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イオントラップ型量子コンピュータの仕組み - イオン化粒子と量子ビット

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:yin_yang: この記事の目的

本記事では、イオントラップ型量子コンピュータの仕組みと、量子ビットをどのように実現させるかについて概説します。

:yin_yang: イオントラップ型の量子コンピュータ

イオントラップ型量子コンピュータは、米国のIONQ(イオンキューまたはアイオンキュー)社やHoneywell(ハネウェル)社が採用している方式の量子コンピュータで、物質を構成する原子や分子をイオン化させた状態(ここではイオン化粒子と呼びます)にして電場や磁場中で制止させ、このイオン化粒子を計算単位のビットとして取り扱い、様々な計算に応用する方式のコンピュータです。

このイオントラップ方式で優れている点として挙げられるのは、コヒーレンス時間(量子状態を保つ時間)の長さや、構造的に比較的小型化が可能な点です。

image.png
写真:IONQ (https://ionq.com/) より

:yin_yang: イオン化粒子を空間中に制止させる

イオントラップ型量子コンピュータは、分子や原子に電子を付加または奪取してイオン化させた粒子を空間中に制止(または捕獲と言います)させるという、まるで信じられない発想のような手段を取ります。

本当にそんなことができるのか?、と疑ってしまいますが可能です。実はこのイオン化粒子の捕獲は量子コンピュータの開発だけに考案されたものではありません。もともと物理学の分野ではめずらしいことではなく、物質や物性の研究、特にイオンの結晶状態への相転移などの基礎物理に関する実験、粒子間の衝突や相互作用の計測などの実験として取り扱われています。

この捕獲の方法として、以下の2つの方式が研究されています。

(1)ペニングトラップ(Penning trap)方式
 静磁場と静電場によってイオンを捕獲する方式です。真空にした装置内にイオン化させやすい希ガスなどの元素を注入しイオン化させます。外から電極を用いて電場と磁場をかけ、イオン化粒子の振る舞いを限定させ捕獲する方法です。強力な電場と磁場をかけることが必要なために装置が大型になってしまいます。

(2)パウルトラップ(Paul trap)方式
 ポールトラップ、高周波イオントラップとも言います。静電場と高速で周期的に変動する高周波電場(またはRF(Radio Frequency)電場)によりイオン化粒子を捕獲する仕組みです。実験では図1のような線形四重極ロッド(電極)に電圧を加えることで、空間中に図2(空間の断面図)のようなポテンシャルが生成され、中心の最もポテンシャルが低い場所にイオン化粒子が捕獲されます。
イオン化粒子が高周波加熱されるため安定性に欠けますが、装置を小型化することが可能です。

図1
image.png
引用:線形四重極RFイオントラップ装置内での放射線を用いたXeイオンの捕捉実験
https://www.cst.nihon-u.ac.jp/research/gakujutu/59/pdf/O-43.pdf

図2
image.png
引用:イオントラップの基礎と応用
http://www.echo.nuee.nagoya-u.ac.jp/~aramaki/iontrap/iontrap.htm

また、さらにイオン化粒子をほぼ完全に制止させる方法としてレーザー冷却と言われる方法も併用されます。イオン化粒子は常に振動したり高速で移動したりしていますが、これにレーザー光を照射することで運動エネルギーを小さくさせ制止させる方法です。

一般に気体の温度が高いということはその気体を構成する粒子のエネルギーが高く、激しく振動や移動しているということです。言い換えると、気体の温度が低いということは、粒子のエネルギーが低い、つまり粒子が停止している状態を指します。

レーザー冷却により、数μK程度の温度まで冷却することができます。

image.png
引用:イオントラップの原理と冷却イオン量子ビット
https://www.qmedia.jp/basic-of-iontrap/

:yin_yang: 量子ビットへの応用

イオン化粒子を捕獲したら、次はこれを量子ビットとして使用します。イオン化粒子が持つエネルギー準位の違いをビットとして利用します。
エネルギー準位とは、粒子の角運動量やスピンの違いによるエネルギーの差異です。

下図は二つのエネルギー順位|↑〉と|↓〉、その間を遷移する状態を模式的に描いた図です。このように二つのエネルギー順位を定義し、量子ビットとして利用します。

image.png
引用:イオントラップの原理と冷却イオン量子ビット
https://www.qmedia.jp/basic-of-iontrap/

さらに量子ビットの測定(検出)の方法として、状態|↓〉と別の励起準位|e〉間に共鳴するような光を当てます。イオン化粒子の内部状態が|↓〉であると粒子は光を吸収・放出をし蛍光を発します。逆に内部状態が|↑〉であると粒子は光らないという性質の違いがあります。この性質を利用して測定値とします。

以上がイオントラップ型量子コンピュータの肝の部分となります。

量子コンピュータはイオントラップ方式以外にも、シリコン量子ビット方式や光方式など新しい方式も活発に研究されています。今後の発展に期待がかかります。

:yin_yang: 関連情報

:paperclip: IONQ (https://ionq.com/)

:paperclip: Heneywell (https://www.honeywell.com/us/en)

:paperclip: 線形四重極RFイオントラップ装置内での放射線を用いたXeイオンの捕捉実験
https://www.cst.nihon-u.ac.jp/research/gakujutu/59/pdf/O-43.pdf

:paperclip: イオントラップの基礎と応用
http://www.echo.nuee.nagoya-u.ac.jp/~aramaki/iontrap/iontrap.htm

:paperclip: イオントラップとレーザ冷却
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ieejjournal1994/115/6/115_6_356/_pdf

:paperclip: イオントラップの原理と冷却イオン量子ビット
https://www.qmedia.jp/basic-of-iontrap/

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