現在の量子コンピューターの開発方式について書いていきます。
以前書いた記事 量子コンピューターはいかにして実現されるのか?~ その1 ~の続きです。
その記事では主要な開発方式である超電導方式とイオン方式についてまとめました。
ここでは半導体方式と光方式の量子コンピューターについて書いていきます。
半導体方式
現在のコンピュータはご存じの通り、半導体を利用したものです。半導体方式の量子コンピュータは読んで字のごとく現在のコンピュータと同様に半導体を利用する方式です。
現在のコンピュータなどを作るにあたって半導体に関する技術がたくさん蓄積されているので、その蓄積された技術を量子コンピュータにも応用しようというのは自然な考え方かと思います。また、現在のコンピュータで集積化ができているので、量子コンピュータでも同様に集積化ができることが期待されています。
これらのことから Intel はこの方式の開発に対して投資を行っているそうです。
この方式では下の図のように二つの異なる種類の薄膜間の二次元平面に電子を配置して
その電子をビットして扱います。
図には書かれていませんが、電子の位置は電極によって制御されます。
また、電子のスピンによって 0 or 1 を表現します。
スピンと言われても何かわからないと思うので、簡単に説明をすると
スピンとは電子の自転の向きのようなものです。
下の図のように電子が反時計回りに自転していれば上向きのスピンに、
時計回りに自転をしていれば下向きのスピンをとることになります。
詳しい説明は省きますが、このスピンの向きで 0 or 1 を表現するというのが半導体方式です。
本題とはずれますがいきなりスピンというものを持ち出されても身近なものに感じないと思うのでスピンを応用した技術について簡単に書いておきます。
あげた例は本質的には核磁気共鳴 ( NMR ) という現象を応用した技術です。
スピンの応用例
- MRI
- 陽子のスピンの性質を利用した撮像方法
- 化学分析
- うまいことやると各元素ごとにスピンの寄与による特有な信号を検出できる。その信号の形から分析対象に含まれる元素を特定できる。
話がだいぶそれてしまいましたが、話を量子コンピュータに戻します。
上のほうで異なる種類の薄膜間に電子を置くと書きましたが、その電子の状態を安定させるために薄膜は超電導方式と同様に極低温状態にする必要があります。このことは熱的なノイズを嫌っていることによります。よって、極低温状態にしなければならないため、冷凍機が必要となってしまい、このことは半導体方式のデメリットとなります。
また、ビット数を増やそうとしたときや計算精度などがほかの方式と劣ってしまいこちらもデメリットです。
メリット・デメリットをまとめると次の通りです。
:集積化が可能。
:冷凍機が必要。計算精度が他と比べると劣る。
光方式
光方式は光子の量子的な性質を利用した方式です。
光子というのは光を構成している粒子のことです。すべての物質は原子から構成されていますが、光についても同様で光を細かく分解していくと光子から構成されています。
光方式では光の振動方向で 0 or 1 を表現します。
例えば、縦向きの振動の場合は 0 、横向きな振動の場合は 1 といったようにビットを表現します。
光方式のメリットは超電導方式や半導体方式などのように極低温にする必要がないことにあります。このため、冷凍機は必要ありません。また、イオン方式のような真空装置も必要ありません。
しかしながら、光子はイオンなどと違って一か所に留めておくのが難しいという性質があります。イオンの場合、いい感じの電場を加えれば一定の箇所に留まってくれますが、光子の場合はそうはいきません。
したがって、光方式の量子コンピュータで計算を行うに当たっては光の進行方向にミラーや光の振動方向を変える部品を並べて光同士を干渉させるなどをして計算をします。
また、光を利用した方式であるために通信をする際に扱いやすいというメリットがあります。
通信を行う場合、光で情報のやり取りを行います。
他の方式ではビットの情報を通信のために光に変換する必要がありますが、光方式の場合そのような変換をする必要はなくそのまま通信を行うことができます。
光方式のデメリットは2個の量子ビットに対する演算(CNOT など)は現在のところ確率的に行う方法がとられていることです。確実に演算ができないので、確実に行う方法が模索されています。
光方式は私の知る限り日本がかなり頑張っている方式です。
例えば、東京大学の古澤 明さんの光方式の量子コンピュータの研究は有名です。
かなり前のものですが NHK のプロフェッショナルで古澤 明さんが出演されており大変面白い内容となっております。ご興味がありましたらご覧になってみるといいと思います。
私事ですがそれ見る機会があったのですが、大変感銘を受けました。
第6回 2006年2月14日放送 バントはするな、ホームランをねらえ - NHK
メリット・デメリットをまとめると次の通りです。
:冷凍機や真空容器が不要。
:2個の量子ビットに対する演算が確率的。エラー率が高い。
まとめ
この記事では量子コンピュータの主要な実現方式である半導体方式と光方式についてまとめました。前回に書いた記事と合わせて主要な量子コンピュータについてかなり長くなりましたがすべてお話ができたかと思います。大雑把に説明したところも多いので、気になる方はより詳しく調べてみると面白いと思います。
また、主要な開発方式だけにとどめてお話をしましたが、量子コンピュータを実現するための方式はそれらの他に多くの方法が模索されています。
例えば、NMR 方式の量子コンピュータもあり、それは半導体方式のところで余談として書いた NMR という現象を用いたモノです。この方式の量子コンピュータはなんと売りに出されており、かなり高いですが買うことができます。
Gemini - 2-qubit デスクトップ型NMR量子コンピュータ
というように量子コンピュータと一言で言っても様々な方式のものがあります。
これから先、どの方式の量子コンピュータが一般的になっていくかは今のところ分からない状態で、現在主要な方式だからと言って将来その方式になるとは限りません。ここまででお話してきた方式とは全く違う方式となる可能性もあります。
こういった状況は開発途中の今だからこそ味わえるのでとても面白く感じています。
今後もっと面白くなることを期待しながら、少しづつ追っていこうと思います。