はじめに
2025 年、AWS の代表的な BI ツールである Amazon QuickSight が大きく進化しました。その名もAmazon QuickSuite。従来の BI 機能に生成 AI を融合させた、包括的なデータプラットフォームとして生まれ変わったのです。
本記事では、公式ドキュメントを基に Amazon QuickSuite の概要、主要機能、料金体系を解説します。
前提知識
本記事は、以下の知識をお持ちの方を対象としています:
- AWS の基本操作: AWS Management Console へのログインやサービスへのアクセス方法を理解している
- BI ツールの基本概念: ダッシュボード、データ可視化などの基本的な用語を理解している
- (推奨)Amazon QuickSight の概要: QuickSight の基本機能について知っていると、QuickSuite の理解が深まります
初めて AWS や BI ツールに触れる方でも、各セクションで用語の補足説明を行っていますので、安心してお読みください。
Amazon QuickSuite とは
Amazon QuickSuite は、生成 AI 搭載の包括的なビジネスインテリジェンス(BI)プラットフォームです。データ分析、可視化、ワークフロー自動化、組織全体でのコラボレーションを容易にするサービスで、機械学習の専門知識がなくても、自然言語で AI エージェントと会話しながら即座に洞察を得ることができます。
QuickSight から QuickSuite への進化
従来のAmazon QuickSight(BI/データ可視化サービス)が進化し、Amazon QuickSuiteとして生まれ変わりました。簡潔に表すと次のようになります:
Amazon QuickSuite = Amazon QuickSight(従来のBI基盤)
+ 生成AIレイヤー(エージェント機能)
QuickSight の BI 機能に加えて、生成 AI を活用した以下の新機能が統合されています:
- Quick Flows - ワークフロー自動化
- Quick Automate - プロセス最適化
- Quick Index - データ検索・インデックス
- Quick Research - AI 駆動の総合分析
QuickSight は、QuickSuite の一部として、引き続きデータ可視化とダッシュボード機能を提供しています。
「生成 AI 統合」
1. 料金体系における「エージェント時間」の概念
- Quick Flows、Quick Automate、Quick Research は「エージェント時間」で課金
- これは AI が自律的にタスクを実行することを示唆
- Professional/Enterprise プランに含まれるエージェント時間の割り当て
2. インフラ料金 $250/月の存在
- ユーザー数に関係なく必須の「AI インフラ」料金
- 生成 AI モデルの実行基盤を維持するためのコスト
- 従来の QuickSight にはなかった料金項目
3. Amazon Q Business との緊密な統合
- Amazon Q Business(生成 AI アシスタント)との連携が可能
- エンタープライズデータに基づく AI 応答の生成
- 自然言語でのデータ分析とチャットインターフェース
4. 新機能はすべて AI/エージェント指向
- Quick Index:RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成。必要な情報を検索して取得し、それを元に AI が回答を生成する技術)的なデータ検索基盤
- Quick Research:AI による総合分析とリサーチ
- Quick Flows:AI 駆動のワークフロー自動化
- Quick Automate:エージェント的なプロセス最適化
言い換えれば、QuickSuite は「データを見る」から「データと対話する」へと進化したプラットフォームと言えます。
5 つの主要機能
Amazon QuickSuite は、次の 5 つの主要機能で構成されています:
1. Amazon QuickSight - データ可視化
従来の QuickSight の機能を継承。インタラクティブなダッシュボードの作成、データの可視化を提供します。
具体例: 売上データを地域別、製品別に可視化したダッシュボードを作成し、経営陣と共有。リアルタイムで KPI を監視できます。
2. Amazon Quick Flows - ワークフロー自動化
ルーチンタスクを自動化し、ワークフロー効率を向上させます。AI エージェントが定型業務を代行します。
具体例: 毎朝 9 時に前日の売上レポートを自動生成し、Slack の営業チームチャンネルに通知。手動でのレポート作成作業が不要になります。
3. Amazon Quick Automate - プロセス最適化
エージェント的なアプローチでビジネスプロセスを最適化。より高度な自動化を実現します。
具体例: 在庫データを監視し、閾値を下回った商品を自動的に発注システムに連携。在庫切れを防ぎながら過剰在庫も削減します。
4. Amazon Quick Index - データ検索
RAG 的なデータ検索基盤を提供。エンタープライズコンテンツを効率的にインデックス化し、自然言語での検索を可能にします。
具体例: 「昨年の Q4 で最も売上が伸びた製品カテゴリは?」と自然言語で質問すると、関連データを検索して回答を生成します。
5. Amazon Quick Research - 総合分析
AI による総合的なリサーチと分析機能。複数のデータソースを横断した洞察を提供します。
具体例: 売上データ、顧客フィードバック、市場トレンドを横断分析し、「今後注力すべき製品ラインは何か」といった戦略的な問いに対する洞察を提供します。
また、ブラウザ、Slack、Microsoft Office アプリケーション向けの拡張機能も提供されています。
主なメリット
AI 駆動の分析と可視化
- 自然言語クエリでエンタープライズコンテンツを分析
- 複数のデータソース(AWS、サードパーティ、ビッグデータ、スプレッドシート、SaaS、B2B データ)からインタラクティブなダッシュボードを作成
- カスタム AI エージェントがドメイン固有の専門知識を提供
- 会話型インターフェースで分析タスクを自動化
シンプルなデプロイと管理
- すべての機械学習インフラ、モデル、事前構築済みコネクタを提供
- 分析用の SPICE インメモリエンジン搭載
- フルマネージドサービスでインフラのデプロイや管理が不要
エンタープライズグレードのセキュリティとガバナンス
- きめ細かいアクセス許可と行レベルセキュリティ制御
- フェデレーションとシングルサインオン機能
- 保存時および転送時の安全な暗号化
- IAM Identity Center との統合
- すべての応答と可視化がユーザーの権限を尊重
コラボレーションとワークフロー自動化
- 組織全体でのダッシュボードとインサイトのシームレスな共有
- アプリケーションやウェブサイト向けの埋め込み分析
- エンタープライズデータソースを使用した AI 応答の設定
- 専用プロジェクトスペースでデータとリソースを整理
料金体系
⚠️ 重要: QuickSuite の利用には、ユーザー数に関わらず月額 $250 のインフラ料金が必須です。
Amazon QuickSuite の料金は、次の要素で構成されます:
💡 エージェント時間とは: AI が自動的にタスクを実行している時間のことです。例えば、Quick Flows で 1 つのワークフローが 10 分間実行された場合、0.17 エージェント時間(10 分 ÷60 分)を消費します。
1. ユーザーサブスクリプション(必須)
Professional プラン: $20/ユーザー/月
- すべてのビジネスユーザー向けの主要機能を含む
- チャットエージェント、スペース、QuickSight、Quick Research、Quick Flows へのアクセス
- 含まれるエージェント時間:
- Quick Flows: 2 時間/月($6 相当)
- Quick Research: 2 時間/月($12 相当)
- 合計 4 時間/月
Enterprise プラン: $40/ユーザー/月
- Professional の全機能に加え、高度な機能を含む
- Quick Automate での自動化作成機能
- QuickSight でのダッシュボード作成機能
- 含まれるエージェント時間:
- Quick Flows + Quick Automate(テスト/デバッグ): 4 時間/月($12 相当)
- Quick Research: 4 時間/月($24 相当)
- 合計 8 時間/月
- 含まれるエージェント時間を超過した場合、従量課金で継続利用可能
2. エージェント時間の追加利用(Enterprise のみ)
含まれるエージェント時間を超過した場合の従量課金:
- Quick Flows / Quick Automate(デプロイ済み自動化): $3/エージェント時間
- Quick Research: $6/リサーチエージェント時間
- 5 分単位で課金
3. Quick Index 料金
- 基本容量: 50MB(約 5,000 ドキュメント)無料
- 追加ストレージ: $1/MB/月(50MB 超過分)
-
マルチメディア処理:
- 画像: $0.003/画像
- 音声: $0.006/分
- 動画: $0.05/分
4. インフラ料金(必須)
- $250/アカウント/月
- QuickSuite 体験を支える基盤 AI インフラの利用料
- ユーザー数に関係なく必須
5. オプション: QuickSight の BI 機能
SPICE(インメモリ計算エンジン)
- $0.38/GB/月
- SPICE (Super-fast, Parallel, In-memory Calculation Engine):データをメモリ上に保持することで、大量のデータでも高速にクエリ処理できる仕組み
- 数千のユーザーとデータセット、最大数十億行に対応する高速パフォーマンス
ピクセルパーフェクトレポート
- $1/レポートユニット/月
- 最小 500 レポートユニット/月
- 高度にフォーマットされた複数ページのレポート作成とデータエクスポート機能
料金例
小規模チーム(10 ユーザー)の月額料金(Professional プラン)
- ユーザーサブスクリプション: $20 × 10 = $200
- インフラ料金: $250
- Quick Index(50MB以内): $0
合計: $450/月
中規模チーム(50 ユーザー)の月額料金(Enterprise プラン)
- ユーザーサブスクリプション: $40 × 50 = $2,000
- インフラ料金: $250
- Quick Index(100MB使用): (100MB - 50MB) × $1 = $50
合計: $2,300/月(追加エージェント時間やオプション機能を除く)
1 ユーザーでの検証利用(最低料金)
- ユーザーサブスクリプション(Professional): $20 × 1 = $20
- インフラ料金: $250
- Quick Index(50MB以内): $0
合計: $270/月
重要: インフラ料金$250/月はユーザー数に関係なくアカウント単位で必須のため、1 ユーザーでも月額$270 が最低料金となります。
無料トライアル
- 30 日間無料
- 最大 25 ユーザー/アカウント
- サブスクリプション料金とインフラ料金が無料
検証目的の場合は、無料トライアルの活用を推奨します。
ユーザータイプ
Amazon QuickSuite では、3 つのユーザータイプが定義されています:
| ユーザータイプ | 主な役割 | 主な権限 |
|---|---|---|
| Readers(リーダー) | データの閲覧・分析 | AI チャット、ファイルアップロード、自動化実行 |
| Authors(作成者) | コンテンツ作成 | リーダー権限 + データセット/ダッシュボード/エージェント作成 |
| Administrators(管理者) | システム管理 | 全権限 + ユーザー管理、コスト監視 |
1. Readers(リーダー)
- 会社のデータにアクセスし、AI エージェントとのチャット対話で回答を取得
- ファイルのアップロード、自動化の実行、可視化の作成、ダイレクトリンクでのスペース共有
- データセットやエージェントは作成不可
- 準備された分析と AI チャットツールの主要な消費者
2. Authors(作成者)
- ドメインエキスパートとして QuickSuite リソースを構築・管理
- リーダーの機能に加え、データセット、ダッシュボード、自動化、エージェントの作成が可能
- スペースの共有権限が拡張
- AI を使用して可視化を作成
- リーダーをサポートするデータインフラを構築
3. Administrators(管理者)
- ユーザーアクセス管理、コスト監視、データソース維持
- リーダーと作成者の全機能を保有
- 主にシステム管理に注力し、全ユーザーの効率的で安全な運用を確保
各ユーザータイプには、Professional と Enterprise のサブスクリプションがあり、Enterprise では高度な Amazon QuickSuite ツールへのアクセスが可能です。
その他の情報
アクセス方法
Amazon QuickSuite へは、以下の方法でアクセスできます:
- AWS Management Console - ブラウザベースのインターフェース
- Amazon QuickSuite API - プログラマティックアクセス
- AWS CLI - コマンドラインインターフェース
- AWS SDKs - 言語別 API
関連サービス
Amazon Q Business
フルマネージドの生成 AI 搭載アシスタント。既存の Amazon Q Business ユーザーは QuickSuite に接続可能です。
初めて利用する場合の推奨手順
- How it works - QuickSuite のコンポーネントと動作方法を理解
- Key concepts - 主要な概念と重要な用語を学習
- Setting up - QuickSuite のセットアップ手順
まとめ
Amazon QuickSuite は従来の QuickSight に生成 AI を統合した、次世代の BI プラットフォームです。主な特徴は以下の通りです:
- QuickSight + 生成 AI という明確なコンセプト
- 自然言語での対話型分析が可能
- ワークフロー自動化やAI 駆動のリサーチなど、単なる BI ツールを超えた機能
- インフラ料金$250/月が必須という新しい料金体系
- 30 日間の無料トライアルで最大 25 ユーザーまで試用可能
特に注目すべきは、**「データを見る」から「データと対話する」**へのパラダイムシフトです。AI エージェントとの会話を通じて、より直感的にデータから洞察を得られるサービスへと進化しています。
導入を検討されている方は、まず 30 日間の無料トライアルで実際の機能を体験してみることをお勧めします。