※この記事は査読無し、IF:0.0です。多少の誤りはご容赦ください。感想等は#豆腐老害アドカレにてお願いします。
追記: 全体公開にしました(20250121)。
緒言
皆さま、ごきげんよう。豆腐老害アドカレ2024、12日目を担当するしがないPYRIDINEと申すものです。
さて、今年はどんなテーマで記事を書き綴ろうかと少し悩んでいたのですが、やっぱり私と言ったら昆虫! ということで、今回は日頃から昆虫採集&標本作製を行っている私が、昆虫標本の作り方について解説させていただこうと思います。
今日、昆虫標本の作製法についてインターネットや書籍等で様々な情報が溢れています。ですがその多くは浅薄であり、不正確・不明瞭なものも多いため、標本作製に興味を持ち始めたばかりの何も知識が無い方は取捨選択に困ることと思われます。かく言う私も膨大かつ玉石混淆な情報を前に、果たしてどれを参考にすればいいのか頭を抱えた記憶があります。
本記事はそんな初学者の助けになるよう、私の標本作製法を仔細に解説しました。標本を作り始めて数年の浅学の身ですから、本記事を最良の作製法などど広言するつもりはさらさらありませんが、標本作製の第一歩の助けとなれる記事になれば幸いです。
標本の種類
私たちが採集し薬品等で息の根を止めた昆虫は、その利用目的が研究であろうと展示であろうと、そのままでは不都合が多いです。1頭ごとに詳細なラベルを付け、種類や目的に応じた処理をして標本化することが必要となります。そうしてできる昆虫標本は大きく3種類に分けられ、乾燥標本, 液浸標本, プレパラート標本があります。ここでは、それらの特徴や用途について解説していきます。
乾燥標本
最も普通で一般的な標本と言っていいでしょう。原型を最も良く保存でき、あらゆる方向から観察しやすく取り扱いが容易です。対象となる昆虫は外部骨格のキチン化が発達したものであり、ほぼ全ての昆虫の成虫が乾燥標本に適しています。
多くの場合、胸部背面から腹面側に向かって昆虫針を刺し通されていますが、用途によっては腹面や翅の裏側を観察しやすくするために、腹面から背面に向かって昆虫針を刺し通す場合があります(蝶の場合は俗に言う裏展翅というやつです)。標本を持ち上げて観察したい場合や移動させたい場合は、破損を防ぐために標本には触れずに昆虫針のみを持つことが大切です。また標本の扱いやすさや保存の観点から、昆虫針の選定が極めて重要です(詳しくは後ほど)。
乾燥させてしまうため標本のDNAを分析するのは困難ですが、足の一部などを無水エタノールと共にマイクロチューブに入れて昆虫針に刺しておくことで、DNAを保存した乾燥標本を作ることができます。
昆虫針には、様々な大きさの昆虫に合わせて様々な太さ(0号や3号など。数字が大きいほど太い)のものがあります。テントウムシやハネカクシといった昆虫針を刺すのが困難な昆虫(大体20mm未満)の場合、小さく切ったケント紙の上に糊付け(ボンドが一般的ですが、個人的にはニカワを勧めたい)する場合もあります。これは台紙標本と呼ばれています。
余談:台紙の種類と特性について
台紙は一般的に2種類に分けられ、先の尖った三角台紙と、長方形の四角台紙があります(Fig. 1)。この形状の違いにより、台紙それぞれに利点と欠点があるため使い分ける必要があります。ここでは複数の観点から比較していきます。
Fig. 1 三角台紙(左)と四角台紙(右)
昆虫の貼り付け方
三角台紙では、台紙の先端に昆虫の腹部を貼り付けます。この際、台紙の先が昆虫の正中線を越えないように貼り付けることが極めて重要です。貼り付ける面積が小さく不安だからと、正中線を越えて体の大半に台紙を貼り付けることは絶対に避けるべきであり、後述する三角台紙の最大の利点を完全に破壊する愚の骨頂というべき行為になります。不安な場合は大人しく四角台紙を使ってください。
四角台紙では、台紙の中央付近にしっかりと貼り付けます(Fig. 2)。特に難しいことはなく普通に貼り付ければいいのですが、台紙から昆虫がはみ出さないように注意してください。
Fig. 2 四角台紙の使用例(ハネカクシの一種)
保存・移動上の安全性
三角台紙を使用した場合、糊付け部分が小さいため標本の剥離や脱落が起きる可能性が高くなります。また観察時や輸送時に標本同士がぶつかり破損する可能性も高くなります。
四角台紙を使用した場合、糊付け部分が大きいほか、台紙の中に標本が収まっているため、これらの可能性は低くなります。なお、四角台紙から昆虫がはみ出した状態で貼り付けるのは、この利点を破壊してしまうのでやめましょう。台紙に標本が収まらない場合は大きい台紙を使ってください。
腹面の観察
三角台紙はそのままの状態で腹面を観察できるという最大の利点があります。昆虫の種類によっては腹面に同定上重要な形質が存在することがあるため、それを容易に確認できるというのは大変に便利で素晴らしいことです。四角台紙の場合は台紙から剥がして腹面を確認した後再び貼り直す必要があるため、腹面の形質が重要な種には向きません。
立体的な種の場合
口吻の長いゾウムシや胸部腹面の突き出た昆虫は、四角台紙に貼るのが物理的に困難な場合があります。その点三角台紙はあらゆる形の昆虫を貼り付けることができるという利点があります。
いずれの標本も、最上段に昆虫を刺し、次にデータラベル、その次に同定ラベル、最後にコレクションラベルを刺すのが一般的です(Fig. 3)。
FIg. 3 標本の例(これにはコレクションラベルが付いてないですが...)
余談:各種ラベルについて
これは夏に沖縄で採集したオキナワハンミョウのラベルです。左からデータラベル, 同定ラベル, コレクションラベルとなっています。ここでは、これらのラベルについて詳細に解説していきます。
Fig. 4 標本のラベルの例
前提知識
基本的にラベルは標本と同程度のサイズになるよう作成します。ラベルが大きいと場所を取るため、標本の収納性の観点から好ましくありません。とはいえあまりにも小さすぎると可読性の観点から好ましくないため、3.0~4.0ptで記載することを勧めます。
またラベルに使用する紙は厚手のものが好ましいです。160~200g/m2の厚さのものを勧めます。手書きでラベルを作成する人もいますが、小さいラベルに沢山の情報を盛り込むためにはやはりプリンターを使用するのがベターです(独創的な筆跡の人は特に)。とはいえ手書きラベル特有の雰囲気は私も大好きなので、強い拘りがある人は手書きでも良いと思います。
データラベル
採集日や場所といった、標本を得た状況に関する基本情報を表すラベルです。あらゆるラベルの中で最も重要なものであり、このラベルが無い標本はもはや標本ではなくただの虫の死体であり、希少種でもない限りそこには何の学術的価値もありません。データラベルに書く必須の情報は「採集した場所, 採集した年月日, 採集者の名前」であり、余力があれば他の情報も足していきます。
ラベルの1~3行目には、ローマ字や英語で採集場所を記載します。1行目には国名と都道府県名を記載し、太字で強調しています。これは多数の標本を整理する際の負担を軽くするためです。たまに日本語のみで記載されているラベルを見かけますが、国外に標本が渡った時や外国人の研究者の手に渡った時のためにも、ローマ字や英語で記載することを強くおすすめします。
ラベルの4行目には採集した年月日と採集者の名前を記載します。年月日では月のみ英語かローマ数字で表記することで、9月10日なのか10月9日なのか混同しないようにしています。採集者名では名前と名字をローマ字で記載しています。たまにラベルが大きくなるのを防ぐために名前をイニシャル表記したラベルを見かけますが、あまり好ましくはありません。採集者名の後に記載された「leg.」はラテン語の「legit」の略で、「採集」の意味です。
ラベルの5行目には採集場所の緯度経度と標高を記載します。これを書いているラベルは少ないですが、私は記載することを強くおすすめします。緯度経度を表すために、10進法の「度」表記26.7196°N 128.1779°Eと、60進法の「度分秒」表記26°43'10"N 128°10'40"Eが主に使われています。ラベルに入力する文字数が少なくなるため、私は前者をおすすめします。また、座標は小数点以下4桁までがよく使われます。これ以上詳細に記載しても、一般的なGPSの精度的にあまり嬉しさが無いので。標高は座標の後に括弧書きで記載します。この時、alt.などの標高を示す言葉をちゃんと書くと第三者に伝わりやすくなるのでおすすめします。
ラベルの6行目には日本語でも採集地を記載します。これは、ローマ字表記だけだと1つの県の中に同じ読みの地名が存在した場合、混乱を招く恐れがあるためです。
同定ラベル
標本の同定結果を表すラベルです。同定された標本であることが一目で分かるように、クリーム色や薄い灰色や薄い黄緑色などの淡い色がついた紙を使用することが多いです。
ラベルの1~3行目には種名を記載します。和名はカタカナで記載し、学名は命名者表記以外を斜体で記載します。
ラベルの4行目には同定者の名前と同定した年を記載します。友人に同定を頼んだ場合、同定者は友人となりますが、同定ラベルを付けた人が同定の責任を負うため、同定ラベルを作ってつけるのが自分であれば自分の名前を記載していいと思います。名前の後にある「det.」はラテン語の「determinare」の略で、「決定した」の意味です。同定した年を記載する理由は、同定の見直しに役立つからです。ある年に特定の昆虫の分類が見直されて複数の種に分かれたとしましょう。その場合、その年以前に同定された標本は見直す必要があります。このようなケースで役に立つため、同定した年も記載することを勧めます。
コレクションラベル
標本の所有者を表すラベルです。個人の採集者では付けない人も多いですが、標本の管理という点で付けることをおすすめします。
ラベルの1行目には所有者の名前を記載し、2行目に「Collection」を表記し、3行目に標本番号を書きます。標本番号の前には姓名イニシャル+CollectionのCを付けています。
これまで採集した生物の情報をデータベース化しておくと、コレクションラベルからラベルに書ききれなかったデータを参照することができるため、大変ですがおすすめします(Fig. 5)
Fig. 5 標本データベースの例(同定が間に合っていないのは御愛嬌)
液浸標本
バイアル瓶のような密閉度の高い容器に昆虫を入れ、乾燥や破損や腐敗を防ぐために保存液を加えた標本です。対象となる昆虫は幼虫のようなキチン化の度合いが低く、乾燥標本にすると縮小変形したり、分類時に重要な形質である体表上の剛毛を破損したりすることが多いものです。他にもアリのような微小昆虫や、特殊な方法(マレーゼトラップやパントラップのような液体に落とし込む方法)で採集した昆虫は液浸標本となる場合が多いです。
保存液として70%エタノールが一般的ですが、無水エタノールを使用するとDNAを保存できるため、目的によっては無水エタノールを使用する場合もあります。
この標本の面倒な点として、嵩張る上に扱いにくく、エタノールを使用するため作成&維持費用が高いことが挙げられます。基本1個体ごとに1本バイアル瓶が必要なうえ、顕微鏡等で観察する際もいちいち瓶から出したり仕舞ったりと、面倒なことこの上ないです。
プレパラート標本
文字通りプレパラートにした昆虫標本のことです。対象となる昆虫はカイガラムシのような極めて小さく平べったいものであり、また寄生バチのうち特に微小なものも対象となります。
また、アルカリ処理をして取り出したゲニタリア(外部生殖器)もプレパラート標本にすることがあり、特に丸山宗利氏が考案した「針刺しプレパラート」と呼ばれるものが便利です。詳しく知りたい方には以下の論文をおすすめします。
Maruyama, M., 2004. A permanent slide under a specimen. Elytra, 32(2): 276.
乾燥標本作製道具
ここでは最も一般的な標本である乾燥標本の作製方法について解説していきます。
(1) 昆虫針
標本作製において最も重要な物品です。保存性の観点からステンレス製のものが主ですが、以前は鉄製のものが使われていました。鉄製の針は硬さや鋭さが優れているため、今でも愛用する研究者はいます。とはいえ鉄製であるため錆びやすいという重大な欠点があり、大学や博物館に保管されている古い標本の多くが錆により悲惨なことになっているのが現状です。個人的にはステンレス製一択なのですが、どうしても鉄製の針を使いたいという大変に難儀こだわりの強い方は、黒針(ブラックエナメルとも)と呼ばれる防錆のエナメルコーティングがされた針を使用するのを強くおすすめします。絶対にステンレス製のものを使った方がいいと思いますが。
昆虫針には有頭のものと無頭のものがあります。少し値段は高いですが、扱いやすさという点で私は有頭のものを強くおすすめします。無頭のものは指に頭が刺さることがあるうえに、多数の標本を扱うと疲れますので。
現在日本国内では主に「志賀昆虫針」と呼ばれる国産の昆虫針と「ナイロンヘッド針」と呼ばれる外国産の昆虫針が使われています。
志賀昆虫針
Fig. 6 志賀昆虫針(無頭) 昆虫針は紙の袋に入っていることが多い
昆虫好きなら誰もが知っている志賀昆虫普及社が製造している針で、安価で入手しやすいのが特徴です。ステンレスの質は高いですが、腰が弱く針先の鋭さが少し微妙です。また表面が磨かれすぎていてツルツルとしているため、針刺しにした昆虫が回りやすいという欠点もあります。針の長さがナイロンヘッド針より若干長いため、外国製の標本箱に入らない場合もあります。
ナイロンヘッド針
Fig. 7 ナイロンヘッド針(Austerlitz製)
志賀昆虫針と比べ、針先が鋭利で刺しやすく腰も充分にあり、針の質は高いものが多いです。また、頭が他の針と比べ大きいため、持ちやすく使いやすいという特徴があります(Fig. 8)。しかし志賀昆虫針と比べ高価(志賀昆虫針が100本で600円前後に対し、こちらは100本で1000円前後)という欠点があります。本当はナイロンヘッド針を使ってほしいところですが、志賀昆虫針も良い針なので読者にお任せします。
現在国内で簡単に購入できるナイロンヘッド針は3つあり、Austerlitz製>Ento Sphinx製>BOHEMIA製の順で値段も質も高くなっています。とはいえ品質に大差は無いので好みで選んでいいと思います。今は生産されていないKarlsbad製の針は大変に高品質なことで有名で、今でもお気に入りの昆虫には絶対にこれを使う人がいると聞きます。インセクトフェアのような大規模な即売会で流通していますが、高価な上にすぐ売り切れます。
Fig. 8 昆虫針の頭の比較(左から志賀昆虫無頭, 志賀昆虫有頭, ナイロンヘッド針)
(2) ピンセット
挟む力が軽めで先の尖っているピンセットが好ましいです。とはいえあまりにも尖り過ぎていると、昆虫に刺さったり翅を痛めたりといったリスクがあるため、適度なものを選ぶことが重要です。医療機器や時計用の優秀なピンセットが国内でも容易に入手できます。
(3) 平均台
Fig. 9 志賀昆虫普及社の木製平均台(左)とバードウィングの金属製平均台(右)
標本の高さやラベルの高さを揃えるための道具です。標本ごとに高さがバラバラだと見苦しいので、使用を強く推奨します。国内では志賀昆虫普及社製の階段上になったものが広く流通していますが、段々の角に標本やラベルを引っ掛ける心配があるため、あまり推奨しません。バードウィング製のものは階段状になっておらず、先程のような心配が無い上に値段も大きく変わらない(志賀昆虫普及社製が700円程度でバードウィング製が1000円程度)ため強くおすすめします。一般的に平均台は木製ですが、金属製のものもあります。とはいえ値段が5000円程度と極めて高価なため、あまりおすすめしません。しかし金属製には見た目が格好いい以外の利点もあり、例えば木製のものと違い長期間の使用により針で底が削れて高さが変わるという心配が無いです。
(4) 展翅板
展翅板は展翅テープや留針と併用し、昆虫の翅を広げて固定する役割があります(詳細は展翅法を参照)。展翅面となる2枚の板の高さがずれていないものを使用することが重要です。志賀昆虫普及社で市販されているものが安価で質も良くおすすめですが、それでも1つ1000円程度するため発泡スチロールで自作して代用する人もいます。
なお、標本完成後の時間経過による翅の下がりに対処するために、あらかじめ2枚の板に逆ハの字型の傾斜を付けた展翅板もあります。さらには可動式のものもあり、中心の溝のサイズを変えることで様々な大きさの昆虫に対応することができます(かなり高価ですが)。
(5) 展翅テープ
展翅板と併用し、テープと留針で翅を固定する役割があります(詳細は展翅法を参照)。志賀昆虫普及社で市販されているものが安価で質も良くおすすめですが、パラフィン紙を切って自作することも出来ます。私は面倒なので既製品を買っていますが、もし自作する場合はハサミではなくカッターを使用することを強く勧めます。
再使用は可能ですが、一度使用したものは留針による穴が残っているため、平らな面にテープをおいて上から爪でよく擦っておくことが重要です。これを怠ると翅の表面に引っかかり、鱗粉が剥がれて無惨なことになってしまう恐れがあります。
(6) 展足板
展足板は留針と併用し、昆虫の足を固定する役割があります(詳細は展足法を参照)。市販品もありますが、発泡スチロールで代用するのが便利な上に安価なため強く勧めます。なお、ある程度厚さのある発泡スチロールを使用しないと、下から留針が飛び出て危険なので注意が必要です。
(7) 留針
昆虫を上手く固定できれば何でも良いが、ある程度の長さがあり持ちやすい頭の付いているものを選ぶと良いです。
乾燥標本作製手順
さて、ここからはようやく本題である昆虫標本の作製手順を解説していきます。液浸標本やプレパラート標本は省略して、今回は乾燥標本のみを解説していきます(台紙標本も省略します)。乾燥標本では対象の昆虫によって大きく2つの作製方法があります。チョウやガのような翅が同定時にメインとなる昆虫の場合は翅を整える「展翅」を行い、甲虫のような展翅を行わない昆虫の場合は足を整える「展足」を行います。
展翅法
ここでは適当なチョウを実際に展翅しながら、展翅のやり方について解説していきます。なお、私は右利きですので、左利きの方は適宜アレンジしてください。
(1) チョウの胸部に昆虫針を刺す
左手でチョウの胸部を側面から摘み、右手で胸部背面から昆虫針を刺します(Fig. 12)。この時のポイントとして「昆虫針が体軸の中央線を外れないこと」「昆虫針と体軸が側面から見て直角になっていること」「昆虫針が胸部に垂直に刺さっていること」があります。正直、かなり難しいです。未だになかなか一発で成功することはありません。ただ、多少曲がって刺さっていても何とかなります。データラベルさえちゃんとしていれば、多少不格好でも学術的価値は充分ありますので。
なお、手でチョウの体に触れることによる胸部の鱗粉の脱落を嫌い、折ったパラフィン紙の間にチョウを挟んだうえで昆虫針を刺す人もいます。
Fig. 12 昆虫針を刺したチョウ
(2) チョウの高さを整える
平均台を使用し、チョウの高さを整えます。チョウを昆虫針の上部まで上げた後、平均台の最も浅い穴に昆虫針の頭を下にして押し込みます(Fig 13)。
Fig. 13 平均台を使用して高さを整える様子
(3) 展翅板に固定する
使用する展翅板のサイズは、溝がチョウの腹部より僅かに大きいものを使うと良いです。展翅板の溝にあるペフ板に昆虫針を刺します(Fig. 14)。刺す深さの目安は、展翅板の板と翅の基部下面が同一平面上になる程度です。この時、針が展翅板に対して垂直に刺さっていることがポイントです。前後のズレは目の高さに展翅板を持ち上げて横から見ることで簡単に分かり、左右のズレは後方から針の刺さっている位置を確認することで分かります。
Fig. 14 展翅板に刺したチョウ
次に翅の上から展翅テープを乗せ、留針でテープが外れないように固定します(Fig. 15)。
Fig. 15 展翅板に固定したチョウ
(4) 展翅する
展翅の際は、なるべく細い昆虫針(微針があれば最高)を使用します。まず一方の前翅(普通は左)の翅脈の後縁に針先を引っ掛け(もしくは翅脈に針を突き刺す)、上げていきます。この時、翅の膜質部に針を引っ掛けると破れてしまうので注意してください。前翅の後縁が展翅板の溝に直角になるようにし、翅が戻らないように左手の指先でテープの上から翅を軽く押さえます。そのまま右手でテープの上から留針を刺して翅を固定します(Fig. 16)。この時、翅のギリギリに刺すことで翅をしっかり固定できるほか、上から順番に刺していくことでテープがたるまない状態で固定できます。
Fig. 16 左の前翅を固定したチョウ
次にもう一方の翅も同様に展翅します(Fig. 17)。この時、左右対称になるように心がけると綺麗に展翅できます。
Fig. 17 左右の前翅を固定したチョウ
後翅も左, 右の順に固定していきます(Fig. 18)。やり方は同様なので省略しますが、ここでもコツとしては左右対称になるように心がけることです。
Fig. 18 左右の後翅を固定したチョウ
(5) 触角の整形
手を抜きがちですが、触角を綺麗に整形すると標本の出来栄えは遥かに良くなります。展翅テープの下に触角を挟み込んで固定する方法が一般的ですが、これでは上手く整形できないので私は推奨しません。触角は展翅テープの下に挟み込まず、展翅が終わってから別で行います。
まず触角の下に展翅テープを1枚敷いて留針で固定します。この時、テープがたるまないようにするのが重要です。次に別の展翅テープを上から被せ、触角基部から先端まで覆う状態で留針で固定します。触角基部が浮き上がらないように押さえるのが重要です。そしたらテープの前方または後方から水平に2枚のテープの間に昆虫針を入れて整形します(Fig. 19)。
Fig. 19 触角を固定したチョウ
触角の整形は基部から先端までが一直線になるようにします。前翅の前縁線と平行か、前縁線との間隔が多少前方に向かって開く形にするのがおすすめです。なお、昆虫の種類によっては触覚の先端がもともとカーブしているものがあり(ギフチョウなど)、それらは無理に一直線に整形するよりも本来の形のままにしておくのがおすすめです。
(6) 乾燥
乾燥剤(シリカゲル等)と防虫剤(ナフタレン等)を入れた箱に展翅板を入れ、最低でも1ヶ月ほどは自然乾燥させます。チョウの腹部が下がらないように、展翅板を垂直に立てて乾燥させると良いです。
展足法
ここでは適当な甲虫を実際に展足しながら、展足のやり方について解説していきます。
(1) 甲虫の胸部に昆虫針を刺す
展翅法の時と同様に昆虫針を刺します(Fig. 20)。この時、昆虫針を昆虫の正中線上には絶対刺さないでください。甲虫ならば通常は右上翅の基部に刺し、カメムシならば小盾板の右前方に刺します。正中線上に刺さない理由は、標本の外部形態を残すという標本の目的上、真ん中から少しズレた位置に刺すことによって真ん中の構造を守るためです。昆虫は基本的に左右対称なため、右側の構造が破壊されても左側で確認できるので。また「昆虫針と体軸が側面から見て直角になっていること」「昆虫針が胸部に垂直に刺さっていること」を意識してください。
Fig. 20 昆虫針を刺した甲虫
(2) 甲虫の高さを整える
展翅法の時と同様に平均台を使用して、標本の高さを整えます(Fig. 21)。
Fig. 21 平均台を使用して高さを整える様子
(3) 展足板に固定する
展足板に昆虫針を刺します(Fig. 22)。刺す深さの目安は、腹部が展足板に触れる程度です。
Fig. 22 展足板に刺した甲虫
(4) 展足する
足や触角等をピンセットや針で動かしながら、留針で固定していきます(Fig. 23)。展足の仕方は人によって様々で、強い拘りのある人も多いです。私はそこまで拘りがなく、適当に図鑑を見ながら近い形を目指して作っています。基本的には左右対称になるようにすることを心がけていれば問題ないと思います。
Fig. 23 展足した甲虫
(5) 乾燥
乾燥剤(シリカゲル等)と防虫剤(ナフタレン等)を入れた箱に展足板を入れ、最低でも1ヶ月ほどは自然乾燥させます。
結言
いかがだったでしょうか。我ながら低質な展翅, 展足を披露してしまい少し恥ずかしいです。とはいえこのレベルの下手さでも、学術的価値は充分にあり分類も容易なので、皆さんも安心してどんどん作ってみてください。本当はもっと書きたいことが山程あるのですが、あまり時間的な余裕が無いのでこの辺で筆を止めておきます。大した推敲もできていないので誤字脱字や文の冗長さで読みにくかったらごめんなさい。この記事が皆様の昆虫ライフの一助になってくれることを祈っています。では。