この記事でわかること
- GitとGitHubの違い
- 無料で使える理由と、お金がかかる場面
- 仕事のファイルを置く前に確かめること
生成AIで、仕事の小さな道具を作ってみる。そうした試みを続けていると、AIもしくは解説記事から「GitHubに置いておきましょう」とふつうに勧められます。
「え、ちょっと待って。それ、何?」
というのが正直な感想ではないでしょうか。
初めてその名前に触れる人にとっては、知らないWebサービスに自分の成果物をアップする理由が正直よく分かりません。そもそも誰が運営しているのか。何をする場所なのか。なぜ無料で使えるのか。
私自身も遅ればせながら、生成AIを使った開発でGitHubを使う必要が出てきたので、利用しながらも、概要を調べることにしました。この連載では社会人になってGitHubを利用する方向けて書いていきます。第1回は全体像を整理し、操作は次回から扱います。
会議まであと10分――ある朝の場面
ここからは、説明のための架空の例です。
営業企画部の佐藤さん(仮名)は、生成AIに手伝ってもらいながら、売上データのCSVファイルを読み込んで合計を出す、小さな集計ツールを作りました。昨日は練習用のCSVで試し、手計算と同じ売上総額が出ることを確かめています。
翌朝、佐藤さんはAIに「部門別の内訳も出して」と頼み、修正したツールを受け取りました。10時の会議で使う予定です。ところが同じCSVを読み込ませると、内訳だけでなく、売上総額まで昨日と違う数字になっています。
「部門別にして、と頼んだだけなのに」
共有フォルダを開くと、ツールのファイルが「完成版」「修正版」「最終版」と並んでいます。同僚の田中さんも、日付の表記をそろえる修正を別に進めていたはずです。昨日確かめたのは、どのファイルだったのか。田中さんの修正は、いま開いているファイルに入っているのか。依頼はチャット、補足はメール。昨日の確認結果は、佐藤さんの記憶の中にしかありません。
会議まであと10分。佐藤さんは数字を直すより先に、「どれを使ってよいか」を判断する材料を探し始めました。
本当に足りなかったもの
佐藤さんの手元には、ファイルそのものはすべてそろっています。足りなかったのは、ファイル同士の関係を示す記録です。
- 今回使うべき版はどれか
- 前に確かめた版から、何が変わったのか
- 佐藤さんと田中さんが別々に行った修正を、どう一つにまとめるか
- その変更は、どんな依頼や相談から生まれたのか
- 誰が、どの版で、何を確かめたのか
これらが結びついていないと、作る時間とは別に、探す時間、照合する時間、確認し直す時間が必要になります。成果物は、保管するだけでは足りません。誰が何を変え、なぜ変え、それを確認したのかまで管理する必要があるのです。
なお、これはGitHubを使っていない職場すべてで起こることではなく、変更と確認を管理する仕組みが整っていなかった一例です。
GitHubは、何をするサービスなのか
GitHubの土台には、Git(ギット)というソフトウェアがあります。GitHubの公式ドキュメントは、Gitを「ファイルの変更を追跡するバージョン管理システム」と説明し、GitHubはGitで管理されたプロジェクトをクラウド上で預かり、そこに計画や共同作業のための道具を加えたものだと位置づけています1。
ここで、GitHubで預ける単位をリポジトリと呼びます。ファイルと、ファイルごとの変更の履歴をまとめて保管する場所のことです2。いまは「履歴付きのフォルダ」くらいに捉えておけば十分です。
GitとGitHubの役割は、分けて考えると整理しやすくなります。変更の履歴を管理する仕組みを何も使っていなければ、以前の状態との比較や変更の記録は、ファイルのコピーや手書きのメモで補うことになります。佐藤さんの共有フォルダは、この状態でした。
Gitを使えば、変更の記録や以前の状態との比較ができます。Gitは手元のパソコンに履歴をすべて持ち、ほとんどの操作をネットワークなしで行える設計です3。ただし、複数の人で共有し、変更を提案し、相談し、確認し合うには、共有の置き場所や連絡手段、権限の決め方が別に必要です。それらを自前のサーバーやほかの道具、運用ルールを組み合わせて整える方法もあります4。
GitHubは、この共同作業に必要な機能をまとまった形で提供しているサービスです。たとえば、変更の案を出し、変わった箇所を並べて見ながらコメントで議論し、確認してから取り込む、という流れをひとつの画面で扱えます5。この機能の名前や使い方は、次回以降に扱います。
クラウドストレージにも以前の版を残す機能を持つものがありますが、中心はファイルの保管と共有です。GitHubは、「何が変わったか」「その変更を取り込むか」を、記録と相談を添えて扱うことに重点があります。なお、ファイルの種類によって変更点の見やすさは異なります。
記録と確認の仕組みがある状態があったなら
もう一度、さっきの場面です。今度は、チームが前から変更を記録し、変更案と確認結果を同じ場所に残すようにしていたとします(これも架空の例です)。
佐藤さんは、昨日確かめた版と、今回の「部門別の内訳を追加する」変更案を並べて比べます。画面には、変わった行が示されています。内訳を表示する部分のほかに、集計の対象を絞り込む条件の行も書き換えられていることに気づきました。
依頼したのは内訳の追加で、集計条件の変更ではありません。
佐藤さんは変更案に「集計条件は昨日の版のままにしてください」とコメントを残し、この案はまだ取り込まないと決めました。会議では、昨日確かめた版で総額を示し、内訳は確認が終わってから共有すると伝えます。田中さんの日付の修正がいつ、なぜ入ったのかも記録にあるので、後から加わった人も経緯をたどれます。
仕組みが計算を直したり、正しさを保証したりしたわけではありません。変わった箇所と確かめ済みの版が分かったことで、何を確かめ、どう判断すればよいかが見えたのです。それも、記録と確認結果を前から残していたからです。導入しただけで、過去の経緯や書かなかった理由まで残るわけではありません。
誰が、何のために始めたのか
改めて、ここからGitHubの全体感についてお話します。
その前にGitについてお話します。Gitが生まれたのは2005年です。大規模なオープンソースのソフトウェアであるLinuxカーネルの開発では、2002年から商用の管理ツールを使っていましたが、開発者のコミュニティとツールの提供会社との関係が崩れ、無償での利用ができなくなりました。そこで、Linuxの生みの親であるリーナス・トーバルズを中心に、自分たちの道具として作られたのがGitです。速さや、大規模なプロジェクトを扱えること、多くの作業を並行して進められることが、目標として掲げられました6。
Gitは手元のパソコンだけでも使えます。Gitを使うことと、外部のサービスへアップロードすることは別のことです。
一方、Gitで共同作業をするには、関係者が共通して出し入れできる置き場所があると便利です。自分でサーバーを管理する手間を省くため、外部の事業者がその置き場所を提供するサービスも使われています7。GitHubはその代表的な一つです。Gitの公式サイトで公開されている書籍『Pro Git』は、GitHubのようなサービスでは、他人のプロジェクトを複製して手を加え、取り込みを依頼する流れが簡単になると紹介しています4。
現在GitHubを運営しているのはGitHub, Inc.です。2018年10月25日にMicrosoftが買収を完了しました8。GitHubの利用規約でも、MicrosoftはGitHubの関連会社(Affiliate)として明記されています9。
どんな人や会社が、何に使っているのか
中心となる利用者は、ソフトウェアを作る開発者です。個人の開発から、誰でも参加できる公開プロジェクト、企業の社内開発まで使われています。GitHub自身は、利用者として開発者のほか、学生、プロジェクトマネージャー、研究者、人事や法務の担当者などを挙げています1。ただし、これはGitHubによる説明で、非エンジニアの利用が一般的だという統計ではありません。
企業での例では、Microsoftの2019年の年次報告書に、Ford Motorがソフトウェア開発の基盤としてGitHubを使い、8,000人を超える従業員が利用しているという記述があります(当時の記述)8。
ここからは私の考える可能性ですが、業務マニュアルの文面や、AIと作った集計ツールなど、「変更の経緯と確認の記録を残したいもの」であれば、使う意味が出てくると考えています。
無料からでも利用できる
GitHubは、費用をかけずに使い始められます。お金を払うのは、主に次のような場合です10。
- 有料プランに加入するとき(個人向けのProや、組織向けのTeamなど)、またはAI支援のCopilotの有料プランに加入するとき
- 追加の製品を契約するとき
- 自動処理の実行時間など、計算資源をプランの範囲を超えて使ったとき
有料プランでは、非公開のリポジトリで「取り込む前に必ず確認を受ける」といった決まりを設定できる機能などが加わります。組織向けのTeamは、利用者の人数に応じて課金されます11。無料で広く使ってもらい、管理機能を求める組織や、AI機能や計算資源を多く使う利用者から収益を得る構図と読めます。Microsoftの年次報告書では、GitHubのクラウドサービスはクラウド事業の一部として扱われています12。
ただし、収益の仕組みと、利用者の情報の扱いは、別々に確認する事柄です。「無料だから成果物が売られている」とも、「有料契約で儲かっているからデータの心配はない」とも言えません。情報の扱いは、規約で確かめます。
仕事の成果物を置いてよいのか
以下は、2026年4月27日発効のGitHub利用規約とCopilotの公式ドキュメントを、2026年10月13日に確認した内容です。規約は変わるため、使う時点で原文を確かめてください。
まず、保存することと、一般公開することは別です。リポジトリには公開と非公開の設定があります。公開リポジトリはインターネット上の誰でも見られます。非公開リポジトリは、本人と、明示的に共有した相手(組織の場合は一部のメンバー)だけが見られます2。
次に、権利です。規約は、投稿したコンテンツは利用者のものだとしたうえで、サービス提供のための保存や複製、表示などをGitHubと関連会社に許諾する条項を置いています。現行の規約では、この許諾の範囲にAI機能の学習なども含まれると書かれています(規約のD.3〜D.8)9。
非公開リポジトリの内容は機密として扱い、従業員が見るのはセキュリティやサポートなど限られた場合だとされています。一方で規約は、非公開リポジトリの内容をCopilotなどのAI機能に入力した場合、その入力が学習や改善に使われることがある、としています(規約のE、J)9。Copilotのドキュメントによると、企業向けのBusinessやEnterpriseの利用者のデータは学習に使わない一方、個人向けプランでは入力や提案が学習に使われることがあり、設定で止められます1314。
つまり、GitHubに保存することと、AI機能に情報を渡すことは、別の確認事項です。「非公開なら何を置いても安全」とも、「大企業が運営しているから無条件に安心」とも言えません。会社や顧客の情報を扱う場合は、社内のルールや、取引先との契約上の条件を先に確認してください。最初の練習には、架空のデータや、公開しても困らない自作の文章を使うのが確実です。
ビジネスパーソンも覚える必要があるのか
GitHubは、かつてのExcelのように、ビジネスパーソンの仕事の技能のひとつになっていくのではないかと思います。
AIで道具を作れるようになっても、作って終わりではありません。冒頭の佐藤さんのように、修正や改善を頼むたびに、何が変わり、何を確かめたのかを把握する必要が生じます。コードを自分ですべて書けなくても、変更を管理する基本を知っていれば、AIや同僚に頼んだ修正を、自分で受け入れるか判断できるようになります。
ただし、「変更を管理する技能が大切になる」ことと、「GitHubという特定のサービスが広まる」ことは、同じ話ではありません。同じ役割のサービスはほかにもあり、自前でサーバーを用意する組織もあります。この連載ではGitHubを教材に、どのサービスでも通じる考え方を身につけることを目指します。
まとめと次回予告
GitHubは、成果物の置き場所であると同時に、変更と確認を記録し、相談しながら共同作業を進める場です。何を置くかは、公開・非公開の設定と、AIに渡すかどうかを分けて考えます。使うかどうかは、こうした点を確かめたうえで決めればよいと考えています。
次回は、実際にGitHubの画面を開き、練習用の置き場所(リポジトリ)を作って、短い文章を保存してみます。