この記事は、「レガシー」を保守したり、刷新したりするにあたり得られた知見・ノウハウ・苦労話 by Works Human Intelligence Advent Calendar 2025 17日目の記事です。
はじめに
最近、副業案件で Excel運用について相談を受けることが増えました。1
現場で当たり前に使われてきた Excel を、これからどう位置づけるか。
見直していく中で整理できたことがあるので、考え方としてまとめます。
正解を断言する記事ではなく、「こう棲み分けると揉めにくい」という提案として読んでもらえたら嬉しいです。
まずは結論から
Excelは便利。
だからこそ “何でもExcel” にすると壊れる。2
でも「Excel禁止」に振り切る必要もない。3
- 活Excel:入力しやすい/見やすい/配れる/手元で検討できる
- 脱Excel:正(台帳)・重要ロジック・履歴/監査をExcelに背負わせない4
つまり・・・
この棲み分けで、脱Excelと活Excelはちゃんと共存できます。
ここで言う “正" は、最終的に参照される公式データが1つに決まっている状態(Single Source of Truth) のことです。
1. 「脱Excel」 と 「活Excel」が揉める理由
揉めるポイントは、だいたいここです。
どっちも正しい。
ただ、議論が噛み合ってないことが多いのです。
Excelを“道具”として使う話 と、
Excelを“システムの中核”に置く話 が混ざってる。
この視点、本当に大事です。
2. Excelに「背負わせる」と危険なもの(3つ)
ここが分水嶺です。
2.1 正(Single Source of Truth)
「どの値が正しいの?」がExcelにある状態。
コピー増殖・メール添付・フォルダ分岐で、すぐに “正が複数” になります。
2.2 重要ロジック(計算・判定・ルール)
計算式が各ファイルに散って、いつの間にかロジックが分岐します。
「この列の式、誰が直した?」が追えなくなる。
2.3 履歴・監査・権限・承認フロー
「いつ・誰が・何を・なぜ変更したか」をExcelで担保するのはつらい。
(できなくはないけど、Excelの得意領域ではない)
3. 逆に、Excelが“めちゃ強い”領域(活Excel)
Excelを捨てなくていい理由はこっち。
- 入力UIとして強い(現場が速い、学習コスト低い)
- 表示・レポート・配布が速い
- 手元での試算・検討が速い(仮説→検証の回転)
- その場でフィルタ・並び替え・軽い集計ができる
だから“最後の1m”に置くと最強になります。
“Excelを最後の1mに置く” とは、人が触る部分(入力・確認・配布・手元分析)だけExcelに任せ、公式データや重要ロジックは別の場所に置く という棲み分けを指します。
4. 共存の基本形:「一方向に流す」
棲み分けの基本はこれ。
- Excel →(取り込み)→ 正(DB/サービス)
- 正(DB/サービス)→(エクスポート)→ Excel
ポイントは 双方向同期しない こと。5
双方向同期は、ほぼ確実に「衝突」「上書き」「誰が正」問題を連れてきます。
5. ルール(これだけ守ると現実的に回る)
運用ルールは難しくしないのが大事。おすすめはこのへん。
- 正は1つ(Excelは“写し”・“入力フォーム”・“レポート”)
- 更新は一方向(Excel→登録、または DB→出力)
- 重要ロジックは外に出す(Excelは表示・軽い集計まで)
- 入力は型と検証を必ず付ける(必須/範囲/辞書/形式)
- 取り込みは“機械が読める形”に整える(CSV/API、列名固定)
- エラーはExcel側に返す(何行目が何でNGか)
- ファイル配布は“成果物”扱い(正じゃない前提を徹底)
- 辞書(マスタ)は一箇所(選択肢はマスタから供給)
6. よくある失敗と解決策
失敗1:ファイルが増えて正が分からない
解決策
正は外(DB/サービス)。Excelは成果物・入力フォーム扱いにする。
失敗2:式が育ってブラックボックス化
解決策
重要ロジックは外に出す。Excelは“表示・軽い集計”に寄せる。
失敗3:入力ミスが多くて取り込み事故る
解決策
必須/辞書/日付などの検証をExcel側に置き、エラーを返せる形にする。
まとめ
脱Excelと活Excelは意外と対立しない。
「Excelを使うか/使わないか」じゃなくて・・
Excelに何を“やらせるか”を決める
これが本質。
Excelは“使う”。でも“背負わせない”。
この前提で設計すると、現場の速度も、システムの健全性も両取りできそうです。
もちろんこれがすべてではないですが、最近そんなこと改めて思うことが多いので考えを整理してみました。
参考記事
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相談の入口は「DXのためにクラウド化したい」「AI活用の前提としてデータを整えたい」といった話が多いです。ただ、内容を精査すると、そこまで大げさにしなくても “Excelの役割分担(正・ロジック・履歴を背負わせない)” を整理するだけで十分に改善できるケースも少なくありません。 ↩
-
典型例は「ファイルが増えて正が分からない」「式が分岐してロジックが追えない」「変更履歴や承認が担保できない」といった“運用破綻”です。 ↩
-
ここで言う「禁止」は、Excelの利用そのものを断つという意味ではなく、「正(台帳)や重要ロジックまでExcelに背負わせる運用をやめる」という文脈です。 ↩
-
ここで言う重要ロジックは、金額計算・締め日判定・在庫引当・権限による承認可否など、「間違うと事故になる判定/計算」を指します。 ↩
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双方向同期は、競合解決(どちらが正か)の設計が必要になり、現場運用だと“手作業の調停”に戻りやすいです。 ↩







