルダを、作業用フォルダ「C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\Work」に移動します。
このフォルダには、以下の2つのファイルがあります。
Cell_Phone_Drop_0000.rad 40.4MB
Cell_Phone_Drop_0001.rad 1.0KB
OpenRadiossの実行準備
OpenRadiossには、解析実行用のGUIツールが付属しており、これはPythonが必要になります。解析を行うWindowsに、Pythonが導入されているかを確認するために、Windows11の「PowerShell」を、スタートなどから起動します。ここでコマンド「python」を実行してみます。
インストールされていない場合には、最近のWindowsはよく出来ていて、Microsoft Storeが起動して、執筆時点ではPython 3.13の導入が可能になります。表示されたMicrosoft Storeの「入手」から進めます。ツールが「インストール済み」になったらツールを閉じます。
改めてPowerShell上で、pythonを実行すると「Python 3.13.7」が起動します。プロンプト「>>>」に対しては「Ctrl+d」で終了します。これでGUIツールの準備ができました。
OpenRadiossのコマンド実行
ここではまず、OpenRadiossをコマンドを直接に実行する手順を説明します。ただし、環境設定や多数のファイル処理が必要なので、Windowsのバッチファイルを作成して実行します。
本資料で参考にしている以下のQiitaページ「だいたい100分ではじめるOpenRadiossチュートリアル」を確認します。
メモ帳を開いて、ファイル「exec.bat」を、「Cell_Phone_Drop」フォルダの中に作成します。以上の導入手順通りの場合には、以下の内容となります。異なる場合には、ディレクトリ名などを読み替えてください。
このバッチファイルではコマンドとして、OpenRadiossの実行形式のインストールフォルダ「C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\OpenRadioss\exec」内にある、最後の2行で「starter_win64_sp.exe」と「engine_win64_sp.exe」を実行します。
echo
set OPENRADIOSS_PATH=C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\OpenRadioss
set RAD_CFG_PATH=%OPENRADIOSS_PATH%\hm_cfg_files
set RAD_H3D_PATH=%OPENRADIOSS_PATH%\extlib\h3d\lib\win64
set KMP_STACKSIZE=400m
set PATH=%OPENRADIOSS_PATH%\extlib\hm_reader\win64;%PATH%
set PATH=%OPENRADIOSS_PATH%\extlib\intelOneAPI_runtime\win64;%PATH%
set DataFolder=C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\Work\Cell_Phone_Drop\
set DataFile1=Cell_Phone_Drop_0000.rad
set DataFile2=Cell_Phone_Drop_0001.rad
call %OPENRADIOSS_PATH%\exec\starter_win64_sp.exe -i %DataFolder%%DataFile1%
call %OPENRADIOSS_PATH%\exec\engine_win64_sp.exe -i %DataFolder%%DataFile2%
OpenRadiossの例題実行
PowerShellを起動して、先ほどの実行用ファイルを作成したフォルダ「C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\Work\Cell_Phone_Drop」に、cdで移動してください。
ここで、「./exec.bat」で、OpenRadiossを用いて、Cell_Phone_Dropの例題を実行します。
PS C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\Work\Cell_Phone_Drop> dir
Directory: C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\Work\Cell_Phone_Drop
Mode LastWriteTime Length Name
---- ------------- ------ ----
-a--- 2025/09/23 5:09 42378237 Cell_Phone_Drop_0000.rad
-a--- 2025/09/23 5:09 576 Cell_Phone_Drop_0001.rad
-a--- 2025/09/27 7:36 628 exec.bat
PS C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\Work\Cell_Phone_Drop> .\exec.bat
暫く(Corei9-13980HXの逐次処理で35分)待つと、以下のような解析結果ファイルと、可視化用ファイルができます。
解析結果ファイル
Cell_Phone_Drop_0000_0001.rst Cell_Phone_Drop_0000.out
Cell_Phone_Drop_0001_0001.rst Cell_Phone_Drop_0001.out
可視化用ファイル
Cell_Phone_DropA001 ... 29550825 Cell_Phone_DropA100
解析結果の可視化準備
可視化用ファイル「Cell_Phone_DropA001...29550825 Cell_Phone_DropA100」を、可視化ツールParaViewで利用できるVTKファイルに変換します。
メモ帳を開いて、ファイル「post.bat」を、「Cell_Phone_Drop」フォルダの中に作成します。以上の導入手順通りの場合には、以下の内容となります。異なる場合には、ディレクトリ名などを読み替えてください。
このバッチファイルではコマンドとして、OpenRadiossの実行形式のインストールフォルダ「C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\OpenRadioss\exec」内にある、「anim_to_vtk_win64.exe」を実行します。
@echo off
@setlocal enabledelayedexpansion
set num=1
set chk=Cell_Phone_DropA
pause
for %%i in (*) do (
echo %%i | find "%chk%" >NUL
if not ERRORLEVEL 1 (
echo %%i | find ".vtk" >NUL
if ERRORLEVEL 1 (
call C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\OpenRadioss\exec\anim_to_vtk_win64.exe %%i > %%i.vtk 2>&1
)
)
)
Windows11の「PowerShell」を、スタートなどから起動します。
先ほどの実行用ファイルを作成したフォルダ「C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\Work\Cell_Phone_Drop」に、cdで移動してください。
ここで、「./post.bat」で、可視化用ファイルを変換します。変換ですが処理に時間が必要で、Corei9-13980HX逐次処理で58分待ちました。
ParaViewでの解析結果の可視化
ここで準備したVTKファイルは、可視化ツールParaViewで確認することができます。以下のサイトからダウンロードして、Windowsのインストールファイルの指示に従って導入しておいてください。なおバージョンの指定などはありません。執筆時点の最新版ならば「ParaView-6.0.1-Windows-Python3.12-msvc2017-AMD64.msi」を利用します。
https://www.paraview.org/download/
まずParaViewを起動したら、例題フォルダ「C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\Work\Cell_Phone_Drop」の「Cell_Phone_DropA..vtk」を選択して読み込んだら、「Apply」ボタンから可視化します。詳しい手順は、本資料で参考にしている以下のQiitaページ「だいたい100分ではじめるOpenRadiossチュートリアル」を見てください。
OpenRadiossのGUI実行ツール
次は、OpenRadioss付属のGUI実行ツールを用いて実行してみます。この手順でインストールしたOpenRadioss(C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\OpenRadioss)には、「openradioss_gui」の中に解析実行用のGUIツールがあって、「OpenRadioss_gui.bat」で起動します。これをダブルクリックで起動します。セキュリティの警告は大丈夫なので、「実行」します。
起動したGUIツールを用いて、例題「Cell_Phone_Drop」を設定し実行します。
・大きな枠の右のボタンから、「C:\DEXCS\OpenRadioss_win64\Work\Cell_Phone_Drop」にあるOpenRadiossの設定ファイル「Cell_Phone_Drop_0000.rad」を選択します。
・左下の「-nt」は、OpenMPの共有メモリ並列の設定なので、解析するマシンのCPUのコア数を設定します。ここでは8にします。
・解析結果のアニメーションファイルをVTKに変換したいので、「Run Options」押して、「Anim - vtk」を選択して設定します。
・これで解析実行できるので、「Add Job」ボタンを押します。確認には「OK」で進めます。
解析が実行されると、「Cell_Phone_Drop」のログパネルが表示され、ステップ毎の解析のログが表示されます。タスクマネージャーで見ると8コアで、解析が実行される様子が確認できます。続いて、Anim-vtkツールより、アニメーションファイルの可視化が行われ、これも8コアで実行されます。
この実行では8並列で処理が進むので、解析に3分、変換に8分でした。