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【AWS Lore #SAA-30】影の胎動(Shadow Interference Signal)

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--第29話はこちら

■ 影の揺れ

影獣が、音もなく横へ滑るように動いた。
その瞬間、私の視界がふるりと揺れたのを感じた。
深層で見た“あの色”が、現実の景色に薄く重なっていく。

胸の奥にズキンと痛みが走る。

ミリアの抱えたワサミが、
私の胸の痛みに反応したのかピクリと震え、
ミリア自身も肩をすくめた。

ネリアお姉様が優しく息を呑み、私を気遣う。

「……今の揺れ、深層のものに似ていますね。
ニカさん、無理はしないでくださいね」

その言葉に私は、強気な笑顔で返す。
今までとは違う。ただ守られてる私じゃない。
だから、私は影獣の気配を追う。
影獣の動きが“線”として繋がっていく。
右側に揺れが収束していく。
右から来る。そこから。
そう感じた私の喉から自然と言葉が紡がれる。

「アクス、右から来とる!」

私の言葉を、アクスが振り返りもせず、得意満面に応じる。

「おうよ!右……行くばい!」

■ 熱の理

アクスの左手に熱い熱が迸る。
彼の皮膚の下で赤い光が強く脈打ち、
手に握ったトンファーへとドクンと流れ込んでいく。

金属が低く鳴り、空気が歪む。

影獣の突進とアクスの熱が激突する。

ドンッ!

激突した衝撃に遅れて音が響き、
衝撃で床材がひび割れ、破片が跳ねる。
熱で空気が揺らぎ、埃がふわりと舞った。

影獣の身体が弾き飛ぶ。

アクスが親指を立てる。

「どやっ!」
ドヤ顔で振り返るアクスに、
「まだ、終わっとらんっちゃ!」
私の声に、一瞬目を見開き周囲の気配を探るアクス。

■ 深層の残滓

影獣は倒れない。
否、倒れたのに、滅せない。
床に落ちた影が液体のように広がり──
別の場所から、ぬるりと立ち上がる。

ルミエラの手に持つ端末が赤く、
緊急事態を知らせる様に激しく明滅する。

「データ……壊れていく……! 深層の揺れが干渉してる……こんなの、記録できない……!」

リミラさんが静かに言う。

「……深層の残滓どすな。
影獣が、ニカはんの揺れに引かれとりますわ」

ネリアお姉様が私の体を支えるように、下から覗き込む。

「ニカさん……胸の痛み、強くありませんか?」

胸がまたズキンと痛んだ。
だけど、今までのただ護られてただけの私じゃない。
「大丈夫です……まだ……まだいけます!」

■ 上からの強襲

心配してくれるネリアお姉様と一緒に、影獣の気配に視線を向ける。

影獣は再び動きだす。
一瞬見失った。でも、今度は上からの気配を感じた。

視界が一瞬だけ深層の色に染まる。
影獣の軌跡が、空に線として浮かぶ。

「アクス!今度は上から来るばい!」

アクスが勢いよく地面を蹴る。

「任せんしゃい!!」

逆手に構えたトンファーを、
下から一気に突き上げた。

熱が柱のように走り、影獣の身体を弾き飛ばす。

踏み込んだ衝撃で床材の破片が跳ね、埃が舞う。

影獣は壁に叩きつけられ、黒い影が液体のように広がった。

■変質する影

影獣の身体が、
まるで“影の泥”のように溶けて崩れ始める。

腕が溶け、脚が伸び、背中から黒い棘が生え──
形が定まらないままに、ゆらゆらと揺れ続けていた。

ルミエラが端末を握りしめる。

「形が……安定してない……! 深層の揺れが混じってる……!」

リミラさんが静かに、目を細めて呟く。

「形が定まらん……深層の残滓が混じっとりますわ」

ミリアはワサミを抱きしめて震える。

「ニカ姉……無理せんで……」

ミリアの声に、
「大丈夫!」
短く力強く応える。

■ 深層の声

影獣の揺れが強まった瞬間、
視界が一気に暗転した。

深層の色。
深層の音。
深層の“あの影”。

──誰かの声が聞こえた気がした。

『……ニカ……』

「っ……!」

ネリアお姉様が抱きとめる。

「ニカさん……! 深層と現実の境界が薄くなっています……!」

■ 迫る影

影獣が、形を揺らしながら私の方へとその歯牙を向ける。

音もなく、ただ“揺れ”だけを残して迫ってくる。

ミリアが震える声で。

「ニカ姉……っ……」

アクスが前に飛び出す。

「ニカには触らせん!!」

■爆ぜる熱

アクスの両腕に熱が走る。
今までよりも強く、赤い閃光。

「ニカを泣かせるもんか……!」

アクスが地面を蹴る。

トンファーが赤く燃え、空気が爆ぜる。

影獣の突進とぶつかり──

ドガァッ!!

衝撃で壁が揺れ、破片が落ちる。
熱が渦を巻き、影獣の身体が大きく歪んだ。

■影の胎動

影獣は吹き飛ばされながらも、
形を崩し、また別の場所から立ち上がる。

まるで“倒されること”を前提にした存在。

ネリアお姉様が震える声で言う。

「……これは、倒すだけでは終わりません。深層の揺れが核になっています……」

リミラさんがネリアお姉様の言葉に続ける。

「揺れそのものを断たな……終わりませんわ」

影獣の揺れが強まるたび、胸が痛む。

「っ……はぁ……はぁ……!」

視界が揺れ、深層の影が重なる。

ネリアお姉様が私を優しく抱きとめる。

「ニカさん……! あなたの深層が、影獣に引かれています……!」

アクスが叫ぶ。

「ニカ!下がっちょけ!!」

影獣の身体が大きく揺れ、
深層の色が溢れ出す。

黒い棘が伸び、形が歪み、
目のない顔が私の方を向いた。

胸が激しく痛む。

「……っ……!」

影獣が異形へと変化し始める。

深層の色が、現実に滲み出す。


影獣の揺れは止まらず、深層の色だけが静かに脈打っていた。

私の胸の痛みも、まだ消えずに痛みはさらに増すばかり。

──けれど、これはまだ“始まり”にすぎなかった。

次の瞬間、世界はさらに揺れようとしていた。

--第2部前話はこちらから

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