朝の光が、薄い層を透かすように部屋へ優しく差し込んでいた。
目を開けた瞬間──
ここ数日のお決まり。
右側には、寝ぐせで髪の毛が爆発しているミリア。
左側には、なぜかピンクゴールドの髪がサラサラな、ルミエラが寄り添うように眠っている。
「……え?」
私が、声を漏らした途端、
ルミエラが目をこすりながらふにゃっと目を開けた。
「……ニカさん……おはようございます……」
ルミエラの寝ぼけた柔らかい声が、朝の空気をそっと穏やかに揺らす。
続いてミリアがむくっと起き上がり、
寝癖のまま飛びついてくる。
「ニカ姉ぇぇぇ!!」
「ちょ、ちょっとミリア……!」
布団を被って、抱き着いてくるミリアをあやしていたら、
布団の外から元気がよくドアをノックする音が響く。
「おーい! 朝飯できたぞー! 早よ来んか!」
朝から元気がいいアクスの声が響く。
そんなアクスの声に、私の左隣りで寝ていたルミエラは布団の中で小さく丸まり、
「……あと5分……」と呟く。
二人を、しっかりと目覚めさせるために、洗面台へ連れていき、一人ずつ洗顔をさせる。
ミリアは、既に元気いっぱい。それに対して、ルミエラは朝が弱いのか、半分寝ぼけていた。
そんな二人の世話をしつつ、私も顔を洗って衣服を整える。
そんな朝の騒がしさが、
昨日の深層で感じた余韻を一瞬だけ遠ざけてくれた。
■朝の食卓
食堂には、淡い湯気と優しい香りが満ちていた。
食堂に入ると既に席について、本を読んでいたネリアお姉様が
本から顔を上げて優しく微笑む。
「深層揺れの翌朝は、身体の初期値を整える食事が必要です。
今日の朝ごはんは、そういったメニューを中心に出してもらいました。」
テーブルには、
《薄光野菜の白湯煮》
──薄光野菜の繊維がほろりと崩れ、淡い光を返す優しい煮物。
《蒼根豚の理蒸し巾着》
──蒼根芋を主食に育つ豚で、肉質が淡く甘い蒼根豚を淡層卵と混ぜ、
層がふわりと立ち上がる香り豊かな蒸し巾着。
《白根米の小さなおにぎり(薄塩)》
──理の粒を含む白根米が、朝の身体にすっと馴染む優しい塩気。
そして──
《淡層ミルクと白露豆腐の層ほぐしスープ》
──白露豆腐がスプーンでふわりと崩れ、淡層ミルクの甘みと混ざり合う、
深層で揺れた後の身体を整える一杯。
ミリアが食卓に並んだ料理に目を輝かせる。
「わぁぁぁ! 今日の朝ごはんも、すごく美味しそう!」
アクスは目を丸くして叫ぶ。
「うおっ! なんやこれ! すげぇ豪華やんけ!」
ルミエラは静かに微笑み、スープをそっと口に運ぶ。
その顔には、美味しさに眠気が飛ばされたと言わんばかりの満面の笑み。
私は、淡い湯気の向こうに揺れる白露豆腐を見つめながら、
それを、スプーンですくって口に運ぶ。
──胸の奥で感じていた違和感が、ほんの一瞬だけ静まった。
その静けさは、深層の白とは違う、
“現実の温度”を持った優しい温かさだった。
■食後のひととき
食後、食堂でネリアお姉様が淹れてくれたコーヒーを飲みながら一息つく。
その時──
私の視界の端を、白い残像がちらりと揺れた。
「……あれ……?」
胸の奥が、コーヒーの温かさとは違うリズムでふるりと脈動する。
ふっと、意識が遠のくような感覚が走った。
「ニカ姉……?」
私の右隣でコーヒーにたっぷりのミルクと砂糖を入れた甘いカフェオレを堪能していた
ミリアの声が震えた。
「ニカさん!大丈夫ですか?」
私の左隣りでミリアと同じく甘いカフェオレを堪能していたルミエラも、慌てて私の肩に手を置く。
そんな私をネリアお姉様は、静かに観察するように見つめていた。
「……ニカさん……お手数ですが、また研究室へ来ていただけますか。
どうやら、ニカさんの中で揺れが続いているようです。」
私は小さく息を吸い、その言葉に小さく頷く。
胸の違和感を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。
■再び研究室へ
ネリアお姉様が通した、特別通路を進むと、
無機質な空気が胸の違和感を静かにちくりと刺激する。
ネリアお姉様が先頭になって研究室に入ると、解析器の白い光がふわりと広がる。
ネリアお姉様が持っていた綺晶核を解析機に置いた瞬間──
白い波形が跳ねるように揺れた。
ネリアお姉様が静かに息を呑む。
「……これは……
深層側が、ニカさんに“合わせている”……ということでしょうか?」
胸の奥が強く脈動する。
より一層胸の奥に感じる違和感が激しさを増していく。
──……ニカ……
それは、音ではない。
周りの誰かが発した声でもない。
でも確かに、私は誰かに“呼ばれた”。
ミリアが泣きそうな顔で私の腕をギュッと抱き締める。
「ニカ姉ぇぇぇ!!
昨日みたいに急に倒れんでよ……!」
ルミエラが私の左手を優しく包むように、温かく握る。
「……大丈夫です。私もここにいます。」
アクスは私の変化に何も出来ない自分に対する怒りなのか、
歯を食いしばりながら、ただ黙って私たちを見守っていた。
■白の奥に走る影
解析機の白い波形が、
私の心拍と完全に同期した瞬間──
その奥に、“黒い線”が一瞬だけ走った。
私が体験した深層には存在しないはずの黒。
しかし、それは音も、存在する気配もない。
ただ、 誰かがこちらを見ている そんな感覚だけが残った。
「……今のは……?」
ネリアお姉様が震える声で言う。
「深層の……外側からの干渉でしょうか……?」
その言葉に私は息を呑んだ。
(あなたは……だれ……?)
私の問いに返ってくる応えはない。
ただ、胸の奥の違和感が、さっきよりも深く、重く激しく揺れた。
■境界の震え
ネリアお姉様が静かに告げる。
「……境界が震えています。
深層と現実の境目が、
これは、ニカさんの位相に“呼応”しています。」
ミリアが私の右腕に、離すまいとしがみつく。
左隣のルミエラは不安を隠せず、
アクスは何も出来ない自分に、強くその拳を握りしめていた。
私は胸の奥の違和感を感じながら、静かにゆっくりと息を吸う。
──深層が、また私を呼んでいる。
その言葉だけが、静かに胸に落ちた。
その事柄だけを、静かに理解した。
最近、更新がゆっくりになってしまって、ごめんなさい。
それでもページを開いてくれる皆さんに、心から感謝しています。
深層の白の奥に走った“影”──
あれが何なのか、
これから、ニカはどこへ向かうのか。
次回、少しだけその答えに触れます。
また読みに来てもらえたら嬉しいです。
最後まで読んでくれてありがとうございます。