令和7年度秋期 情報処理安全確保支援士(午後試験 問2)解説
テーマ: 暗号資産・楕円曲線暗号・デジタル署名・サイドチャネル攻撃・オフライン署名・メッセージ認証符号・職務分離・HSM・公開鍵暗号・鍵移送
この問題の全体像
本問は、暗号資産Bコインの署名鍵をオフラインの鍵管理PCで管理する業務を題材に、暗号アルゴリズムの分類、サイドチャネル攻撃、不正な移転情報への署名、内部不正対策、署名鍵の安全な移送を問う問題です。個々の暗号用語を暗記するだけでなく、「どの鍵で、何を、どの処理に使うのか」を図3・図6・図7の作業手順に沿って整理することが重要です。
表記について
「問題文からの引用」は、問題冊子の本文、表又は図から、解答根拠となる箇所を引用形式で示しています。引用に続く「着眼点・注目ポイント」で読み方を整理し、その後に正解と解説を示します。
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設問1 〔楕円曲線暗号を用いたデジタル署名〕について
1. 楕円曲線暗号を用いたデジタル署名アルゴリズムについて
問題文からの引用
「楕円曲線暗号を用いたデジタル署名アルゴリズムを解答群の中から全て選び、記号で答えよ。」
着眼点・注目ポイント
「楕円曲線暗号を用いること」と「デジタル署名アルゴリズムであること」の両方を満たすものを選びます。暗号化、鍵共有、ハッシュ関数は対象外です。
- 正解: ウ(ECDSA)、エ(EdDSA)
選択肢の解説
- ア(AES): 不適切。共通鍵暗号方式であり、デジタル署名アルゴリズムではありません。
- イ(ECDH): 不適切。楕円曲線暗号を利用しますが、用途は鍵共有です。当事者間で共通の秘密を生成するための方式であり、デジタル署名には用いません。
- ウ(ECDSA): 正解。 楕円曲線暗号を用いるデジタル署名方式です。署名生成と署名検証に用います。
- エ(EdDSA): 正解。 Edwards曲線を用いるデジタル署名方式の総称です。ECDSAと同様に、楕円曲線暗号に基づいて署名の生成と検証を行います。
- オ(RSA): 不適切。暗号化やデジタル署名に利用できますが、整数の素因数分解問題に基づく方式であり、楕円曲線暗号ではありません。
- カ(SHA-256): 不適切。ハッシュ関数です。署名対象データのハッシュ値を求める処理などには使われますが、SHA-256単独はデジタル署名アルゴリズムではありません。
解法のポイント: 「楕円曲線」という語だけでECDHを選ばないようにします。設問が求めているのは、楕円曲線を用いる方式のうち、さらに「デジタル署名」に分類されるものです。
名称からの判別: ECDSAの末尾にあるDSAはDigital Signature Algorithm、EdDSAのDSAもDigital Signature Algorithmを表します。一方、ECDHのDHはDiffie-Hellmanであり、鍵共有を目的とする方式です。
設問2 〔サイドチャネル攻撃〕について
1. 下線①の攻撃手法について
問題文からの引用
「施設Kには、①サイドチャネル攻撃を防ぐ対策が施されている。」
「施設Kには鍵管理PCと監視カメラだけが設置してあり、施設Kはネットワークから遮断されている。」
着眼点・注目ポイント
サイドチャネル攻撃は、暗号アルゴリズムを数学的に破るのではなく、暗号処理中に機器から漏れる物理的な情報を観測して秘密情報を推測する攻撃です。本問では「施設Kの外から」「鍵管理PCに接触せずに」「署名鍵Sを推測する」具体例が求められています。
- 正解: 施設Kの外から、鍵管理PCの作動音や鍵管理PCから放出される電磁波を観測し、署名鍵Sを推測する。
- 解説: 鍵管理PCがネットワークから遮断されていても、暗号処理に伴って生じる作動音や電磁波など、装置の物理的な挙動から得られる情報を解析し、秘密鍵を推測する攻撃が考えられます。公式解答例は、問題文の環境に即して、施設Kの外から観測する「作動音」と「電磁波」を挙げています。
補足: 問題文にある金属探知機や電子機器の持込み制限は、不正な機器の持込みを防ぐ対策です。一方、下線①は施設外からの観測も含む物理的漏えいへの対策を指します。「マルウェアで署名鍵を盗む」「ネットワーク経由で侵入する」は、ここで問われているサイドチャネル攻撃の説明にはなりません。
設問3 〔Bコインの不正移転への対策強化〕について
1. (1) 下線②でマルウェアXに実行させる処理について
問題文からの引用
「攻撃者が、②図3の手順2(i)と(ii)の間及び(vi)と(vii)の間のそれぞれにおいてマルウェアXに特定の処理をさせる。その結果、図3の手順3で警告の電子メールが送られないまま、Bコインが攻撃者に移転される。」
「手順3 午後1時、基幹サーバが、手順2(vii)でアップロードされた各ファイルを従業員向けサーバから全てダウンロードして、各ファイルに記録された移転情報と手順1で生成したファイルに記録された移転情報が一致するかどうかを検査する。また、各移転情報に付与されたデジタル署名を検証鍵Vで検証する。」
着眼点・注目ポイント
基幹サーバは、最終的に「移転情報の一致」と「デジタル署名の正当性」を検査します。一方、攻撃用のファイルをそのまま手順2(vii)でアップロードすると、手順3の照合で不一致が検出されます。そこで攻撃者は、不正な移転情報に正規の署名を付けさせた後、その署名済みファイルを攻撃者へ送信し、業務用メディアから削除します。
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正解(手順2(i)と(ii)の間): Bコインを攻撃者に移転する移転情報を記録したファイルを業務用メディア内に追加する。
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解説: 当日担当者が業務用メディアを施設Kへ持ち込む前に、不正な移転情報を追加します。担当者は手順2(iv)で内容を確認しないため、署名アプリは不正な移転情報にも署名鍵Sでデジタル署名します。
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正解(手順2(vi)と(vii)の間): Bコインを攻撃者に移転する署名済みの移転情報を記録したファイルを攻撃者に送信するとともに、業務用メディアから削除する。
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解説: 施設Kから戻った時点で、不正な移転情報には正規のデジタル署名が付いています。マルウェアXはそのファイルを攻撃者へ送信し、正規の処理へ混入しないよう業務用メディアから削除します。これにより、手順2(vii)で従業員向けサーバにアップロードされるのは正規のファイルだけとなり、手順3の照合と署名検証は成功します。一方、攻撃者は入手した署名済み移転情報を、自ら設置できるBコインノードへ送付できます。
攻撃成立の核心: 本文には「Bコインノードは、誰でも自由にインターネット上に立ち上げることができる」とあります。このため、不正な署名済み移転情報をA社の台帳サーバへ送る必要はなく、攻撃者側のBコインノードから分散型台帳へ送付できます。
時系列で確認すると: 「不正ファイルを追加する」→「施設Kで正規の署名鍵Sによる署名を受ける」→「署名済み不正ファイルを攻撃者へ送る」→「業務用メディアから不正ファイルを削除する」→「正規ファイルだけをA社の手順へ戻す」という流れです。これにより、攻撃者は有効な署名を得る一方、A社の手順3には不一致を起こすファイルが残りません。
2. (2) 空欄 a について
問題文からの引用
「改修案において、照合ファイルにメッセージダイジェストを記録する代わりに基幹サーバ及び署名アプリに共通鍵をもたせ、その共通鍵を使った [ a ] を記録するよう提言した。」
「この改修案では、正規の移転情報を記録したファイルの一つを不正な移転情報に書き換えた上で、メッセージダイジェストが一致するように照合ファイルを書き換えることができてしまう」
着眼点・注目ポイント
通常のメッセージダイジェストは、ファイルを書き換えられる攻撃者であれば再計算できます。改ざん者が正しい値を生成できないようにするには、基幹サーバと署名アプリだけが知る共通鍵を計算に用いる必要があります。
- 正解: メッセージ認証符号
- 解説: メッセージ認証符号(MAC)は、メッセージと共通鍵を入力として生成されます。攻撃者が移転情報と照合ファイルの両方を書き換えられても、共通鍵を知らなければ、改ざん後の移転情報に対応する正しいMACを生成できません。署名アプリ側でMACを再計算して照合すれば、移転情報又は照合情報の改ざんを検出できます。
補足: メッセージダイジェストはデータの変化を検出する材料になりますが、誰でも再計算できます。MACは共通鍵を知る主体だけが正しい値を生成できるため、改ざん検知に加えて送信元の認証にも利用できます。デジタル署名と異なり、MACの生成側と検証側は同じ共通鍵を共有します。
図5の改修案との対応: 改修前の案では、攻撃者は移転情報を書き換えた後、その内容から新しいメッセージダイジェストを計算し、照合ファイルも書き換えられます。MACへ置き換えると、攻撃者は共通鍵を持たないため、書換え後の移転情報に対応する正しいMACを作れません。この差が、空欄 a を導く決め手です。
3. (3) 下線③の不正行為の機会を減らす対策について
問題文からの引用
「想定事例(b)に対して財務部は、出庫業務の担当者に対する研修を強化する対策に加えて、③図3の手順2の作業中における不正行為の機会を減らす対策を講じることにした。」
「注記 財務部には複数の従業員がおり、営業日ごとの出庫業務の担当者を事前に割り当てている。」
着眼点・注目ポイント
想定事例(b)は、当日担当者一人が署名鍵Sを業務用メディアへコピーして持ち出す内部不正です。「一人だけで作業できる」ことが不正の機会になっています。財務部には複数の従業員がいるため、複数人による相互確認が可能です。
- 正解: 当日担当者を複数名とし、互いに確認しながら作業を実施するように手順を変更する。
- 解説: 複数人が同席し、相互に作業内容を確認することで、一人が密かに署名鍵Sをコピーする機会を減らします。これは、相互牽制や二人制御(デュアルコントロール)の考え方に沿う対策です。厳密には担当業務を別々の役割へ分ける「職務分離」よりも、同じ重要作業を複数人で確認する対策として捉えるのが適切です。研修や監視カメラによる事後確認だけでなく、不正を実行しにくい作業手順へ変更する点が重要です。
不十分になりやすい解答: 「監視カメラを増やす」「ログを確認する」は、抑止や事後調査には役立ちますが、公式解答が求める「作業中の不正行為の機会を減らす」という直接的な手順変更を十分に表しません。
設問4 〔署名鍵Sの移送〕について
1. (1) 下線④の問題点のうちリスクが最も高いものについて
問題文からの引用
「作業2 A社の従業員とM社の従業員が移送用メディア及びパスワードを書き留めた紙をM社まで持ち運ぶ。」
「パスワードは、オフライン解析を試みる攻撃に対して十分な強度のものを選ぶ。」
着眼点・注目ポイント
署名鍵Sを暗号化していても、その復号に必要なパスワードを同じ経路・同じタイミングで運ぶと、両方が同時に盗まれる可能性があります。パスワードの強度とは別に、暗号化データと復号に必要な情報を一緒に移送する設計が問題です。
- 正解: 作業2において、パスワードで暗号化した署名鍵Sと紙に書き留めたパスワードを一緒に移送している点
- 解説: 移送用メディアと紙を一緒に奪われると、攻撃者はパスワードを使って圧縮ファイルを展開し、署名鍵Sを取得できます。十分に強いパスワードを選んでオフライン解析を困難にしても、パスワードを書いた紙自体を同時に入手されれば、攻撃者は解析を行わずに復号できます。秘密情報と、それを復号するための情報は、同一の事故で同時に失われないよう分離して管理する必要があります。
2. (2) 図7の空欄 b~e、あ、いについて
問題文からの引用
「作業3 A社の従業員とM社の従業員が、施設K内の鍵管理PCで、移送用メディアから暗号鍵Eを読み込む。そして、[ b ] を [ c ] で [ あ ] し、生成されたデータを移送用メディアに保存する。」
「作業6 A社の従業員とM社の従業員が、移送用メディアから読み込んだデータをHSMにアップロードする。HSM内でこのデータを [ d ] で [ い ] し、得られた [ e ] をHSMに登録する。」
着眼点・注目ポイント
図7の作業1では、HSM内にRSA鍵ペアとして暗号鍵Eと復号鍵Dを生成しています。施設Kから運びたい対象は署名鍵Sです。したがって、署名鍵Sを暗号鍵Eで暗号化し、HSM内の復号鍵Dで復号する流れになります。
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正解: b:ウ(署名鍵S)
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解説: M社へ安全に移送し、最終的にHSMへ登録する対象はA社の署名鍵Sです。
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正解: c:ア(暗号鍵E)
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解説: 暗号鍵EはRSA鍵ペアのうち暗号化に使う鍵です。暗号鍵Eは移送用メディアで施設Kへ運ばれ、鍵管理PCで署名鍵Sの暗号化に使われます。
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正解: あ:オ(暗号化)
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解説: 作業3では、署名鍵Sを暗号鍵Eで暗号化し、暗号化されたデータを移送用メディアに保存します。
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正解: d:エ(復号鍵D)
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解説: 暗号鍵Eで暗号化したデータは、対応する復号鍵Dで復号します。復号鍵DはHSM内で生成され、HSM外へ取り出さずに復号処理へ使用できます。
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正解: い:ク(復号)
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解説: 作業6では、HSM内で暗号化済みデータを元の署名鍵Sへ戻す処理を行うため、「復号」が入ります。
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正解: e:ウ(署名鍵S)
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解説: 復号によって得られるのは、作業3で暗号化した元の署名鍵Sです。これをHSMへ登録します。
b~eの選択肢の解説
- ア(暗号鍵E): cに入る正解です。作業3で署名鍵Sを暗号化するために使用します。b・eは移送対象そのもの、dは復号に使う鍵なので該当しません。
- イ(検証鍵V): 不適切。検証鍵Vはデジタル署名の検証に使う鍵であり、今回移送する署名鍵Sの暗号化・復号には使用しません。
- ウ(署名鍵S): bとeに入る正解です。作業3で暗号化する対象であり、作業6で復号してHSMに登録する対象でもあります。
- エ(復号鍵D): dに入る正解です。暗号鍵Eで暗号化されたデータをHSM内で復号します。
あ・いの選択肢の解説
- オ(暗号化): あに入る正解です。署名鍵Sを移送中に読み取られない形へ変換します。
- カ(検証): 不適切。検証はデジタル署名が正しいかを確認する処理であり、署名鍵Sを秘匿して移送する処理ではありません。
- キ(デジタル署名): 不適切。作業3の目的は署名鍵Sを保護することであり、署名鍵S自体へデジタル署名を付与する流れではありません。
- ク(復号): いに入る正解です。暗号化された署名鍵SをHSM内で元に戻します。
処理を一文で整理すると: 「署名鍵Sを暗号鍵Eで暗号化し、HSM内で復号鍵Dを用いて復号し、得られた署名鍵SをHSMへ登録する」となります。
3. (3) 下線⑤で署名鍵Sが漏えいしないと考えた根拠について
問題文からの引用
「Jさんは当初、図7の案では、⑤図7の作業4で移送用メディアが盗難に遭ったとしても署名鍵Sは漏えいしないと考えていた。」
「作業1 M社の従業員が、A社の財務部の従業員の立会いの下、HSM管理サーバを操作してHSM内に3,072ビットのRSA暗号の鍵ペアとして暗号鍵E及び復号鍵Dを生成し、暗号鍵Eを……移送用メディアに保存する。」
着眼点・注目ポイント
作業4で移送用メディアに入っているのは、暗号鍵Eで暗号化された署名鍵Sです。これを復号できる復号鍵Dがどこにあるかを確認します。
- 正解: 復号鍵Dがないので、暗号化された署名鍵Sは復号できない。
- 解説: 復号鍵DはHSM内で生成され、移送用メディアには保存されません。そのため、作業4で移送用メディアだけを盗まれても、媒体内にある暗号化済みの署名鍵Sを復号できない、というのがJさんの当初の判断です。本問のRSA鍵ペアでは、暗号鍵Eで暗号化したデータを復号するには対応する復号鍵Dが必要です。暗号鍵Eと暗号化済みデータだけを入手しても、復号鍵Dがなければ署名鍵Sを復号できません。
4. (4) 下線⑥で攻撃者が書き換えるファイルについて
問題文からの引用
「HSM管理サーバが仮にマルウェアに感染し、その結果、攻撃者の指示によって⑥図7の作業1で移送用メディアに保存されるファイルが書き換えられ、かつ、図7の作業5で移送用メディアの内容を読み取られてしまった場合には、署名鍵Sが攻撃者に漏えいするリスクがある」
着眼点・注目ポイント
作業1で移送用メディアへ保存されるのは暗号鍵Eです。攻撃者が、自分で生成した鍵ペアの暗号鍵に置き換えれば、施設Kでは攻撃者の暗号鍵を使って署名鍵Sが暗号化されます。攻撃者は対応する復号鍵を持っているため、作業5で暗号化済みデータを読み取れば復号できます。
- 正解: 攻撃者の生成した鍵ペアの暗号鍵
- 解説: 攻撃者は、正規の暗号鍵Eを攻撃者自身の暗号鍵へ置き換えます。鍵管理PCはそのすり替えを検知できないため、署名鍵Sを攻撃者の暗号鍵で暗号化します。攻撃者が作業5で暗号化済みデータを読み取れば、自分が保持する対応する復号鍵で署名鍵Sを復号できます。つまり、暗号化そのものが破られるのではなく、「暗号化に使う鍵の真正性」が保証されていないことが原因です。
対策の考え方: 本文では、HSMの機能を利用して移送用メディア上のファイルの改ざんを検知できる手順へ改良したとあります。重要なのは、施設Kで使用する暗号鍵Eが、確かにHSM内の復号鍵Dと対になる正規の鍵であり、途中で改ざんされていないことを検証する点です。
処理全体の整理
不正移転対策の流れ
- 基幹サーバが正規の移転情報を生成する。
- 基幹サーバと署名アプリの共通鍵を用いて、各移転情報に対応するメッセージ認証符号を生成・確認する。
- 署名アプリは、ファイルの重複がなく、MACの照合に成功した場合だけ署名鍵Sでデジタル署名する。
- 当日担当者を複数名とし、相互確認によって署名鍵Sの持出しなどの内部不正を実行しにくくする。
署名鍵Sの移送の流れ
- HSM内でRSA鍵ペアの暗号鍵Eと復号鍵Dを生成する。
- 暗号鍵Eを施設Kへ運ぶ。
- 施設Kの鍵管理PCで署名鍵Sを暗号鍵Eにより暗号化する。
- 暗号化した署名鍵SをM社へ運ぶ。
- HSM内の復号鍵Dで復号する。
- 復号して得られた署名鍵SをHSMへ登録する。
- 移送用メディア上の暗号鍵Eが改ざんされていないことも検証し、攻撃者の鍵へのすり替えを防ぐ。
学習上の重要ポイント
1. 暗号方式を「目的」で分類する
- AESは共通鍵暗号
- ECDHは鍵共有
- ECDSAとEdDSAはデジタル署名
- RSAは公開鍵暗号及びデジタル署名に利用可能
- SHA-256はハッシュ関数
方式名の一部だけで判断せず、設問が求める「楕円曲線」と「デジタル署名」の両条件を確認します。
2. ハッシュ値だけでは能動的な改ざん者に対抗できない
攻撃者がデータと照合用ハッシュ値の両方を書き換えられる場合、単純なメッセージダイジェストは再計算されます。秘密の共通鍵を用いるMACにすることで、共通鍵を知らない攻撃者による正しい照合値の生成を防ぎます。
3. 正規の署名は、署名対象の内容が正しいことまでは保証しない
署名アプリが不正な移転情報へ正規の署名鍵Sで署名すれば、その署名自体は正しく検証されます。署名前に「何へ署名するのか」を照合する仕組みが必要です。
4. 内部不正には複数人による相互牽制が有効
一人だけで秘密鍵へ接触し、媒体を持ち運べる手順は、不正の機会を作ります。複数人での作業と相互確認により、単独不正の成立を難しくします。
5. 暗号化に使う暗号鍵の真正性を確認する
攻撃者が用意した暗号鍵へすり替えられた状態で署名鍵Sを暗号化すると、攻撃者は自分が保有する対応する復号鍵で署名鍵Sを復号できます。公開鍵暗号を採用するだけでなく、暗号化に使用する鍵が正規の暗号鍵Eであり、途中で改ざんされていないことを確認しなければなりません。
解答一覧
- 設問1: ウ(ECDSA)、エ(EdDSA)
- 設問2: 施設Kの外から、鍵管理PCの作動音や鍵管理PCから放出される電磁波を観測し、署名鍵Sを推測する。
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設問3 (1):
- (i)と(ii)の間:Bコインを攻撃者に移転する移転情報を記録したファイルを業務用メディア内に追加する。
- (vi)と(vii)の間:Bコインを攻撃者に移転する署名済みの移転情報を記録したファイルを攻撃者に送信するとともに、業務用メディアから削除する。
- 設問3 (2): a メッセージ認証符号
- 設問3 (3): 当日担当者を複数名とし、互いに確認しながら作業を実施するように手順を変更する。
- 設問4 (1): 作業2において、パスワードで暗号化した署名鍵Sと紙に書き留めたパスワードを一緒に移送している点
- 設問4 (2): b ウ、c ア、d エ、e ウ、あ オ、い ク
- 設問4 (3): 復号鍵Dがないので、暗号化された署名鍵Sは復号できない。
- 設問4 (4): 攻撃者の生成した鍵ペアの暗号鍵
参照資料
- IPA「令和7年度秋期 情報処理安全確保支援士試験 午後試験 問2」(問題文)
- IPA「令和7年度秋期 情報処理安全確保支援士試験 解答例」(問2の解答例・出題趣旨)