はじめに
今年は、当社のR&D部署にてPlatformチームが発足され、私はQAメンバーとして所属することになりました。QAの初めのミッションは、品質マネジメントシステムを構築することで、現在は、初回運用を開始しているフェーズにおります。
今まで当社の開発組織では、個人の暗黙知に頼る部分が多く、品質に対する一定基準が定まっておらず、品質評価の客観性を高める必要がありました。
さらに案件対応の加速に伴い、属人化されていた運用から離れ、客観的なデータや基準に基づく品質管理が求められていたため、品質マネジメントシステムを導入することになりました。
この度は、およそ3ヶ月間取り組んでいた品質マネジメントシステムの導入フローを主なテーマとし、その過程で工夫していたことをご紹介したいと思います。
期待読者
- QAエンジニアが行う品質活動に興味のある方
- 組織に品質マネジメントシステムの導入を悩んでいる方
- 品質マネジメントシステムをどういう流れで準備すればいいか知りたい方
品質マネジメントシステムとは
ここからは、品質マネジメントシステムを「QMS」(Quality Management System)と表記していきます。
まず、品質マネジメントというシステムの概念についてです。
JSTQBの教科書では、「品質マネジメント」を下記のように定義しています。
プロジェクト自体やプロジェクトで作る物の品質を管理するためのすべての活動のこと
もう少し具体的には、組織が顧客に提供する自社の製品やサービスに対して高い品質を維持していくための仕組みのことを意味します。QMSは、PDCAサイクルに沿って運用され、継続的に改善していく仕組みであります。
QMS導入で実現したいこと
当社の開発組織にQMSを導入し、関係者全員が開発プロセス所々の欠陥を防ぐための活動を行うことで実現したいことは大きく2点があります。
①社外向け
当社提供の製品やサービスに対して、顧客に『これを使って本当によかった』と心から満足していただくことで、ユーザー体験価値を最大化すること
②社内向け
- 開発に関わる全員が、製品やサービスの品質に常に自信を持って顧客へ納品することができること
- リリース前後の不具合対応による負荷やコストを軽減することで、業務に余白を生み出し、より生産性の高い活動に集中できる環境を作ること
このように、社内外における「品質」のあるべき姿を明確にすることで、導入フローに進めることができました。
QMSの導入フロー
導入までのステップやその内容は、組織の規模やプロダクトの特性によって異なるかもしれません。
QMSという仕組みをゼロから可視化するため、下画像のように大きく6つのステップで進めていました。
ここからは、各ステップで行う作業や特に工夫した内容について説明していきたいと思います。
1.導入背景と目的の明示
まずは、社内ではメンバーたちがどういう課題を抱えていて、どんな原因で品質低下につながってしまいQMSという仕組みを作ろうとしているのかを明確にします。
その後、QMS導入によって、この仕組みがどういう形になったら良いかのようなゴールを決めます。
この2つは、以後のフローを進めていく中で、今やっている作業がゴールから離れてしまったとつい思う瞬間が来たとき、背景や目的を改めてリマインドすることでやるべきことを考え直すことができると思います。
2.適用範囲や共通用語の明文化
この段階では、QMSを運用していくにあたって、ステークホルダー間の認識齟齬が発生しないよう、以下の内容を明文化しておく必要があります。
明文化する内容の例
- ステークホルダー一覧
- QMSを適用する部署と役職
- 開発プロセス一覧と活動内容
- QMSを適用するプロダクト種別
- QMS運用における担当者と担当内容
適用範囲を決めるときの注意点
QMS運用の核心は、PDCAサイクルによる継続的な改善にあります。導入初期から広い範囲で運用しようとすると、大きな負担になり、形骸化になってしまうかもしれないので、初回は最小限の範囲で導入してみるのをおすすめします。
3.現状把握
この段階の目標は「現状(As-Is)」と「理想(To-Be)」を把握することです。その2つを調査するために、各チームリーダーの意見をヒアリングするための期間を設けていました。
現状はどんなプロセスで開発を進めているか、その中で改善したい作業フローがあるかといった実態をしっかり把握します。そうしたら、各チーム内で何がうまくいっているか、何がうまくいっていないかが見えるようになります。
また現状とともに、ではどうやったら改善できそうで、将来はプロダクトまたは組織全体がどうなるのを望んでいるかといった理想もヒアリングします。
4.乖離分析
上記の「3.現状把握」で出てきた現状と理想を比較・分析する段階です。その結果、ギャップが見えてきて、これから我々の組織が行うべきことを定めることができるようになります。
各チームの特有なギャップはもちろん、ヒアリング対象者みんなが共通的に考えているギャップもわかるようになります。
5.品質基準と品質管理手続きの策定
品質基準は品質目標を、品質管理手続きはその目標を達成するために行う品質活動を意味します。この2つが、QMSの本質だと言えます。QMS実運用時に、関係者全員に守ってもらうことになる内容であるからです。
加えて、その品質管理手続きを行うことで、今まで作ったことがない成果物も新たな資産として出てくるはずです。
この段階で気をつけるのは、みんなが負担なく進められそうな品質基準と管理手続きを定めることです。品質目標を必ず達成しようと思い込んでしまったら、手続きの内容がきつすぎてしまう可能性があるためハードルの調整が大事です。
6.ドキュメント作成と展開
QMSを適用する部署向けに周知するためのドキュメントを作成します。読んでもらうドキュメントのファイルが思ったより多いかも知れませんので、読む側が疲労感を感じないような導線に作成し、適切なタイミングで展開することが重要です。
より良いQMSを作るために
QMSの導入フローを進めている中で、うまくいかないときがありましたが、以下2点のことをリマインドしたら前向きに進めることができました。
①標準規格に頼りすぎないようにする
QMSは、国際標準化機構(ISO)が定めたISO9001という国際規格でもあります。それで、当初は、その規格に従わないといけないと思い込んでしまいました。
大事なのは、今構築しているQMSのゴールを考えなおすことでした。正解を求めすぎないよう、今の私たちの組織に合う仕組みは何だろうとか、誰のために作っていたっけといった元々の目標をリマインドするということです。
②別の観点からも現状を見る
QMS導入フローの「3.現状把握」段階にて現状ヒアリングを行いましたが、いざ品質管理手続きの具体的な内容を考えようとしたら「この成果物、既に作成しているかもしれない」のような疑問がよく出てきました。
その疑問点を解消するために、以下2つの観点で実務レベルでの解像度を上げようとしていました。
- メンバー(プレイヤー)層へのヒアリング: 現場の細かな作業動線について軽く聞く
- 既存資産の棚卸し: 既に定着しているMTGや成果物を調査する
その結果、現場のリアルな実態を改めて確認することができ、品質管理手続きを定めるにあたって既存のフローを活用しつつ、不要な活動の増設を未然に防ぐことができました。
最後に
色々述べていましたが、QMSの担当者である私にとって一番大事だと思うのは、以下の考えを持つことです。
「品質マネジメントシステムは、組織の構成員みんなが一緒に作っていくものだ」
関係者全員が、共通かつ一貫している品質意識を持つことで、社内外での品質はあるべき姿へ届けることになると思います。
ということで、本記事が品質マネジメントシステムの導入にあたって役に立てたら幸いです。
参考資料
