はじめに
論文を読むことは、学術研究だけでなく、多くの職種で求められる重要なスキルです。しかし、効率的な論文読みの方法を体系的に学ぶ機会が少なかったり、業務で求められる論文の探索や要約の技術を知らなかったりすると、大切な情報を見落としかねません。特に、学生時代に研究を深く経験できなかった人にとっては、専門文献へのアプローチがなおさら困難です。
私は株式会社エル・ティー・エスのデータ分析事業部に所属しており、毎週”ランチ論文会”というイベントが実施されます。この会では、各自が興味のある分野の論文を持ち寄り、それぞれの内容を紹介し合います。この記事では、私たちが論文を調査する中で蓄積した論文読みのナレッジをもとに、論文を効率的に読み解くための実践的な方法を紹介します。
皆さんがこの記事を通じて、論文調査のスキルを向上させ、自分の業務や研究に役立つ知識を得られることを願っています。
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目次
論文の探し方
論文は膨大な量が存在するため、闇雲に探してもなかなか読みたい論文に辿り着きません。そこで、目的の論文を探し出すための2ステップを紹介します。
1. キーワード選定
研究トピックに基づいて、関連するキーワードやフレーズをリストアップします。特に、特定の分野でよく使われるキーワードは、論文を絞り込むのに役立ちます。例えば、私は大学時代に生物の利き手の研究をしていたのですが、”laterality(左右性)”という単語を使うことで、目的の論文にグッとアクセスしやすくなりました。
2. 論文検索ツールの利用
論文の検索には論文に特化した検索ツールやデータベースを利用することが最適です。一番有名なものだとGoogle Scholarがありますが、状況に応じて最も使いやすいものを選ぶと良いでしょう。
ツール名 | アクセス | 主な内容 | 特徴 |
---|---|---|---|
Google Scholar | 無料(一部有料文献あり) | 論文、学位論文、書籍、会議のプロシーディングス | 広範な学術資料へのアクセス、直感的なインターフェース |
PubMed | 無料(一部文献は有料アクセス) | 医学、生命科学分野の研究論文 | 臨床研究や生物医学の情報を広範に提供、多くの文献がフルテキストで無料 |
CiNii | 無料(一部有料文献あり) | 日本国内の学術論文、研究報告書 | 国内学術論文の豊富なデータベース |
J-STAGE | 無料(一部有料文献あり) | 日本の科学技術研究論文、学会誌 | 国内外の研究論文にアクセス可能 |
💡 Consensus GPT|Google Scholarのチャットbot版
Consensus GPTは、ユーザーが質問を入力するだけで、関連する論文から重要な情報を抽出し、その要約や回答を提供します。
💡 Connected papers|関連性の高い論文やインパクトの大きな先行研究の繋がりが一目でわかる
Connected Papersは、一つの論文から出発して関連論文を視覚的に探索できるツールです。基準となる論文を入力すると、その引用論文、被引用論文、関連論文がグラフ形式で表示されます。グラフは論文間の関係や引用パターンを一目で把握でき、主要な影響力を持つ論文を特定しやすくします。また、論文のインパクトは色の濃さで可視化されます。
論文の読み方
関連する論文を見つけたら、次はその論文をいかに効果的に読むかが重要になります。論文は情報量が多く、専門的な知識を要するため、効率的な読み方を身につけることが必要です。ここでは、論文を読む際に役立つ3つのステップを紹介します。
1. アブストラクトのチェック
論文のアブストラクトは、研究の目的、方法論、主な結果、結論を簡潔にまとめたものです。アブストラクトを読んで、論文が自分の研究トピックに関連しているかを判断し、論文全体を読む価値があるかを初期判断します。
2. 重要情報の抽出
論文を読む際には、以下のポイントに注意して重要な情報を抽出します。
- 研究方法: 研究がどのように実施されたか、使用された具体的な技術や手法は何か。
- 結果: 研究で得られた主な発見やデータ。
- 結論と議論: 著者がどのような結論に達したか、そしてその結論が持つ意味や影響。
💡 ChatPDF|チャット形式でPDFを要約
ChatPDFは、PDF文書を効率的に解析し、要約を提供するツールです。ユーザーはPDFファイルをアップロードするだけで、内容がチャット形式で要約され、重要な情報が抽出されます。これにより、文書の全体的な理解が速やかに得られるため、時間の節約にも繋がります。
3. 英語論文の翻訳
💡 Readable|形式を崩さずにPDFを翻訳
Readableは、PDFファイルを翻訳しフォーマットを保持するツールです。ユーザーがPDFをアップロードして希望する言語に翻訳でき、レイアウトや画像もそのまま保持します。異なる言語の文書を扱う際に役立ちます。
💡 DeepL|無料でPDFを翻訳
DeepLは、高度な翻訳技術を提供し、文脈を理解した自然で正確な翻訳が特徴です。多言語対応で、ビジネス文書、学術論文、日常会話など幅広いテキストに対応します。
論文のまとめ方
論文から得られる情報を効率的に活用するためには、整理と評価が重要です。このプロセスでは、収集した情報を体系的に管理し、その信頼性と価値を判断します。ここでは、情報を整理し評価するための3つの主要ステップを紹介します。
1. 情報の整理
情報を整理する最初のステップは、読んだ論文の要点をまとめ、それらをアクセスしやすい形式で保存することです。これには以下の方法が有効です。
- デジタルノートの活用: Notion、Excelのようなツールを使って、読んだ論文のサマリー、カテゴリ、重要な引用、自身の考察を記録します。
- 文献管理ツールの使用: 必要な文献や資料を一箇所に集約し、整理することができます。これにより、必要な文献を迅速に見つけ出し、アクセスすることが容易になります。代表的な管理ツールをまとめましたので、ご自身の状況にあったツールをご利用ください。
ツール名 | 費用 | 個人利用における特徴 |
---|---|---|
Mendeley | 基本無料、高度な機能はプレミアムプランが必要 | ・強力な文献管理機能 ・PDFの注釈付け ・引用情報の自動取得 ・モバイルアプリ利用可能 |
Zotero | 完全無料 | ・シンプルでカスタマイズ可能 ・引用スタイルのカスタマイズが可能 ・モバイル向けに最適化されたウェブサイト利用 |
Paperpile | 有料(フリートライアルあり) | ・クラウドベースの文献管理 ・Google Docsとの統合 ・ブラウザ拡張機能利用 |
とはいえ、どのツールが合っているかわからないという場合は、以下のような記事を参考にすると良いかもしれません。
2. 知見の共有
最後に、情報を整理した後は組織に共有してみましょう。得られた知識を共有することで、組織内のナレッジベースを強化し、同時に自身の興味関心を組織内にアピールできます。
おまけ
ここまで論文の探し方、読み方、まとめ方を紹介してきました。最後にデータ分析事業部の取り組みについて紹介いたします。最後までお読みいただきありがとうございました。
1. Qiitaへの投稿
実際にデータ分析事業のメンバーが論文をまとめて投稿しております。Qiitaで記事をまとめる際のテンプレートとしてもご活用ください。
論文メモ:医療系生成AIプロダクトに対するUX調査 - Qiita
水処理プラントにおけるAI技術の活用について - Qiita
強化学習の困難と解決に向けた研究の方向性〜強化学習と生成系モデルの融合〜 - Qiita
2. ビジネスメディアCLOVER Lightへの掲載
LTSグループのオウンドメディア”CLOVER Light”にて、データ分析事業部の記事がされております。
LTSと花王 生成AIの活用をテーマにハッカソンを共催 | CLOVER Light
サプライチェーン・洪水・衛星データが起こしたイノベーション NEDO Supply Chain Data Challenge 受賞インタビュー | CLOVER Light