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IBM: 『モデル選定』だけでAI開発は終わらない。本番運用に耐え、事業価値を生むAIアプリケーションを支える『AIスタック』

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目次


Part 1: AIスタックへの招待

Part 1要約

このパートでは、現代のAI開発が単にモデルを選ぶだけでなく、複数の技術要素を組み合わせた「AIスタック」という概念の理解が不可欠であることを提示します。

Chapter 1: はじめに

Core Message: 優れたAIアプリケーションを構築するには、単一のAIモデルを選ぶだけでは不十分であり、システム全体を支える技術の組み合わせ(スタック)を理解することが重要です。

結論:
単に答えを生成するだけでなく、現実世界の有意義な問題を解決できるAIシステムを構築するためには、「AIスタック」と呼ばれる技術要素群を正しく理解し、選択する必要があります。個人の実験的なプロトタイプから組織全体を動かす大規模アプリケーションまで、その重要性は変わりません。

キーポイント:

  1. モデルは一部に過ぎない: AI開発は、特定のAIモデル(例: GPT-4)を選ぶだけで完結するものではありません。
  2. 全体像の重要性: AIモデルを支えるインフラ、データ、そしてユーザーが触れるアプリケーションまで、全ての要素が相互に影響し合います。
  3. 選択の影響: 各レイヤーでの技術選択が、最終的なAIソリューションの品質、速度、コスト、安全性に直接的な影響を及ぼします。

具体例:
例えば、創薬研究者が最新の科学論文を分析・理解するのを助けるAIアプリケーションを開発するケースを考えてみましょう。この場合、単に「賢い」とされるAIモデルを導入するだけでは目的を達成できません。最新の論文データ(モデルが学習していない情報)をどう与えるか、研究者が使いやすいインターフェースは何か、そしてそのシステム全体を安定して動かすための基盤は何か、といった多角的な視点が求められます。


Part 2: AIスタックの全体像

Part 2要約

このパートでは、AIアプリケーションを構成する5つの主要な技術レイヤー、すなわち「AIスタック」の全体像を視覚的に示します。家を建てる際の土台から内装に至るまでの工程に例え、各レイヤーがどのような役割を担っているのかを概観します。

Chapter 2: AIスタックとは何か?

Section 2.1: AIスタックの5つの主要レイヤー

Core Message: AIスタックは、アプリケーション、オーケストレーション、データ、モデル、インフラストラクチャという5つの階層で構成されており、これらが一体となって初めてAIアプリケーションは機能します。

結論:
AIアプリケーションは、ユーザーが直接触れる「アプリケーション層」から、それを物理的に支える「インフラストラクチャ層」まで、積み重なったケーキのような構造をしています。これら5つのレイヤーを理解することが、AI開発の第一歩です。

キーポイント:

  1. ① アプリケーション層 (App): ユーザーインターフェースや外部システムとの連携を担当。
  2. ② オーケストレーション層 (Orch): 複雑な指示を分解し、データやモデルを協調させてタスクを実行する司令塔。
  3. ③ データ層 (Data): AIモデルに最新かつ正確な情報を提供し、回答の質を高める燃料。
  4. ④ モデル層 (Model): 大規模言語モデル(LLM)など、実際に思考や生成を行うAIの頭脳。
  5. ⑤ インフラストラクチャ層 (Infra): 全てのソフトウェアを動かすための物理的・仮想的な計算基盤。

AIスタックの全体像:
以下の図は、AIスタックの5つのレイヤーを階層構造で示しています。開発は多くの場合、このスタック全体を考慮しながら進められます。


Part 3: AIスタック各レイヤーの詳細解説

Chapter 3: ⑤ インフラストラクチャ層 (Infrastructure) 🏗️

Section 3.1: AIモデルを動かす土台

Core Message: インフラストラクチャ層はAIスタックの最も基盤となる部分であり、AIモデルの計算処理を支えるハードウェア環境を指します。特に、LLMの多くはGPUという特殊なハードウェアを必要とします。

結論:
全てのAIアプリケーションは、何らかの計算基盤(インフラストラクチャ)の上で動作します。モデルのサイズや要件によって、どのようなインフラを選択するかが決まり、これはコストやパフォーマンスに大きく影響します。

キーポイント:

  1. ハードウェアの重要性: 多くのLLMは、一般的なサーバーで使われるCPUだけでは効率的に動作せず、AIに特化したGPU(Graphics Processing Unit)を必要とします。
  2. モデルサイズとの関係: 小規模なモデルはノートPCでも動作する場合がありますが、大規模で高性能なモデルは専用のサーバー群が必要になります。
  3. 選択肢の存在: インフラを自前で用意するのか、クラウドサービスを利用するのかなど、複数の選択肢が存在します。

Section 3.2: 3つのデプロイメント選択肢

Core Message: インフラの展開方法には、主に「オンプレミス」「クラウド」「ローカル」の3つの選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットが存在します。

結論:
どのインフラを選択するかは、セキュリティ要件、予算、スケーラビリティ(拡張性)の必要性などを総合的に判断して決定する必要があります。

キーポイント:

  1. On-premise: 自社内に物理的なサーバーを設置・管理する方法。高度なセキュリティを確保しやすい一方で、初期投資や維持管理のコストが高くなる可能性があります。
  2. Cloud: AWS, Google Cloud, Azureなどのクラウドサービス事業者が提供するインフラをレンタルする方法。必要に応じてリソースを柔軟に増減でき、初期投資を抑えられます。
  3. Local: 開発者のノートPCなどで直接モデルを動かす方法。小規模なモデルの実験やプロトタイピングに適していますが、大規模な運用には向きません。

Chapter 4: ④ モデル層 (Model) 🧠

Section 4.1: AIの思考エンジン

Core Message: モデル層はAIスタックの中核であり、言語の理解、推論、生成といった知的作業を実行する「エンジン」の役割を果たします。現在、非常に多くのモデルが存在し、目的に応じて最適なものを選択することが重要です。

結論:
AI開発者は、プロジェクトの要件に最も適したモデルを選択するために、複数の判断軸を考慮する必要があります。モデルの選択は、アプリケーションの性能や特性を決定づける重要な要素です。

キーポイント:

  1. 豊富な選択肢: Hugging Faceのようなモデルカタログには、数百万ものAIモデルが登録されており、選択肢は非常に豊富です。
  2. 性能とコストのトレードオフ: 一般的に、高性能なモデルは運用コストも高くなる傾向があります。
  3. 単一モデルへの依存からの脱却: 1つの万能モデルに頼るのではなく、複数のモデルを組み合わせて使うアプローチも増えています。

Section 4.2: モデル選定における3つの判断軸

Core Message: AIモデルを選ぶ際には、「オープンかプロプライエタリか」「サイズ」「特化分野」という3つの主要な軸で検討することが一般的です。

結論:
これらの3つの軸を理解することで、自社のプロジェクトに最適なモデルを戦略的に選定することが可能になります。

キーポイント:

  1. Open vs. Proprietary:
    • Open: MetaのLlamaシリーズなど、モデルの構造や重みが公開されており、自由に改変や利用が可能なモデル。手元でのカスタマイズが容易です。
    • Proprietary: OpenAIのGPTシリーズなど、API経由でのみ利用可能なクローズドなモデル。高性能な場合が多いですが、利用にはコストがかかり、ブラックボックス的な側面もあります。
  2. Size:
    • 大規模言語モデル (LLM): 非常に広範な知識と高い推論能力を持ちますが、動作には多くの計算リソースを必要とします。
    • 小規模言語モデル (SLM): より軽量で、特定のタスクに特化させることで、低コストかつ高速に動作させることが可能です。ローカル環境での実行にも適しています。
  3. Specialization:
    • モデルにはそれぞれ得意分野があります。例えば、論理的な推論が得意なモデル、コード生成が得意なモデル、特定の言語(例: 日本語)の扱いに長けたモデルなど、タスクに応じて最適なモデルは異なります。

Chapter 5: ③ データ層 (Data) 📚

Section 5.1: AIに「最新の知識」を与える燃料

Core Message: 多くのAIモデルは、ある特定の時点までの情報しか学習していません。そのため、最新の情報や社内文書のような非公開情報を扱わせるには、データ層を通じて外部から知識を補給する必要があります。

結論:
データ層は、AIモデルの「知識の限界」を克服し、より正確で信頼性の高い回答を生成させるために不可欠なレイヤーです。

キーポイント:

  1. 知識のカットオフ: AIモデルは、学習データに含まれていない最新の出来事や新しい情報については回答できません(例: 「過去3ヶ月の論文について要約して」という指示には応えられない)。
  2. 外部データの重要性: この問題を解決するため、アプリケーションは実行時に必要なデータを外部から取得し、AIモデルに提供する必要があります。
  3. プライベートデータの活用: 社内の機密文書やデータベースなど、公開されていない情報をAIに参照させることで、ビジネスに特化した価値の高いアプリケーションを構築できます。

Section 5.2: データ層を構成する主要技術

Core Message: データ層は、データソース、パイプライン、そしてVector DatabaseとRetrieval(検索)といった技術要素で構成されます。

結論:
これらの技術を組み合わせることで、AIは必要な情報を効率的に見つけ出し、それを基に回答を生成する「Retrieval-Augmented Generation (RAG)」という仕組みを実現できます。

キーポイント:

  1. Data sources: AIが参照する情報の源泉。PDFファイル、Webサイト、データベースなど、様々な形式があります。
  2. Pipelines: データソースから情報を抽出し、AIが扱いやすい形式に前処理・加工する一連の流れ。
  3. Vector DBs + Retrieval (RAG):
    • Vector Database: テキストなどのデータを「意味の近さ」で整理できる特殊なデータベース。AIが関連情報を高速に検索するのに役立ちます。
    • Retrieval (検索): ユーザーの質問に関連する情報をVector Databaseから探し出すプロセス。
    • RAG: この検索プロセスとAIモデルの生成能力を組み合わせた技術。AIに「カンニングペーパー」を渡すようなもので、より正確な回答を導き出せます。

Chapter 6: ② オーケストレーション層 (Orchestration) ⚙️

Section 6.1: 複雑なタスクを遂行する司令塔

Core Message: 単純な質疑応答を超えた複雑なタスクをAIに実行させるには、タスクを小さなステップに分解し、各ステップでどのツールやデータを使うべきかを計画・実行する「オーケストレーション層」が必要です。

結論:
オーケストレーション層は、AIアプリケーションに「自律性」を与え、複数のツールやプロセスを組み合わせて高度な問題解決を行わせるための司令塔として機能します。

キーポイント:

  1. 単純なプロンプトの限界: 複雑な要求を一つの巨大なプロンプトとして入力しても、AIは最適な結果を出せるとは限りません。
  2. タスクの分解: オーケストレーション層は、ユーザーからの要求を「思考」「実行」「レビュー」といった一連のサブタスクに分解します。
  3. 自律的なエージェント: この仕組みにより、AIはまるで自律的に動くエージェントのように、計画を立て、必要なツールを呼び出し、結果を自己評価してタスクを遂行できます。

Section 6.2: タスク分解のプロセス例

Core Message: オーケストレーションのプロセスは、「Think(思考)」「Execute(実行)」「Review(レビュー)」というサイクルで表現できます。

結論:
このプロセスを通じて、AIはより信頼性が高く、精度の高いアウトプットを生成することが可能になります。

キーポイント:

  1. Think: ユーザーの要求を理解し、それを達成するための計画を立てるステップ。
  2. Execute: 計画に基づき、データ検索や外部ツールの呼び出し(Function Calling)など、具体的なアクションを実行するステップ。
  3. Review: 実行結果を自己評価し、要求を満たしているかを確認するステップ。不十分な場合は、再度思考ステップに戻るフィードバックループを形成することもあります。

Chapter 7: ① アプリケーション層 (Application) 📱

Section 7.1: ユーザーとの接点

Core Message: アプリケーション層は、AIスタックの最上位に位置し、ユーザーが実際に操作するインターフェースや、他のシステムとの連携を担います。最終的なユーザー体験の質は、この層の設計に大きく左右されます。

結論:
AIの強力な機能を、いかにしてユーザーにとって価値のある、使いやすい形で提供するかがアプリケーション層の役割です。

キーポイント:

  1. ユーザー中心の設計: 最終的にシステムを使うのは人間です。そのため、ユーザーがどのような入力をし、どのような出力を期待するのかを定義することが重要です。
  2. 多様なインターフェース: 入出力は単純なテキストチャットに限りません。画像、音声、数値データなど、タスクに応じた多様な形式が考えられます。
  3. 既存システムとの連携: 多くのビジネスシーンでは、AIアプリケーションが単体で完結することは稀です。既存の業務システムやツールとシームレスに連携できるかどうかが、実用性を大きく左右します。

Section 7.2: アプリケーション層の重要要素

Core Message: アプリケーション層を設計する上で、「インターフェース」と「インテグレーション」が重要な考慮事項となります。

結論:
優れたインターフェースとインテグレーション設計により、AIの能力を最大限に引き出し、ユーザーの生産性を向上させることができます。

キーポイント:

  1. Interfaces:
    • 多様な入出力: テキストだけでなく、画像、音声、数値データなど、様々なモダリティを扱うインターフェースが求められる場合があります。
    • インタラクティブな機能: 生成された結果をユーザーが修正(Revisions)したり、結果の根拠となった情報源を確認(Citations)したりする機能は、信頼性を高める上で非常に重要です。
  2. Integrations:
    • Inputs: 他のアプリケーションからのデータをAIへの入力として受け取る連携。
    • Outputs: AIの生成結果を、他の業務システムに自動的に反映させる連携。

Part 4: まとめ

Part 4要約

このパートでは、AIスタックの5つのレイヤー全てを理解し、それらの相互関係を考慮して設計することの重要性を改めて強調します。各レイヤーでの選択が、AIソリューション全体の品質、コスト、安全性に影響を与えるため、全体最適の視点が不可欠であることを述べます。

Chapter 8: AIスタックを理解する重要性

Section 8.1: 全体最適化の視点

Core Message: 信頼性が高く、効果的で、現実のニーズに即したAIシステムを設計するためには、ハードウェアからユーザーインターフェースに至るまで、AIスタックの全レイヤーにわたる選択肢とその影響を理解することが不可欠です。

結論:
AI開発の成功は、特定の優れたモデルを選ぶことだけでなく、AIスタック全体をいかに賢く、バランス良く構築できるかにかかっています。

キーポイント:

  1. 相互依存性: 各レイヤーは独立しておらず、相互に強く影響し合います。例えば、大規模なモデル(モデル層)を選択すれば、高性能なGPU(インフラ層)が必要になり、コストが増大します。
  2. トレードオフの理解: 性能、コスト、開発速度、セキュリティなど、様々な要素の間にはトレードオフが存在します。スタック全体を俯瞰することで、プロジェクトにとって最適なバランスを見つけることができます。
  3. マネージドサービスの活用: 自社でスタックの全てを構築する必要は必ずしもありません。一部のレイヤー(例えばインフラやモデル)をサービスとして提供するプラットフォームを活用することも、賢明な選択肢の一つです。

Section 8.2: 未来のAI開発に向けて

Core Message: AIスタックの概念を理解することは、技術者だけでなく、ビジネスリーダーや企画担当者にとっても、AIの可能性を最大限に引き出し、実用的なソリューションを生み出すための共通言語となります。

結論:
AIスタックは、AI技術を体系的に理解し、ビジネス価値へと転換するための強力なフレームワークです。この知識を基に、より創造的で効果的なAI活用を進めることが期待されます。

AIスタックの各レイヤーは急速に進化しています。特にオーケストレーション層やデータ層では新しい技術やアーキテクチャが次々と登場しており、継続的な情報収集が重要となります。

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