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OSSと知財管理のISO標準「OpenChain」について

Last updated at Posted at 2020-12-09

#1.はじめに
はじめまして、ENDOです。
otsuboさんには学生時代からお世話になっており、知財系 Advent Calendarを開催するということで
速攻参加表明させていただきました!
本日は、私がこの数年取り組んでいるOSS(オープンソースソフトウエア)と知財についてのお話です。
OSSはスマホもちろんAI、IoT、ブロックチェーン、ロボティクスなどあらゆる技術開発の中心になっていますので、
DXが叫ばれる昨今、知財のどんな分野の方にも知っておいて欲しいなと思ってます。

まずは、自己紹介させていただきます。
知財経験は企業の知財部で15年ほど。学生時代も事務所でインターン&バイトしてました。
入社以来、情報・電気・機械系の出願権利化や知財戦略・渉外、新興国の知財権、そして本日ご紹介するOSS知財周りをやってました。
最近、新サービス・技術の企画・開発部署に異動し、マネージャーとしてスクラムマスターとして企画・開発に取り組んでいます。

知財部時代、インドの法律事務所および現地法人で研修していた関係で、
otsuboさんとパテントサロンのデリーオフ会を企画させていただいたりもしました。
帰国後も自工会の新興国プロジェクトで
インド、タイ、台湾、ブラジル、アルゼンチン、メキシコの特許庁の審査官の皆様向の技術セミナーを行ってきました。

デリー.png
<インド時代の知財イベントでの登壇及び2018年のAutomotive Linux Summitでのキーノートスピーチの様子>

#2.OSSとその競争戦略上の重要性について
OSSは、ソースコード(ソフトウエアの中身)がネット等で公開されているソフトウエアで、
「ライセンスで定められる条件を遵守する」限り、無償で使うことができる(無償で著作権がライセンスされる)ソフトウエアです。
世界中のエンジニアがGitHub等の仕組みを使ってコントリビューション(OSSの開発に貢献)することにより、
スピーディに高品質のソフトが提供されています。

OSSはLinuxなど古くからある仕組みですが、IoT・シェアリングエコノミー・DXの進展などもあって
最近ではあらゆる産業でOSSを利活用することが重要なってきています。
シノプシス社のレポートによると、全ソフトの96%がOSSを含み、ソフトの中のOSSの割合は60%を超えると言われており、
LinuxやAndroid、AGL(自動車用OS)、Hyperledger(ブロックチェーン)といったOSSのプラットフォームはもちろん、
iPhoneやPlaystationなどの製品でも多くのOSSが利用されています。

GAFAMのようなプラットフォーマー企業はOSやAIのフレームワーク等の自社のコア技術をもOSS化することで、世界中のエンジニアを巻込み改良やメンテナンス
のコストを削減し、ユーザ数を増やすことでプラットフォームの強化につなげています。
これは一見、特許の考え方に反するようにも感じますが、特許法も技術の公開を目的にその代償として独占権を与えるものですから、
独占権を与えずとも、みんなが技術を公開してくれるならそれにこしたことはないとも言えます。
シェアリングエコノミー時代にあったイノベーションのあり方なのではないでしょうか?
OSSと企業戦略、知財については内閣府のサイトにより詳細な資料議事録があがってますので興味があればご覧ください。

COVID-19対策に関しても、密にならずエンジニアが協力するアプローチとして世界中で多くのOSSプロジェクトが立ち上がっています。
日本でも東京都公式COVID-19対策サイト台湾のオードリー・タンさんがコントリビューションしたことが
話題
になりましたし、
厚生労働省が公開するCOCOAもOSSで開発されていることが有名です。

このように、イノベーションの中心になってきているOSSですが、
知財業界や企業経営者のOSSの重要性に対する理解は、エンジニアの皆さんと比較して進んでいるとは言えない状況です。
そこで、私は知財関係のイベントでOSSに関する啓発活動を行ってきました。
例えば、日本政府の政策会議である知的財産本部検証・評価・企画委員会プレゼンさせて頂いたり、DLA Piperや国際ライセンス協会、AIPLA、韓国著作権委員会、IQPCなど各国の政府や法律事務所、業界団体のイベントで登壇させて頂いたり、日本知的財産協会のOSS講座の講師を担当させて頂いてます。
また、東京大学、慶応義塾大学、東京理科大学、大阪工業大学の講義やシンポジウムでお話させていたり、
長崎大学の上條先生と共同研究をしたりと、近年では学術界との連携も進めています。

経営層に向けてはOSSそのものの重要性も含めた啓発を行うためのツールとして「Opensource for ALL」を特許庁・内閣府が作成し、6月にリリースされました。
私も委員として本資料作成のための有識者委員会に参加しましたので、関心ある方は下記のリンクからアクセスください!

・啓発ツール(プレゼン資料)のExective Summary
・詳細レポート
forall.png

出典:https://www.jpo.go.jp/resources/report/takoku/document/zaisanken_kouhyou/2019_06_2.pdf

#3.OSSライセンスとOpenChain ProjectのISO化
前章でも触れましたが、OSSを利用するためには「ライセンスで定められる条件を遵守する」必要があり、
ライセンスにはGPL、MIT、BSD、Apacheなど多くの種類があります。
また、条件についても著作権表示、ソースコード開示、インストール情報表示、特許無償許諾などこちらも多くの種類があります。

一つのOSSを使ってシステム開発をする場合はライセンスを読み込み、条件に書いてあることを実施すればよいので、比較的楽ですが、最近はシステムの大規模化・複雑化により、一つのシステムを開発するのに、数百・数千のOSSを使うことも珍しくありません。このOSSのライセンス条件を全てチェックして、遵守していくには知財部門のサポートが必須になります。
更に、事態を複雑にしているのが、サプライチェーンの問題です。
一つのシステムを作製するのに多くの企業が関わることが増えていますが、各社がOSSライセンスを遵守するためには各社が利用しているOSSの情報をサプライチェーンの下流にしっかりと共有する必要があります。
これは伝言ゲームのようなもので、サプライチェーンの中にOSS管理がしっかりできていない企業が1社でもあると、そこがボトルネックとなり適切な情報共有が滞ってしまいます。
ですので、1社1社が社内に適切なOSSの管理プロセスを持つ必要があります。
このようなOSSの管理業務を「OSSライセンスコンプライアンス」と言いますが、比較的新しい業務であるため、
どのように業務プロセスやルールを設計をしていけば良いのかの指針とされるものが必要となっていました。

そこで、世界最大のOSSコミュニティであるThe Linux FoundationがOpenChain Projectというプロジェクトを立ち上げて、
OSSライセンスコンプライアンスの標準をオープンソースのアプローチで策定・推進しています。
このプロジェクトはGoogle、Facebook、MicrosoftといったプラットフォーマーやQualcomm、Armといった半導体メーカー、
日本企業ではソニー、日立、パナソニック、富士通、東芝、トヨタ自動車がプラチナメンバーとなっていますが、
OSSプロジェクトなのでコミュニティの個人メンバーによってプロジェクトが推進されています。
そして2020年11月、OpenChain標準がISO標準としてApproveされました。
これは、14年のLinux Foundationの歴史の中で、初めてのISO標準です。

・OpenChainの活動については昨年のOpenChain JWG Qiita Advent Calendar
・ISO標準については本年のOpenChain JWG Qiita Advent Calendar

でプロジェクトメンバーが解説していますので関心ある方はご覧ください!
OCmember.png

#4.日本がフロントランナーの国別WG
上記のQiita Advent Calendarでも紹介していますが、OpenChainの日本支部であるJapan Work Group(JWG)は2017年12月にソニー、日立、トヨタの3社中心に結成され現在では80社以上200名以上が参加するコミュニティに成長しています。
「日本語で議論し、英語でアウトプット」をコンセプトに7つのSub Groupがそれぞれのメンバーのニーズベースで活動し、
次々とアウトプットを出すことで、他国のメンバーの刺激になり
2019年以降、韓国、台湾、中国、インド、ドイツ、イギリスで新たな各国WGが立ち上がっています。

OSSライセンスコンプライアンスは知財の権利処理の仕事なので、知財関係者の方の活躍できるフィールドは広がっていますし、
実際多くの知財関係者も参加しています。
今年はCOVIDの影響があり活動がほぼオンライン化され、より参加しやすくなっています!
OepnChainもOSSコミュニティですので、誰でも自由に参加できますので関心ある方は、MLに登録して、Zoom等で行われている全体会合に気軽に参加してみてください!
最後に最近の全体会合の録画のYouTubeのリンクを共有いたしますので、ご参考まで。

OpenChain Japan Work Group Meeting #15
OpenChain Japan Work Group Meeting #16

legalcommunity.png
<世界のOSSリーガルコミュニティの皆さんと>

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