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Google: AlphaEvolve - Gemini を活用した次世代アルゴリズム設計について

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AlphaEvolve: A Gemini-powered coding agent for designing advanced algorithms
https://deepmind.google/discover/blog/alphaevolve-a-gemini-powered-coding-agent-for-designing-advanced-algorithms/

Google DeepMindが発表したAlphaEvolveは、大規模言語モデル(LLM)の創造性と進化的アルゴリズムの力を融合させた、革新的なコーディングエージェントです。この記事では、AlphaEvolveがどのようにして複雑な科学的問題の解決や、既存システムの最適化に貢献するのか、その仕組みから具体的な応用例までを、学部生(非コンピュータサイエンス専攻)にも分かりやすく解説します。

目次


パート1:AlphaEvolveとは何か?

このパートでは、AlphaEvolveがどのような技術であり、何を目指しているのか、その基本的な概念とコアとなる技術要素について解説します。

第1章:AlphaEvolveの概要とコア技術

AlphaEvolveは、単なるコード生成ツールではありません。それは、まるで経験豊富なプログラマーチームのように、自律的にアルゴリズムを改善し、新たな発見をもたらす可能性を秘めたエージェントです。

LLMと進化的探索の融合

AlphaEvolveの核心は、最先端のLLM(具体的にはGoogleのGeminiモデル群)が持つ創造的な問題解決能力と、生物の進化に着想を得た進化的探索というアプローチを組み合わせている点にあります。

  • LLMの役割: 新しいアルゴリズムのアイデアをコードとして提案します。これは、既存のコードに対する変更案という形で行われます。
  • 進化的探索の役割: LLMが提案した多数のコード変更案を評価し、有望なものだけを選び出して次の世代の改善に繋げます。この試行錯誤のサイクルを繰り返すことで、アルゴリズムは徐々に洗練されていきます。

このプロセスは、人間が新しいアルゴリズムを考案する際の思考プロセスに似ていると言えるかもしれません。多くのアイデアを出し、それらを検証し、有望なものをさらに発展させていく、という流れです。AlphaEvolveは、このプロセスを自動化し、人間では思いつかないような解決策や、膨大な時間を要する最適化を可能にします。

上の図は、AlphaEvolveの基本的な動作概要を示しています。ユーザーが課題を設定すると、AlphaEvolveエージェント内の各コンポーネントが連携し、アルゴリズムを反復的に改善していきます。

FunSearchからの進化

AlphaEvolveは、Google DeepMindが以前に発表したFunSearchというシステムの延長線上にありますが、いくつかの重要な点で大幅な進化を遂げています。

特徴 FunSearch AlphaEvolve
進化対象 単一のPython関数 コードベース全体(複数ファイル、複数関数、任意のプログラミング言語)
コード行数 最大10-20行 最大数百行
対応言語 Python 任意言語
評価時間 高速(1CPUで20分以内) 数時間かかる評価も並列実行可能(アクセラレータ使用)
LLMサンプル数 数百万 数千で十分
LLMの種類 小規模LLM(大規模化の恩恵なし) SOTA LLM(Gemini Flash & Pro)の恩恵を受ける
プロンプトのコンテキスト 最小限(以前の解のみ) 豊富(過去の試行、アイデア、フィードバック)
最適化目標 単一の評価指標 複数の評価指標を同時に最適化可能

FunSearchは、主に数学的な対象やオンラインアルゴリズムのヒューリスティクスを発見するために、LLM誘導型の進化を用いるシステムでした。これに対し、AlphaEvolveは、より大規模で複雑なアルゴリズムを扱うことができ、その適用範囲も格段に広がっています。特に、コードベース全体を進化の対象とすることで、複数の関数やコンポーネントにまたがる複雑なアルゴリズムの改善が可能になりました。

タスク定義と評価

AlphaEvolveを利用する最初のステップは、ユーザーによるタスクの定義です。これには以下の要素が含まれます。

  1. 初期プログラム: AlphaEvolveが改善の出発点とするコード。これは非常に基本的なものでも構いません。
  2. 進化させるコードブロックの指定: コード内の特定の部分(例:# EVOLVE-BLOCK-START# EVOLVE-BLOCK-END で囲まれた部分)をAlphaEvolveによる改善対象としてマークします。
  3. 評価関数 (evaluate): 生成されたプログラム(解候補)の良し悪しを自動的に評価するためのメカニズム。この関数は、解を入力として受け取り、スカラー値の評価メトリクスの辞書を返します。AlphaEvolveは、このメトリクスが最大化されるように動作します。

評価関数は、単純なもの(例:グラフのサイズを返す)から、複雑なもの(例:機械学習モデルの学習と評価を行う)まで様々です。この自動評価メカニズムが、AlphaEvolveが誤った提案を避け、正しい方向に進化するための鍵となります。

プロンプトサンプリング

AlphaEvolveは、SOTA LLMの能力を最大限に引き出すために、非常にリッチなコンテキストを持つプロンプトを生成します。このプロンプトは、プロンプトサンプラーによって構築され、主に以下の要素で構成されます。

  • 過去に発見された解: プログラムデータベースからサンプリングされた、有望ないくつかの解候補。これらはLLMにとっての「お手本」や「着想の元」となります。
  • システム指示: 特定の解をどのように変更すべきかに関する指示。
  • 明示的コンテキスト:
    • 解決しようとしている問題に関する詳細(人間が書いた指示、数式、コードスニペット、関連文献など)。
    • 確率分布に基づいてインスタンス化されるテンプレートプレースホルダー(多様性を高めるため)。
    • 評価結果のレンダリング(プログラム、実行結果、評価スコアなど)。
  • メタプロンプト進化: LLM自身が提案した指示やコンテキスト。これらは解プログラムとは別に進化します。

このように多様な情報を組み合わせることで、LLMはより的確で創造的なコード変更案を生成することができます。

創造的コード生成とLLMアンサンブル

プロンプトを受け取ったLLMは、その情報に基づいて新しい、多様な改善案を提案します。AlphaEvolveは特定のLLMに依存しませんが、より高性能なLLMを用いるほど、成果も向上する傾向にあります。

AlphaEvolveでは、Gemini 2.0 FlashGemini 2.0 Pro という2つのLLMを組み合わせたアンサンブルアプローチを採用しています。

  • Gemini 2.0 Flash: 低レイテンシで高速なため、より多くの候補を生成し、探索の幅を広げます(アイデアの量)。
  • Gemini 2.0 Pro: より高度な能力を持つため、時折、進化の探索を大幅に前進させ、ブレークスルーに繋がる可能性のある高品質な提案を行います(アイデアの質)。

この戦略的な組み合わせにより、評価されるアイデアの量を最大化しつつ、より強力なモデルによる大幅な改善の可能性も維持することで、発見プロセス全体を最適化します。

LLMからの出力は、多くの場合、以下のような特定のdiffブロックのシーケンスとして要求されます。

<<<<<<< SEARCH
# 変更前のオリジナルコードブロック
=======
# オリジナルコードブロックを置き換える新しいコードブロック
>>>>>>> REPLACE

これにより、コードベースの特定の部分をターゲットにした更新が可能になります。非常に短いコードや全面的な書き換えが適切な場合は、LLMにdiff形式ではなくコードブロック全体を直接出力させることも可能です。

進化の原動力:評価とデータベース

LLMによって提案された新しい解は、自動的に評価されます。基本的にはユーザーが提供した評価関数hを実行するだけですが、AlphaEvolveは評価をより柔軟かつ効率的に行うためのオプションメカニズムをサポートしています。

  • 評価カスケード(仮説検定): 難易度が段階的に上がるテストケース群を指定し、初期段階で有望な結果を示した解のみが次のステージで評価されます。これにより、有望でない解を早期に除外できます。
  • LLMによるフィードバック: 評価関数hでは捉えにくい特性(例:発見されたプログラムの単純さ)を、別のLLMコールで評価し、進化の方向付けに利用したり、基準を満たさない解を破棄したりします。
  • 並列評価: 個々の評価に時間がかかる場合でも、多数の評価を並列実行することで、新しい世代の出現速度の低下を防ぎます。

評価結果(スコアやプログラム出力)が付与された解は、進化的データベースに保存されます。このデータベースの主な目的は、将来の世代で過去に探索されたアイデアを最適に再浮上させることです。重要なのは、探索(Exploration)と活用(Exploitation)のバランスを取り、最良のプログラムを継続的に改善しつつ、多様性を維持して探索空間全体の探索を促すことです。AlphaEvolveの進化的データベースは、MAP-Elitesアルゴリズムと島ベースの集団モデルの組み合わせに触発されたアルゴリズムを実装しています。

分散処理パイプライン

AlphaEvolveは、Pythonのasyncioライブラリを用いた非同期計算パイプラインとして実装されています。多くの計算が並行して実行され、各計算は、まだ完了していない別の計算の結果に依存する場合、その完了を待ちます(ブロッキング)。

具体的には、この非同期パイプラインは、コントローラーLLMサンプラー、および評価ノードで構成されます。パイプライン全体は、特定の計算予算内で提案・評価されるアイデアの数を最大化するために、スループット(個々の計算速度ではなく)が最適化されています。


パート2:AlphaEvolveの驚くべき成果

理論だけでなく、AlphaEvolveは既に目覚ましい成果を上げています。Google社内の重要なインフラストラクチャの最適化から、長年の数学の未解決問題の進展まで、その応用範囲は広大です。

第2章:Googleのコンピューティングエコシステム最適化

AlphaEvolveは、Googleのミッションクリティカルなインフラストラクチャのパフォーマンス向上と、実世界へのインパクト提供に活用されています。

データセンターのスケジューリング効率向上 📊

Googleの巨大なデータセンターでは、膨大な数の計算ジョブを効率的にマシンに割り当てる必要があり、これはBorgというクラスタ管理システムによって調整されています。非効率な割り当ては、リソースの浪費(例:メモリは枯渇したがCPUは余っている状態)に繋がります。

AlphaEvolveの初期バージョンは、既存の生産用ヒューリスティクスを進化させ、非常にシンプルかつ効果的な新しいヒューリスティック関数を発見しました。この関数は、保留中のジョブのCPUとメモリの要求量、および候補マシンのCPUとメモリの空き状況を入力とし、マシンに対する優先度スコアを出力します。

def alpha_evolve_score(required, free):
  cpu_residual = required.cpu / free.cpu
  mem_residual = required.mem / free.mem
  return -1.0 * (cpu_residual + mem_residual + \
                 mem_residual / cpu_residual + \
                 cpu_residual / mem_residual)

この新しいヒューリスティクスは、Google全体のフリートに展開され、シミュレータの結果を裏付ける形で、平均してGoogleのフリート全体の計算リソースの0.7%を継続的に回収しています。これは、同じ計算フットプリントでより多くのジョブを完了できることを意味します。深層強化学習アプローチと比較してAlphaEvolveが選ばれた理由は、パフォーマンスの向上だけでなく、解釈可能性、デバッグ可能性、予測可能性、展開の容易さといった、ミッションクリティカルなシステムにとって不可欠な運用上の利点も提供したためです。

Geminiカーネルエンジニアリングの強化 🧠

Geminiのような大規模モデルの学習には、膨大な計算リソースが必要です。GeminiはJAX上に構築されており、PallasはJAXの拡張機能で、ハードウェアアクセラレータ上での最適な実行に合わせたカスタムの高度に専門化されたプログラム(カーネル)を作成できます。

カーネル最適化の重要な側面は、行列乗算演算のタイリング戦略の調整です。これは、大規模な行列乗算計算をより小さなサブ問題に分割し、計算とデータ移動のバランスを改善することで、全体の計算を高速化する技術です。従来、カーネルエンジニアは、検索ベースの自動チューニングか、手作りのヒューリスティクスに頼っていましたが、これには多くの時間と専門知識が必要でした。

AlphaEvolveは、Geminiの学習に使用される重要な行列乗算カーネルのタイリングヒューリスティクスを最適化するために採用されました。目的は、実際のTPUアクセラレータ上で様々な入力形状に対するカーネルの実行時間を最小化することです。AlphaEvolveは、既存の専門家が設計したヒューリスティクスに対して、カーネル全体で平均23%のカーネル高速化と、それに対応するGemini全体の学習時間1%削減をもたらすヒューリスティクスを発見しました。さらに、カーネル最適化時間を数ヶ月の専門エンジニアの作業から数日の自動実験に大幅に短縮しました。この成果は、GeminiがAlphaEvolveの能力を通じて自身の学習プロセスを最適化するという注目すべき事例でもあります。

ハードウェア回路設計支援 🛠️

GoogleのTensor Processing Units (TPUs)のような専用ハードウェアは、現代のAIシステムを大規模に実行するために不可欠です。しかし、新しいコンピュータチップの設計は複雑で時間のかかるプロセスです。その中でも、レジスタ転送レベル(RTL)最適化は、電力、パフォーマンス、面積といったメトリクスを改善するためにハードウェア記述を手動で書き換える重要なステップであり、高度なスキルを持つエンジニアによる数ヶ月の反復作業を必要とします。

AlphaEvolveは、行列乗算ユニット内の主要なTPU算術回路の、既に高度に最適化されたVerilog実装を最適化するという課題に取り組みました。最適化の目標は、コンポーネントのコア機能を維持しつつ、面積と消費電力の両方を削減することでした。最終的な提案は、変更された回路が機能的正しさを維持することを確認するための堅牢な検証方法に合格する必要があります。AlphaEvolveは、不要なビットを削除する単純なコード書き換えを発見し、これはTPU設計者によって正しさが検証されました。この特定の改善は下流の合成ツールによっても独立して発見されましたが、RTL段階でのAlphaEvolveの貢献は、ソースRTLを改良し、設計フローの早い段階で最適化を提供する能力を示しています。

この改善は、今後のTPUに統合され、AlphaEvolveを介して達成されたGeminiによるTPU算術回路への最初の直接的な貢献となり、将来の貢献への道を開きます。AlphaEvolveの重要な利点は、提案された変更をハードウェアエンジニアが使用する標準言語であるVerilogで直接伝えることで、信頼を育み、採用を簡素化することです。

コンパイラ生成コードの直接最適化 ⚙️

Transformerアーキテクチャは、現代のニューラルネットワークの大部分で使用されており、そのコア計算はFlashAttentionとして実装されることが多いアテンションメカニズムです。Googleのスタックでは、FlashAttentionはPallasのアクセラレータカーネルとして実装され、JAXのより高レベルなコードでラップされています。機械学習コンパイラ(XLA)は、この実装を一連の中間表現(IR)に変換します。これらの段階で、メモリアクセスオーケストレーションや計算スケジューリングに関する改善された決定は、特定のハードウェアでの実行時間を大幅に削減できます。

AlphaEvolveは、FlashAttentionカーネルと前処理・後処理コードをカプセル化するXLA生成IRを直接最適化するという課題に取り組みました。特に、GPUでの推論に使用される影響力の高いTransformerモデルの構成を最適化し、モジュール全体の実行時間を最小化することを目標としました。これは特に困難なタスクでした。なぜなら、(1) IRは開発者による直接編集ではなくデバッグ目的で設計されており、(2) コンパイラによって生成され、既に高度に最適化されているためです。AlphaEvolveによって提案された各変更は、最適化全体を通じて数値的正しさを保証するために、ランダム化された入力で参照(未変更)コードに対してチェックされました。

AlphaEvolveは、IRによって公開される両方の抽象化レベルに対して意味のある最適化を提供することができました。第一に、対象の構成のFlashAttentionカーネルが32%高速化されました。第二に、AlphaEvolveはカーネル入力と出力の前処理と後処理の改善を発見し、この部分で15%の高速化をもたらしました。これらの結果は、AlphaEvolveがコンパイラ生成コードを最適化する能力を示しており、発見された最適化を特定のユースケースのために既存のコンパイラに組み込むか、長期的にはAlphaEvolveをコンパイラワークフロー自体に組み込む可能性を提供します。

第3章:数学とアルゴリズム発見の新たな地平

AlphaEvolveの能力は、実用的なシステムの最適化に留まりません。純粋数学やアルゴリズム理論といった、より抽象的で根源的な領域においても、新たな発見をもたらす可能性を秘めています。

高速行列乗算アルゴリズムの発見 🔢

行列乗算は、コンピュータサイエンスにおける基本的な演算の一つです。1969年のStrassenによる発見以来、2つの行列を乗算するためのより効率的なアルゴリズムの探求が続けられてきました。これらのアルゴリズムは、3Dテンソルをランク1テンソルに分解する形で表現でき、その分解のランク(項の数)が行列積を計算するために必要なスカラー乗算の回数を正確に指定します。

AlphaEvolveは、問題記述と標準的な勾配ベースのアルゴリズム(初期化子、再構成損失関数、Adamオプティマイザを含む)から出発し、既存のアプローチを上回る洗練されたテンソル分解アルゴリズムを開発することができました。特に注目すべきは、2つの4x4複素数値行列の乗算において、48回のスカラー乗算で計算するアルゴリズムを発見したことです。これは、この設定において56年間最良とされてきたStrassenのアルゴリズム(49回の乗算)を初めて改善するものです。

以下の表は、AlphaEvolveが達成した行列乗算のランク(スカラー乗算回数)の一部を示しています。緑色は既存の最良記録を更新したケースです。

(m, n, p) 既知の最良ランク [参照] AlphaEvolve
(2, 4, 5) 33 32
(2, 4, 7) 46 45
(2, 4, 8) 52 51
(2, 5, 6) 48 47
(3, 4, 6) 56 54
(3, 4, 7) 66 63
(4, 4, 4) 49 48
(4, 4, 5) 62 61
(4, 4, 7) 87 85
(4, 4, 8) 98 96
(4, 5, 6) 93 90

(m, n, p) は、m×n行列とn×p行列の積を表します。AlphaEvolveは、(3, 4, 7), (4, 4, 4), (4, 4, 8) のケースで複素数値乗算を用いたアルゴリズムを発見しました。

AlphaEvolveは、初期プログラムに対して大幅な変更を加え、いくつかの独創的なアイデアを導入することで、ますます優れたアルゴリズムを設計しました。これらの変更は非常に非自明であり、進化的プロセスの中で15回の突然変異を必要としました。

様々な数学の未解決問題への挑戦 🧩

AlphaEvolveは、解析学、組み合わせ論、数論、幾何学など、5つ以上の異なる数学分野にまたがる50以上の数学的問題に適用されました。多くの場合、これらの問題は、何らかの尺度に従って最適またはほぼ最適な特性を持つ対象や構成を発見することを含みます。

  • 約75%のケースで、AlphaEvolveは既知の最良の構成を再発見しました。
  • 約20%のケースで、AlphaEvolveはSOTAを凌駕し、以前に知られていた最良の構成よりも優れた新しい対象を発見し、それによってSOTAを改善しました。

これらの成果には以下のようなものが含まれます。

  • エルデシュの最小重複問題 (Erdős's minimum overlap problem): 新しい上限を確立。
  • キッシング数問題 (Kissing number problem): 11次元において、中心の単位球に同時に接触できる593個の重ならない単位球の構成を発見し、以前の記録592を更新。
  • パッキング問題 (Packing problems): N個の点を図形内に配置して最大距離と最小距離の比を最小化する問題や、様々な多角形を他の多角形に最も効率的に詰める問題などで新しい結果を達成。

これらの発見の多くは、外部の数学者から提案された未解決問題に関するものであり、AlphaEvolveのようなAI駆動の発見エンジンと人間の数学的専門知識との相乗的なパートナーシップの可能性を浮き彫りにしています。


パート3:AlphaEvolveの可能性と未来

AlphaEvolveは、その構成要素の有効性と、広範な応用可能性を示唆しています。

第4章:AlphaEvolveを支える要素と関連研究

AlphaEvolveを支える要素:アブレーションスタディ

AlphaEvolveの高性能を支える各コンポーネントの有効性を理解するために、いくつかの要素を無効化した状態での性能比較(アブレーションスタディ)が行われました。対象となったタスクは、行列乗算のためのテンソル分解と、キッシング数の下限計算です。

比較された設定は以下の通りです。

  • Full method: 全てのコンポーネントが有効なAlphaEvolve。
  • No evolution: 進化的アプローチなし(常に同じ初期プログラムをLLMに与える)。
  • No context in the prompt: プロンプトに明示的なコンテキストを追加しない。
  • No meta prompt evolution: メタプロンプトの進化を無効化。
  • No full-file evolution: 単一関数のみを進化させる(テンソル分解タスクのみ)。
  • Small base LLM only: 小規模なベースモデルのみを使用。

結果は、これらの各コンポーネントがAlphaEvolveの性能向上に大きく寄与していることを示しました。つまり、進化的アプローチ、リッチなコンテキスト、メタプロンプト、コードベース全体の進化、そして強力な言語モデルの組み合わせが、AlphaEvolveの成功の鍵となっています。

関連研究とAlphaEvolveの位置づけ

AlphaEvolveは、いくつかの研究分野の流れを汲んでいます。

  • 進化的手法: 遺伝的プログラミングなどの古典的な進化的手法は、手書きの進化オペレータに依存していましたが、AlphaEvolveはLLMを用いてこれらのオペレータの構築を自動化します。
  • 超最適化とアルゴリズム発見: コードの実行フィードバックを用いて初期プログラムを反復的に改善するという点で、コード超最適化の一手法と見なせます。AlphaTensorのような特定問題に特化したシステムとは異なり、より汎用的なアプローチを取ります。
  • 科学的・数学的発見のためのAI: LLMを用いた仮説生成や実験計画などの研究が進んでいますが、AlphaEvolveはプログラム的な仮説表現と評価メトリクスを用いる点で特徴的です。

FunSearchと比較して、AlphaEvolveはコードベース全体、多目的最適化、フロンティアLLMの活用、豊富な自然言語コンテキストとフィードバックといった拡張により、FunSearchでは対応できなかった重要な課題に取り組むことを可能にしています。

第5章:まとめと今後の展望

AlphaEvolveは、最先端のLLMと自動評価メトリクスを進化的フレームワーク内で組み合わせることで、数十年来の数学的問題に新たな発見をもたらし、高度に最適化された計算スタックに実用的な改善を提供できる驚くべき力を実証しました。

AlphaEvolveの主な限界は、自動化された評価者を考案できる問題に対応するという点です。自然科学のような分野では、一部の実験しかシミュレートまたは自動化できません。しかし、LLMによるアイデアの評価も可能であり(AlphaEvolveでも一部許容)、将来的にはこれらのアプローチを組み合わせることで、より広範な問題解決への道が開かれる可能性があります。

AlphaEvolveは、LLMの能力向上、特にコーディング能力の向上と共に、今後も進化し続けると期待されます。Googleは、AlphaEvolveをより広範に利用可能にするための早期アクセスプログラムも計画しており、数学やコンピューティング以外の材料科学、創薬、持続可能性など、さらに多くの分野での変革をもたらす可能性を秘めています。

AlphaEvolveは、AIが人間の知性を拡張し、科学技術の進歩を加速させる未来を垣間見せてくれる、エキサイティングな一歩と言えるでしょう。

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