目次
- 0. はじめに
- 1. 背景:理解度と生成AI活用の幅がとても大きい
- 2. 生成AI活用のキモ:授業資料は「一次資料」
- 3. 学生への案内:AIで自分向けの説明にカスタマイズしよう
- 4. 授業デザイン:生成AIのプロンプト例は示すが、活用の自由度は高めに
- 5. 振り返りレポート:「自分の言葉で」書いてもらう
- 6. おわりに
0. はじめに
所属大学において学部2年生向けのプログラミング入門科目を受け持っています。学生数が多い(およそ100人超規模)科目なのですが、プログラミングは個々の学生の特性や経験によって得意・不得意が分かれやすく、実際に理解度の差がかなり大きいということを日々痛感しています。
さらに最近、 日常的に生成AIを学習に取り入れている学生と、使ったことはあっても“学習に活用する”という発想がない学生が同じ教室にいる という状況に気がつきました。
この記事では、私が授業を進める中で考えた、生成AIをどのように授業に組み込むとよいのかという授業デザイン上の気づきや雑感 をまとめています。
◎ 注意点
- この記事は、生成AIの使い方そのものをレクチャーする授業を紹介するものではありません。
- 記載している内容は 筆者個人の見解 であり、所属大学の公式な見解ではありません。
- 取り上げている内容の一部は実施中あるいは実施予定のもの であり、いずれも今後さらに検討・改善を進めていく段階にあります。
- この記事が、大学でのプログラミング入門に限らず、大人数の授業・研修・講座などにおける生成AI活用 に悩む方々の参考になれば幸いです。
1. 背景:理解度と生成AI活用の幅がとても大きい
授業でアンケートをとると、学生の状況は本当にさまざまです。
- 講義のみで十分理解できた学生
- 一部の説明に難しさを感じた学生
- 内容をほとんど理解できなかった学生
- 生成AIに質問して補足説明を得ることで理解できた学生
- 学習に生成AIを活用するという発想がない学生
授業内容の理解度だけでなく、生成AIに対する向き合い方にも大きな幅があります。生成AIが一般化していると言われる時代ですが、教室には “日常的に生成AIを学習に使っている学生”と、“使った経験はあっても学習に活用する発想のない学生” が混在しています。
◎ 調査目的で生成AIを使う際の課題
以前、別の担当科目で、調査に生成AIを使うことを要件とした課題を出したことがあるのですが、課題で設定した前提条件を無視した回答が出力されることが多い ことに気づきました。さらに、その前提逸脱に全く気づかず、そのまま課題を提出してしまう学生も少なくありませんでした。
こうした状況から、調査目的での生成AI活用は、特に使い慣れていない学生にとっては、学びをむしろ阻害しかねないと感じています。そこで、いきなり調査や創作をさせるのではなく、まずは 授業資料などの一次資料に基づいた「説明・翻訳・再表現」 といった比較的安全でコントロールしやすい用途から慣れてもらう方がよいのではないか、という考えに至りました。
2. 生成AI活用のキモ:授業資料は「一次資料」
これらの背景を踏まえ、現時点では授業資料やスライドの役割を 学生が生成AIに入力する前提の“一次資料” として位置づけ、次のように運用するのが適切ではないかと考えています。
- 正確性・網羅性・簡潔さ を重視して作成する
- 万人にとってわかりやすい説明を過度に追求しない (過度に噛み砕くことを避ける)
- 箇条書きを減らし、生成AIが解釈しやすい構造化された文章テキストとして 記述する
- 学生には、スライドの原文をそのまま生成AIに入力し、理解しづらい部分を補足説明してもらってよい と伝える
- 理解できている箇所についても、別の角度から再解釈したり、より専門的に深掘りしたりする用途にも生成AIを使ってよい と伝える
◎ 一次資料としての授業資料の作成手順
- 教員が、正確性・網羅性・簡潔さを意識して文章テキストを作成する
- 生成AIを用いて文章の表現や構造を整える
- 教員が、確認と修正を適宜行う
このプロセスを何度か繰り返すことにより、AIが誤読しにくい構造化テキストに整えられるはずです。また、教員側の負担も最小限に抑えられます。
◎ この方法の利点
授業スライドを「正確性・網羅性・簡潔さ」を備えた一次資料として提示し、その文章を学生が生成AIに入力して自分向けに再表現させる方式により、
- 生成AI特有のハルシネーションによる 不正確な情報の混入の抑制
- 生成AIの利用によって生じがちな、必要な学習項目の網羅性の欠落の防止
が期待できます。これは、生成AIが参照するテキストを、教員が精査した一次資料に限定することで、AIが前提を誤解したり、勝手に“知識を作る”余地を大幅に減らせるためです。
また、後の項目でも述べますが、授業全体で
- 【一次資料の提示】授業の資料やスライド
- 【理解の補助】生成AIによる再表現
- 【理解の可視化】振り返りレポート
という三段階で構成することで、生成AIに不確実な創作をさせず、学びを阻害しないように配慮しています。同時に、学生が自分の理解を言語化し、自力で不足点を補う過程を通して、主体的な学び(自己調整学習) を促す設計にもなっています。
◎ なぜ箇条書きではなく構造化された文章テキストなのか
生成AIは、テキストを文脈として捉え、単語や文の関係性を内部で多段階(多層)の行列演算や線形・非線形の変換を通じて統合的に処理しています。こうして形成された文脈表現をもとに、次に続く語を確率的に予測して生成します。
そのため、断片的な箇条書きよりも、文脈の流れや構造が明確な文章テキスト のほうが、生成AIにとっては解釈しやすく、より正確な出力につながるようです。
3. 学生への案内:AIで自分向けの説明にカスタマイズしよう
授業で、次のようなプロンプト例を学生に提示します。
次の内容を学部2年生でもわかるように丁寧に説明してください。
「 (スライドの文章テキストそのまま) 」
学生には、自分の理解度に合わせて難易度や表現、どの部分をどの程度深掘りしたいかなど、自由に調整してもらうように伝えます。たとえば、次のように指示します。
- 「高校生でもわかるように丁寧に説明してください」
- 「内容がイメージしやすい図を生成してください」
- 「コード例を多めにして説明してください」
- 「専門用語を知らない前提で、補足しながら説明してください」
- 「とくに XXX の部分を、より専門的に深掘りして説明してください」
これにより、100人の学生がそれぞれのペースで理解を深められる環境を整えることができるはずです。
なお、この「自由に調整する」というところは、これまでの授業ではあまり強調できていなかったので、今後はもっと積極的に活用方法を示していくつもりです。
4. 授業デザイン:生成AIのプロンプト例は示すが、活用の自由度は高めに
大人数授業では「全員に同じ行動をさせる」ことが難しいため、次の方針にしています。
- 授業の中で、おすすめの活用場所を明示する(スライド+口頭)
- プロンプト例は示すが、具体的な使い方は学生の裁量に委ねる
- 最低限押さえてほしい情報を一次資料として明確に提示する
- 生成AIの利用は授業中・授業後のどちらでも可とする
こうすることで、 深掘りしたい学生のニーズと、丁寧な解説が必要な学生のニーズを、同時に満たしつつ、必要な情報を過不足なく伝達できる ようになると期待しています。
5. 振り返りレポート:「自分の言葉で」書いてもらう
授業の最後に毎回ミニレポートを書いてもらうようにしています(10分程度確保)。振り返りが目的なので、厳密な採点は行なっていません(ただし、授業内容と無関係な内容や、指定文字数に満たない場合のみ不採点とすることを事前に明言)。以下のような要件で現在実施中ですが、かなりうまくワークしていると感じています。
設問1
以下のいずれか(または複数)について、自分の言葉でまとめる。
- 演習中にエラーが発生した箇所
- わかりづらかった部分
- 印象に残った部分
設問2
設問1で書いた内容を受けて、以下の点について、自分の言葉でまとめてもらう。
- そのエラーをどう解決したか、あるいは今後どう解決しようと思うか
- 「わからない箇所」を理解するために、どのような学習がさらに必要だと思うか
- 授業内容を今後どのように活用できると感じたか
大学での学びは学生個人の財産であり、人生を豊かにする基盤です。だからこそ、問題解決を自分の裁量で進める経験が重要だと考えています。これらの設問は、そうした主体的な姿勢(自己調整学習)を育むことを目的としています。
6. おわりに
まだ実施中・実施予定の段階ではありますが、毎回のアンケートを見るかぎり、これまでに導入した部分だけでも、学生が自ら課題点を捉え、生成AIを活用して理解を深めようとする様子が少しずつ見え始めています。
振り返りレポートでも、ごく少数の学生から「解決できなかった」「どうしたらよいか全くわかりません」といった記述が見られる一方で、ほとんどの学生は、自分なりに どう解決したか/どのように解決しようとしているか/今後どのように活用できると考えているか を書けるようになってきています。生成AI活用との相乗効果により、主体的な問題解決の芽が育ちつつある可能性を感じています。今後もこの傾向を継続的に観察しつつ、授業設計についても適宜見直していくつもりです。