執筆日:2025年11月4日
免責事項: 本記事は執筆時点の情報に基づいています。内容は将来変更される可能性があります。
はじめまして。NTTデータ九州 ビジネス共創部の楢原です。
当部門では、Salesforceを活用したDX推進を支援しています。AI・データ活用、双方向マーケティングなど、最新トレンドを踏まえた取り組みを発信していきます。
今回は、Dreamforce 2025参加レポートをお届けします。ぜひご覧ください。
Dreamforce 2025概要と参加の目的
開催場所・期間・規模
- 場所: 米国カリフォルニア州サンフランシスコ
- 期間: 2025年10月14日~16日(3日間)
- 規模: 世界中から約15万人以上が参加する、Salesforce最大の年次イベント
イベントの特徴
Dreamforceは、クラウド、AI、CRMの最新トレンドを発信する世界最大級のテクノロジーカンファレンスです。基調講演、製品発表、ハンズオンセッション、ネットワーキングイベントなどを通じて、企業のDX戦略を加速するための知見を得る場となっています。
参加の目的
- 最新のSalesforce戦略・製品情報の収集(Agentforce、Data Cloud、Slackなど)
- AI活用事例の把握と自社DXへの応用検討
- グローバル市場における顧客体験・マーケティングの潮流理解
- 日本企業のDX推進に向けたベストプラクティス共有
参加体制
- NTTデータ+NTTデータ関西+NTTデータ九州チームとして参加
- チームは主に技術部門のメンバーで構成
- セッション参加、展示ブース視察、Japan Nightでのネットワーキングを実施
はじめに:なぜDreamforceなのか?
世界最大級のテクノロジーカンファレンス Salesforce Dreamforce 2025 は、単なる製品発表の場ではありません。
それは、「企業の未来を描く場」であり、「技術者の情熱を共有する場」です。
今年のテーマは 「Agentic Enterprise」。AIが人間と協働し、業務を自律的に遂行する未来像が鮮明に示されました。
1. メインKeynote:AIはツールではなくチームメイト
今年のDreamforceのメインKeynoteは、単なる製品発表ではなく、「AI導入の現実と未来」を真正面から語る場でした。
背景には、世界中で進むAI導入プロジェクトの95%が失敗しているという厳しい現実があります。
MITの調査によると、失敗の理由は技術不足ではなく、戦略・データ・現場適応の欠如です。
- 目的不在のAI導入: ツールを入れること自体がゴールになり、ビジネス価値に結びつかない。
- データガバナンス不足: AIが学習するデータが不完全・不整合で、精度が担保できない。
- 現場との乖離: 経営層の期待と現場の運用が噛み合わず、PoCで止まるケースが多い。
(出典:MIT「State of AI in Business 2025」レポート)
https://www.tmcnet.com/usubmit/2025/01/08/10128051.htm
https://www.tmcnet.com/usubmit/2025/01/23/10135779.htm
https://www.tmcnet.com/usubmit/2025/10/29/10280488.htm
さらに、Gartnerの分析では、AI対応データがない場合、2026年までに60%のAIプロジェクトが放棄されると予測されています。
(出典:Gartner AI Adoption Insights)
https://www.salesforce.com/news/stories/smbs-ai-trends-2025/
https://www.salesforce.com/blog/2025-gartner-mq-salesforce/
https://www.salesforce.com/en-us/wp-content/uploads/sites/4/documents/company/fy26-global-ai-readiness-index.pdf
こうした現実を踏まえ、今年のKeynoteは「Agentforceのビジョン」を語るだけでなく、懐疑的な声にどう応えるかを重視した構成になっていました。
Marc Benioff氏は壇上でこう語りました。
「AIは魔法ではない。信頼・データ・ガバナンスがなければ、AIは企業を混乱させるだけだ」。
1.1 Agentforce 360の全貌
Agentforce 360 は、Salesforceが描く「Agentic Enterprise」の中核です。
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業界特化型エージェント300種類以上
営業、マーケティング、カスタマーサポート、製造など、業界別に最適化されたAIエージェントを提供。 -
エージェント同士の協働
複数のAIが連携し、業務プロセスを自律的に遂行。 -
ガバナンスとモデル選択機能
企業がAIの挙動を制御し、責任あるAI利用を実現するための仕組みを標準搭載。
1.2 Vibe Coding:自然言語でアプリ開発
「Vibe Coding」は、開発者だけでなくビジネスユーザーにも革命をもたらします。
-
自然言語で指示→即アプリ生成
例:「地域別売上を表示するダッシュボードを作成」と入力するだけで、数秒で構築。 -
UI/UXの自動最適化
ユーザーの操作履歴を学習し、最適な画面構成を提案。
1.3 懐疑論への回答:事例中心のセッション
今年のKeynoteが特徴的だったのは、事例紹介が中心だったことです。
理由は明確です。
「Agentforceは本当に使えるのか?」という疑問に、言葉ではなく実績で答えるためです。
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事例1:製造業の予知保全
あるグローバル製造企業は、Agentforceを活用し、設備の故障予測精度を従来の70%から95%に向上。
結果、ダウンタイムを年間で40%削減し、数百万ドル規模のコスト削減を実現しました。 -
事例2:金融業の不正検知
大手金融機関では、Agentforceを導入し、取引データをリアルタイム分析。
従来のルールベース検知では見逃していたパターンをAIが発見し、不正検知率を30%改善。 -
事例3:小売業のパーソナライズ
グローバル小売チェーンは、Agentforceを使って顧客行動を予測し、レコメンド精度を大幅に向上。
その結果、オンライン売上は前年比で25%増加。
1.4 メッセージ:AI導入は「信頼」から始まる
Benioff氏は最後にこう締めくくりました。
「AIは企業の未来を変える。ただし、それは信頼とデータガバナンスを基盤とした場合に限られる」。
Agentforceは、そのための「安全なAI導入の道筋」を示す存在として位置づけられています。
2. Slack Keynote:会話型OSへの進化
Slackは「Agentic OS」として再定義され、AIと人間の協働を加速するハブに。
新機能のハイライト:
-
再設計されたSlackbot
スレッド要約、メッセージ下書き、Salesforceデータの自動提示などをAIが実行。 -
Model Context Protocol (MCP)
AnthropicやOpenAIなど外部AIとの連携を可能にし、マルチエージェント環境を構築。
Slackは単なるチャットツールから、業務の入口=「フロントドア」へ進化しました。
3. Data Cloud Keynote:データ活用の新境地
「Data Cloud」は Data 360 に刷新され、データの「アクティベーション」がテーマに。
主なアップデート:
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ゼロコピー統合
データ移動なしで外部ソースと接続可能。BYOC(Bring Your Own Cloud)対応。 -
Clean Roomsとガバナンス強化
プライバシーを担保しつつ、マーケティングや分析に活用。
Data 360は、Agentforceの「知能の源泉」として、AIの精度と信頼性を支える基盤となります。
4. Marketing Keynote:一方通行から双方向の会話へ
従来のマーケティングは「企業→顧客」への一方通行でした。しかし、AIエージェントの登場により、マーケティングは「双方向の会話」へ進化しています。
4.1 会話型マーケティングとは?
- 顧客が質問→AIが即座に回答
例:「この製品の在庫は?」→AIがリアルタイムで回答し、購入リンクを提示。 - AIが顧客の文脈を理解し、提案を最適化
過去の購入履歴や行動データを基に、顧客に「次の一手」を提示。
4.2 Agentforce Marketingの革新
- キャンペーンの自動生成・最適化
AIがターゲットセグメントを自己改善し、最適なメッセージを生成。 -
Vonage社との統合
音声AIとネットワークAPIを活用したリアルタイム顧客認証・不正防止機能を発表。
4.3 事例:Pacers Sports & Entertainment
AIを活用し、ファン体験をパーソナライズ。
結果、エンゲージメント率と収益が大幅に向上。
「顧客と企業が対話する時代」が現実になっています。
5. Japan Night:日本コミュニティの熱気
Fort Mason Gateway Pavilionで開催されたJapan Nightは、日本からの参加者約1000名が集う交流イベント。
グローバル視点でのDX推進を語り合い、「日本企業の未来像」を共有する場となりました。
現場では、Salesforce Japanのリーダーから「日本市場におけるAI活用の加速」について熱いメッセージがあり、参加者同士のネットワーキングも活発でした。
6. おまけ:Waymoと未来都市の体験
サンフランシスコ市内にWaymoの自動運転車が多数走行。
AIとモビリティが融合する都市の未来を肌で感じることができました。
これは、Salesforceが描く「Agentic Enterprise」のビジョンと同じく、人とAIが共生する社会の象徴です。
Dreamforceは、単なる技術イベントではありません。
それは「未来を創る企業で働く」という理念を体現し、エンジニアやDX人材に向けて力強く発信する場です。
2025年のDreamforceは、DX戦略を見直し、未来への道筋を示す場でした。

NTTデータ九州におけるSalesforceビジネスの展望と取組方向性
Dreamforce 2025で示された「Agentic Enterprise」や双方向マーケティングの潮流は、NTTデータ九州のSalesforceビジネスにとっても大きな示唆を与えています。当社では、以下の3つの方向性を軸に、今後の取組を加速していきます。
1. AIとデータ活用による業務変革の推進
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Agentforceの活用検討
業界特化型エージェントを活用し、営業・マーケティング・カスタマーサポートの自動化を推進。 -
Data Cloud連携強化
顧客データの統合とガバナンスを徹底し、信頼性の高いAI活用基盤を構築。
2. 双方向マーケティングの実現
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会話型マーケティングの導入
顧客とのリアルタイム対話を可能にする仕組みを、製造・小売業向けに展開。 -
パーソナライズ戦略の高度化
行動データを活用し、顧客体験を最適化するキャンペーン設計を支援。
3. 地域企業へのDX支援とエコシステム拡大
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既存の導入事例を基盤に拡大
これまでの実績を活かし、新たな提案を加速。 -
パートナー連携強化
ERPやAIソリューションとの統合を視野に、エコシステム型の提案を推進。
NTTデータ九州は、Salesforceを単なるCRMではなく「企業変革のプラットフォーム」と位置づけ、AI・データ・双方向コミュニケーションを核に、地域企業のDXを牽引していきます。




