はじめに
Microsoft Ignite 2025で「How to modernize Oracle workloads on Azure」というセッションに参加してきました。OracleとMicrosoftという、かつてはライバル関係にあった2社が、今ではエンタープライズ顧客のために強力なパートナーシップを築いているという話は聞いていましたが、実際のセッションでその深さと実用性に驚かされました。
この記事では、特に印象に残った「OracleとAzureの相性の良さ」と「マルチクラウド戦略の重要性」について、セッションで得た知見をまとめます。
なぜ今、OracleとAzureなのか
セッションの冒頭で示された統計が興味深かったです。現在、98%の企業が2つ以上のクラウドを利用しているとのことでした。これは単なる分散投資ではなく、明確な戦略的判断に基づいているんですね。
マルチクラウドを選ぶ3つの理由
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イノベーションの選択肢
- Oracleの強力なデータベース技術
- Azureのエンタープライズアプリケーション基盤とAI機能
- それぞれのクラウドから「最良のもの」を選びたい
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レジリエンス(回復力)の向上
- 複数のクラウドにワークロードを分散
- 単一障害点のリスクを軽減
- ビジネス継続性の確保
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コンプライアンスと主権要件
- 国や地域ごとの規制への対応
- データ主権の要件を満たす柔軟性
このような背景から、多くの企業がOracleデータベースをAzure上で動かしたいというニーズを持っているわけです。
OracleとAzureの連携 - 3つの進化段階
セッションでは、OracleとMicrosoftのパートナーシップの歴史も紹介されました。実は3つの異なるアプローチがあり、それぞれが異なるニーズに対応しているんです。
2019年に始まった最初の形態です。OCIとAzureのデータセンター間を専用の低レイテンシー接続で結ぶ方式です。
特徴:
- ExpressRoute(Azure)とFastConnect(OCI)による専用回線接続
- 約2ミリ秒のレイテンシー
- データ転送料金なし
- 各クラウドを個別に管理(OCIコンソールとAzureポータル)
この方式では、アプリケーションはAzure、データベースはOCIという構成が一般的でした。多くの企業が採用しましたが、2つのクラウドを跨ぐ管理の複雑さが課題として残っていました。
第2段階: Oracle Database Service for Azure(2022年〜)
2022年に登場したのが、管理の簡素化に焦点を当てたサービスです。
改善点:
- Oracleがネットワーク接続を管理(顧客の負担軽減)
- Azureライクなポータル体験(multicloud.oracle.comというURL)
- Azure Application InsightsやLog Analyticsとの統合
- レイテンシーは約2ミリ秒(データベースはOCI側に配置)
Interconnectと比べて管理が簡単になりましたが、データベースは依然としてOCIのデータセンターにあるため、物理的な距離による制約は残っていました。
第3段階: Oracle Database@Azure(2023年〜)
そして2023年、ラリー・エリソンとサティア・ナデラが共同発表したのがOracle Database@Azureです。これがゲームチェンジャーでした。
革新的なポイント:
- Azureデータセンター内にOracleのインフラを配置
- 200マイクロ秒以下のレイテンシー(従来の約10分の1!)
- Azureポータルから直接プロビジョニング・管理
- MACCでの支払いに対応
- 31リージョンで展開済み(さらに拡大中)
なぜDatabase@Azureが注目されるのか
200マイクロ秒以下という数字が全てを物語っています。従来の2ミリ秒でも十分低遅延でしたが、それをさらに約10分の1にすることで:
- ミッションクリティカルなOLTPワークロードに対応
- リアルタイム性が求められるトランザクション処理
- マイクロサービスアーキテクチャでの利用
これらのシナリオで、より多くの選択肢が生まれたわけです。
統合の深さ
技術的な統合も徹底されています:
- ネットワーク統合: Azure Virtual Networkとの完全統合
- 管理統合: Azureポータルから全て管理(もうOCIコンソールは不要)
- 価格統合: Microsoft Azure Consumption Commitment(MACC)での支払い
- セキュリティ統合: Azure Key Vault、Microsoft Sentinel、Security Copilotとの連携
つまり、Oracle DatabaseをAzure上で使っていても、完全に「Azureのサービスを使っている」という感覚なんです。これは運用チームにとって大きなメリットだなと感じました。
適材適所の選択
重要なのは、これら3つの選択肢がどれか1つを選ぶものではないということです:
- Database@Azure: 超低遅延が必要、Azureとの深い統合が必要な場合
- Database Service for Azure: コスト最適化重視、OCIの特定機能が必要な場合
- Interconnect: 既存のOCI投資を活かしつつAzureと連携したい場合
セッションでも「マルチクラウドは選択肢を持つこと」という点が強調されていました。状況に応じて最適な構成を選べるのが、このパートナーシップの強みなんですね。
実用的なユースケース
セッションでは3つの主要なユースケースが紹介されました:
1. クラウド移行の加速
- オンプレミスのExadataからの移行
- Oracle Maximum Availability Architecture(MAA)の実装
- 既存のOracleアプリケーション(E-Business Suite、PeopleSoft等)の移行
2. AI対応アプリケーションの構築
デモで印象的だったのは、Copilot Studioを使ってOracleデータベース上のデータからAIエージェントを構築するシナリオでした。開発者がAzureポータルからOracle Databaseを選択し、Microsoft Fabric、Azure AI Searchと連携させて、数分でインテリジェントなエージェントを作成していました。
- Oracle 26 AIのベクトル検索機能
- Azure AI Searchとの統合
- Microsoft FabricのData Agent機能
- Microsoft 365 CopilotやTeamsへの展開
このように、Oracleの「データの信頼性」とAzureの「AI機能」が組み合わさることで、新しい価値が生まれるんだなと実感しました。
3. 複雑性とコストの削減
- 単一のデータベースで複数のワークロードタイプに対応
- ベクトルデータ、IoTデータ、アナリティクス、OLTPを1つのプラットフォームで
- MAACの支払いによるコスト最適化
マルチクラウド戦略の実践
セッションで強調されていたのは、「選択肢」としてのマルチクラウドという考え方です。
利用可能なOracle Databaseサービス
Azure上で4種類のOracle Databaseサービスが提供されています:
- Autonomous Database: フルマネージドで弾力性のあるサービス
- Exadata Database Service on Dedicated Infrastructure: 専用インフラでの高パフォーマンス
- Exadata Database Service on Exascale Infrastructure: より低コストでのExadataパフォーマンス
- Base Database Service: シンプルなシングルインスタンスデータベース
これらは、OCIで提供されているものと同じライセンスポリシー、同じ価格体系で利用できます。つまり、Azure上でもOCIと同等の条件でOracleを使えるということです。
グローバルな展開
現時点で31のAzureリージョンでOracle Database at Azureが利用可能です。さらに、West EuropeとBrazil Southへの展開も近日中に予定されているとのことでした。
実際の採用事例
セッションでは、さまざまな業界での採用事例が紹介されました:
- 小売業
- ヘルスケア
- 金融サービス(Fintech)
- その他多数
明日(11月20日)16:30からの別セッションでは、Hartford Insurance(現Talcott)が実際の導入事例を語るそうで、こちらも参加したいと思っています。
まとめ
Microsoft Ignite 2025のこのセッションを通じて、OracleとAzureの組み合わせが単なる「連携」を超えて、真の意味での統合プラットフォームになっていることを理解できました。
特に印象に残ったポイント:
- マルチクラウドは必然: 98%の企業が実践しているように、複数クラウドの活用は戦略的選択
- 段階的な進化: Interconnect(2019)→Database Service(2022)→Database@Azure(2023)と、着実に統合を深めてきた
- 圧倒的な低レイテンシー: 200マイクロ秒以下という数字は、従来の約10分の1
- 選択肢の提供: 3つの異なるアプローチから、ニーズに合わせて選択可能
- AIへの対応: Oracle 26 AIとAzure AIの組み合わせによる新しい可能性
企業がデジタルトランスフォーメーションを進める中で、既存のOracleワークロードをどうするかは大きな課題です。Oracle Database@Azureは、その課題に対する現実的で強力なソリューションなのかなと感じました。
特に興味深いのは、**「どちらか一方」ではなく「状況に応じた選択」**という考え方です。超低遅延が必要ならDatabase@Azure、コスト最適化ならDatabase Service、既存OCI投資を活かすならInterconnectと、柔軟に選べるのがこのパートナーシップの真価なんだと思います。
マルチクラウド時代において、「両方のベスト」を組み合わせられるというのは、エンタープライズ企業にとって非常に価値のある選択肢だと感じました。
参考リンク
Oracle Database@Azure:
マルチクラウド連携について:
関連セッション:
- "Building AI Agents with Oracle Database at Azure and Microsoft Fabric" (11月20日 16:30)
この記事は、Microsoft Ignite 2025での実際のセッション参加体験に基づいて作成しています。




