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【AWS Lore #SAA-31】揺れる核 (Core Interference)

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--第30話はこちら

■咆哮

影獣の咆哮が、空気そのものを震わせた。

黒い棘が床を侵食し、深層の色がじわりと滲み出す。
空間が低く唸り、揺れが脈打つように広がっていく。

胸の奥が、またズキッと痛んだ。

私は息を呑み、胸を押さえながら影獣を見据える。

――揺れが、違う。

この揺れ方は、ただの暴走じゃない。
もっと深いところで、何かが軋んでいる。

視界の端で、空気のざらつきが、深層の色と重なり線になって浮かび上がる。

(……見える……揺れの“流れ”が……)

痛みが一瞬だけ緩み、代わりに重なった線が鮮明に見える。

影獣の複雑で、奇妙な動きの軌跡。
深層の色の鮮やかな粒子。
空気の微細な震え。
心臓の鼓動と揺れが、どこかで同期していく。

私は次第に感覚が研ぎ澄まされていくのを感じて、
澄み渡っていく感覚に、ゆっくりと息を呑んだ。

■決意の反撃

ミリアが私の袖をぎゅっと掴んでいた。

「ニカ姉……怖い……でも……」

声が震えている。
でも、その掴まれた手は離れない。
更に力が込められていく。

影獣の暴走がさらに激しくなり、アクスが押され始める。
「こりゃ……ヤバかね……
せやけど、後ろのニカ達には触らせんばい!」
押されつつも、何とか体勢を立て直そうと踏ん張るアクス。

押されるアクスに、
ミリアの指先が震えながらも、
私の袖を掴む力が次第に強くなる。

「……あたしだって……
 あたしだって……いつまでも弱いまんまは嫌!」

ミリアが前に一歩踏み出す。

「ワサミ!!
 アクスさんを援護して!!」

「わささっ!!」

その瞬間、ミリアの影からワサミたちが一斉に飛び出す。

ネリアお姉様がそれを聞いて、驚き小さく瞬きする。

「……ワサミ……ですか?」

ルミエラが肩をすくめる。

「名前……決めちゃったんだ……ワサミ……」

ミリアは耳まで真っ赤になりながら叫ぶ。

「い、いいでしょ!?
 もう今さらなんか考えるの面倒だし……
 ワサミはワサミなの!!」

「わさっ!」

アクスが笑う。

「ワサミ……ええやん!かわいか名前やん……」

「かわいくないっ!!」

その2人のやり取りに、張り詰めていた緊張が一瞬だけ緩む。

■増える増える?

ワサミたちが一斉に動き出す。

影獣の足元に絡みつき、棘を切り落とし、アクスの足場を作り、注意を散らす。

「おっ!ワサミ意外とやるやん!
こりゃ助かるばい!!」

アクスが、ワサミたちの作った隙を突いて、
影獣へと一歩近づく。

その瞬間――

「えっ?なんか増えとらん!?!?
はぁ??いやいや、増えすぎっちゃ!!」

「わささささっ!!」
アクスの驚きにワサミ達が反応しているのか、増殖は止まらない。
アクスが自分の腕から発する熱と、
ワサミ達の増殖を見比べる。
熱量を、少し下げると少しワサミが減った気がした。

「……待てよ。
 これ、俺の熱に反応しとるんか……?」

「わさっ!」
アクスの問に応えるかのように、ワサミが反応する。
それを見た、アクスの目がギラッと光った。

「なら……俺の熱をもっと上げりゃ、
もっと増えるっちゃろ!!」

アクスの両腕から放たれる熱量が、
一気に跳ね上がる。

「わさささささささっ!!!」
それに反応して、ワサミ達が増える増える。どんどん増えて増え続ける。増えるワサミは、限界を知らない。

どんどん増殖していくワサミに、ミリアが慌てて叫ぶ。

「ちょ、ちょっと!?
 そんなに増えたら……あたし、耐えられんって……!」

ミリアの焦りに、アクスは快活な笑みで返す。

「大丈夫ばいミリアちゃん!
 これは俺の熱で勝手に増えとるだけやけ!
 ミリアちゃんに、負担はなかろう?」

「……えっ……?
 ……あ、本当だ……
 全然……苦しくない……!」

「ほら見てみぃ!
 ワサミ、めっちゃ元気やん!!」

「わさささささささささっ!」

ミリアは少しだけ嬉しそうに目を細めた。

「……そ、そうだけど……!」

■爆動

アクスの両腕が、さらに赤熱していく。

熱が空気を歪ませ、影獣の黒い棘が焼け落ちる。
ワサミ達がその隙間に潜り込み、影獣の動きを掻き乱していく。

「アクス!右の揺れが弱い!
 そこばい!!」

私は、追っていた揺れが弱くなっていた箇所を叫ぶ。

私の声に、アクスは迷いなく、力強く踏み込む。

「おうよ!一気に行くばい!!」

地面を蹴り、影獣の懐へ滑り込み、右の揺れを正確に捉える。
アクスの持つ、赤熱したトンファーが、影獣の肉を焼き裂く。

影獣が苦悶の咆哮を上げて揺れが大きくなる。

揺れの線が、私の視界で大きくはっきりと乱れる。

(……今……!)

アクスが吠える。

「ニカが見つけた道は……
 俺が通すしかなかろうもん!!」

アクスの両腕が、真紅に燃え上がり唸りをあげて空気の壁を撃ち抜く猛攻。

「バーニング・ラァァァッシュ!!!」

熱の奔流が多弾となって走り、
数多の炎熱が影獣の胴体を焼き貫いていく。

黒い肉が焼き裂け、深層の色が渦を巻く。

中心に――
“核”が露出する。

私の胸が、ズキッと痛む。

「……あれが……核……!」

アクスが叫ぶ。

「今や!!」

影獣の身体が崩れ始め、深層の残滓が液体のように広がる。

黒い揺れが床に滲み、空気がざらつき、ざわつく。

■静なる世界

ざわつく嫌な感覚の中、
ネリアお姉様が静かに、アクスの前へ歩み出る。

「ネリアさん!?危なかって!!」

アクスが叫ぶが、ネリアお姉様はそれを否定するように首を横に振る。

「……大丈夫です。
 ここからは、私の役目です。」

その声は静かで、しかし絶対だった。

ネリアお姉様が中空に手をかざすと、
アクスの熱で膨らんでいた“動”の空気が、
一転して“静”に変わる。

私が感じていた揺れは止まり、音が吸い込まれるように消えていく。

ネリアお姉様の掌に、淡い光が集まる。

ふわりと浮かび上がったのは――

小型の《綺晶核(きしょうかく)》

透明度の高い結晶の内部に、
綺の理が淡く流れている。

ネリアお姉様の声が、儀式のように響く。

「乱れし理よ……
 正しき理に従い……
 封緘せよ──」

影獣の残滓が光の糸となり、
綺晶核へと糸となって吸い込まれていく。

黒い揺れが、結晶の内部に絡みつくように、
封じられ、細く収束していく。

最後に、ネリアお姉様は静かに紡ぐ。

「綺封緘。」

綺晶核が淡く光り、
内部に黒い揺れが“ひと筋”閉じ込められた。

蠢いていた影獣は、綺晶核に封じられた。

私が感じていた胸の痛みが、ふっと消える。

「……えっ……胸の……痛みが……」

ミリアとルミエラが、駆け寄ってくる。

「ニカ姉!!」
「ニカさん!!」
慌てて駆け寄ってくる二人に、心配ないと笑顔で返す。
「もう大丈夫……ネリアお姉様が……全部、封じてくれたけん……」

ネリアは綺晶核を見つめながら言う。

「……乱れた理は、正しき場所へ還りました。
 この綺晶核に封緘した残滓を分析すれば……
 ニカさんの“揺れ”の正体にも近づけるでしょう。」

アクスは汗だくで歯を見せて快活に笑い、
額に流れる汗を腕で拭う。
「ふぅ……やっと終わったばい……!」

ワサミが跳ねて、
ミリアに褒めてと言わんばかりに抱きつく。
「わさっ!」

ミリアがワサミを抱きしめて、小さく笑う。

「……ありがと、ワサミ……」

影獣の揺れは消え、
空間に静けさが戻っていった。

私達は、これで終わったと思っていた……。
だけど、ここからが本当の始まりだったのかもしれない。


影獣は封じられ、揺れも静まったはずなのに──
綺晶核の奥で、何かがまだ脈打っている気がした。

あれは終わりではなく、
始まりの合図なのかもしれない。

続きは、また少し先で……。

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