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学習効果の微分方程式:理解の変化率と認知負荷理論でモデル化するAI時代の学び

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0. はじめに:着想のきっかけ

Python入門の授業改善のために、認知負荷理論についてChatGPT(ver5.1)と議論していました(ChatGPT、認知科学に詳しすぎ問題)。

議論の中でSwellerの認知負荷理論(コチラ)というのが出てきたのですが、負荷が3種類あるらしい。ふむふむ。

納得はできるのですが、理解や学習との関係がモヤモヤしていたところ、学習の効果って理解の時間微分なのでは? と気づいたところから着想を得て、理論化してみました。

以下は私のアイデアと理論化した数式をもとに、ChatGPTと相談しながらまとめたものになります。(ありがとうChatGPT!)

注意点

本記事は、論文化するための精緻なモデル化ではなく、あくまで学習プロセスを数式として扱うことで可視化し、学習の個別の要素やその影響を整理し、特に AI による影響の大きい部分を明確にすることを目的としています。

私は教育学や認知科学の専門家ではありませんので、あたたかく見守ってもらえるとありがたいです。本稿の内容を専門の方がより適切な形に発展させてくださるなら、とても心強く思います。


1. 認知負荷理論の三つの負荷

認知負荷理論(Cognitive Load Theory, CLT)では、学習時の負荷は次の三つに分類されます。

  1. 外在的負荷(extraneous):学習に本来不要なのに、教材のわかりにくさや雑音によって生じる余計な負荷
  2. 本質的負荷(intrinsic):内容そのものの難しさに由来する、避けられない理解のための負荷
  3. 有益な負荷(germane):概念を整理し、理解を深めるために使われる、生産的で望ましい負荷

本稿ではこれらを、

  • 外部刺激(教材・授業・AI 等)
  • 学習者内部の理解状態
  • 負荷同士の関係
  • 理解の変化率 dy/dt

という観点から、微分方程式として数理モデル化してみました。

2. 理解状態と外部刺激

学習者の理解状態を時間発展として扱うため、次の変数を導入します。

  • $y(t)$:時刻 $t$ における学習者の理解状態。内部状態であり、外部から直接観測できないが、本人が感覚としてモニタリングすることは可能
  • $x(t)$:時刻 $t$ における外部刺激。教材、授業、動画、AI、質問、雑談、趣味活動などを全て含む

外部刺激 $x(t)$ は、学習者に対して

  • 外在的負荷:$\ell_{\text{ext}}(t)$
  • 有益な負荷:$\ell_{\text{germ}}(t)$

として作用します。

$$
x(t) \mapsto \bigl(\ell_{\text{ext}}(t), \ell_{\text{germ}}(t)\bigr)
$$

本稿の叩き台では、刺激の内訳を細かく分解せず、その瞬間の外在的負荷・有益な負荷の二値に射影した形で扱うことにします。

3. 本質的負荷は「概念ごとの定数」

本質的負荷(intrinsic load)は対象概念そのものの複雑性に由来するものと解釈し、概念 $L$ ごとに固有の定数とします。

$$
\ell_{\text{intr}} = \ell_{\text{intr}}(L).
$$

本質的負荷による学習が可能になる「閾値」を

$$
a_{L0}
$$

と置き、理解状態が

$$
y(t) \ge a_{L0}
$$

となった時点で習得可能段階に入ったとします。

これは、概念 $L$ の専門書を読んでも、素人では難しすぎて学びが起きないが、ある程度基礎知識が身についた段階で理解可能な状態になる、という経験から着想を得たものです。

専門書による学びを継続していくと完全理解状態 $a_L$ に至ります。そのため必然的に、

$$
a_L \ge a_{L0}
$$

を満たします。

さらに、有益な負荷を「本質的負荷を刻んだもの」として次で定義します。

$$
\ell_{\text{germ}} = k_1 \ell_{\text{intr}}, \qquad 0 < k_1 \le 1.
$$

  • $k_1 = 1$:本質的負荷そのもの
  • $k_1 < 1$:本質的負荷を刻んだ状態

専門書を本質的負荷と仮定すると、有益な負荷の例として「図解XXX」や「サルでもわかるYYY」のような入門書が対応します。

4. 学習の効果は「理解の時間微分(=変化率)」

学習による効果を、

$$
\text{学習の効果} = \frac{dy}{dt}
$$

と定式化しました。理解を大きく増加させる学習ほど効果が高かったと言えます。

理解の変化率は、その時点での理解状態と負荷の種類ごとの大きさ決まります。そのため、次のように定義します。

$$
\frac{dy}{dt}
= f_p\bigl(\ell_{\text{ext}}, \ell_{\text{germ}}, y(t)\bigr)
$$

ここで $p$ は個人差をまとめたパラメータであり、$f_p$は学習者ごとの写像です。同じ理解状態で同じ負荷を与えても、考え方の傾向やその時の健康状態・精神状態などにより、学習効果に違いが出るため、その部分を反映するために写像としました。

各変数の期待される挙動は以下の通り。

  • 外在的負荷 $\ell_{\text{ext}}$ が増えると $\tfrac{dy}{dt}$ は必ず低下する
  • 有益な負荷 $\ell_{\text{germ}}$ には$f_p$や$y(t)$によって変化する「至適強度」がある(高すぎても低すぎても学習効果は低くなる)

次の場合に学習効果はゼロ(つまり $\tfrac{dy}{dt}=0$)になります。

  • 理解が低い段階 $y(t) < a_{L0}$ で、本質的負荷($k_1=1$)をかけた場合
  • 有益な負荷がゼロ($k_1=0$)の場合

学生には普段、

背伸びせず、必ず複数の教科書を見て、自分が理解しやすいものを選ぶこと

と伝えています。

これは今回の数理モデルに当てはめると、

  • 多様な $k_1$の値を入力した際の$\tfrac{dy}{dt}$を調べる
  • $\tfrac{dy}{dt}$ が最大となる教材を選択

というシミュレーションと解釈できます。

5. 学習における生成AIの作用

生成AIは学習過程で次のように作用します。

【1】外在的負荷を下げる

説明の質の向上や不要情報の削減により、$\tfrac{dy}{dt}$ の底上げが可能です。

  • 全体向けの講義資料のブラッシュアップ
  • 演習課題の文章推敲

などがこれにあたります。

【2】外在的負荷を上げる

生成AIの利用によって、外在的負荷がかえって増えてしまう場合があります。この点は、近年の教育・認知科学の研究でも指摘され始めているポイントです。具体例としては、次のようなものが挙げられます。

  • ハルシネーションによる誤情報の提示
  • 入力形式などの制約によって、適切な形式で質問ができないケース
  • 一見わかりやすいが、内容に誤りや不整合を散発的に含む説明文の生成

これらはいずれも、学習者に追加の確認・修正作業を強いるため、外在的負荷の増大につながります。

しかも、AIが生む不整合は人間の文章で生じるような表層的な誤りではなく、段落間の論理の揺れや定義の微妙なずれといった“気付きにくい種類”の場合が多く、結果として無視できないほど大きな負荷になることがあります。

今回の記事を作成する際にも、生成された文章の中に小さな不整合が散発的に紛れ込んでおり、その確認と修正に最も時間と労力を要しました。

【3】有益な負荷(およびk₁)を自由に刻める

学習者のレベルに応じて、

  • 平易化($k_1$ を小さく)
  • 深掘り($k_1$ を大きく)

が自在にできます。

例えば、

  • ユーザーの学習履歴に応じてAIから適切な教材を提供
  • ユーザー側がプロンプトで指定して説明を生成
  • 全体向けの配布資料を自分向けの説明にカスタマイズ

などがこれにあたります。

過去の記事はこのうちの3つ目の利用法にあたります。

◎自由なk₁調整の副作用

AI は人間が作成した教材とは異なり、学習者自身が任意に細かい刻みを生成できるので、

  • 自分の理解状態に合わせた$k_1$を設定しやすい

というポジティブな面もありますが、一方で、

  • 専門書で行う学習のような本質的な負荷による学びができているのか確認しづらい
  • 最適な$k_1$の提供により知的満足を得てしまい、学びの意欲が持続しにくくなる

といったネガティブな面も生じる懸念があります。このあたりはまた、別の機会にもう少し深掘りできたら、と考えています。

【4】有益な負荷を 0 にしてしまう

生成AIにレポート作成を丸投げし、そのまま提出するようなケースです。$k_1 = 0$ に等しく、

$$
\frac{dy}{dt} = 0
$$

となり、学習効果はゼロです。

6. まとめ

本稿では、認知負荷理論を

  • 本質的負荷 $\ell_{\text{intr}}$
  • 外在的負荷 $\ell_{\text{ext}}$
  • 有益な負荷 $\ell_{\text{germ}}$(刻み係数 $k_1$)
  • 理解状態 $y(t)$
  • 理解の変化率(=学習の効果) $\tfrac{dy}{dt}$
  • 理解状態の2つの閾値 $a_{L0}$・$a_L$
  • 個人差 $p$ ・$f_p$

などを用いて、学習の効果を微分方程式による時間発展として扱うための叩き台を示しました。

事象が影響する変数ごとに分類したり、AIの役割の整理など、使ってみると案外便利だったので、個人的には今後、授業設計・分析に使うのには十分な内容になっていると感じています。

7. 最後に

今回の理論化をまとめる過程で、自分自身の学びのプロセスをあらためて振り返る機会になりました。特に以下の3点が特に重要だと感じています。

  • さまざまな $k_1$ を試しながら $\tfrac{dy}{dt}$ (理解の変化率)を正確に観測する
  • 馴染みのない分野でも、自分にとって適切な$a_L$(習得したと判断する基準)を設定する
  • $k_1$ を適切に調整しながら継続すれば、必ず $a_L$ に到達できるという見通しを持つ

みなさんの授業・研究の設計や分析、個人の学習の参考になりましたら幸いです。

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