【言語化アップデートシリーズ Vol.1】
「定義をそろえる」は生産性の源泉になる
最近の開発では、コードを書く前の 「AIへの依頼の仕方」 が成果物の質を大きく左右するようになりました。
生成AIを活用して要件整理・コード生成・レビューを行う場面が増えるほど、
人間側の言語化の精度 がそのままプロダクト品質に直結します。
たとえば、実装者とレビュワーの間で
「この状態はどこからどこまでを指すのか」「例外はどれを含むのか」
といった “前提となる認識” が曖昧なまま共有されていると、
同じ言葉でもまったく異なる解釈が生まれます。
そしてこれは、人間同士だけでなく AIに対しても同じ です。
曖昧な指示は、曖昧な出力を生みます。
つまり、これからの開発では
“定義をそろえる力” が生産性そのもの
と言っても過言ではありません。
本記事では、エンジニアリングにおける「定義」の役割と、
それをどのように扱うと AI と人間の誤解が減るのかを整理していきます。
なぜ「定義」がそんなに重要なのか?
定義とは、
・何を含み、何を含まないのか
・どこまでをその名前で指すのか
・どんな状態を境界として扱うのか
といった “概念の枠取り” です。
開発の現場では、実は常にこれを暗黙に行っています。
- 「エラー」はどのレベルからを指す?
- 「ロード中」の状態は通信開始時点? レスポンス待機時点?
- 「ユーザー情報取得」はキャッシュ命中時も含む?
- 「成功した」はレスポンスが200ならOK?パース成功まで必要?
これらを 曖昧なまま話すと、必ずズレる。
そしてそのズレは、コミュニケーションコストやバグとして跳ね返ってきます。
さらに AI を使う場面が増えることで、
曖昧な定義が生むズレはより顕在化しやすくなりました。
「定義のズレ」が生む典型的な問題
1. 意図しないコード生成
AIは与えられた説明の “枠” に従って動くため、
その枠が曖昧だと、当然意図しないコードが返ってきます。
- 例外を含むのか含まないのか
- エッジケースの想定範囲
- 入力値の前提条件
これらが曖昧なままだと、生成されるコードもブレます。
2. レビュワーとの認識齟齬
実装者「この関数はリトライ機能を持ってます」
レビュワー「え?タイムアウトだけリトライだと思ってたけど…?」
名前の裏にある概念の対象範囲が一致していない典型例です。
3. ドキュメントが役に立たない
抽象度がバラバラのまま書かれたドキュメントは、
読む側が補完しないと理解できず、実際には使い物になりません。
定義をそろえることは、これらの問題の土台を整える行為です。
どうすれば「定義をそろえる」ことができるのか?
ここでは、今日から使える実践的な方法を紹介します。
1. 用語に “含む/含まない” をセットで書く
「ロード中」=通信開始〜レスポンス取得まで
※レスポンスパース中は含まない
というように、“境界” を明示します。
2. 「この名前はどんな状態を指す?」を常に問い直す
レビュー時に
「この変数名は、どの範囲の状態を含みますか?」
と聞くだけで、ズレがすぐに浮き上がります。
3. AIプロンプトにも境界を明記する
AIに依頼するときは、曖昧さを残さず、
どこまでを対象とするのかを必ず書きます。
この関数では「ユーザー情報取得」を
- APIアクセス
- レスポンスパース
までとし、キャッシュ命中時は除外してください。
たったこれだけで、AIの出力のブレは大きく減ります。
まとめ:定義をそろえると、開発は必ず速くなる
- 用語の範囲が一致していない
- 境界が決まっていない
- “何を含むのか” が暗黙になっている
こうした状態が、コミュニケーションのノイズ・AIの誤解・バグを生みます。
逆に、定義がそろっているチームは
仕様整理・レビュー・AI活用のすべてが滑らかになります。
PS.
とはいえ、毎回ちゃんと「定義」を考え直すのって、正直けっこう大変なんすよね...
スピード感を持って作業したいときほど、つい「まあ動くし、いいか…」となりがち。
でも、ほんの少し立ち止まって意味を整えるだけで、あとから自分を助けてくれる“未来の貯金”になるので、気負わずできる範囲でやっていくのがおすすめです。
おわりに:シリーズ化していきます
この記事は、「AI時代のための言語化シリーズ」 の第1回として書きました。
もし内容が役に立ったり、次回も読んでみたいと思っていただけたら、
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とても嬉しいですし、続編の制作スピードが確実に上がります。
次回のテーマは
「具体と抽象」
について掘り下げていきます。
引き続きよろしくお願いします。