この記事では、現在の量子コンピューターの開発方式について書いていきます。
色々と書いていたら長くなってしまったので、二部構成にしてみます。
量子コンピューターはまだまだ発展がされている最中で、いろいろな実現方法が日々研究開発されています。
例えば、Google は超電導方式という方法で量子コンピューターを開発していますが、Intel では古典コンピュータと同様に半導体で量子コンピューターを作る方法で開発を進めているようです。また、光方式といって文字通り光を使って量子コンピューターの実現する方法も考えられています。この方法は古典コンピュータでは考えられないような方式ですが、メリットも多く期待されています。
これらの例からもわかるように、量子コンピューターを作るといっても色々な方法が考えられています。古典コンピュータはトランジスタによって実現されますが、現状その立ち位置に相当する実現方法が量子コンピューターの場合なく、将来どの方式で量子コンピューターというものが一般的に実現されるのかまだわかりません。
そこで現在のところ主流な量子コンピューターの実現方法についてまとめてみたいと思います。
主流な量子コンピューターの実現方法
主流な量子コンピューターの実現方法として以下の4つのものがあげられます。
Goolgle などが開発している超電導方式はニュースなどでご覧になったことがあるかもしれません。それぞれの方式のメリット・デメリットなどを順にまとめていきます。
1.超電導方式
2.イオン方式
3.半導体方式
4.光方式
超電導方式
まず最初におそらく最も認知度が高いであろう、超電導方式について説明をします。
この方式の量子コンピューターは日本でも稼働が開始しており、話題となっていました。
(日本初のIBM製「ゲート型商用量子コンピュータ」が新川崎で稼働。アメリカ、ドイツに次いで世界で3番目)
超電導方式は文字通り、超電導という現象を用いて量子コンピューターを実現する方法です。
超電導という現象自体は有名なのでご存じの方も多いかと思いますが、超電導とは何か?
といったところから話をはじめましょう。
超電導とは
超電導とは簡単に言ってしまえば、ある物質が一定温度以下になるとその物質の電気抵抗が 0 になる現象です。ある物質に電流を流すと電気抵抗があるためその一部が熱に変換されてしまいエネルギーが損失されます。しかしながら、超電導状態にして電気抵抗を 0 とするとそのような損失がなくなり、流れた電流はロスなく永久に流れ続きます。
超電導の応用例としては、MRI や リニアモーターカーといったものがあります。
MRI では磁場をかける必要があるのですが、その磁場をかける装置である超電導磁石に超電導が応用されています。また、リニアモーターカーでは車体を浮かせたりする超電導磁石で応用されています。
超電導状態では電気抵抗が 0 になるため非常に有用なものなのですが、
超電導状態にするためには条件があります。
- どの物質でも超電導状態になるわけではなく、特定の物質を混ぜ合わせる必要がある
- 超電導状態にするためには絶対零度 (-273.15 ℃)付近まで温度を下げる必要がある
超電導状態にするにあたって 2.の条件の極低温にすることがとても大変です。
長々と書きましたが、つまり
超電導とは特定の物質を極低温状態にすると電気抵抗が 0 $\Omega$ になる現象のこと
超電導方式の量子コンピューター
さて、超電導とはどういった現象かまたその状態を作る難しさがなんとなくわかったところで、超電導方式の量子コンピューターについてお話します。超電導方式といってもその中でまた複数の方法があるのですが、ここでは、下の図のように向い合せた二つの金属板のどちらに電子がいるかということで 0 or 1 を表現する方法についてお話します。
図中の斜線部分は、絶縁体です。
ですので、通常は電子は隣の金属板には移動できないようになっています。
しかしながら、電子のスケールではトンネル効果と呼ばれる量子的な現象が起き、
それによって、ある確率で絶縁体を通過し、隣の金属板に移動することができます。
( トンネル効果については、ここで説明をするとそれだけで一つの記事くらいになるので割愛します。 )
かなり大雑把なトンネル効果の説明
トンネル効果とはすごく簡単に言うと壁のようなものをある確率ですり抜ける現象のことです。
例えば次のような状況を考えてみます。
テニスの壁打ちをしているとしましょう。
このときテニスボールは壁を通り抜けていくことはあるでしょうか?
おそらくほとんどの方は NO と答えると思います。
これまでの日常経験などに基づいて判断されるでしょうし、
実際にやってみても壁を通り抜けることはありません。
しかしながら、量子的な性質が見えるようなミクロな世界では、
テニスボールは壁を通り抜けることに相当したことが起きます。
上でもお話したように電子は絶縁体を移動できませんが、その絶縁体をすり抜けることができます。
オカルトチックなお話ですが科学に基づかれた事実です。
壁を通り抜ける確率なんかは実際に計算できたりします。
次のリンクから実際にトンネル効果が起きることをシミュレーションできるので、
興味がある方は見てみてください。
量子力学とトンネル効果
ともあれ、図のように二つの金属板のうち電子が例えば左側の金属板にいれば 0 とし、右側の金属板にいれば 1 としてビットを表現します。
また、それら二つの金属板は超電導にする必要があります。電気抵抗があると電子の動きが邪魔されてしまい、それによって重ね合わせ状態が壊れてしまうので超電導状態にする必要があります。
上でも述べましたが、超電導状態にするためには極低温する必要があり、量子コンピューターでは -273 ℃ まで下げる必要があるようです。この温度は希釈冷凍機と呼ばれるものを使用して実現され、希釈冷凍機では、液体 $^3He$ と液体 $^4He$ を混ぜ合わせ、色々やることで温度をさげます。
この冷凍機自体が大きいのでチップが小さくても量子コンピューターがどうしても大きくなってしまいます。
実物の見た目は次のサイトが参考になると思います。
https://www.flickr.com/photos/ibm_research_zurich/albums/72157720168496793
超電導方式のメリット ・デメリットは次の通りです
:集積化が可能。エラー率が低い。
:量子ビットが不安定。冷凍機が必要。
イオン方式
イオン方式とは、イオンを量子ビットとして使用する方式のことです。
この方式は超電導方式と異なり冷凍機が不要であるということがメリットの一つです。
下の図のようにイオン中の電子の軌道によって、0 or 1 を表現します。
量子ビットとするイオンは $^{40}Ca^+$ であることが多いようです。
量子ビットとなるイオンは真空中で宙に浮かせる必要があります。
このことは、量子ビットとなるイオンが他の物質に当たったりして、量子ビットの状態を壊れないようにするためです。
イオンは電気的な性質を帯びていますので、うまいこと電磁場を加えることにより、
イオンを宙に静止させ続けることができます。
量子ビットの演算は、下の図のように
操作をしたいイオンに対してレーザーを当てて行います。
演算の結果を知りたい場合は、観測用のレーザーを量子ビットであるイオンに当てて、
その当てたイオンが光るか光らないかで 0 or 1 を判定することができます。
( 基底状態からある励起状態への共鳴が起きるような波長の光を当てると、イオンが基底状態であれば励起状態から基底状態になるときに光が放出される )
イオン方式では演算精度が他の主要な方式と比較して高いというメリットがあります。
この理由の一つとして量子ビットとしているイオン自体に製造誤差がないことがあるそうです。イオンは人間が作ったものではないため、イオンごとに性質が異なるということはありません。そのため、量子ビットの操作を行いやすいため演算精度が高くなります。
一方、デメリットとしては一部の演算が他と比べて遅いことや真空環境が必要などがあります。
イオン方式のメリット ・デメリット をまとめると次の通りです。
:演算精度が高い。冷凍機が不要。
:一部の演算が遅い。真空環境が必要。
余談ですがイオン方式の量子コンピュータは趣味で自作している方もいるようです。世界は広いですね。
量子コンピューターをおうちで自作しよう! ハッカーの楽しい挑戦
まとめ
量子コンピューターを実現する主要な方式である超電導方式とイオン方式についてお話ししました。
それぞれの特徴は上でも書きましたが、もう一度書いておくと以下の通りです。
超電導方式:超電導という特定の物質を極低温状態にすると電気抵抗が 0 $\Omega$ になる現象を利用した方式
ビットの表現方法:向い合せた金属板のどちらに電子がいるかで 0 or 1 を表現する
集積化が可能。エラー率が低い。
量子ビットが不安定。冷凍機が必要。
イオン方式:イオンを量子ビットとして使用する方式
ビットの表現方法:イオン中の電子の軌道で 0 or 1 を表現する
演算精度が高い。冷凍機が不要。
一部の演算が遅い。真空環境が必要。
残りの半導体方式と光方式については別の記事としてまとめたいと思います。