0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

AX(AI変革)の現在地は、一枚の「色塗り地図」でわかる — SI企業で実際に描いてみた | 代表取締役社長 ヴー・ビック・ゴック

0
Posted at

syp-ceo-ax-thumbnail-804x528.jpg

前回のqiitaでは、「AIを導入すること」と「AIで仕事を変えること」の違いについて書きました。お読みいただき、ありがとうございました。

今回はその続きです。テーマは、経営者として次にぶつかった問いです。

「うちの会社のAI変革(AX)は、いったいどこまで進んでいるのか?」

恥ずかしながら、私はこの問いに即答できませんでした。社内プロジェクトの約9割で生成AIを活用している(社内実績です)。社内AIエージェントも動き始めた。それなのに、「全社として、どこが進んでいて、どこが手つかずなのか」を一枚で説明できなかったのです。

全体像が見えなければ、次にどこへ投資するかも決めにくくなります。そこで私たちは、会社全体のAXを一枚の地図にして、色を塗ることにしました。

「AX」とは何か — DXとの違いを一言で

AX(AI Transformation)という言葉を、私たちはこう定義しています。

AIを前提に、お客様への価値提供の仕組み全体を組み替えること。

ポイントは「全体」です。コーディングにAIを使う、議事録の作成をAIに支援してもらう。どちらも有効ですが、それだけでは会社全体の変革は見えません。SI企業であれば、提案・見積から要件分析、設計、実装、テスト、保守・運用までのバリューストリーム全体と、それを支える人・データ・組織の仕組みまで含めて、初めて「変革」と呼べると考えています。

DXが「デジタルを前提に業務を組み替えること」だったとすれば、AXは「AIが働き手の一員であることを前提に、仕事の分担と流れを組み替えること」です。

一枚の地図 — 4つの層で会社を描く

私たちが描いた地図は、下から上へ4つの層でできています。

第1層:土台(人・組織・ガバナンス)
職種ごとの標準的な役割と能力の定義、組織構成、そしてAI利用のポリシー(セキュリティ・知的財産・顧客データの扱い)。地味ですが、ここが弱いまま上を積むと、どこかで必ず止まります。

第2層:イネーブラー(変革を支える基盤)
社内のデータ・ナレッジ基盤(過去の設計資産、テスト資産、プロジェクトの教訓——AIの「燃料」になるもの)、人材育成の仕組み、そして業務を支えるAIエージェント群。

第3層:バリューストリーム(価値を生む工程)
SIの仕事の流れそのもの。提案・見積 → 要件分析 → 設計 → 実装 → テスト → 保守・運用。この工程一つひとつが、AXの「塗る対象」です。

第4層:アウトカム(お客様への価値)
速く・良く・適正なコストで。最終的にここに効いていなければ、どんなAI活用も自己満足です。

この4層に主要な活動を配置すると、A4一枚で見渡せる「会社の全体図」ができあがります。

image.png

図:SY Partnersで使用しているAXマップのイメージ。各マスを「未着手」「取り組み中」「定着・成果確認」の3段階で可視化します。

色を塗る — そして、青く塗る基準を決める

次に、各マスを3色で塗ります。

  • 白: 未着手、または状況を確認できていない
  • オレンジ: 取り組み中
  • 青: 定着し、数字で成果を確認できている

ここで一つだけ、厳しいルールを決めました。

数字で変化を確認できないマスは、青く塗らない。

AIの世界は「やっている感」が出やすい世界です。デモは動く、現場は忙しい、だから進んでいる気がする。でも、生産性・品質・リードタイム・コストのどれかで変化を示せないなら、それはまだオレンジです。どの指標を見るかは工程ごとに異なります。それでも、評価方法を先に決めたことで、地図はずいぶん正直なものになりました。

image.png
図:数字で変化を確認できるまでは、オレンジのまま。青になったマスも、使われなくなればオレンジに戻します。

塗ってみて分かった、3つのこと

出来上がった地図を眺めて、経営者として考えさせられたことが3つあります。

1. AIが得意な場所と、会社のボトルネックは必ずしも同じではない。
私たちの地図で真っ先に青くなったのは実装(コーディング)でした。生成AIが最も得意な領域ですから当然です。しかし私たちの案件を振り返ると、納期と品質を大きく左右しているのは、実は設計とテストです。そして、その2つはまだオレンジでした。「AIが得意なところ」から塗っていくと、「会社として一番効くところ」が後回しになる——地図にして初めて、この偏りが見えました。

2. エージェントより先に、「燃料」がいる。
AIエージェントは、参照できる社内のデータとナレッジの質で賢さが決まります。過去の設計資産や教訓が整理されていなければ、どんなに立派なエージェントも一般論しか話せません。地図の上では、エージェントのマスより先に、データ・ナレッジ基盤のマスを塗るべきでした。派手な方から手を付けたくなる誘惑に、地図がブレーキをかけてくれます。

3. ガバナンスは「制約」ではなく「拡張の条件」。
日本のお客様のシステムを預かる会社として、顧客データ・知的財産の扱いを決めずにAI活用を広げることはできません。逆に言えば、ポリシーと統制を先に固めるほど、安心して適用範囲を広げられる。ガバナンスのマスは、ブレーキではなくアクセルの一部だと考えるようになりました。

地図は、経営の言葉になる

この地図の一番の効用は、経営会議の議論が変わったことです。

「AIをもっと活用しよう」という漠然とした話が、「どのマスを、どの順番で青にしていくか」という具体的な話になりました。色の分布は、そのまま投資の優先順位の議論になります。順番の原則も決まりました——土台を安全な水準まで固め、ボトルネックの工程(私たちの場合は設計とテスト)を優先し、並行して「燃料」となるナレッジ基盤を育てる。

image.png
図:真っ先に青くなったのは実装。しかし納期と品質を大きく左右するのは設計とテストでした。

そして地図は、更新するたびに進捗報告にもなります。先月オレンジだったマスが青くなった——これほど分かりやすい報告はありません。

地図は「完成品」ではなく、定期的に更新する

この地図は、一度作って終わりではありません。私たちは、各マスの責任者、評価指標、次に確認する時期を決め、定期的に見直すことにしました。

青になったマスも、利用されなくなったり、品質が下がったりすればオレンジに戻します。色をよく見せることより、現在地を正しく共有することの方が大切です。

自社の地図を描いてみたい方へ

特別なツールは要りません。スライド1枚に自社の価値の流れと支える仕組みを並べ、3色で塗るだけです。始めるための問いは3つです。

  1. 自社の価値は、どの工程の連なりで生まれているか?(塗る対象を決める)
  2. 各マスを「青」と言い切れる数字はあるか?(正直に塗る)
  3. まだ青くないマスのうち、お客様への価値に一番効くのはどれか?(塗る順番を決める)

描いてみると、青く塗れるマスの少なさに驚くと思います。私たちもそうでした。でも、現在地が正直に見えることこそが前進です。見えていない課題は、永遠に塗り替えられないのですから。

弊社の地図も、青く塗れたマスはまだ一つだけです。これから一マスずつ青にしていく過程を、またこの場で共有していきます。同じ挑戦をしている経営者・推進担当の方と、ぜひ情報交換できれば嬉しいです。


前回の記事:「AIを導入する」と「AIで仕事を変える」は違う

現場の技術的な学びは、副社長グエン・ディン・バーの連載(#1 「出典のない回答」は使われない)で公開しています。

SY Partners / 代表取締役社長 ヴー・ビック・ゴック(Vu Thi Bich Ngoc) 公式サイト

0
0
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?