令和7年度秋期 情報処理安全確保支援士(午後試験 問4)解説
テーマ: 製造業・サプライチェーンリスク・サイバーセキュリティ経営ガイドライン・リスク対応・最小権限・ネットワーク分離・USBメモリ検査・SCADA・BCP・復旧計画
この問題の全体像
本問は、製造業のL社が、取引先であり親会社であるJ社からセキュリティ管理体制の整備を求められた場面を題材としています。問われているのは、用語の知識だけではありません。設計情報ファイル、NCプログラム、SCADA、工作機械などの資産と業務の流れを把握し、リスク対応、最小権限、ネットワーク対策、USBメモリ対策、事業継続・復旧を具体的な仕組みと手順へ落とし込む力です。
表記について
「問題文からの引用」は、問題冊子の本文、表又は図から、解答根拠となる箇所を引用形式で示しています。引用後の「着眼点・注目ポイント」で読み方を整理し、その後に正解と解説を示します。
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目次・設問ジャンプ
- 設問1(マルウェア対策方式の特徴)
- 設問2(リスク対応と最小権限)
- 設問3(攻撃シナリオに対する保護対策)
- 設問4(製造停止に備えた復旧計画)
- 業務・ネットワーク・対策のつながり
- 学習上の重要ポイント
設問1 〔マルウェア対策方式の特徴〕について
1. 空欄 a について
問題文からの引用
「パターンマッチング型のマルウェア対策機能」のデメリット:「[ a ] マルウェアは検知できない。」
「サンドボックス型のマルウェア対策機能」のメリット:「[ a ] マルウェアでも検知が期待できる。」
着眼点・注目ポイント
同じ語句が、パターンマッチング型では検知困難、サンドボックス型では検知が期待できる対象として使われています。解答条件は5字以内です。
- 正解: 未知の
- 解説: パターンマッチング型は、既知のマルウェアの特徴を定義したパターンと照合して検知します。そのため、まだパターンが作成されていない未知のマルウェアは検知できないことがあります。サンドボックス型は、隔離した環境で添付ファイルなどを実行し、その動作を分析するので、既知のパターンがないマルウェアでも不審な挙動を検知できる可能性があります。
2. 空欄 b について
問題文からの引用
「[ b ] された添付ファイル内のマルウェアは検知できない。」
着眼点・注目ポイント
表2では、このデメリットがパターンマッチング型とサンドボックス型の両方に共通しています。検査側が内容を読み取れない状態を考えます。解答条件は5字以内です。
- 正解: 暗号化
- 解説: 添付ファイルが暗号化され、検査機能が復号に必要な情報を持たない場合、内部のファイルを展開・実行できません。そのため、パターン照合もサンドボックスでの動作分析も行えず、内部のマルウェアを検知できません。
補足: サンドボックス型は未知のマルウェアにも有効ですが、暗号化された内容まで自動的に解析できるとは限りません。「未知か既知か」と「検査対象の中身を読み取れるか」は別の論点です。
設問2 〔リスク対応と最小権限〕について
1. (1) 空欄 c~e について
問題文からの引用
「リスクに対応する方法は、低減、[ c ]、[ d ]、[ e ] の四つに分類される。」
着眼点・注目ポイント
情報セキュリティのリスク対応は、一般に「低減・回避・移転・保有」の四つに整理します。公式解答ではc~eは順不同です。
- 正解: c:回避、d:移転、e:保有
各リスク対応の解説
- 低減: 対策を実施して、リスクの発生可能性又は影響度を下げます。本問の権限見直しやマルウェア対策が該当します。
- 回避: リスクの原因となる活動を中止・変更し、そのリスクが生じないようにします。
- 移転: 保険や契約などによって、リスクが顕在化した際の損失の全部又は一部を他者へ移します。図7にはサイバー保険の活用が例示されています。
- 保有: リスクの大きさや対策費用などを評価し、リスクを認識した上で自組織が受け入れます。
答案上の注意: c~eは順不同とされています。四つの分類を正確に覚え、既に問題文に示されている「低減」を重複して書かないようにします。
2. (2) 下線①の権限見直しについて
問題文からの引用
「設計情報ファイルを扱う業務が図4だけなら、①最小権限の原則に沿って表3の権限の設定を見直すことによって、PCがマルウェアに感染したときの設計情報ファイルに影響を与えるリスクを低減することができます。」
図4では、営業部員が設計情報ファイルを保存し、設計課員がそのファイルを参照し、試作品について設計課・製造課・品質保証課が適合性を確認している。
着眼点・注目ポイント
各組織が図4の業務で本当に必要とする操作だけを残します。総務課は設計情報ファイルを使いません。情報システム課は業務上の読込み・書込みは不要ですが、権限設定を管理する必要があります。営業部は受信したファイルを保存するため読込み・書込みが必要です。製造部の各課は参照だけで足ります。
- 正解:
| 所属組織 | 読込権限 | 書込権限 | 権限変更権限 |
|---|---|---|---|
| 総務部総務課 | × | × | × |
| 総務部情報システム課 | × | × | ○ |
| 営業部 | ○ | ○ | × |
| 製造部設計課 | ○ | × | × |
| 製造部製造課 | ○ | × | × |
| 製造部品質保証課 | ○ | × | × |
表の見方: ○は権限あり、×は権限なしを示します。公式解答例と同じ列順で整理しています。
組織別の根拠
- 総務部総務課: 図4に設計情報ファイルを扱う業務がないため、全権限が不要です。
- 総務部情報システム課: ファイル内容を業務で扱わないので読込み・書込みは不要です。一方、ファイルサーバの権限設定を管理する役割を担うと考えられるため、権限変更権限だけを残します。ファイル内容を閲覧・変更する必要はありません。
- 営業部: J社から受け取った設計情報ファイルを保存し、正常に読み込めるか確認するので、読込み・書込みが必要です。権限設定を変更する業務はありません。
- 製造部設計課: CAD PCで設計情報ファイルを参照するため読込みが必要です。設計情報ファイル自体を書き換える業務はありません。
- 製造部製造課: 図4の項番5で、製造課員は試作品がJ社の設計情報ファイルなどに適合しているかを確認します。そのため読込みは必要ですが、元の設計情報ファイルを書き換える必要はありません。
- 製造部品質保証課: 図4の項番5で、品質保証課員も試作品の適合性を確認します。そのため読込みは必要ですが、書込みと権限変更は不要です。
最小権限の効果: 不要な書込権限を削除すれば、各課のPCがマルウェアに感染した場合でも、設計情報ファイルを改ざん・削除できる範囲を縮小できます。不要な読込権限の削除は、情報漏えいの範囲を縮小します。
設問3 〔攻撃シナリオに対する保護対策〕について
1. 空欄 f について
問題文からの引用
攻撃シナリオ:「電子メールに添付されたマルウェアによって、社内の一般PCにマルウェアの感染が広がった後、SCADAに感染が広がり、NCプログラムが使用できなくなる。」
「[ f ] を導入する。」
着眼点・注目ポイント
設問は、効果が高く、同程度なら業務への影響が少ない対策を求めています。電子メールや端末側の対策に加え、一般PCが配置された社内LANからSCADA側への感染拡大を遮断する境界対策を考えます。図3では(け)が社内LANと製造系の境界に当たります。
- 正解: 図3中の(け)の箇所に、追加でFW
- 解説: 図3の(け)にFWを追加し、社内LAN側からSCADA・工作機械側へ到達できる通信を、業務上必要なものだけに制限します。一般PCがマルウェアに感染しても、製造系へ向かう不正な通信を境界で遮断できるため、SCADAへの感染拡大リスクを低減できます。FWを置くだけでなく、許可ルールを必要最小限にすることが対策の要点です。
なぜ完全分離ではないか: 設問3は「効果が同程度であれば、業務への影響が少ないもの」を求めています。必要な通信を残しつつFWで制御する方が、業務上の接続を維持しながら感染拡大を抑える対策として解答例に採用されています。
2. 空欄 g について
問題文からの引用
攻撃シナリオ:「購入したUSBメモリがマルウェアに感染していて、そのUSBメモリからSCADA操作用PCがマルウェアに感染し、マルウェアがSCADAを不正に操作した結果、SCADAが停止してしまう。」
「[ g ] を導入する。」
着眼点・注目ポイント
試作用・量産用NCプログラムは、NC PCからUSBメモリを使ってSCADA操作用PCへ運ばれます。SCADA操作用PCに接続する前に、USBメモリの挙動を安全な環境で確認する仕組みが必要です。
- 正解: USBメモリを接続したときの動きを確認するためのソフトウェアを導入した、社内LANから切り離された検査用PC
- 解説: USBメモリをSCADA操作用PCへ接続する前に、社内LANから切り離した検査用PCへ接続し、専用ソフトウェアで接続時の挙動を確認します。USBメモリがマルウェアに感染していた場合でも、検査用PCを隔離しておけば、検査を起点として社内LANや製造系へ感染が広がるリスクを抑えられます。
SCADA操作用PCのマルウェア対策だけでは不十分な理由: 表4にはSCADA操作用PCへのマルウェア対策ソフト導入も挙げられていますが、未知のマルウェアや検知を回避するマルウェアには限界があります。接続前検査と端末側対策を併用する多層防御が重要です。
設問4 〔製造停止に備えた復旧計画〕について
1. (1) 空欄 h について
問題文からの引用
被害のシナリオ:「一般PC、CAD PC又はNC PCがマルウェアに感染し、SCADAに感染が広がり、工作ができなくなる。」
「予備機を用いてSCADAを復旧するための、SCADAアプリを含むリカバリメディア」
表1:「SCADA内には試作用NCプログラム領域と量産用NCプログラム領域がある。」
着眼点・注目ポイント
SCADAのOSとアプリを復旧できても、製造に必要なNCプログラムが戻らなければ工作を再開できません。NCプログラムをSCADAへ戻すための媒体とソフトウェアが必要です。
- 正解: SCADA内のNCプログラムをバックアップ/リストアするための媒体とソフトウェア
- 解説: 試作用・量産用NCプログラムはSCADA内に保存されています。SCADAを初期状態から復旧する場合、OSやSCADAアプリだけでなく、製造対象に応じたNCプログラムも復元しなければなりません。そのため、NCプログラムを定期的にバックアップし、復旧時に読み戻せる媒体とソフトウェアを準備します。
2. (1) 空欄 i について
問題文からの引用
表6では、必要な仕組みとして空欄hが示され、その右側の「必要な手順」が空欄iになっている。
着眼点・注目ポイント
空欄hがバックアップ/リストアの仕組みなので、対応する手順は、その仕組みを使ってNCプログラムをSCADAへ戻す手順です。
- 正解: SCADAにNCプログラムをリストアする手順
- 解説: 復旧用の媒体とソフトウェアがあっても、必要なNCプログラムをSCADAへ戻せなければ製造は再開できません。最大許容停止時間である2時間以内の再開を目指すには、使用する媒体、リストアの操作順序、復元後の確認方法を手順化しておく必要があります。本文でも、必要な仕組みと手順を整備した後に演習を行う必要があるとされています。
3. (2) 空欄 j について
問題文からの引用
「jには、できるだけ起こる可能性が高いものを、攻撃の発端を含めて答えよ。」
図3では、一般PC、SCADA及び工作機械がネットワーク上で接続されている。
着眼点・注目ポイント
外部からの攻撃の発端として、インターネットや電子メールに接する一般PCのマルウェア感染を置きます。その後、正常な製造通信が妨害され、SCADAから工作機械へ指示できなくなる被害を具体化します。
- 正解: マルウェアに感染した一般PCが、正常な通信を妨害するパケットを大量に送信して、SCADAと工作機械の間の通信ができなくなる。
- 解説: 一般PCは電子メールなどを通じて外部の脅威にさらされます。感染した一般PCが大量の妨害パケットを送信すると、ネットワークの帯域や通信機器の処理能力が圧迫され、SCADAと工作機械との正常な通信が成立しなくなる可能性があります。その結果、NCプログラムの投入や工作開始の指示ができず、製造が停止します。
記述上のポイント: 単に「ネットワーク障害が起きる」とせず、「マルウェアに感染した一般PC」という発端、「大量の妨害パケット」という攻撃、「SCADAと工作機械の通信不能」という被害をつなげます。
4. (2) 空欄 k について
問題文からの引用
「kには、できるだけ効果の高いものを答えよ。」
着眼点・注目ポイント
空欄jの被害は、一般PC側から製造系へ妨害通信が到達する構成によって生じます。最も効果の高い仕組みは、SCADA・工作機械・製造監視用PCだけで独立したLANを構成し、一般PC側の影響を受けないようにすることです。
- 正解: SCADA、工作機械及び製造監視用PCだけの独立したLANを構成するためのネットワーク機器
- 解説: 製造に必要な機器だけで独立LANを構成すれば、一般PCが接続されたL社のネットワークからのマルウェア感染や大量通信の影響を分離できます。単にFWで一部通信を制御するよりも、製造系をL社の既存ネットワークから切り離した独立LANにすることで、一般PCからの妨害通信が製造系へ到達する経路をなくせます。そのため、空欄jのシナリオに対して高い効果が期待できます。
5. (2) 空欄 l について
問題文からの引用
表6では、空欄kの「必要な仕組み」に対応する「必要な手順」が空欄lになっている。
着眼点・注目ポイント
独立LAN用の機器を準備するだけでは分離は実現しません。SCADA、工作機械、製造監視用PCを既存のL社ネットワークから切り離し、新しい独立LANへ接続する手順が必要です。
- 正解: SCADA、工作機械及び製造監視用PCをL社のネットワークから切り離す手順
- 解説: インシデント発生時に2時間以内で製造を再開するには、対象機器の特定、既存ネットワークからの切離し、独立LANへの接続、通信確認などを手順化します。ネットワーク機器という「仕組み」と、それを使って切り替える「手順」を対で準備することが復旧計画の要点です。
公式解答の備考: 設問4は、公式解答例そのものに限らず、本文の状況に沿った被害シナリオと、有効な仕組み・手順が記述されていればよいとされています。本解説では、公式解答例に沿って説明しています。
業務・ネットワーク・対策のつながり
- J社から設計情報ファイルを電子メールで受領し、営業部がファイルサーバへ保存します。
- 設計課が設計図ファイルを作成し、製造課がNCプログラムを作成します。
- NCプログラムはUSBメモリでNC PCからSCADA操作用PCへ移送され、SCADAへ保存されます。
- SCADAはNCプログラムを工作機械へ投入し、工作開始を指示します。
- 電子メール、一般PC、USBメモリは、マルウェアが社内・製造系へ侵入する主な経路になります。
- 電子メール対策、端末対策、境界FW、隔離検査用PCを組み合わせて感染を防止・抑制します。
- それでも停止する場合に備え、SCADA・PC・NCプログラムの復旧手段と、独立LANへの切替手順を整備します。
- 最大許容停止時間である2時間以内に復旧できるかを、整備後の演習で確認します。
学習上の重要ポイント
1. 情報資産と業務フローから必要権限を導く
権限表だけを見て判断せず、図4の誰が、どのファイルを、何のために扱うかを確認します。最小権限は、業務に必要な権限だけを残す考え方です。
2. 一つの対策に依存しない
表4では、電子メールSaaS、端末のマルウェア対策、FW、隔離検査用PCを併用しています。入口、端末、ネットワーク境界、可搬媒体で多層的に対策します。
3. IT系とOT・制御系の境界を意識する
一般PCからSCADA・工作機械へ影響が及ぶ構成では、業務系の感染が製造停止につながります。FWによる通信制御や独立LANによる分離が重要です。
4. バックアップは復旧手順と演習まで含めて考える
リカバリメディアやバックアップ媒体を保管するだけでは不十分です。2時間以内に復旧するには、復旧順序、担当者、確認方法を定め、演習で実効性を確認します。
5. 「仕組み」と「手順」を対にする
設問4では、媒体・ソフトウェア・ネットワーク機器という仕組みに対し、リストアや切離しの手順を対応させます。BCP・復旧計画では、設備の保有と運用手順の両方が必要です。
解答一覧
- 設問1: a 未知の、b 暗号化
- 設問2 (1): c 回避、d 移転、e 保有(順不同)
- 設問2 (2):
| 所属組織 | 読込権限 | 書込権限 | 権限変更権限 |
|---|---|---|---|
| 総務部総務課 | × | × | × |
| 総務部情報システム課 | × | × | ○ |
| 営業部 | ○ | ○ | × |
| 製造部設計課 | ○ | × | × |
| 製造部製造課 | ○ | × | × |
| 製造部品質保証課 | ○ | × | × |
- 設問3: f 図3中の(け)の箇所に追加でFW、g USBメモリを接続したときの動きを確認するためのソフトウェアを導入した社内LANから切り離された検査用PC
- 設問4 (1): h SCADA内のNCプログラムをバックアップ/リストアするための媒体とソフトウェア、i SCADAにNCプログラムをリストアする手順
- 設問4 (2): j マルウェアに感染した一般PCが正常な通信を妨害するパケットを大量に送信してSCADAと工作機械の間の通信ができなくなる、k SCADA・工作機械・製造監視用PCだけの独立LANを構成するためのネットワーク機器、l SCADA・工作機械・製造監視用PCをL社のネットワークから切り離す手順
参照資料
- IPA「令和7年度秋期 情報処理安全確保支援士試験 午後試験 問4」(問題文)
- IPA「令和7年度秋期 情報処理安全確保支援士試験 解答例」(問4の解答例・出題趣旨)