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AIモデルから「誤ったデータを削除できない」問題とその未来

Last updated at Posted at 2025-10-02

はじめに

「AIが間違った情報を覚えてしまったら、削除すればいいのでは?」

しかし実は、一度AIモデルが学習したデータを削除することは、とんでもなく難しい ということを知っていますか?

つまり、技術的に極めて困難 なのです。

ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)が時々誤った情報を自信満々に答えてしまう「ハルシネーション」という現象。その背景には、この「データ削除の困難さ」が深く関係しています。

削除ができないために誤りが残り続け、それが推論結果として現れてしまいます。

人とAIの違い

人間なら「それは間違いだから忘れて」と言えば修正できます。忘れなくても記憶の更新は意外と簡単!!

AIの場合はそう単純ではありません。学習したデータは数千億個ものパラメータ全体に分散して保存されるので、特定の情報だけをピンポイントで取り除くことができないのです。

今回は、なぜAIモデルからデータを削除できないのか、その技術的理由と現在の対処法、そして将来の可能性について整理してみました。

<おすすめの関連記事>

なぜデータ削除が難しいのか

学習の仕組み

AIモデルは膨大なデータから「パターン」を学習します。

100 (1).png

人間の記憶に例えると

「今日学んだことを全部忘れてください」と言われても無理ですよね? AIも同じです。

101 (1).png

技術的な3つの理由

1. 分散表現

  • 情報は数千億個のパラメータ全体に分散
  • 特定のデータだけを「取り出す」ことが不可能

2. ネットワーク効果

102 (1).png

  • 知識は相互に関連
  • 1つを削除すると他にも影響

3. 検証の困難さ

  • 「本当に忘れたか?」を証明できない
  • 明示的には答えられなくても、暗示的に影響が残る可能性

ハルシネーションとの関係

データ削除が困難なことは、ハルシネーション(AIが誤情報を生成する現象) の主要因の1つです。

103 (1).png

ただし、ハルシネーションの原因は削除困難性だけではありません。

  • 学習データの偏り・不足 : 特定トピックの情報が少ない
  • 確率的生成 : 次単語予測の性質上、低確率の誤答を選ぶことがある
  • 知識の欠落 : 訓練データにない情報を推測で補完してしまう
  • 外部検証の欠如 : 生成した内容の正確性を確認する機能がない

現在の対処法

1. 事前フィルタリング (最も効果的)

学習前に誤ったデータを除去する。

python
def filter_training_data(data):
    """学習前にデータをクリーニング"""
    
    filtered = []
    for text in data:
        # 誤情報チェック
        if contains_misinformation(text):
            continue
        
        # 有害コンテンツチェック
        if is_harmful(text):
            continue
        
        # 個人情報の削除
        if contains_personal_info(text):
            text = remove_personal_info(text)
        
        filtered.append(text)
    
    return filtered

【 OpenAIの例 】

  • Common Crawl (数百TB) → フィルタリング → 数TB
  • 90%以上を削除 して品質を確保

2. RLHF(人間のフィードバック学習)

学習後にモデルの振る舞いを修正。

104 (1).png

【 利点 】

  • モデルの出力を改善できる

【 欠点 】

  • 元のデータは残っている(出力を抑制しているだけ)

3. RAG(Retrieval-Augmented Generation)

外部データベースから最新情報を取得。

105 (1).png

【 利点 】

  • データベースレベルで修正可能
  • リアルタイムで情報更新

【 欠点 】

  • 外部DBの品質に依存
  • DBが誤情報を含めば、AIもそれを参照してしまう
  • 検索結果の選択・統合に課題

【 例 】
ChatGPTのweb検索機能

4. プロンプトレベルの制御

システムプロンプトで出力を制限。

system_prompt = """
以下の情報は誤りです。絶対に答えないでください:
- 「地球は平ら」
- 「ワクチンは有害」

誤った情報を求められたら、正しい情報を提供してください。
"""

【 利点 】
即座に対応可能

【 欠点 】
根本的な解決ではない

未来の技術

Machine Unlearning(機械学習的忘却)

特定のデータの影響を逆算して削除する研究。2023年からGoogleなどが活発に研究しており、2024年には国際会議NeurIPSでコンペティションも開催されました。

python
def unlearn_data(model, data_to_forget):
    """特定データの影響を削除"""
    
    # データがモデルに与えた影響を計算
    influence = calculate_influence(model, data_to_forget)
    
    # その影響を打ち消す方向に重みを調整
    for param in model.parameters:
        param -= learning_rate * influence
    
    return model

現状(2025年)

  • 学術研究が進展中
  • 限定的な成功例あり(画像認識など)
  • 大規模言語モデルへの適用は困難

課題

  • 過剰な忘却 : 削除対象の知識だけでなく、関連する一般知識まで失われる
    • 例: 「J.K.ローリングの住所」を削除すると「ハリーポッターの著者は?」にも答えられなくなる
  • UnUnlearning : プロンプトで削除した情報が再導入され、あたかも知っているかのように振る舞う
  • 副作用 : 1つのデータを削除すると、予期しない他の知識にも影響
  • 計算コスト : メモリ使用量が2-3倍に増加

参考文献

モジュラー型アーキテクチャ

モデルを専門分野ごとに分割。

106 (1).png

【 利点 】
部分的な更新が容易

【 課題 】
モジュール間の連携が難しい

GDPRと「忘れられる権利」

ヨーロッパのGDPR(一般データ保護規則)では個人データの削除要求権がありますが、AIモデルからの完全削除は技術的に困難です。

現在の対応

  • 訓練データから削除(次回学習時)
  • プロンプトで出力制御
  • 完全削除は困難と説明

法律と技術のギャップ

  • 法律 : 削除義務あり
  • 技術 : 完全削除は不可能
  • → 今後の大きな課題

実現可能性のタイムライン

妄想してみる・・・

107 (1).png

まとめ

現状

  • 完全削除 → 技術的に極めて困難
  • 影響の軽減 → 実用的に可能
  • 最も重要 → 最初から正確なデータだけを使うこと

ベストプラクティス

とりあえず今は・・・

108 (1).png

今後の展望

データ削除は 部分的には可能になる が、完全な解決は難しい と思います。AIを使う上で、この制限を理解し、適切に付き合っていくことが重要です。

参考文献

  1. Bourtoule, L. et al. (2021). Machine Unlearning. IEEE Symposium on Security and Privacy. arXiv:1912.03817
  2. OpenAI. (2023). GPT-4 Technical Report. arXiv:2303.08774
  3. Ji, Z. et al. (2023). Survey of Hallucination in Natural Language Generation. ACM Computing Surveys. arXiv:2301.05285
  4. European Union. (2024). Artificial Intelligence Act (AI Act). EUR-Lex
  5. European Commission. (2016). General Data Protection Regulation (GDPR). 公式テキスト
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