はじめに
最近、「Vibe Coding(バイブコーディング)」という言葉をよく見かけます。AIに厳密な指示書を渡さず、「こんな感じで」というざっくりした依頼でコードを生成していくスタイルのことです。
便利な言葉だと思う一方で、ふと自分の普段の作業を振り返ったときに、「これ、Vibe Codingじゃないな」と感じました。
自分が普段個人開発でやっているのは、こんな感じの作業です。
- FreeCADでのメカ設計、3Dプリント
- ESP32やKiCadを使ったファームウェア〜基板〜筐体設計
- Home Assistant連携などのIoT・ネットワーク統合
コードを書く工程もあるにはあるけれど、それは全体のごく一部。
メカ・電気・ソフト・ネットワークを横断して、AIと一緒にハードウェアそのものを作っている感覚のほうが強い。
この「コーディング」という言葉に収まりきらない感じに、名前をつけられないかと考えてみました。
既存の候補を検証してみる
まずは「Vibe ○○」で既にある言葉がないか、ひとつずつ確認していきました。
Vibe Working
検索するとすぐに見つかりました。
生成AIに「ざっくりとした意図やゴール」を自然言語で伝え、AIが主体的に仕事を進める働き方全般を指す言葉として、複数の記事で使われています。Gensparkの創業者が提唱したという説明も見かけました。
ただしこれは「働き方」全般の話で、企画書作成やデータ分析なども含む非常に広い概念です。
メカ設計や電気配線といった物理的な作業を指すには意味が広すぎ、しっくりきませんでした。
Vibe Engineering
「エンジニアリング」なら領域を横断できそうだと思って調べたところ、これも既に使われている言葉でした。
ただし想定していた意味とは違い、Simon Willisonが提唱した概念で、「Vibe Coding」のような野放しなAI任せの開発ではなく、より規律だった開発手法を指す言葉として使われています。
つまりこちらも、今回自分が表現したい「ハードウェアを含めてAIと一緒にものを作る」という意味とは少し違います。
Vibe Mechatro(メカトロニクス)
領域横断のニュアンスを出したくて考えた造語です。
ただ、「メカトロ」は機構設計+電気制御までのイメージが強く、ネットワークやクラウドまで含む作業範囲を表すには狭く感じました。
中途半端な印象が拭えませんでした。
Vibe Hardware/Vibe Coding for Hardware
2026年に入ってから、ハードウェア領域でも似た言葉が広がり始めていました。デンマークのスタートアップAtechがLovableから出資を受け、ハードウェア制作のプロセスに「Vibe Coding」を持ち込もうとしている、というニュースも見かけました。
ただしこれもコーディングの延長線上の話で、メカ・電気・ネットワークまで横断するニュアンスは含んでいません。
Vibe Manufacturing
基板設計や製造工程をAIに任せる行為を指して、SNS上で「Vibe PCB」「Vibe Manufacturing」と呼ぶ投稿も見かけました。
ただしこちらは製造・量産寄りの意味合いが強く、範囲としてはやや狭く感じました。
Vibe Making/Vibe Building
「-ing」で終わる語感を「Vibe Coding」「Vibe Working」に揃えたくて考えた候補です。
検索してみると、「Vibe Making」という言葉自体はいくつかの場所ですでに使われていました。
ただし、使われ方はかなりバラバラです。AIを使ったクリエイティブ制作を指していたり、3Dプリントやハードウェア制作を指していたり、AI×CNCによる製造を指していたりします。
一方で、「メカ・電気・ソフト・ネットワークを横断してAIと一緒に実物を作る」という意味で統一された定義があるわけではありませんでした。
「Vibe Making」という言葉はすでに存在する。でも、まだ「これがVibe Makingだ」という共通認識ができている言葉ではない。
という状況でした。
わかったこと
「Vibe Making」という言葉自体は、すでにいくつかの場所で使われています。
ただ、その意味はかなりバラバラでした。AIでクリエイティブを作ることを指す場合もあれば、3Dプリントやハードウェア、CNCによる製造を指す場合もあります。
そこで今回は、この言葉を「自分のやっていること」を説明するために使ってみることにしました。
候補まとめ
| 候補 | 既存語か | 意味 | 自分の作業に合うか |
|---|---|---|---|
| Vibe Working | ○ 既存 | AIと進める仕事全般 | △ 広すぎる |
| Vibe Engineering | ○ 既存 | 規律的なAI開発 | △ 今回の意味とは異なる |
| Vibe Mechatro | × 造語 | 機構+電気制御 | △ ネットワークまで含まず狭い |
| Vibe Making | ○ 既存(意味は未統一) | 用例により様々(クリエイティブ制作/3Dプリント/CNC製造など) | ◎ 今回の記事では独自に定義して使う |
| Vibe Coding for Hardware | ○ 既存(2026年〜) | AIとの対話でハードウェア制作プロセス自体を進める(Lovable出資先のAtechなど) | △ コーディングの延長線上で、メカ・電気横断のニュアンスは薄い |
| Vibe Hardware | △ 用例あり(ブログ・SNS) | ハードウェア全般をAIと作る行為を指す口語的な表現 | ○ 近い意味だが定義はまだ確立されていない |
| Vibe PCB/Vibe Manufacturing | △ 用例あり(SNS) | 基板設計や製造工程をAIに任せる行為 | △ 製造・量産寄りで範囲がやや狭い |
Vibe Makingとは何か
言葉を検証していく中で見えてきたのは、「名前がない」こと自体よりも、「自分がやっている作業をどう定義するか」のほうが大事だということでした。
「Vibe Making」はすでに存在する言葉ですが、今回確認した範囲では、共通の定義が定着しているとは言えませんでした。だとすれば、今回の記事では、特に「メカ・電気・ソフト・ネットワークを横断してAIと一緒に実物を作るスタイル」という意味で使ってみることにします。
Vibe Makingとは、AIを「コードを書くための道具」に限定せず、設計・実装・検証のパートナーとして使いながら、メカ・電気・ソフトウェア・ネットワークなど複数の領域を横断して、実際のモノを作っていく開発スタイルです。
「Vibe Coding」との一番の違いは、成果物がコードで閉じないという点です。
AIとのやり取りの結果は、画面の中のプログラムだけではありません。
- SolidWorksやFreeCADで設計したメカ部品
- ESP32上で動くファームウェアと、それを載せる基板・筐体
- Home Assistantなどと連携するIoT・ネットワーク側の仕組み
というように、複数の領域にまたがった「動く実物」として出てきます。
AIとのやり取りも、コードのロジックだけではありません。
「この機構でこの負荷に耐えられるか」
「この配線でこのデバイスと通信できるか」
「このセンサーの値をどう処理すればいいか」
といった、物理法則や規格、ソフトウェアなどを跨いだ相談になることもあります。
もちろん、最終的な判断や実機での検証までAIに任せるわけではありません。AIと相談しながら設計し、実際に作り、動かして、その結果をまたAIに返して修正する。この繰り返しそのものが、Vibe Codingを内包しつつメカ・電気・ネットワークの意思決定にもAIを巻き込んでいく、自分にとっての「Vibe Making」です。
おわりに
今回は「Vibe Making」という、すでに存在するけれどまだ意味が定まっていない言葉を、自分の作業を指す名前として使ってみることにしました。
「Making」自体がMaker文化で「もの作り全般」を指す定番の語であり、メカ・電気・ソフト・ネットワークを横断する今のスタイルに一番近いと感じたためです。
もしかすると数年後には、この言葉も必要なくなっているかもしれません。
AIと一緒にものを作ることが当たり前になれば(すでにそうなっているかもしれませんが・・・)、「Vibe」という接頭辞そのものが不要になるからです。
それでも今は、自分の作業を説明するために、ひとまず「Vibe Making」と呼んでみようと思います。
同じようにジャンル横断でAIと一緒にものを作っている方は、自分の作業をどう呼んでいますか。
「Vibe Makingって結局何なのか」も含めて、近い言葉を使っている方がいれば、ぜひ教えてください。