この記事の目的
超電導方式、イオントラップ方式に並び、最も有力視されている量子コンピュータの実現方式であるシリコン量子ビット方式について解説します。
シリコンとは
私たちの生活になくてはならないパソコンやスマートフォン、マイコン(家電製品や自動車に組み込まれているマイクロコンピュータ)には、CPU(シーピーユー)と呼ばれる計算装置があり、様々な計算処理を一括して行っています。
このCPUの実態はIC(アイ・シー:集積回路)やLSI(エル・エス・アイ:大規模集積回路)で、半導体と呼ばれます。
半導体の基本的な原材料はシリコンの結晶です。
シリコンとは元素記号「Si」で表される非金属元素で、日本語で「ケイ素」のことです。
純度の高いシリコンの結晶にホウ素やガリウムまたはリンやヒ素などの不純物を少し混ぜた塊を作ります。そして0.5mm~2mm程度の薄さにスライスします。このスライスしたものをウェハーと呼びます。
シリコン基板上に電子を閉じ込める
スライスしたシリコン基板上に、厚みが数十nm程度の半導体の薄膜を何層も重ね、さらに電極を取り付け、[図1]のような構造物を作ります。これにより、薄膜と薄膜の接触面となる2次元平面に電子を閉じ込めることができます。さらに、電極に電圧をかけ磁場を発生させることで電子を静止させます。
電子はスピンと呼ばれる上向きと下向きの2種類の物理量をもちますが、電極にかける電圧を変えることで磁場の強さを変化させ、電子のスピンを制御します。
この電子のスピンの向きを「0」と「1」に対応させることで量子ビットを実現します。
[図1]
[引用] インターフェース 2019.3月号より
シリコン量子ビットのデメリット
シリコン基板は、そのものを構成する原子が、閉じ込めた電子に影響を与えないように制止させておく必要があります。すなわち、基盤を極低温に冷凍する必要があります。そのため冷凍機が必要となり、全体的な構造も大きくなります。
また、閉じ込めた電子は周囲の磁場の変化や温度変化などのノイズの影響を受けやすく、安定的に状態を保持するための高度な技術開発も必要です。
量子もつれの生成技術にも期待
本記事の執筆日付は2021年6月9日ですが、2021年6月7日に理化学研究所から、3量子ビットの制御および量子もつれ状態の生成に成功したというニュースが発表されました。
シリコン3量子ビットを実現-シリコン量子コンピュータの複数量子ビット制御に指針-
https://www.riken.jp/press/2021/20210608_1/index.html
量子コンピュータ開発技術として一歩遅れを取っている日本勢にとっても良いニュースで、今後の進展が期待されます。
関連情報
イオントラップ型量子コンピュータの仕組み - イオン化粒子と量子ビット
https://qiita.com/ttabata/items/c2f9c946ab2b106d11d9
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